Staff interview #52
大坂 真希(OSAKA Maki)

気候変動適応センター 高度技能専門員。大学院では保全生態学を専攻し、鳥類を対象としたフィールド研究や市民科学のデータを活用した研究に取り組む。卒業後は建設業の企業に就職し、3年間勤務したのち、2024年5月にCCCAへ入所。現在は、千葉県印旛沼流域においてグリーンインフラの社会実装を目指すプロジェクトに従事。

2024年5月から気候変動適応センターに勤務されていますが、それ以前は民間企業にお勤めだったそうですね。

修士を卒業した後は、ゼネコンへ就職し、3年間働いてから、気候変動適応センターへ転職しました。

その会社では、事業地に生息する希少種の保全活動やモニタリング技術の開発に携わりました。あわせて、事業が生物多様性に与える影響を評価する手法の検討を行い、会社全体の環境対策の評価にも少し関わっていました。

なぜ新卒でゼネコン業界を選ばれたのですか?

もともと生態系の保全に興味があり、大学でも保全生態学を専攻していたのですが、保全を通じて社会に直接的な貢献をしたいという思いがあり、進学ではなく就職を選びました。

ゼネコンを選んだ理由は、自然環境が大きく改変される現場の最前線で働くことで、その内部から生態系を守る方策を模索したいと考えたためです。しかし実際に働いてみると、開発の現場では生物多様性保全と社会のニーズとの間に大きなギャップがあることを実感しました。

多様なニーズに応じて自然の機能を活用することの重要性を強く感じていた頃、ちょうど人生の転機も迎え、もやもやとした思いを抱えていました。そんな中SNSで偶然、気候変動適応センターの公募を目にしました。さまざまなステークホルダーと連携し、自然を活かした持続可能な社会の実現を目指すという内容で、心に深く刺さりました。「これしかない!」という思いが芽生え、応募を決意しました。

気候変動適応センターでは、どのような業務に取り組まれていますか?

千葉県の印旛沼流域でグリーンインフラの社会実装に携わっています。

自然資本や自然の機能を活かした社会や地域のあり方を探り、それを実際にかたちにしていく仕事に、大きなやりがいを感じています。グリーンインフラを推進するためには、住民、市民団体、行政、企業など、多様なステークホルダーの連携が不可欠です。どのように自然やその機能を活用できるかについて、さまざまな方からの意見や課題を丁寧に伺いながら、地域の状況に応じて、主体間の連携のあり方や、必要とされる制度・仕組みを模索しています。

ステークホルダーの皆さんと一緒に現地に赴く業務が多いですか?

そうですね。現地での活動は市民団体が主体となることが多いのですが、高齢化や資金不足など、多くの課題を抱えています。こうした課題に対処し、持続的に活動を続けていくためには、企業や行政との連携が不可欠です。企業の方にも現地を見ていただいて、自然をどう活用できるか、社内でその活動がどう位置づけられるかなどについて意見交換しています。

行政とも、この取り組みが行政計画の達成や地域課題の解決にどのように寄与できるか、さらに広域的な展開を目指すうえでどのような仕組みが必要かについて、協議を重ねています。

現場での具体的な取り組みと、それを支える制度や仕組みの構築とを往復しながら、関係者の皆様とともに検討を進めているところです。

遊休農地の活用法を企業や行政と模索

現在は印旛沼流域という一つの地域を対象にしてされているということですが、今後その枠組みをモデルケースとして横展開していくビジョンがあるのでしょうか?

はい。住民・市民団体・行政・企業など、多様なステークホルダーが連携する「産官学民連携」のプラットフォームの必要性を、多くの地域が感じているように思います。実際に、印旛沼流域の複数の地域でも、その構築に向けた検討が進められています。

ただ、地域ごとに適した役割や進め方があると考えており、印旛沼流域で積み上げてきたノウハウや考え方を蓄積・整理することで、ほかの地域でも参考にできるようなかたちにしていきたいと考えています。

今の業務のやりがいや、逆に難しいと感じる点を教えていただけますか。

今の業務では、行政、企業、市民団体など、多くの方と日々やりとりをする機会があります。そうした中で実感するのは、地域や立場によって自然に対する考え方が本当に多様だということです。どのような背景や価値観をもってお話しされているのかを想像しながら理解するのは難しいと感じることもありますが、多様な考え方に触れる中で、自分の見方も広がっていくことに、大きな面白さとやりがいを感じています。

地域という点では、その土地の風土や主要な産業、まちの開発状況や経済的な背景によって、自然の捉え方が本当にさまざまだと感じます。また、立場という意味でも違いは大きくて、たとえば企業の中でも、投資家への情報開示の一環として取り組みを進めたいという方、あるいは社員の福利厚生に自然を活かしたいという方など、本当にいろいろな考え方があります。

同じ自然を見ているはずなのに、人によって見えているものがまったく異なることがあって、そこに面白さを感じています。むしろ、そうした違いがあるからこそ、何かのきっかけで異なる関心同士が噛み合ったときに、自然と社会との新たな関わり方の可能性が生まれるのではないかと思うし、そうした接点をうまくつないでいく役割を担っていきたいとも考えています。

少し視点を変えた質問ですが、気候変動適応センターに入られてから、適応への考え方に変化はありましたか?

現在の業務では、気候変動について真正面から取り組んでいるわけではないので適応については漠然とした理解にとどまっています。

ただ、開発などによって単機能なインフラだけが残り、多様な機能を持った自然が失われていくと、将来の気候や環境の変化が予測しづらくなる中で、人や生き物が適応できる選択肢が狭まってしまうのではないかと感じることがあります。だからといって、社会の流れに逆らってまで自然を残せばいいというわけではありません。人が安心して暮らし、経済が持続していくための基盤があって、その上で、今ある自然の機能をどう活かし、暮らしや地域の営みに結びつけていくかを考えることが大切だと思っています。そういう意味では気候・環境も社会も大きく変動することを踏まえて、自然とどう向き合うかを考えることが適応なのではないかと考えています。

最後に、これからの目標について教えてください。

自然との新しい関わり方を、これからも見つけていきたいと思っています。

大きく言えば、いろんな人が、それぞれの思惑や方法で自然と関わることができて、結果的に豊かな自然環境が残っていく。そんなかたちを目指したいですね。

たとえば、企業が情報開示の一環として地域に貢献してくれてもいいし、竹林を切って炭にし、脱炭素に貢献してもいい。自然を使った新しい技術開発やビジネスを展開するのもいいし、耕作放棄地で草刈りや穴掘りをして筋肉を鍛えてもいい(笑)。現場と仮想空間をつないで、デジタルの中で自然と関わるのもひとつのかたちだと思います。

そんなふうに、多様な関わり方を受け止めながら、自然と社会がつながっていくような仕組みや枠組みをつくるお手伝いをしたいです。

タヌキ(左上)やアライグマ(左下)を捕獲したり、乗馬をしたり....。

「狩猟採集時代に憧れがある」と話す大坂さん。わな猟免許を取得して、有害鳥獣であるアライグマを捕獲するなど、自然の中でアクティブに活動されています。半年ほど前から乗馬も始め、最近は駈歩(かけあし)ができるようになってきたそうです。大坂さん、ありがとうございました!
取材日:2025年5月22日