気候変動や防災について学ぶ機会をつくり、「だれひとり取り残さない」避難の実現へ

取材日 2024/11/29
対象 一般社団法人レベルフリー 代表理事
気象予報士 防災士 坂本京子

災害時の避難についての相談を受けて、地域に寄り添う活動を開始

レベルフリーの活動内容と、設立の経緯について教えてください。

もともとは、山口県内で小さな団体を作って、気象予報士としてお天気のイベントを開催したり、防災活動をしたりしていたのが始まりです。
そのうちに、お子さんのいる親御さんから「災害時に避難したいけど、子どもにアレルギーがあると難しいですか?」という相談を受けたことがきっかけで、アレルギーを考えた炊き出しや、避難所のあり方を考える取り組みを始めたんです。
そうすると、今度は発達障害のお子さんのいる親御さんから「うちの子はおそらく避難所に行っても、興奮してみなさんに迷惑をかけてしまう」という悩みを打ち明けられました。そこで、避難所での車中泊についてみなさんと学ぶうちに、身近な方の「困った」という声に応えたい、地域に寄り添う活動がしたいと思うようになり、一般社団法人を立ち上げたという経緯です。

坂本京子さん

坂本さん自身、気象予報士、そして防災士でもありますが、その資格を取得しようと思ったきっかけはなんですか?

結婚して兵庫県尼崎市に移り住み、約2か月後に阪神淡路大震災が起こって被災したんです。当時私はまだ20代後半で、引っ越したばかりで友達もおらず、本当になにもできず怖くて毎日泣いていました。
阪神淡路大震災は、「ボランティア元年」と言われています。いまでこそ、災害が起きたらボランティアの方がたくさん支援に来てくださいますが、この災害がきっかけとなって多くの方がボランティアに関心をもち、全国に自主防災組織の結成が進みました。
それで、ボランティアの方々に感謝の気持ちを込めてという意味と、もともと気象に興味があったこともあり、気象予報士の資格を取ろうと思い立ちました。ボランティア活動自体に興味を持ち始めたのも、この震災がきっかけです。

写真:2024.11.24「ペット避難を考える」イベントの様子

正しい知識を身につけ、自助・共助の関係を作ることも大切

先日(2024年11月24日)には、レベルフリー主催で『ペット避難を考える』の第2回目のイベントも開催されました。災害時のペット避難について考えることも、大きな備えです。開催のきっかけは、やはり市民の要望だったのでしょうか?

これは要望というより、ペットがいるからと避難をためらうことがあってはいけないと感じたからです。
環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」ではペットを連れて避難所に行く「同行避難」を推進していますが、やはり避難所では臭いや鳴き声が気になったり、動物アレルギーの人もいたりと、受け入れの体制は地域によってなかなか進んでいないのが現状です。過去の災害では、避難後に心配になってペットを迎えに行った結果、亡くなった方の例もあります。ペットがいるから「避難しない」という方が増えないように、まずは飼育者自身が学ぶべきこともあるんですね。そこで、具体的な研修を通じて、大切なペットを守るための学びの場にもなればと思って開催しました。
自治体の担当者など、さまざまな人が見学に来てくださったので、それが将来的に仕組みづくりに繋がっていけばいいなと思っています。

参加者の数も多く、関心の高さが伺えました。車中泊避難は、選択肢のひとつとしてとても有効ですね。

あくまでも、避難所の駐車場に車中泊させてもらうということです。車中泊にはリスクも伴うので、そこをしっかりと学んでいただければと思います。
ペット以外でも、体の不自由なお年寄りや、不特定多数の人と一緒に過ごすのが難しい方など、事情を抱えている人はたくさんいらっしゃいます。車自体もどんどん快適になっていますし、車中泊は避難の選択肢が広がる安心材料のひとつになりますね。

『ペット避難を考える』の第2回目のイベントでは、山口トヨペットの協力で、車中泊のポイントについてレクチャーする時間もありました

ほかには、どのようなイベントや普及啓発活動をされていますか?

ひとつは、気候変動や気象を考える活動です。2023年には、子どもたちを対象にした『わくわく防災体験ツアー』を、防府市の青少年科学館を2週間借り切っておこないました。1平方メートルの枠に溜まった雨をペットボトルに入れて「1時間100ミリ」の雨を担いでみたり、気象庁が使用している風速計で風を起こしたり、雨量計に水をかけて雨の量を測ったりと、体験型のイベントで楽しみながら学んでもらえたと思います。気温や風向き、風速を測るために使うラジオゾンデを気球につけて吹き抜けの会場に浮かべる、空中展示もおこないました。

ほかにも、子どもたちに災害を身近な出来事として捉えてもらうために、山口大学が所有しているドーム型VRを借りて、佐波川の平常時と豪雨時の動画を左右で比較しながら流したり、大昔の白黒写真をカラー化した被災写真をお借りして展示をしたりと、専門家や研究者と連携し、さまざまな角度から気候変動や防災を見ていきました。こうした垣根を超えた連携も、私たちの活動の特徴です。

もうひとつ、おこなっているのは『やさしい避難所を考える』という活動です。SDGsの理念である“だれひとり取り残さない”取り組みは防災や減災においても大切な考え方で、これだけ災害が甚大化、広域化するなかで、多様な人々が安心して避難できる仕組みづくりが必要だと思います。

2024年は就労で来日している技能実習生にアプローチして、地域の人と接してもらう防災研修会を設けました。アパートと職場の往復に精一杯で、地域の人はだれも彼らの顔を知らない、というケースがよくあるのです。そこで市内のスーパーに協力してもらい、お惣菜を作っているベトナム人約20名に声をかけました。

『わくわく防災体験ツアー』(写真:一般社団法人レベルフリー提供)

だれひとり取り残さないという視点は、本当に大事だと思います。技能実習生たちと接して、地域の方々はどのような反応でしたか?

最初は、不安そうでしたが一緒に日本の伝統的な遊びを楽しみ、ベトナムの暮らしや言葉を教わったりするうちに、すぐに打ち解けていきました。ベトナム語で挨拶したり暮らしを心配したりと、地域が彼女たちを受け入れていく姿を見て、「顔を知っている、名前を知っている、話をしたことがある」というのが、地域防災の第一歩だと実感しました。

会は3回行いましたが、その後も地域の人たちは夏祭りに彼女たちを招待し、「浴衣を着たい」という要望で浴衣の準備と着付けをして盆踊りを一緒に楽しんでいました。自治会長が「お互いに助け合うのは日本人であろうと外国人であろうと関係ない」と話され、この活動が持続可能な取り組みとして地域に根付いていくと感じました。
避難所にはさまざまな人がやってきます。ある種、小さな社会です。避難所のなかがやさしさで溢れたら、災害時だけでなく、社会全体もやさしくなっていくと思うんです。そうなっていったらいいな、という思いを込めて、活動を続けています。

『やさしい避難所』にて、地域の人たちにお手玉を教わる技能実習生たち(写真:一般社団法人レベルフリー提供)

気候変動や防災を学び行動できる子どもたちを育てたい

気候変動影響というと、災害だけでなく、夏の暑さも厳しくなっています。気象予報士として、防災士として、現在の気候変動影響についてどのように捉えていらっしゃいますか?

2024年の夏は、地球が私たちに送った最終警告だったのでは、と感じています。いまアクションを起こさなければ、変えようのない未来が待っているというメッセージです。

2023年も記録的な暑さでしたが、2024年はそれを上回る猛暑で、山口市も真夏日が前の年の3倍にのぼりました。暑さと雨は表裏一体です。各地で豪雨にも見舞われ、11月になっても警報や避難情報が出るような大雨が続くという異常事態で、夏の期間が長くなっているとも感じます。緩和策はもちろん、自分の命を守るための適応策についても、自分事としてアクションを起こしていかなければならないと思っています。

気候はその土地を取り巻く風土であり、そこで文化や産業が生まれて生活が営まれていきます。その土台である気候が変わろうとしていることを、みなさんにもわかってほしいです。気候が変わってしまうと、どんなに対策をしてももう元には戻らない可能性があります。私たちは今まさにその瀬戸際に立っていると感じます。

今後、レベルフリーが目指すところはありますか?

2025年度のテーマは「気候変動」です。県内の児童・生徒を対象に、地球温暖化や気候変動が実感できるようなフィールドワークを行い、未来の環境を考えアクションに繋げる機会を作りたいと思っています。音楽とのコラボで、竹を使った住民参加の演奏会も企画中です。

「子ども防災士養成講座」も、長く続けていきたいですね。去年、市の委託を受けて防災を勉強する子どもたちを募集したら、あっという間に定員に達し、26名の子ども防災士が誕生しました。学生スタッフも活動に巻き込んで、若い世代の防災リーダーを応援していきたいです。

この記事は2024年11月28日の取材に基づいています。
(2025年5月20日掲載)

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