気候変動による影響
近年、デンマークの首都コペンハーゲンは、異常豪雨に見舞われています。2011年の豪雨による被害総額は、当時の通貨で60億デンマーク・クローネ(注1)以上となりました。「コペンハーゲン気候適応計画(注2)」によると、激化する豪雨とそれに伴う洪水の発生が将来予想されています。
掲載日 | 2022年9月8日 |
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分野 | 自然災害・沿岸域 / 国民生活・都市生活 |
地域名 | 海外(デンマーク) |
近年、デンマークの首都コペンハーゲンは、異常豪雨に見舞われています。2011年の豪雨による被害総額は、当時の通貨で60億デンマーク・クローネ(注1)以上となりました。「コペンハーゲン気候適応計画(注2)」によると、激化する豪雨とそれに伴う洪水の発生が将来予想されています。
コペンハーゲン市は、集中豪雨や100年に1度の大洪水からも街を守るため、100年近い歴史をもつEnghave公園をコペンハーゲン最大の気候変動対策プロジェクトとして、22,600㎥の貯水池を持つ「気候公園」に改修しました(図1)。
公園が位置する地区に降る雨水は、公園の2,000㎥の地下貯水池に集められます(図2:左EVERYDAY RAIN)。ここに貯められた雨水は、乾期における様々な植栽への散水や市の道路清掃に使用されます。また、一部ろ過された雨水は、公園を訪れた人々の手洗いや、子どもが遊べる隣接する噴水に利用されます。このように、雨水を再利用することで、レクリエーション用の水源となる地下水を、何百万リットルも節約しています。乾期が長引き貯水池が空になれば、レクリエーション目的の水機能は停止されます。また、公園内に掘削を行い、集中豪雨時の雨水を貯留する合計6,000㎥の低いスペースも新たに確保しました(図2:中10-YEAR RAIN EVENT)。さらに14,000㎥の水を貯めるための外壁ゲートが公園外周に沿って設置されました。この外壁ゲートは、豪雨時に電気がなくても自動的に上げるメカニズムを持った気候へ適応した対策とされています(図2:右100-YEAR RAIN EVENT)。
また、コペンハーゲン市は、コペンハーゲン市ノアブロ地区において、革新的な気候変動適応策として「CLIMATE TILE(気候タイル)」を用いた試験的な歩道も設置しました。気候タイルは簡単な手法で自然の水循環を既存の都市に取り戻すもので(図3)、歩道からの雨水は、気候タイルの穴からタイルと一体化したパイプへ流された後、貯留槽へ集められます(注3)。貯留槽では、貯水、排水、透水、濾過に係る水管理を可能とします。雨水の大半は、主に周囲の植物の穴へ導かれ、植物に取り込まれた水は樹冠から蒸発し、残りの水は、植物の下の土壌に浸透します(図4)。なお、この試験では、年間を通して気候タイルの機能を観察する事、歩道が多種多様な天候や重量負荷、塩害に対応できるか等のデータが集されます。
Enghave公園のような貯水だけでなく人や植物、生物のための空間として整備された新しい水管理手法は、新たな気候への対応として示唆に富む例となり、新しいタイプの都市インフラになると期待されています。
また、気候タイルは、既存の排水インフラ内の過負荷を防ぐと共に、都市の排水システムを補完するものとなります。さらに、都市の水管理システムの新設及び拡張に要する費用の節約が期待されます。このように、気候タイルによる適応策は、都市の洪水リスクが軽減される他、その水を資源として活用する事で持続可能な都市づくりが可能となります。
図1 コペンハーゲン気候公園
(出典:TREDJE NATURウェブページ 「ENGHAVEPARKEN – CLIMATE PARK」)
図2 公園の貯水システム
(出典:TREDJE NATURウェブページ 「ENGHAVEPARKEN – CLIMATE PARK」)
図3 気候タイル
(出典:TREDJE NATURウェブページ 「CLIMATE TILE」)
図4 気候タイルによる水循環システム
(出典:TREDJE NATURウェブページ 「CLIMATE TILE」)
脚注
(注1)日本円で約1,101億円(2022年04月12日為替レート1DKK = JPY 18.2512022を使用)
(注2)コペンハーゲン気候適応計画(COPENHAGEN CLIMATE ADAPTATION PLAN)
https://en.klimatilpasning.dk/media/568851/copenhagen_adaption_plan.pdf
(注3)屋根からの雨水は、歩道が塩害を受ける冬季に雨水を濾過させるためタイルを通さず貯留槽へ直接流される。ただし、塩害の期間において、水に含まれる塩分が過剰な場合は、直接下水道へ送られる。
(注4)公園内には、11,000株の宿根草に加え950株のバラ、83本の木が植えられ園内の生物多様性を高めている。