磯焼けの原因であるウニを育て直し、地域の特産品にしながら、藻場の回復を目指す

取材日 2024/11/28
対象 ウニノミクス株式会社、株式会社KAYOI UNI BASE
・代表取締役 石田晋太郎
ウニノミクス株式会社
・操業・品質・技術統括ダイレクター 山本カルロス敏弘
株式会社KAYOI UNI BASE
・加工マネージャー兼調達 営業・総務担当 吉見宜浩

東日本大震災がきっかけで、日本の磯焼け問題に着手

ウニノミクスとはどのような会社ですか?

石田さん:磯焼けの原因となっているウニを短期間でおいしく蓄養し、地域の特産品として売り出すという事業をおこなっています。
本社はイギリスとアイルランドにあり、ウニノミクス株式会社は日本法人です。東日本大震災後、ノルウェーの外務省が被災地の漁業者を自国に招待して先進的な漁業を見ていただくというプログラムがあったのですが、そこでウニノミクス創業者の武田ブライアン剛が、磯焼けの問題を知ったんですね。

それに対して何かできないかといろいろ調べていると、ノルウェーの国立研究所がウニの養殖技術を研究していたというところに辿り着きました。その技術を使って、東北の磯焼けの原因となっているウニを育てることができないか、と、試験的に実験を始めたのが会社設立のきっかけです。
現在はカナダの東海岸で商業規模工場を建設中で、アメリカでも近いうちに工場建設の許可が取れそうなのですが、商業活動を行っているのは日本だけです。2021年に大分県国東市で第1工場、2022年に山口県長門市で2番目の工場が完成し、毎日ウニを出荷しています。

長門市の工場建設には、市内で150年以上の歴史をもつマルヤマ水産有限会社が地元の海を活性化したいと考えていたところ、大阪で開かれた展示会で私たちと出会ったという経緯があります。そこからお話が始まり、ウニの蓄養の実証実験を経て、2か所に蓄養施設を建設しました。
国内は今年富山県と大分県第二工場を着工、海外でもカナダ東海岸にて今年の年央に工場が稼働開始するほか、ニュージーランド、メキシコ、チリにおいても計画を進めています。

石田晋太郎さん
山口県長門市におけるウニノミクスの現地法人『KAYOI UNI BASE』

磯焼けとは、ウニの食害などにより藻場が失われることですね。これには温暖化が深く関わっているといわれています。

石田さん:藻場は魚の産卵場所になったり、小魚のエサ場やすみかになったりと、海の生態系の基盤になる場所です。さらに二酸化炭素吸収量も多く、ブルーカーボンとしても注目されています。
しかしいま、磯焼けによる藻場の消失が、日本だけでなく世界でも見られるようになっています。その原因のひとつが、海水温の上昇によるウニの大量発生です。エサである海藻を食べつくしてしまい、海藻が生えにくくなることでウニのエサがなくなり、殻を割っても身が入っていない飢餓状態のウニが増えているのです。

左は飢餓状態の空のウニ、右は蓄養後のウニ。身がぎっしりと詰まっています

利益を循環させるからこそ、持続的に問題と向き合える

どのようにウニを蓄養しているのか教えてください。

石田さん:まず磯焼け地域の、身の入っていない痩せたウニを漁業者のみなさんに獲っていただき、我々がそれを買い取ります。そして閉鎖循環環境で汚れた水をきれいにしながら回し、水温や水質を整えて、ウニにとって心地よい環境で陸上養殖をおこなっています。

エサについても継続していいものを与えられるように、配合飼料を作りました。これはノルウェーの国立研究所で1990年代から研究されてきた、ウニの養殖技術の一部です。この研究成果の独占使用権を得て、数年間にわたりしっかり身が乗っておいしいウニになるようにエサに改良を加え、継続的に与えられるものとして完成させています。
ウニの種類にもよるのですが、8週間から12週間で空っぽだった殻の中に身が詰まり、商品化が可能になります。年間を通して、生産と出荷ができるのが特徴です。

改良後のウニのエサ。旨味の素となる海藻の切れ端を豊富に使っています

磯焼けの原因を減らすことができて、さらにそのウニを商品として販売できるというのはいい循環ですね。

石田さん:豊洲市場では、近年ウニの供給量が減っており取扱量が右肩下がりなのですが、反比例して取扱金額は上がっています。ウニの数は少ないけれど食べる人は多く、長引く和食ブームで海外の消費も増えており、単価が上がっているという状況です。
私たちは、経済と両立させなければ、環境に対していい効果は得られないと思っているんです。漁業者のみなさんがウニを獲り、我々が買い上げて蓄養し、ウニを販売して利益を循環させる。そうすることで、磯焼け問題の解決に向けて持続可能な活動をすることができると考えています。

2023年には、ウニを間引くことで回復した藻場によりCO2が吸収されると認められ、大分県と山口県においてジャパンブルーエコノミー技術研究組合が発行・管理しているJブルークレジットの発行を受けました。我々の活動は国連にも認知され、彼らの提唱するSDGsを実現するうえでも有用なことだと推薦をいただいています。

地域活性にもつながるように思います。

石田さん:長門市のウニに関してはふるさと納税にも掲載していただいているので、地元のブランドとしてみなさんに親しんでもらっていると思います。
また工場を建設することで、正規雇用にも寄与できるようになりました。まずは最初の1棟を建てて、ウニを蓄養して販売するなかで売り上げを見つつ、地元との関係も深めながら、2棟目、3棟目と工場を増やしていく計画です。
やり方は世界共通ですので、世界中の知見を日本に集めることもできますし、逆に日本から世界に知見を持っていくこともできます。絶えず成長していきたいですね。

「工場がスケールアップしたときに、どのようにオペレーションするかは大きなチャレンジのひとつ」と話す、操業・品質・技術統括ダイレクターの山本カルロス敏弘さん。

関わるすべての人にメリットがあり、海の環境にも寄与できる

磯焼けが全国で進むなか、その原因となるウニを獲って蓄養して販売するという活動には目から鱗の人も多かったと思いますが、実際に日本で新しい事業を始めるうえで、周囲の反応はどのようなものでしたか?

石田さん:2014年に日本で蓄養試験を開始しましたが、当初はまだ「本当にできるのかな」と思われていたはずです。しかし2017年に水産庁長官賞を受賞し、そこからご期待は増えてきたのかなと思います。
我々も、エサの改良なども含めて本当に長年、時間をかけて苦労しながら、知見を溜めてきました。

取り組みを進めるうえで大変だったこと、あるいはうれしかったことはなんですか?

石田さん:大分に工場を作ったのは2021年で、新型コロナウイルスの流行が始まったころでした。竣工式はできたのですがその後国境が閉じてしまい、海外からシステムをほとんど輸入して持ってきたにも関わらず、技術者を呼べなかったんですね。本来、建設時から創業まですべて伴走してもらうはずでしたから、色々な苦労がありました。オンラインなどを駆使してコミュニケーションを進めるなかで、たとえば水の状態の良し悪しなどは画面越しに判断しづらい場合も多く、国内のスタッフや関係者にはかなり大変な思いをさせました。
逆にうれしかったことは、やっぱりお客さまの反応ですね。みなさんの「おいしい」という言葉は、大きなやりがいにつながります。ミシュランの星付きの寿司屋や割烹、旅館などにもコンスタントに出荷させていただいていますし、評価されるのは純粋にうれしいです。

工場外観

吉見さん:これまでは県や国にお金をいただいて駆除していたものが、駆除せずともお金になるという意味で、手前味噌ではありますが自慢できるビジネスモデルだと思っています。関わっていただくすべての方に総合的にメリットがあるうえに、地球環境にも貢献できるというところに、価値を感じていただけているのではないでしょうか。

藻場についても、漁業者さんから直接「少しずつですが戻ってきています」という話を聞いています。高齢化で地方の人口が減少傾向にあり、産業の衰退が問題になるなか、藻場が回復して魚が増えれば、次の世代の漁業者も参入することができますよね。一次産業がまた盛り上がる可能性につながっているというのは、うれしいことです。

今後、新たに取り組んでいきたいことはありますか?

石田さん:やはり、ウニを間引いて、きちんと環境のバランスを取り戻すということをしっかり継続していきたいです。ウニが継続的に獲れなくなって大丈夫なのか、と聞かれることもあるのですが、現在、我々はトラックで5時間程度の範囲であれば、ウニを工場に運び込むことができます。たとえば大分県で大規模工場を建てたら、九州一帯が仕入れ場所になるということです。

ウニを獲ることで漁場のバランスが取れて磯焼けを解消できれば、また新たに磯焼けで悩んでいる場所へ行けばいいわけです。エリアの広さでカバーしていけたらと思います。

この記事は2024年11月28日の取材に基づいています。
(2025年5月20日掲載)

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