「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

気候変動とは

気候変動の要因

「気候変動の要因は温室効果ガスである」、これは多くの皆さんが理解されていることでしょう。では、そのメカニズムはどうでしょうか。「そういえばよく知らない」という方も多いかもしれません。
本項では、気候変動を引き起こす自然要因や人為要因、温室効果ガスが気候変動を引き起こすメカニズム、人間活動と気候変動の関係などについて学んでいきます。

気候変動の要因は?

現在問題になっている気候変動はわたしたち人間の活動が主な要因です。その中でも最も大きいのは、化石燃料の使用により排出される温室効果ガスです。温室効果ガスは、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を直接燃やした際にも出ますし、石油からつくられたプラスチック製品を燃やしたときにも排出されます。
なお、木や炭を燃やしたときにも温室効果ガスは排出されますが、これは、木が成長するときに吸収したものが出ているだけなので、大気中の温室効果ガスの量としては、差し引きゼロとみなすことができます。
気候変動の要因には、こうした人間活動が要因となるものだけではなく、自然要因のものもあります。人類は、長い歴史の中で温暖な時期や寒冷化を何度も経験していて、それらは、現在の人間活動による気候変動を除きすべて自然要因によるものです。

自然要因としては、太陽活動や地球の自転軸の傾きの変化によるものや、火山の噴火などが挙げられます。太陽活動が活発化すると、地球が受け取る熱の量が増えるため気温が上がります。逆に太陽活動が弱くなると、受け取る熱量が減り、気温が下がります[1] 。また、地球は赤道が太陽に真正面を向かず、北極と南極を通る軸(自転軸)が少し傾いた状態で太陽の周りを回っています。その自転軸の傾きは周期的に変化するので、傾きの変化に応じて太陽からより多くの熱を受け取る地域と、逆に受け取る熱の量が減る地域ができ、地域によって気温が上がったり下がったりします。さらに、火山が噴火すると大気中に微粒子が散らばり、太陽からの熱を反射し、気温が下がります。

最初に述べたように、現在問題となっている気候変動の要因は主に人間活動によるもので、自然要因によるものに比べてとても速いスピードで進行しています。気候変動による様々な悪影響は既に生じていますが、気候変動がこのままのスピードで進めばさらなる甚大な被害が生じてしまいます。気候変動をこれ以上悪化させないための温室効果ガスの排出削減(「緩和」といいます。詳しくは「2-2. 緩和」の項目をご覧ください)や、既に生じている気候変動の影響への対応(「適応」といいます。詳しくは「2-3. 適応」の項目をご覧ください)を進めていく必要があります。


[1]太陽はおおよそ11年の周期でその活動の強弱が変動を繰り返しています。太陽活動が活発なときには、太陽の表面に黒点(周りより温度が低いため黒く見える部分)が多くなることが知られています。また、11年周期より長期的な変動も知られており、17世紀には数十年にわたって不活発な時期(マウンダー極小期)があったことが知られています。

温室効果ガスがどうやって気候変動を引き起こすの?

冬に毛布があると暖かく寝られますが、1年中となるとあまり快適ではないですね。地球は今、1年中、温室効果ガスの毛布をかぶった状態になっています。では、温室効果ガスは地球をどのように暖め、気候変動を引き起こしているのでしょうか。
まず、太陽から届いた日射エネルギーによって、地表面が暖められます。次に、暖められた地表面からは赤外線が放射されて宇宙空間へ放出されますが、温室効果ガスがそのエネルギーの一部を受け取って大気を暖め、さらにその一部が再び地表面に再放射されます。この作用が強まれば、大気が暖められて気温が上がり、雨の降り方などが変化し、気候変動が引き起こされます。
ちなみに、地球は、大気中に温室効果ガスが一定量あるからこそ平均して14℃前後の気温が保たれていますが、温室効果ガスが全くない場合は、平均気温は氷点下19℃になると言われています。ある程度の温室効果は地球上の生き物には無くてはならないものです。

温室効果ガスによって気温が上がる仕組み
温室効果ガスによって気温が上がる仕組み
(出典:環境省ウェブサイト 地球温暖化の現状」)

本項では、温室効果ガスが気候変動を引き起こすメカニズムや不可逆的な気候の変化などについて紹介します。

温室効果ガスが気候変動を引き起こすメカニズム

あらゆる分子は、その種類ごとに特定の波長の電磁波を吸収・放出する性質があります。その中で、温室効果ガスと呼ばれる物質の分子は、熱の正体である赤外線の一部を吸収することから、温室効果を持っています。
この温室効果の強さは、分子の種類によって異なり、温室効果ガスの代表格である二酸化炭素(CO2)の温室効果を1とした地球温暖化係数(Global Warming Potential;GWP)で表されます。これはつまり、二酸化炭素の何倍の温室効果を持つかということを意味しています。
表のGWPだけを見ると、二酸化炭素の温室効果は小さく思えますが、化石燃料の使用などによって二酸化炭素の排出量は非常に多いです。そのため、円グラフで示すように、温室効果に換算した量では、二酸化炭素は人間活動に伴って排出された温室効果ガスの4分の3を占めています。
また、メタン(CH4)も温室効果ガスとしては排出量が非常に多く、約2割を占めています。メタンは、ウシやヒツジなどの家畜のげっぷ、水田、廃棄物の埋め立て、下水処理、天然ガスの製造など、さまざまなところから排出されており、家畜飼養技術や廃棄物処理技術の改善をはじめ、各分野で削減対策が進められています。

温室効果ガスの種類ごとの地球温暖化係数(GWP)
温室効果ガスの種類 GWP
二酸化炭素(CO2
メタン(CH4) 25
一酸化二窒素(N2O) 298
ハイドロフルオロカーボン(HFCs) 1,430など
パーフルオロカーボン(PFCs) 7,390など
六フッ化硫黄(SF6) 22,800
三フッ化窒素(NF3) 17,200
(出典:温室効果ガスインベントリ報告書2022
世界の温室効果ガス排出量
世界の温室効果ガス排出量(2019年、CO2換算ベース)
(出典:IPCC第6次評価報告書WG3 FullReport P.229を元に作成)

実は、水蒸気も温室効果を持つ物質として、地球の平均気温の上昇に影響を与えていますが、人間活動によって大きく増加するものではないことから、世界的な気候変動対策の取り決めなどでは削減の対象とされていません。

ここまで、温室効果ガスによる気候変動のメカニズムを見てきましたが、地球の歴史の中で、地球の自転軸の傾きや太陽周回軌道が周期を持って変動(ミランコビッチサイクルと呼ばれています)することによっても、日射量の変化に伴う気候変動が繰り返されてきました。このメカニズムによる直近(約2万1000年前)の気温上昇と比べると、現在生じている人間活動に伴う気温上昇は10倍のスピードで進行しており、気温の上昇だけでなく、その上昇スピードに私たちの生活を支えるインフラや自然生態系の適応力が追い付かなくなることが大きな問題となっています。

温室効果ガスを出すのをやめても気候変動はすぐには止まらない

温室効果ガスの排出をこの瞬間にゼロにできたとしても、気温上昇はその瞬間にストップするわけではありません。
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは、大気中に排出されると、大気中での化学反応での分解や海洋への吸収などにより一部は大気中から除去されますが、一部は長期間大気中にとどまり続けます。現在の気候変動は、この除去されずに大気中に蓄積していった温室効果ガスによって生じています。そのため、たとえ今、温室効果ガス排出量をゼロにすることができたとしても、過去の蓄積量は減少せず、気候変動もすぐには止まりません。

温室効果ガスだけで決まらない地球の温暖化

大気中の温室効果ガスの量が増えれば、その分だけ平均気温が上昇しますが、それ以外にもさまざまな仕組みで気候変動がより進行したり、逆に後退したりします。
例えば、海氷や氷河は太陽からの日射の多くを反射しますが、気温上昇により氷河や北極・南極などの氷が溶けると、より日射を吸収しやすい地表や海面が露出することになり、さらなる気温の上昇につながります。そして、気温が上昇すると海氷や氷河の融解が進み、さらに地表・海面が露出し、より気温が上昇、より一層海氷や氷河の融解が進み…というように、気温上昇を促進する方向にループが働きます。こうした仕組みを、気温上昇にプラスの方向に働くことから「正のフィードバックループ」と呼びます。この例の場合、氷(アイス)と反射率(アルベド)によるフィードバックループなので「アイス-アルベドフィードバックループ」と呼ばれます。
また、水蒸気が温室効果を持つことは先ほど紹介しましたが、こちらも同様に、平均気温が上昇すると、海洋や陸地からの水の蒸発量が増加し、大気中の水蒸気の量も増加、水蒸気は温室効果を持つので、さらに気温が上昇し、さらに水蒸気量が増加…というように水蒸気も正のフィードバックループとして働きます。
一方で、気温上昇にマイナスの方向に働く「負のフィードバックループ」もあります。例えば、気温上昇により水蒸気が増加すると、水蒸気が原料となる雲も増加します。雲は太陽からの日射エネルギーを反射して気温を低下させる効果と、地表からの熱エネルギーを吸収・再放射して気温を暖める効果の両方を持ち、総合的には気温上昇を抑制する方向に働く場合があります。また、気温が低下すると地表面からの熱放射が減少します。これも気温を低下させる方向に働きます。
このように、さまざまな仕組みによって、気温上昇が促進されたり、減衰されたりします。

不可逆的な気候の変化

気候変動に伴うさまざまな影響は、平均気温の上昇のように少しずつ変化していきますが、あるときを境に、後戻りできないような大規模な変化が生じる可能性があると指摘されています。この転換点は「ティッピング・ポイント(臨界点)」と、またその地球規模の大きな変化をもたらす事象のことを「ティッピング・エレメント」と呼ばれています。
ここでは、ティッピング・ポイントを迎えつつあると言われている事象をいくつか紹介します。

グリーンランドの氷床の不安定化

近年、グリーンランドの氷床の質量は、過去に比べて明らかに減少しています。氷床は太陽からの日射を反射する性質があるので、前項で紹介したアイス-アルベドフィードバックループにより、ある時点を境に急激に氷床の融解が進むと見積もられています。

海洋熱塩循環の停滞

海洋深層は、約1000年かけて世界を一周します。気候変動の進展によりこの循環が停滞することで、暖流の流れが変わり、一部地域は寒冷化すると予測されています。

永久凍土の融解

永久凍土には、メタンや二酸化炭素などの温室効果ガスが含まれています。気温が上昇し、永久凍土が融解することでそうした温室効果ガスが大気中に放出され、気候変動をさらに進行させる可能性が指摘されています。

これらの変化は、それぞれ単独で生じるわけではなく、それぞれが複雑に関連しあって私たちの生活や生態系にさまざまな影響を与えます。

ティッピング・エレメントとその連鎖
ティッピング・エレメントとその連鎖
(出典:Steffen et al.(2018、PNAS)より)

ティッピング・エレメントの引き金を引く気温が何℃かといったことは明確には明らかになっていませんが、気温の上昇が臨界点に達することがないよう、最小限に抑えるために、温室効果ガスの排出削減(緩和策)を進めるとともに、影響に対する適応の準備を進めていく必要があります。

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