日本国内の世帯数および用途別建物用地面積の将来推計

成果の概要

本データは、環境研究総合推進費S-18「気候変動影響予測・適応評価の総合的研究」にて実施された日本における影響予測及び適応評価にて使用されたS-18共通社会経済シナリオデータの一部である。国立環境研究所の日本版SSP 別人口シナリオ第2版や国立社会保障・人口問題研究所の日本の世帯数将来推計、2015年の国土数値情報の土地利用データ等を基に、3次メッシュベースの世帯数、工業用建物用地面積、商業業務等用建物用地面積、住宅用建物用地面積、元住宅用建物用地面積の将来変化を推計した。

評価項目

評価した項目

  • 総世帯数(Japan SSP1・Japan SSP2・Japan SSP3・Japan SSP5)
  • 工業用建物用地面積(Japan SSP1・Japan SSP2・Japan SSP3・Japan SSP5)
  • 商業業務等用建物用地(Japan SSP1・Japan SSP2・Japan SSP3・Japan SSP5)
  • 住宅用建物用地面積(Japan SSP1・Japan SSP2・Japan SSP3・Japan SSP5)
  • 元住宅用建物用地面積(Japan SSP1・Japan SSP2・Japan SSP3・Japan SSP5)

評価方法の概要

総合的な全国的影響予測と適応評価を実施するに当たり長期的な社会の将来見通しを示す社会経済シナリオの設定が必要である。S-18共通社会経済シナリオでは、叙述シナリオとして日本版SSPs (Chen et al., 2020、以降Japan SSPsとする)を使用することになったが、Japan SSPs に付随するデータが不足している状況であった。そこでここでは日本版SSPs に付随するデータ(3 次メッシュ別の世帯数・用途別建物用地面積の将来推計)を整備した。世帯数については、将来人口(国立環境研究所, 2021)に世帯主率(国立社会保障・人口問題研究所, 2019)を乗じて2015年~2100年の男女別・年齢5歳階級別・家族類型別の世帯数を推計した。用途別建物用地推計については、まず基準年である2015年の建物用地を工業用建物用地・商業業務等用建物用地・住宅用建物用地・その他建物用地の4つへ分類した。2015年の建物用地とは、国土数値情報土地利用3次メッシュデータ(2016)の土地利用種別であり、「住宅地・市街地等で建物が密集しているところとする」と定義されている。2020年以降の将来推計については、工業用建物用地及び商業業務等用建物用地の面積変化予測の代理変数を設定し、その面積を推計した。住宅用建物用地については、居住世帯あり住宅と居住世帯なし住宅を区分し、住宅用建物用地と元住宅用建物用地の面積を推計した。全ての解析は、空間解像度3次メッシュ(およそ1㎞×1㎞)であり、Japan SSPsのうち4つシナリオ(Japan SSP1・Japan SSP2・Japan SSP3・Japan SSP5)を使用して、推計を行った。なお、推計にあたっては世帯数及び用途別建物用地面積に影響を与えうる今後の政策等の効果は想定していない。

時間・空間解像度

評価対象期間 2015-2100年
時間解像度 5年ごと
対象地域 日本全国
空間解像度 3次メッシュ

作成した社会経済シナリオの元データ

人口・世帯数データ

将来人口:

  • 国立環境研究所: 日本版SSP別人口シナリオ第2版, 2021.
  • 将来の世帯主率:
  • 国立社会保障・人口問題研究所: 日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計), 人口問題研究資料第343号,ISSN1347-5428, 2019.
土地利用データおよび使用した土地利用類型

基準年の建物用地:

基準年の工業用地:

現存する住宅数(戸建件数,共同住宅件数,延床面積(区分),事業所数等):

指定容積率:

1住宅あたりの敷地面積及び1事業所あたりの敷地面積:

  • 総務省統計局: 社会生活統計指標−都道府県の指標− 2022, 2022.

工業・準工業地域都道府県別面積及び商業・近隣商業地域都道府県別面積:

  • 総務省統計局: 住宅・土地統計調査, 2018.

評価した適応策

総世帯数は、2015 年の5,320 万世帯から、2100 年には1,881 万~ 3,655 万世帯になる。将来人口(国立環境研究所, 2021)に世帯主率(国立社会保障・人口問題研究所, 2019)を乗じる方法のため、人口減少の傾向と同様に世帯数も2030 年以降急激に減少する。2015 年時点で全世帯数に対する85 歳以上が世帯主である世帯数の割合の市町村別平均値は8.1% であった。2100 年の市町村別平均値は、日本版SSP3 で28.7%、日本版SSP5 では20.5% であり、2015 年と比べて2.5 ~ 3.5 倍となる見込みとなった。これは日本社会の高齢化がさらに進み、大きな変化が訪れることを示唆している。
シナリオ別の工業用建物用地面積の全国総計は、2015年の1,538㎢から2100年には1,564~1,572㎢であった。過去の傾向分析に基づくと、人口減少が始まって20年未満の都道府県では工業用建物用地が増加し続けることが分かった。シナリオ別の商業業務等用建物用地面積の全国総計は、2015年で2,887㎢、2100年で3,090~3,115㎢であった。シナリオ別においても工業用建物用地とほぼ同様の傾向であった。住宅用建物用地面積は,2015年で8,558㎢、2100年で3,571~5,704㎢であった。2015年と比較し、2100年には日本版SSP3では0.42倍、日本版SSP5では0.66倍となることが分かった。これは世帯数の減少率とほぼ同じ傾向である。元住宅用建物用地面積は、2020年で1,014㎢、2100年で4,048~6,180㎢であった。世帯数減少率が最も大きい日本版SSP3で元住宅用建物用地面積は最も大きくなる。2080年頃から住宅用建物用地面積よりも元住宅用建物用地面積の方が上回ると予測された。

成果利用時の留意事項

将来予測において対象とした事項

総世帯数は、将来人口に世帯主率を乗じているため、この2つの指標が計算結果へ影響を与える。
工業用建物用地面積及び商業業務等用建物用地面積は、「人口減少が始まって20年は増加する」・「人口減少開始20年後には一定」と想定をおいている。また、20年間の増加傾向は、各都道府県の2010年~2020年の各用地面積の平均年増加率を用いている。
住宅用建物用地面積及び元住宅用建物用地面積は、居住世帯あり住宅と居住世帯なし住宅を区分し,住宅用建物用地と元住宅用建物用地の面積を推計している。居住世帯あり住宅は世帯数に依存し、居住世帯なし住宅は現存する住宅数から世帯数の差分で計算される。そのため、統計データより現存する住宅数・戸建て割合・共同住宅割合を利用した。変数は将来の世帯数により推計している。

将来予測において対象外とした事項

工業用及び商業業務等用建物用地面積は、2040年代以降およそ一定となっている。2040年代~2090年代までのおよそ60年間変動なしとなっているのは、人口減少開始20年後には工業用建物用地と商業業務等用建物用地面積は増減なしとなるという想定をおいた結果であり、現実的な推定とは言えない可能性がある。

活用にあたって留意すべき事項

本推計結果は、S-18共通社会経済シナリオとして様々な分野の影響評価へ使用可能である。ただし、上記5.2の事項に加えて下記について留意する必要がある。

  • 世帯数と土地利用の元データのデータ領域範囲は異なる。本研究では、人口データを基本として世帯数を推計し建物用地推計を行うため、人口分布データのないメッシュに関しては、住宅用建物用地は基本的にゼロであり、工業用、商業業務等用、その他の建物用地となっている。
  • ゼンリン建物統計データより集計した現存する住宅戸数の中には、国土数値情報の土地利用で建物用地でない箇所に建物が存在することがある。2015年は計算の都合上、国土数値情報の土地利用で建物用地とされているところのみを建物用地として考えているが、2020年以降は2015年時点で建物用地でない箇所も建物用地として見なされている箇所がある。そのため、建物用地面積が増加する傾向にある。
  • ゼンリンの建物統計データの中に、沿岸域の工業地域であるが住宅と見なされている建物が複数ある場合がある。この領域では、データ上での世帯数が少ないために2030年頃までの間に急激な住宅用建物用地面積の減少が発生している(3次メッシュ番号 53390561(横浜市金沢区鳥浜町付近)、50306662(福岡県北九州市若松区南二島付近)、52364675(愛知県飛島村付近)など)。

将来の建物用地面積が,2015年の建物用地面積を上回る場合がある。その場合、どの土地利用/土地被覆を建物用地へ変化させるのかはシナリオ想定また分野ごとの想定により異なるため、ここではあえて他の土地利用/土地被覆を変換させるなどの処理は行っていない。

参考資料等

情報利用時に引用すべき文献

  • 吉川沙耶花,今村 航平,山崎 潤也,似内 遼一,真鍋 陸太郎,村山 顕人,高橋 潔,松橋 啓介,三村信男 (2024) 日本版 SSPs に付随したデータ開発のための用途別建物用地面積の将来推計,土木学会論文集,Vol.80,No.27,24-27049.

参考文献(文中で引用した上記以外の文献)

  • Chen, H., Matsuhashi, K., Takahashi, K., Fujimori, S., Honjo, K., and Gomi, K.: Adapting global shared socio-economic pathways for national scenarios in Japan. Sustainability Science, 15(3), 985-1000, 2020.
  • 国立社会保障・人口問題研究所: 日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計), 人口問題研究資料第343号,ISSN1347-5428, 2019.
  • 石河正寛,松橋啓介,有賀敏典,金森有子,栗島英明: 空家の地域内分布に関する現況および将来推計,都市計画論文集,Vol.51, No.3, 2016.

プロジェクト

  • 環境研究総合推進費S-18 気候変動影響予測・適応評価の総合的研究(2020~2025)

データ入手方法

数値データ
WebGIS 掲載予定
WebGIS表示の元データ(GISファイル、csvファイルなど) WebGIS掲載後に提供予定
その他関連情報 プレスリリース(茨城大学、名古屋大学、国立環境研究所と共同リリース)

A-PLAT内関連情報