さまざまな気候変動
気候変動のパターン-ゆるやかな変化と極端現象
気候変動の中には、年平均気温のように100年かけて数℃の上昇というように徐々に変化するものと、猛暑日や大雨のように、まさにその日その瞬間に極端な気象現象が生じるものの2パターンがあります。後者は特に「極端現象」や「極端気象」と呼ばれています。
極端現象では、高温による熱中症、大雨による水害など、徐々に変化する場合にも、平均気温の上昇による作物の生育への影響や、海面上昇による沿岸域の浸水など、いずれのパターンの気候変動も、さまざまな形で私たちの生活に影響を及ぼします。
日本における様々な気候変動
ここからは、日本において確認されているさまざまな気候変動について紹介していきます。
平均気温の上昇
日本では、平均気温が100年あたり1.3℃の速さで上昇していますが、日本は北半球の中緯度地域にあり、気温が上昇しやすい陸域が多いことから、平均気温の上昇が世界全体の平均に比べて早く進んでいることが示されています。
また、平均気温の経年変化を地域別で見ると、都市化(ヒートアイランド現象)の影響や地方によって統計期間が異なるので一概に比較はできませんが、関東甲信地方で上昇幅が大きくなっています。
平均気温の上昇率 (℃/100年) | 統計期間 | |
北海道 | 1.63℃ | 1898~2020年 |
東北地方 | 1.3℃ | 1890~2020年 |
関東甲信地方 | 2.23℃ | 1926~2021年 |
近畿地方 | 1.11℃ | 1946~2022年 |
中国地方 | 0.98℃ | 1946~2022年 |
四国地方 | 1.00℃ | 1946~2022年 |
九州地方 | 1.77℃ | 1897~2022年 |
沖縄地方 | 1.69℃ | 1946~2021年 |
(出典:札幌管区気象台、仙台管区気象台、東京管区気象台、大阪管区気象台、福岡管区気象台、沖縄気象台公表データを基に作成)
海面水位
日本近海の海面水位は、10~20年周期の変動と50年を超えるような変動の影響が有り、世界で見られるような右肩上がりの上昇は見られていません。
一方で、1980年以降に着目すると上昇傾向が見られます。
雪の降り方の変化
年間の最大積雪深や1日に20cm以上の大雪が降る日数は減少傾向にあります。
台風
発生数や日本への接近数・上陸数、強さに変化傾向はみられていません。一方で、台風は太平洋上で強さを増しつつ北上し、日本付近へ近づいてきますが、その強さが最も強くなる場所が北寄りに変化していることが明らかにされています。
世界の様々な気候変動
ここからは、世界で確認されているさまざまな気候変動について紹介していきます。
世界の平均気温は1.09℃上昇し、同時に海面水温も上昇していますが、その他にもさまざまな気候変動が生じています。
海面水温のゆるやかな上昇だけでなく、数日から数年の間に急激な水温上昇が起こる「海洋熱波」の回数も増加しています。
図は、過去20年に発生した海洋熱波の事例を示しています。赤い色は、海洋熱波が生じた期間中の海水温の最大上昇温度を示しています。アラスカ海や西部赤道太平洋、北東太平洋、タスマン海、南西大西洋では、人間活動による気候変動の影響によりその海洋熱波が生じた可能性が高いことが示されています。
また、1980年代以降、それより前に比べて、海洋熱波の起こる回数は倍増していることも報告されています。
ほかにも、北極海の海氷面積の減少や世界の氷河の量の減少、海洋の酸性化なども観測されています。さらに、氷河の融解や、水温の上昇に伴って、海面水位が上昇しており、1901年~2018年の間に0.20m上昇したと分析されています。
こうした気候変動あるいはその影響は、全世界で見られるものもあれば、一部の地域で集中的に生じる場合もあります。例えば、気温の上昇は世界全体で観測されていますが、大雨は、情報が少ない地域を除くとアジアやヨーロッパ地域で、干ばつはアフリカや中央アジアで特に増加しています。
極端な気象に対する気候変動の影響を解析した事例
近年、記録的豪雨や猛暑など、極端な気象現象がたびたび発生しており、気象庁気象研究所をはじめとした研究機関により気候変動との関連性が解析されています。例えば、熱中症による死者数が1000名を超えた平成30年夏の記録的猛暑は、気候変動の影響がなかった場合には、発生する可能性がほぼ0%であったことが示されています。
ほかにも、西日本を中心に洪水や土砂崩れなどの甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨や、関東・東北地方を中心とした広範囲に大雨特別警報が発令され、洪水等により大きな被害が出た令和元年東日本台風についても、気温や海水温の上昇が、降水量の増加に影響を与えた可能性が示唆されています。
気候変動を明らかにするための手法について
長期変化傾向の算出
気温上昇や降水量の変化などを見る場合、1900年頃からの長期変化をグラフ化し、その傾向を見ることが多いですが、年ごとに変動があるため、長期的に見て上昇傾向なのか下降傾向なのかが分かりにくい場合があります。
そのため、例えば、「日本におけるさまざまな気候変動」で紹介した以下のグラフにある赤線のように、長期変化傾向を、それぞれのデータの中心を通る直線「回帰直線」で示します。
また、例えば、「近年“たまたま”気温の高い年が多かった」というような場合も上昇傾向のように見えるため、偶然なのかそうでないのかを統計的に確認する必要があります。統計的な確認を行ったものは、「99%の信頼水準で有意」などと記載されていることが多いですが、これは、「偶然そうなった確率が1%以下」ということを示しています。
さらに詳しい内容については、気象庁のホームページをご覧ください。
イベントアトリビューションについて
猛暑や豪雨などの極端な気象現象は、地球温暖化の影響だけでなく、気象のゆらぎの中でたまたま発生することがあります。そうした極端気象がたまたま起こったものなのか、地球温暖化の影響により起こったものなのかを検証するために、コンピューター上に温暖化した地球と温暖化していない地球を再現し、対象とする気象現象について比較することで、地球温暖化の影響を特定する研究(これを「イベントアトリビューション」と言います)が行われています。
例えば、令和4年6月下旬から7月上旬の記録的な高温については、発生確率に関する解析が行われ、温暖化していない場合1200年に1度の確率でしか起こらないものが、温暖化の影響により5年に1回起こるものになっていたことが示されています。
また、平成30年7月豪雨に関して、瀬戸内地域で50年に1度の大雨が起こる確率の解析の結果、温暖化していない場合に比べ、現在の温暖化した状態ではその確率が3.3倍になっており、大雨が発生しやすい状況となっていた可能性が示されています。
出典・関連情報
- 気象庁HP「日本の各地域における気候の変化」
- 文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」(2020年12月)
- 文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020-詳細版-」(2020年12月)
- 環境省「IPCC第6次評価報告書の概要-第1作業部会(自然科学的根拠)-」(2023年5月)
- 気象研究所・東京大学・国立環境研究所「平成30年7月の記録的な猛暑に地球温暖化が与えた影響と猛暑発生の将来見通し」
- 気象庁「「平成30年7月豪雨」及び7月中旬以降の記録的な高温の特徴と要因について」
- 気象研究所「近年の気温上昇が令和元年東日本台風の大雨に与えた影響」
- 気象庁「長期変化傾向(トレンド)の解説」
- 文部科学省・気象庁気象研究所「令和4年6月下旬から7月初めの記録的な高温に地球温暖化が与えた影響に関する研究に取り組んでいます。―イベント・アトリビューションによる速報―」
- 気象研究所・東京大学大気海洋研究所・国立環境研究所・JAMSTEC「地球温暖化が近年の豪雨に与えた影響を評価しました」