将来の気候の予測方法

気候の将来予測には、大気や海洋などの中で起こる現象を数式化し、コンピューター上で地球を再現したプログラムである「気候モデル」が用いられます。気候モデルには、地球全体を対象として将来気候の予測を行う全球気候モデル(Global Climate Model; GCM)や、ある地域に限定して予測を行う領域気候モデル(Regional Climate Model; RCM)があります。

気候モデルは、世界のさまざまな研究機関によって多数のモデルが開発されています。例えば日本では、東京大学・国立環境研究所・海洋研究開発機構による共同開発の「MIROC(Model for Interdisciplinary Research on Climate)」や気象庁気象研究所が開発した「MRI-CGCM(Meteorological Research Institute(=気象研究所) - Coupled General Circulation Model)」などがあります。
しかし、コンピューター上のモデルで地球上のすべての現象を完全に再現することはできません。したがって、気候モデルでは地球上のさまざまな現象を簡略化して再現しており、その簡略化の方法は各気候モデルによって異なります。そのため、同じ温室効果ガス排出シナリオであっても、気温の上昇量などの予測値にばらつき(不確実性)が生じます。

このようなモデル間で少しずつ異なる予測結果を相互に比較することで、予測の不確実性を把握する取組み「結合モデル相互比較計画(CMIP)」が世界気候研究計画によって行われています。その結果は、IPCCが取りまとめる評価報告書にも活用されています。それによると、各気候モデルで全く異なる結果が出るわけではなく、ばらつきはあるものの大きな傾向としては同じ方向性の結果が出ることもしばしばあります。

気候モデルの違いによる予測結果の差に加えて、予測に用いる前提条件にもばらつきがあることが想定されます。例えば、将来の気候を予測する際に設定する将来の社会経済状況は、各国の政策などにより大きく変化します。それに伴い、エネルギー使用の状況や、ひいては温室効果ガス排出量なども変化することが予想されます。そのため、将来予測の際は、緩和策が十分に進んだ持続可能な社会や、化石燃料に依存した社会など、将来あり得る複数パターンの社会経済シナリオを想定し、それぞれの場合の将来気候がどうなるのかの予測を実施します。
このように複数パターンの将来予測を行うことで、世界や国家の政策決定者が、想定する将来の社会と最も近いものを参考に、議論や意思決定を行うことができます。

将来予測に用いる社会経済シナリオ-SSPシナリオ

将来の社会の状況は、経済発展を優先するのか、地球環境を保全しつつ持続可能な社会を構築していくのかなど、さまざまな可能性が考えられます。そのため、気候の将来予測を行う際にも、いくつかの将来の社会を想定したうえで予測が行われます。
IPCCの第6次評価報告書(詳しくは「5.4.IPCC第6次評価報告書」の項目をご覧ください)では、世界の研究者によって構築された共有社会経済経路(SSP)シナリオが採用されています。このシナリオは、今後の世界のあり得る経路として、図のように、「持続可能」「中庸」「地域分断」「格差」「化石燃料依存」の5つのシナリオが提示されています。

IPCCの第6次評価報告書で設定されている5つのシナリオの位置付け
図 IPCCの第6次評価報告書で設定されている5つのシナリオの位置付け
環境研究総合推進費 終了研究成果報告書「2-1805 気候変動影響・適応評価のための日本版社会経済シナリオの構築(JPMEERF20182005)」

IPCCの第6次評価報告書では、これらのシナリオに温室効果ガス排出量と関連した放射強制力(RCP)*を組み合わせ、表に示された5つのシナリオを代表シナリオとして、将来の気候予測を行っています。シナリオのSSPに続く1~5の数字は、先ほどの図で紹介した5つのシナリオで、そのあとに続く1.9~8.5の数字は放射強制力を示します。

表.IPCC第6次評価報告書の5つのシナリオの概要
(出典:環境省「IPCC第6次評価報告書の概要-第1作業部会(自然科学的根拠)-」)

*放射強制力:平均気温の上昇など、気候変化を引き起こす因子の強さを示す。数字が大きいほど気候変動を引き起こす力が強い状態を示す。

日本版の将来予測や社会経済シナリオ

ここまで紹介したものは、世界全体を対象としたものですが、それらをもとに、日本版の将来予測や社会経済シナリオが構築されています。

世界全体の将来予測を基にした日本版気候シナリオの構築

IPCCの評価報告書などに掲載されている気候の将来予測は、地球を数十~100km四方のメッシュに分割して予測を行い、各メッシュに1つずつの結果が算出されるものです。例えば、100kmメッシュであれば関東地方がほぼ1つのメッシュに含まれ、山間部も都市部も同じ1つの予測結果しか出てこないことになります。市町村などの地域単位で結果を見たい時や、地形や土地利用などによる違いを比較したい時などには解像度が十分ではありません。
そのため、メッシュを1km単位まで分割し、日本域を対象として解像度を向上した予測結果が構築されています。詳しい予測結果については、気候変動の観測・予測データのページで公開しています。リンク先では、各SSPにおける気温や雨の降り方、湿度、風速などの変化の情報が閲覧できます。

日本版気候シナリオNIES2020の表示イメージ
図.日本版気候シナリオNIES2020の表示イメージ
(画像は、複数ある項目から日平均気温と猛暑日日数の変化を表示したもの)
(出典:国立環境研究所「A-PLAT新規コンテンツのご紹介」(2022年8月))

日本の社会経済状況などを踏まえた日本版SSPシナリオの構築

気候シナリオと同様に、SSPについても、IPCCの評価報告書で活用されているものは世界全体を対象としたもので、各国の状況を詳しく反映できているものではありません。そのため、各国の気候変動政策を進めていくためには、それぞれの国の実態を踏まえたSSPを構築し、活用していく必要があります。
日本版のSSPは、世界のSSPを基に、記載内容を国内スケールや日本に適した記述に変更の上、日本のシナリオを左右する産業や雇用、移民などに関する記述や、大都市と地方や市街地と非市街地の人口分布などを追記し、5パターンのシナリオが構築されています。
図は、その一つのイメージ図を例として示したものですが、それぞれ、イメージ図と、そのイメージを叙述した文章から構成されています。その他のイメージ図や叙述された文章は、国立環境研究所のディスカッションペーパーからご覧ください。

日本版SSPシナリオのイメージ(画像はSSP2のもの)
図.日本版SSPシナリオのイメージ(画像はSSP2のもの)
(出典:国立環境研究所 Discussion Paper Series No.2020-03「日本版SSP(社会経済シナリオ)の叙述とイメージ」)

世界のSSPとの違いとしては、人口推計などの精度が向上しており、例えば、世界のSSP2での2100年の日本における人口推計は7500万人ですが、日本版SSPでは6000万人となっています。
構築された日本版SSPを各地域での政策検討に生かすために、SSPごとの将来の予測人口のメッシュデータがA-PLATで提供されています。

出典・関連情報