Staff interview #51
堀田 亘(HOTTA Wataru)

気候変動影響観測研究室 研究員。2024年9月に北海道大学大学院農学院で博士(農学)を取得。2024年10月にCCCAへ入所。気候変動や自然災害が森林生態系に与える影響について研究している。

堀田さんは「森林」や「気候変動」をキーワードに研究を展開していますが、興味を持ったきっかけは何ですか?

幼少期から登山やキャンプによく連れて行ってもらっていて、自然とふれあう機会が多かったので、おのずと森林に興味を持つようになりました。

気候変動というか、気候が森林生態系に与える影響に興味を持ったきっかけは、思い返してみると、高校生の時に海外派遣研修でハワイ島に行ったことかなと思います。高校がスーパーサイエンスハイスクール(SSH)という文部科学省の事業の指定校だったため、研修として行く機会がありました。
ハワイ島は日本の国土よりずっと小さな面積しかないのですが、標高差や風の影響により、多様な気候区分が存在している非常に興味深い場所です。気候の区分ごとに、さまざまな植生が見られます。
研修ではいろいろな体験をしましたが、気候に応じたさまざまな植生を目の当たりにしたことが、僕にとっては一番心に残りました。そうしたハワイ島での経験もあって、大学では植生学や生態学などについて学びたいと考え、農学部に進学しました。

気候変動については、近年ますます問題として顕在化しているため、関心を持つようになりました。気候と植生の関係という自分のもともとの関心にも直結することでもありますし、森林生態系への気候変動の影響という研究テーマに取り組むようになったのは自然な流れだったと思います。

大学院ではどのような研究をされていましたか?

自然撹乱を受けた森がどのように回復していくのかについて研究していました。自然撹乱とは、台風や豪雨、火災などによって環境や生態系が大きく変化する現象のことをいいます。

自然撹乱からの回復には長い時間がかかるので、気候変動の影響もきちんと評価する必要があります。そこで僕は、気候変動によって回復の速度や、侵入してくる植物種、森林の機能などがどう変化するかについて調べていました。

気候変動の影響を評価するためには、現在の状況をきっちり把握することがまず重要です。しかし、それだけでは100年後の森林がどうなるかといったことはわかりませんので、野外調査とコンピューターシミュレーションを組み合わせた研究を行ってきました。

老齢の森林(左)と、台風で倒壊した森林(右)

2024年10月に気候変動適応センターに着任され、現在はどのような研究をされていますか。

まだ模索中というのが正直なところですが、気候変動の影響を観測・予測するだけではなく、その結果をもとに生態系にどう関与・介入をしていくか、具体的な提案につなげることが重要だと思っています。僕の場合、具体的には森林をどう管理していくかという部分ですね。

これまでにも、台風を受けた森林で倒れた木を搬出した場合と、そのまま放置していた場合の回復の程度を比較する研究など、森林管理の観点からの研究を行なってきましたが、まだまだ十分ではありません。今後は、気候変動の影響も加味しつつ、森林生態系の健全性を維持していくためには具体的にどうすべきかという研究に発展させていきたいです。

就職先として気候変動適応センターを選ばれた理由を教えていただけますか?

「気候変動」を名前に冠して、自分の専門分野である生態系の研究を行っていること、気候変動影響の観測から適応策の立案まで一貫して取り組んでいるところに魅力を感じたからです。

気候変動の議論では、温室効果ガス排出量を減らそうという緩和の部分がまず語られがちですが、気候変動による悪影響をできるだけ抑える適応策も非常に大事です。僕が大学院で所属していた研究室では、森林だけでなくさまざまな生態系を扱っていて、グリーンインフラなど、生態系に基づく適応策の重要性を叩き込まれました。

気候変動は今や待ったなしの状況で、森林生態系はどんどん変わっていっています。しかし、森林の変化に応じた管理について、適応の視点での研究や社会実装はまだまだ進んでいません。気候変動適応センターには適応のエキスパートの方がたくさんいらっしゃいますので、そうした皆さんと協働することで、自身の問題意識に沿った研究に取り組めると考えました。

気候変動適応センターは適応策の社会実装を明確に見据えた組織ですが、入所したことで、研究への姿勢や気持ちに変化はありましたか?

学生時代から研究成果を社会に還元することは常に意識していたのですが、学生の頃に考えていた社会実装と、適応センターでいう社会実装では、見ているレベルが違うなと感じています。

例えば適応センターでは、農業従事者の方が実際に試せるような現実的な提案や、低予算で導入しやすい熱中症対策といった、直接現場に生かせるような研究が日々行われています。想像以上に実社会との距離が近いというのが率直な印象でした。

研究を行う部署と、自治体や事業者、個人への適応推進のための技術支援を行っている部署が一体となって運営されているので、よりハイレベルな社会実装を行っていると思います。

今の仕事のやりがい、難しいと感じる点を教えてください。

社会実装をしっかりと見据えている場所で働けることに強いやりがいを感じています。
難しいと感じている点は、研究者としては、学術的な影響力が大きな研究成果を出したいという気持ちがやはり大きい一方で、学術的なインパクトの大きさと、特定の地域での課題解決に即座に役立つかどうかが必ずしも一致しないところです。

例えば、全世界を対象にした統合的な解析は、多くの研究者から論文で引用されるかもしれませんが、自治体や事業者など、実際に気候変動の適応を必要としている方が欲しい情報とは必ずしも一致しないでしょう。科学的に良いとされる手法があったとしても、コストに関する議論や地域の方々の理解を抜きにしてその方法を押し付けるようなやり方では社会実装は進んでいきません。一朝一夕に答えが出るような問題ではありませんが、それぞれの場面で最適な手法を探っていくためには、異なる専門性を持った方やさまざまなステークホルダーの方との連携が必要だと感じています。

今後の目標や展望について教えてください。

最近はシカによる森林被害もますます深刻化していますし、気候変動の影響で、自然撹乱、つまり森林が損なわれるイベントも増えていくと予想されます。こうした状況の中、どのように森林を管理していけばいいのかについての研究や適切な情報提供はますます求められています。人為的介入に対して森林生態系がどのように応答するのかはまだよくわかっていない点が多いので、一つ一つしっかりと研究を進めていきたいです。

あとは、目標と言えるほど成熟したものではないのですが、適応についてもっとしっかり勉強して、自分の研究に取り入れていきたいです。

適応についてはある程度理解していたつもりだったのですが、適応センターに入ってみて、実際は適応の概念の全体像を知らなかったのだなと気がつきました。ある分野では適応策として最適な方策も、異なる分野では適応をマイナスに進めてしまうというトレードオフもある中、社会全体として、どの分野の適応を優先すべきか、いつどの適応策をとるべきかなど、複数の分野のバランスを考慮した研究にも、将来的には取り組んでいきたいです。

夏は登って、冬はスキーで滑り降りて!

登山とスキーが趣味で「夏は登って、冬は滑り降りています」とのこと。
調査では、道なき森をGPS片手に行くことがあるので、決められた登山道を歩くよりも難易度が高いとか。野球観戦もお好きで、埼玉西武ライオンズのファン。年に数回は球場にも応援しにいくそうです。堀田さん、ありがとうございました!
取材日:2025年5月27日