【テーマ3】都市域の気候変動リスク評価と適応戦略の解析
真砂 佳史
Yoshifumi Masago
テーマリーダー
国立環境研究所/気候変動適応センター
水質問題、水中の健康関連微生物、先進国と発展途上国における気候や社会の変化が水関連問題に及ぼす影響等について20年以上の研究経験を持つ。また、気候変動適応の地域性や優先度の評価手法の開発や、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)を通じ、政策決定者等による情報活用を促進するための情報デザインにも取り組む。
概要
日本の都市域を対象として、都市の規模による気候変動影響や有効な適応策の違いを評価するなど、都市における気候変動影響と適応戦略に関する幅広い分析を行う。人口や土地利用等気候変動以外の要素も考慮して、水供給、沿岸域の洪水や海面上昇、暑熱関連リスクに関する気候変動影響および適応策の効果を評価し、社会変動も踏まえた適応戦略を提示する。成果の受け手である地方公共団体や地域気候変動適応センター等と議論を深め、提示する適応戦略の実効性を高める。
目標
- 水供給、洪水・海面上昇、暑熱関連リスクについて、社会・経済面の変化を考慮して気候変動影響を予測する。
- 各分野で考えうる適応策について、効果やコストも含めて整理し、影響予測モデルによるが可能であるものについてはその効果を定量的に評価する。
- 政策決定者等との議論などを通じ、都市の規模や地域による有効な適応策の違いを考慮して、適応策の実効性を高める。
【サブテーマ3(1)】水供給における気候変動リスクと適応戦略の提案と評価
サブテーマリーダー
真砂 佳史(国立環境研究所/気候変動適応センター)
概要
水質問題、水中の健康関連微生物、先進国と発展途上国における気候や社会の変化が水関連問題に及ぼす影響等について20年以上の研究経験を持つ。また、気候変動適応の地域性や優先度の評価手法の開発や、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)を通じ、政策決定者等による情報活用を促進するための情報デザインにも取り組む。
現代社会において生活に必須のインフラである上水道は、量と質の両面で気候変動による悪影響が懸念されている。これら幅広い気候リスクを把握し、その低減に向け緩和・適応の両面で効率的に対処することは都市のレジリエンス向上のための重要課題の1つである。本課題では、主に都市における生活用水の供給を対象として、水源から配水に至るまでの様々な過程における気候変動影響を評価し、実効性のある適応策を提示・評価する。既存のデータや知見を活用して将来予測モデルを構築し、幅広い気候シナリオに基づく将来予測を行う。その予測結果に基づき、将来の社会変化を加味して実効性のある気候変動適応策を検討・評価する。
目標
- 幅広い気候シナリオや社会経済シナリオにもとづき、上水道に関連する気候変動影響を評価する。
- 評価した影響に対する適応オプションを整理し、定量できるものは効果を定量したうえで、水道関連部局等との議論を通して実効性のある適応策を提示する。
研究対象と計画
- 貯水池の藻類異常発生、配水管網における残留塩素の減衰、気象要素の影響による生活用水量の将来変化を予測するモデルを構築し、将来の影響評価を行う。その際、将来の人口減少やそれに伴う社会変化も考慮する。
- 評価された気候変動影響に対し、実効性のある適応策を検討・提示した上で、モデルで評価できるものについては効果を定量的に評価する。
- 気候変動影響評価や適応策の検討に用いることを目的として、主に都市域における人口減少による土地利用等の将来変化等を解析する。
【サブテーマ3(2)】都市の規模に応じた洪水や海面上昇に対する適応戦略の提案と評価
横木 裕宗
Hiromune Yokoki
サブテーマリーダー
茨城大学/学術研究院応用理工学野
主に海面上昇による影響からはじめて、沿岸都市域における気候変動の影響について幅広く解析を進めている。将来の浸水リスクが都市のインフラを通じてどのように波及していくのか、そしてそれらに都市としてどう適応すべきなのか、できるだけ多くの要素を取り入れて都市の適応戦略を提示したい。専門は海岸工学、気候変動適応。
概要
本研究は、主に沿岸都市域を対象に、洪水や海面上昇による複合的リスクを評価し、都市の規模など地域の実情に応じた適応戦略の解析と提案を行う。
影響評価に際してはインフラ・ライフライン等への波及的影響など複合的な影響も対象にするとともに、都市の構造や人口特性等の脆弱性も加味する。また、治水による被害軽減に限らず、様々な適応主体による幅広い適応策について、自然生態系を活用した適応策(EbA)や移転を含めてその効果やコスト等を評価する。
目標
- 最新の気候シナリオに基づく沿岸域の洪水・海面上昇による浸水影響予測とともにインフラ・ライフラインなどへの複合影響予測、波及効果評価を行う。
- 効果、コスト、時間等の観点から、地域毎に沿岸域の防護・移転・順応に関する適応オプションを評価する。
- 人口減少、高齢化、土地利用変化を考慮し、都市規模や地域の社会経済条件に応じた沿岸域の最適な適応戦略を提案する。
- 成果は、茨城県地域気候変動適応センターやA-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)を通じて地方公共団体や事業者等の気候変動適応策定、実践支援や理解の促進に活用する。
研究対象と計画
- 洪水や海面上昇の影響予測
- 防護、移転、順応などの適応策評価
- 都市規模や地域の社会経済条件に応じた沿岸域の最適な適応戦略の提案
【サブテーマ3(3)】都市域熱環境の広域評価と緩和策を含む暑熱リスク低減策の提案と評価
髙根 雄也
Yuya Takane
サブテーマリーダー
国立環境研究所/気候変動適応センター
サブテーマ3(3)では、「グローバルな気候変動と都市のローカルな温暖化(二つの温暖化)+人口集中+高齢化」で顕在化する都市暑熱環境に伴うリスクの低減を目標に、都市気候エネルギーモデリングとこれに基づく将来予測や適応策・緩和策の評価を進めている。専門は都市の高温やエネルギー、人間活動に着目した気象学・気候学。
概要
本研究では、日本全国の地方公共団体による暑熱リスク低減のための対策の実装を支援するために、全国を対象とした将来の都市暑熱環境・エネルギー消費・暑熱関連健康リスクの予測をおこなう。その上で、暑熱環境変化に伴う悪影響を抑えるための費用対効果の高い気候変動緩和策・適応策を明らかにする。
全国を対象とした都市暑熱環境・エネルギー消費量予測のために、従来よりも計算負荷の少ない都市気候建物エネルギーモデルを開発する。このモデルを、都市以外の土地利用における陸面の熱・水収支等を計算する統合陸域シミュレータと結合させた「都市搭載型統合陸域モデル(日本版)」を開発する。この陸域モデルに、別途本研究で開発する都道府県別の暑熱関連死亡リスク関数を組み込む。また、陸域モデルにS-18等で開発された将来の人口・土地利用・気候シナリオも入力する。
これらの組み込み・入力をおこなった陸域モデルを用いて、日本全国の都市を1kmで解像し、都道府県・シナリオ別の都市暑熱環境・エネルギー消費量・暑熱関連リスクの予測をおこなう。さらに、各気候変動緩和策・適応策を導入したケースでの多数のシミュレーションを実施し、各緩和策・適応策が暑熱環境緩和・省エネ・健康リスク低減へ及ぼす影響を定量的に明らかにする。
この結果を、費用便益分析における便益とし、別途ライフサイクルアセスメントにより定量化する各緩和策・適応策の導入・維持費用と比較することで、都道府県毎に費用対効果の高い緩和策・適応策、またはその組み合わせを明らかにする。
以上の結果を、別途本研究で開発するweb GIS上で可視化し、A-PLAT等に搭載・一般公開するとともにテーマ1へ提供する。この結果をもとに気候変動適応の研究会等において日本全国の各地方公共団体の担当者と議論等をおこない、各地方公共団体の暑熱リスク低減に向けた気候変動適応計画の策定や実装を支援する。
目標
本サブテーマの目標は、各地方公共団体による暑熱関連リスク低減のための対策の実装支援である。そのために、以下1–3を明らかにする。
- 各緩和策・適応策の導入でどの程度暑熱環境が緩和し健康リスクを抑制できるか?
- 各緩和策・適応策導入と維持にかかる費用はどのくらいか?
- それぞれの都市にあった費用対効果の高い緩和策・適応策は何か?
上記を達成するために以下をおこなう。
- 日本全国の都市を解像可能な都市搭載型統合陸域モデル(日本版)を開発し、このモデルに都道府県別の暑熱関連死亡リスク関数を取り込むことで、全国の都市の暑熱環境・健康リスクの予測および適応策・緩和策の導入効果を定量化する。
- 上記のモデル計算の結果と適応策・緩和策の導入・維持費用を基に費用便益分析をおこない、費用対効果の高い対策またはその組み合わせを都道府県別に明らかにする。
- 上記の結果をweb GIS上で可視化・公開するとともにテーマ1へ提供する。