森林の計画的な管理
掲載日 | 2023年10月20日 |
---|---|
分野 | 自然災害・沿岸域 / 自然生態系 |
地域名 | 全国 |
気候変動による影響と適応における位置づけ
森林には、下層植生や落枝や落葉が地表の侵食を抑制するとともに、樹木が根を張りめぐらすことによって土砂の崩壊を防ぐ機能がある。気候変動にともなう大雨の頻度増加、局地的な大雨の増加は確実視され、崩壊や土石流等の山地災害の頻発が予測されるとともに、これらの機能を大きく上回るような極端な大雨に起因する外力が働いた際には、特に脆弱な地質地帯を中心として、山腹斜面の同時多発的な崩壊や土石流の増加が予想されている。
台風による大雨や強風によって発生する風倒木等は山地災害の規模を大きくする可能性が指摘されている。
(気候変動適応計画(2021、閣議決定)より抜粋・引用)
取り組み
森林施業の実施に際して、間伐や災害被害の低減に配慮した管理等を実施することで、気候変動適応策・緩和策に資する森林の持つ多面的な機能を発揮させるとともに、生物多様性の向上を図ることができる。
また、間伐等を通した林相の転換を図るため、以下のような取り組みが行われている。
坪刈り、筋刈りの実施 | 下刈りの際に、必要以上に広葉樹を刈り払わずに残すことで、広葉樹の更新を促進する1)。 ・坪刈り:植栽した木の周辺1mを方形又は円形に雑草を刈る作業 ・筋刈り:植栽した木の列に沿って、帯状に雑草を刈る作業 |
---|---|
低密度植栽及び広葉樹を含めた混植 | 広葉樹の天然更新が期待できる場合、針葉樹を低密度に植栽し、天然更新木との混交林化を図る。天然更新が困難な場合、広葉樹を含めた複数の樹種の混植を行い、混交林化を図る1)。 |
事例
大沢国有林(茨城県城里町)
針葉樹一斉人工林を伐期120年で長伐期化し、一部に広葉樹を導入した林分を配置して林分内容の多様化を図り、木材生産機能と公益的機能のバランスの取れた効率的な森林管理手法を確立。
ゾーニングは「針葉樹育成区」、「現広葉樹区(クリ・コナラを中心とした広葉樹天然林)」、「針広二段林区」、「広葉樹育成区(アカマツが混交する広葉樹天然林)」、「渓畔保残区(間伐を繰り返し、水辺の植生を復元)」の5種類。
期待される効果等
森林管理により、根系による土壌保持力・樹幹支持力の増強、林床植生による雨滴侵食の防止等を図ることで、山地からの土砂流出及び流木量を減少させ、災害を防止する効果が期待される1,2)。また、林冠の発達による遮断蒸発率の向上、林床植生の発達による洪水ピーク流量の低減が期待される5)。
適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。
生物多様性 | 多様な生物の生息場の形成 異なる年齢・高さ・針葉樹・広葉樹の混じった、地表に草や低木がよく発達している森林を形成することで、多様な生物の生息場が形成され、森林の種多様性が向上する1,4,6)。 |
---|---|
緩和策 | 炭素蓄積量・固定量の増加 森林整備による立木本数の増加及び材積の増加に伴う炭素蓄積量の増加及び木材利用による炭素固定量の増加が見込まれる。また、樹木の種多様性の向上による、植物と土壌の相互作用の強化により、土壌炭素蓄積量の増加が見込まれる7)。 2021年度における我が国の温室効果ガス吸収量の87%が森林経営(既存の森林の管理及び得られた伐採木材の長期利用)に由来しており、気候変動緩和策としての貢献は大きい。8) |
その他 | レクリエーション・文化機能 森林は保健休養・レクリエーション機能、文化的な諸機能を有する9)。 |
ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点
本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。
- 森林の土砂流出防止機能を大きく低下させないように現地の状況を十分に踏まえて、間伐手法や間伐率を検討する必要がある3)
- 林業種苗法により、スギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツの4種については、気候帯に即し、苗木の移動範囲の制限(配布区域の指定)がある。広葉樹にはその規定は無いものの、植栽された集団と在来集団で交雑が起こると、局所個体群が長い年月をかけて形成してきた適応的な遺伝子型の崩壊を招き、集団や種の衰退につながる危険性がある2,10)。
- 森林において生物多様性を保全するためには、多様な森林のモザイクと、それを構成する個々の森林の面的な広がりのバランスが重要。この二つを同時に考慮するには、広域的な地域の中で森林の配置を検討する必要がある1)。
脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。
出典・関連情報
- 1)国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所(2020) 生物多様性に配慮した森林管理テキスト 関東・中部編(2023年3月23日確認)
- 2)北海道森林開発局(2012) 水源かん養機能の維持・向上と濁水防止に配慮した森林施業の推進(2023年3月23日確認)
- 3)地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所生物多様性センター(2021) 大阪府災害に強い森づくり技術マニュアル( 2023年3月23日確認)
- 4)尾崎 研一, 明石 信廣, 雲野 明, 佐藤 重穂, 佐山 勝彦, 長坂 晶子, 長坂 有, 山田 健四, 山浦 悠一 (2018) 木材生産と生物多様性保全に配慮した保残伐施業による森林管理-保残伐施業の概要と日本への適用-. 日本生態学会誌, 68:101-123
- 5)田村 隆雄, 上田 尚太朗, 武藤 裕則, 鎌田 磨人(2020) 遮断蒸発率と地表面粗度の増強による森林の洪水低減機能の早期向上に関する検討. 土木学会論文集B1(水工学), Vol.76 No.2 I_127-I_132
- 6)Spake R, Yanou S, Yamaura Y, Kawamura K, Kitayama K, Doncaster PC (2019) Meta-analysis of management effects on biodiversity in plantation and secondary forests of Japan, Conservation Science and Practice, 1:e14
- 7)Sanaei A, Yuan Z, Ali A, Loreau M, Mori SA, Reich BP, Jucker T, Lin F, Ye J, Fang S, Hao Z, Wang X(2021) Tree species diversity enhances plant-soil interactions in a temperate forest in northeast China, Forest Ecology and Management, 491:119160
- 8)日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR )2023年, p.別添7-2, 表 A 7-3のNDC-LULUCF活動による計上量からCCCAにおいて算定
- 9)日本学術会議(2001) 地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)( 2023年3月23日確認)
- 10)森林総合研究所(2011)広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン
- A-PLAT / 国内外の適応策事例集:熊本市における地下水量保全のためのかん養対策
- A-PLAT / 国内外の適応策事例集:大分県における災害に強い森林づくり
- A-PLAT / 国内外の適応策事例集:長期総合水資源管理計画の策定
- A-PLAT / 国内外の適応策事例集:滋賀県における水害に強いまちづくり
- A-PLAT / 国内外の適応策事例集:自然を活かした洪水管理