脚注
（注１） 再保険とは個々の保険会社でリスクを負担することが困難な大口案件（例：巨大タンカー、石油コンビナート）や、テロ・天災等などにかかるリスクを分散・均質化するため、保険会社が引き受けた金額の一定割合・もしくは全額を、国内外の保険会社に引き受けてもらう手法を指す。
（注２） 米国バージニア州アーリントンに本社を置く地球環境団体のこと。
（注３） 実際に被った損害を補償するのではなく、予め定義されたトリガーとなるイベント（地震の場合はマグニチュード、台風の場合は風速など）が、予め定義された設定条件（指標値）を超えて発生した時点で補償を行う契約であり、実際の試算やインフラ等への影響とは切り離されている。
政府、非営利組織、民間企業が協力したサンゴ礁の保険を構築
スイス再保険会社日本支店
業種：金融業、保険業
| 掲載日 | 2022年6月15日 |
|---|---|
| 適応分野 | 自然生態系 ／ 産業・経済活動 |
会社概要
スイス・リー・グループは、再保険（注１）、保険、その他保険ベースのリスク移転で世界をリードする大手再保険会社である。直接、またはブローカーを通して、世界中の保険会社、中規模企業から大企業、公共部門の顧客を対象に、あらゆる保険種目の標準商品からテイラーメイドの商品までを携え、その資本基盤と専門知識により事業を展開している。
気候変動による影響
近年、気候変動の進行に伴う山火事や異常気象、森林破壊やサンゴ礁の白化・死滅など、自然環境が急速に悪化している。サンゴ礁に関連する観光業は世界全体で年間360億ドルの経済価値を提供しており、このうち190億ドルがダイビングや野生生物の観察など「サンゴ礁に直結した」観光業により生み出されている。また、日本の観光支出のうち約13%はサンゴ礁での活動に関連しており、その額は年間約10億米ドル相当と推計されている(1)。沖縄のサンゴ礁は主に人間の経済活動によるストレスが原因で減少しているが、減衰につながるストレスを減らしながらサンゴ礁を回復させ、再生能力を向上させる可能性はまだ残されている(2)。
(1) Spalding, M., Burke L., Wood S.A., Ashpole J., Hutchinson J. and Ermgassen P. 2017. Mapping the global value and distribution of coral reef tourism. Marine Policy 82:104-113
(2) Omori, Makoto(2011) 'Degradation and restoration of coral reefs: Experience in Okinawa, Japan', Marine Biology Research, 7: 1, 3 -12
適応に関する取り組み
2017年、スイス・リーは西半球で最も長い沖サンゴ礁があるメキシコのキンターナ・ロー州の経済活動を保護するため、The Nature Conservancy（注2）及びメキシコの自治体と連携し、初めて自然ベースの保険ソリューションを開発した。この商品は、財物保険や農業保険、環境賠償責任保険等の既存の保険手法を生態系サービスへ応用することで、保険ソリューションとリスク管理の適用拡大が可能となる。
前述したメキシコの事例では、保険請求を受けてから調査員が査定を行う従来の方法とは異なり、誰でも客観的に計測できる風速などの指数に基づいて保険金が支払われるパラメトリック保険（注3）の手法を取り入れた（図1）。この事例では、風速とサンゴ礁被害に大きな相関があることから、風速が指標として使用され、保険金が支払われる（図2）。
効果／期待される効果等
保険に加入しておくことで各関係者は以下の効果を得ることが期待できる。
投資家は、環境問題に関するプロジェクトが遅延または未完成等となった場合においても投資金とその利益を保護することが可能となる。企業は、観光業などの天然資源に基づく活動から得られる収益を保護しつつ、自然災害又は人災により事業が中断された場合においてもその対応コストを軽減される。また、政府機関は、観光に関する収益減と災害後の復旧等に係るコストに対して保険をかけておくことで、被害が生じた場合においても自然環境の浄化や再生のための当面の資金を得ることができる。
なお、民間資本と公的資源を組み合わせて保険料を賄うことで、災害に対して脆弱な地域の政府や自治体が、生態系と経済の双方に重要なサンゴ礁などの天然資源を保全するための計画立案をより意識的に行うことができる。
