気候変動による影響
気候変動と急速な都市化の複合的な影響により、都市部の住民は様々な環境問題に対して、より脆弱になると予想されています。これらは、都市のヒートアイランド現象(以下、HI)と強く関連しており、気候変動と都市形態の高密度化による熱波の頻発化・長期化に伴い影響はさらに大きくなると考えられています。
ギリシャの都市テッサロニキでは、夏季のHIが顕著であり、特に夜間におけるHIの強度が最も強くなります。またイタリアのローマでも、建築物が密集する中心部や東部において夏季のHIの強度が最大になります。
取り組み
都市の適応戦略の策定のための影響予測システムを実装するLIFE ASTI(注1)事業が、EUレベルの機関、団体、自治体等によるパートナーシップの下、2018年11月に発足されました。この事業では、HIと人間の健康に焦点を当て、テッサロニキとローマにおける短期予測と将来予測につながる数値モデルシステム(LIFE ASTIモデル)の開発および評価を行っています(図1)。このシステムは気候と生物の関係指標や建築物のエネルギー需要を評価するための冷暖房日数などの予測を提供します(図2)。さらに両市において暑熱による健康被害警告システムの指針となり、自治体や一般市民、科学者コミュニティへの情報提供も目的としています。2020年7月には、上記2市にギリシャのイラクリオンを加えた3市において、このシステムが提供する情報に簡単にアクセスできる携帯電話用アプリケーションが公開されました(図3)。
また、この事業の報告書「都市のヒートアイランド現象による将来気候への影響評価と適応策の評価」がテッサロニキ・アリストテレス大学より公開されています(注2)。本報告書の目的は、①テッサロニキとローマにおける都市のHIに対する将来の気候変動シナリオの影響評価を行うこと、②両市でHIに対処するための適応計画を推進した結果を評価し、定量化を行うことです。
効果/期待される効果等
LIFE ASTI事業により、高解像度のヒートアイランド予測システムとして暑熱による健康被害警告を可能とし、HIへの対策が進むことが期待されます。また、ポータルサイトへの自由なアクセスと携帯アプリケーションにより、自治体やステークホルダー、一般住民への普及促進が期待されています。
このように設計されたシステムと都市における最良の適応策は、HIの気候問題に直面している他のヨーロッパの都市への適用も期待されています。
脚注
(注1)LIFE ASTIとは、Implementation of a forecAsting System for urban heaT Island effect for the development of urban adaptation strategiesの略称。
(注2)報告書「都市のヒートアイランド現象による将来気候への影響評価と適応策の評価」へのリンク(https://lifeasti.eu/wp-content/uploads/2021/01/C4-UHI-FCAR-REPORT-FINAL.pdf)