ご挨拶
気候変動適応の社会実装を目指した科学的知見の創出
世界各地において気候変動影響は悪化の一途をたどり、人類を含む全ての生物の生存基盤を揺るがす気候危機に直面しつつあります。
国内においても気温上昇や大雨頻度の増加、降水日数の減少、海面水温の上昇等の気候変化が現れており、高温による農作物の品質や収量の低下、動植物の分布域の変化など、気候変動の影響が顕在化していることや、将来において農業や林業、水産業、水環境、水資源、自然生態系、自然災害、健康などの様々な分野で多様な影響が生じる可能性が報告されています。
気候変動対策は緊縛の課題です。対策は二つに大別され、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和」と、気候変動影響を回避もしくは軽減するため「適応」があります。緩和が最も重要ですが、カーボンニュートラルを達成しても気候変動の悪影響の抑制には時間を要するため、適応にも同時に取り組まなくてはなりません。
このような状況を受け、我が国では2018 年に「気候変動適応法(適応法)」が成立しました。この適応法は、適応の総合的推進、情報基盤の整備、地域での適応の強化、適応の国際展開等の4つの柱で成り立ち、科学的知見に基づく気候変動影響評価を行い、その評価に基づいて気候変動適応計画を策定して、適応策を計画的に実施していくサイクルが開始されました。2023 年4月には気候変動適応法が改正され、熱中症対策を一層推進することとされ、合わせて同年5月には、法に基づく「熱中症対策実行計画」の閣議決定により、政府一体となった熱中症対策を推進して2030年に熱中症による死亡者数の半減が目指されています。
S-24プロジェクトでは、適応の社会実装に資する科学的知見の創出を目指して、幅広い分野の研究を統合的に推進し、適応へ取り組む様々な主体を支援するための仕組みを構築します。具体的には、気候変動影響の将来予測や適応策に関する既存の研究成果の活用を図りつつ、日本における地域別の現状のリスクレベルを把握し、将来の様々な気候変動リスクレベルに応じた複数の政策オプションの提案を含む「気候変動気候変動適応実践支援システム」を開発します。また、熱中症のり患から、発症、重症化、死亡等について、タイムラインを追って解析できる熱中症プラットフォームも開発します。
不確実な未来に備える気候変動適応の実践に向けて、120名を超えるのメンバーと共に科学的な貢献を目指して邁進する所存です。皆様のご理解・ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。
プロジェクトリーダー 肱岡 靖明