治山事業(注1)の推進

掲載日 2024年6月26日
分野 農業・林業・水産業
地域名 全国

気候変動による影響

森林は、適切な整備・保全を通じて、土砂流出防止機能、洪水緩和機能等を発揮することから、豪雨災害の防止・軽減に寄与しています。
しかしながら、気候変動の影響により、短時間豪雨の年間発生回数が増加するなど降水形態が変化し、山地災害を誘発するような極端な降水が発生しています。また、このような気候変動の影響に対応するため、森林の国土保全機能の更なる高度発揮に資する取組を強化するとともに、山地災害発生のリスクがより高い箇所については、治山施設の効果的な整備等を推進するなど、地域の安全・安心を確保していく事前防災対策が重要となっています。

取り組み

林野庁では、近年の山地災害の特徴を詳細に分析・把握するとともに、より効果的・効率的な対策を検討するため、2020年9月に学識経験者を交えて「豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方に関する検討会」を開催し、2021年3月に、激甚化する山地災害・洪水被害に対応するため、重点的に取り組むべき治山対策の方向性を以下のとおり取りまとめました(図1)。

■重点的に取り組むべき治山対策の方向性

課題① 表層よりもやや深い層からの崩壊の発生

森林の表層崩壊防止機能が高まり山地災害の発生件数が減少傾向となっている一方で、多量の雨水が短時間で森林内の凹地形へ集中し、森林土壌の深い層まで雨水が浸透することにより、表層よりもやや深いところにあって、樹木の根が入り込んでいない層からの崩壊が発生するようになっている。こうした現象が集落等から遠い奥地でとどまる程度の規模であれば直ちに対策をとる必要性は低いが、崩壊土砂が大量の土砂・流木を伴って流下するケースもあることから、下流の集落等に大きな被害を与えるおそれがある場合は、発生源の対策や監視に取り組む必要がある。
このため、対策や監視が必要な箇所の抽出については、リモートセンシング技術の有効活用により、過去の山地災害の履歴や湧水の痕跡等、崩壊の起点となりうる微地形を判読し、人家等の集中度合いにも着目しつつ、災害発生のポテンシャルの高い箇所を抽出していく。対策が必要な箇所については、雨水の分散や排水、斜面の安定を図るため、筋工、柵工、斜面補強土工等を設置する。

課題② 流量増による渓流の縦横侵食量の増加

降水形態の変化により渓流における流量等が増加していることに伴い、渓流の縦・横方向ともに侵食量が増加し、渓岸が不安定化するとともに土砂の流出量が増加することや、渓流内・渓流沿いの立木が流木化するリスクが高まっていることが懸念される。
このため、集落等の近接地では土石流の衝撃にも耐え得る断面の厚い治山ダムを設置し、また、集落から遠い区域では比較的規模の小さい治山ダムを階段状に設置して渓流の侵食を防止し、山腹斜面の安定化を図るなど、渓流の状況に応じてタイプの異なる治山ダムを効果的に組み合わせて渓流全体を安定化させる。
さらに、流木発生に対しては、流木捕捉式治山ダム(注2、図2)の設置等により流出を防ぐ対策を推進するとともに、渓流沿いの立木で侵食を受けて根が浮くなどして流木化のおそれがある危険木を事前に伐採し、伐採跡地は周辺樹種の自然導入を図ることなどにより林相転換を図る。

課題③ 線状降水帯の発生等による山地災害の同時多発化

近年の豪雨災害では、線状降水帯が発生した地域において山地災害が多発している。例えば、「平成30年7月豪雨」では広島県で約7,600か所、「令和2年7月豪雨」では熊本県で約900か所の山地災害が発生した。今後も、気候変動の影響により比較的広範囲にわたって線状降水帯等が発生するおそれがあり、これに伴って、激甚な山地災害が各地で同時多発的に発生することが懸念されている。
このことを踏まえ、土石流等の発生危険度が特に高い地区を対象に、治山対策の実施率を高めるとともに、かさ上げ・増厚等による既存施設の有効活用も推進する。

課題④ 洪水流量の増加による流木災害の激甚化

大雨の激化・頻発化により洪水被害が甚大になることが懸念される中、流域視点の治水対策を進めていく上で、森林域においては、浸透能・保水力を有する森林土壌の保持に向けた対策が重要となる。こうした対策を通じ、流域全体として洪水の流出遅延効果を発揮させ降雨のピークから流出までの時間を稼ぐことは、地域住民の避難に要する時間の確保にもつながる。また、河川における通水が阻害されないよう土砂・流木の流出を抑制する対策も重要となる。 
このため、機能の低下した森林の分布状況を流域レベルで把握し、対策を優先すべき箇所を抽出した上で、保安林整備と筋工等の簡易な土木的工法の組合せにより、森林土壌の移動を抑え、保持する対策を推進する。また、渓流域の危険木の除去や流木捕捉式治山ダムの設置等により流木の発生・流出を抑えるとともに、治山ダム群の整備による土砂流出の抑制も推進する。

また、2021年6月に閣議決定された「森林・林業基本計画」及び「全国森林計画」において、効果的な治山事業等の推進のため、同検討会のとりまとめを踏まえ、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策(注3)等に基づきながら、流域治水と連携しつつ、

  • 山地災害危険地区等におけるきめ細かな治山ダムの配置などによる土砂流出の抑制
  • 森林整備や山腹斜面への筋工等の組合せによる森林土壌の保全強化
  • 渓流域における危険木の伐採と林相転換等による流木災害リスクの軽減
  • 海岸防災林等の整備強化による津波・風害の防備

を重点的に実施していくこととしています。なお、取組に際しては、既存施設の長寿命化や情報通信技術(ICT)等の新技術の導入促進等により対策の効率化を図ることとしています。

効果/期待される効果等

これまでの取組においては、防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策(注4)により施工した箇所が、その後の大雨時において土砂流出を抑制し、下流の人家や高速道路等の重要インフラへの被害を防止するなど、各地で効果を発揮しています(図3)。

このように、治山事業は、森林の持つ公益的機能の確保が特に必要なものとして指定される保安林等において、山腹斜面の安定化や荒廃した渓流の復旧整備等を実施するものであり、森林の維持・造成を通じて森林の機能を維持・向上させ、山地災害等から国民の生命・財産を守ることに寄与するとともに、水源の涵養や、生活環境の保全・形成を図る重要な国土保全施策です。

強化していくべき具体的な内容 ※「流域治水」の取組と連携して実施
図1 強化していくべき具体的な内容 ※「流域治水」の取組と連携して実施
(出典:林野庁 豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方検討会「豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方検討会とりまとめ」(2021年3月))
流木捕捉式治山ダム
図2 流木捕捉式治山ダム
(出典:林野庁 豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方検討会「豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方検討会とりまとめ(概要)」(2021年3月))
「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」による効果事例
図3 「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」による効果事例
(出典:林野庁 令和4年度 森林・林業白書(2023年5月30日閣議決定))

脚注
(注1)保安施設事業及び地すべり防止工事に関する事業からなり、それぞれ森林法(1951年法律第249号)及び地すべり等防止法(1958年法律第30号)の規定に基づき実施されている。
(注2)流木捕捉を考慮した透過型治山ダム(土石流対策を中心とした透過型治山ダムも含む)のこと。透過型治山ダムは透過部(スリット)に土石流の構成材料を閉塞させることで、土石流本体の抑止や抑制を図るもの。
(注3)「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策の加速」「国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」の各分野について、更なる加速化・深化を図ることとし、令和3年度から令和7年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模等を定め、重点的・集中的に対策を講ずるもの。2020年12月11日に閣議決定された。
(注4)従来の取組に加えて、災害時に人命・経済・暮らしを守り支える重要なインフラの機能を維持できるよう、予算を大幅に増額し、3年間集中で緊急を要する対策を進めたもの。2018年12月14日に閣議決定された。

出典・関連情報

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