気候変動適応推進室 高度技能専門員。廃棄物管理分野で博士号取得し、国立環境研究所で5年間研究員を務める。その後、人材業界に就職し、広告業務などを経験したのち、2023年10月から現職。主には自治体の気候変動適応関連部署に対し、熱中症対策や各地域の様々な適応策の実施提案・推進支援などを行っている。
2023年10月に適応センターに入所されたと伺いましたが、それまでのご経歴について、まずは教えていただけますか。
都市廃棄物管理についての研究で博士号を取得し、研究職(ポスドク)として国立環境研究所に入所後5年間、廃棄物や資源循環に関する部門で研究に従事しました。その中で次第に、研究成果を社会の現場に伝えて落とし込んでいく仕事に関心を持つようになりました。そう考えたとき、自分には何かを伝えるスキルや、人とより密接に関わる経験が不足していると感じ、自分自身を鍛えるために民間の人材系企業へ転職しました。
まったく別の分野へ転職されたのですね。かなり思い切ったご決断のように感じますが、実際に働いてみていかがでしたか?
転職先は人材採用のための広告を扱う企業で、顧客の売り上げや社会貢献につながる成果を出しながら自身や会社が成長するためにみんなで楽しく全力を尽くす、といった社風でした。研究所では出会えないような、非常に多様でエネルギッシュな方々と接することができ、とても刺激的で面白い経験をしました。
広告を作成するには自身やチームで案件をとってこなければなりません。つまり営業をしなければならないのですが、実のところ、人と積極的に関わる仕事は自分が苦手意識を持っていた分野でもあったので、慣れるまでは大変でした。営業先は既存顧客だけでなくいわゆる飛び込み営業も必須でしたので、初対面の方と短時間で関係性を築くための工夫や観察力も磨かれました。
自分に不足している経験を積み、今後の成長につなげたいという一心で飛び込んだ業界であり、まさに鍛えられる日々でしたが、振り返ってみると、当初の狙い通り、その経験を通じて他者との対話力や提案力、コミュニケーションスキルを伸ばすことができたのではないかと感じています。
その後、そこで培った経験を自身のバックボーンである環境分野で活かすべく、再び国立環境研究所に入所することになりました。
着任した環境情報部では「環境展望台」というサイトに立ち上げから関わることができ、同サイトの様々なコンテンツの企画・運営を通じて環境情報の提供を行なってきました。所内の様々な部署の研究者の方々に「営業」してコンテンツを作成したおかげで環境問題の知識の幅も広げることができました。続いて資源循環領域では災害時に発生する廃棄物に関する業務に従事するなかで熊本地震(2016年)や西日本豪雨(2018年)なども発生し、実際に現地を訪れて得た情報、国や自治体、事業者の皆さまとのネットワークの中で得た情報などを、科学的観点から整理し、必要な方々に届けるお仕事をしてきました。それら勤務を経て、2023年10月から現在の適応センターに着任し、業務にあたっています。
適応センターでは現在どのような業務に取り組まれていますか?
一言でいうと、国の研究機関としての立場から、各自治体の適応策作りを後押しすることが主な業務です。環境省や全国の地域気候変動適応センター(以下、「地域センター」)などとも連携しながら、各自治体での施策実施を支援すべく、科学的な知見に基づいたデータの提供やツール開発、関連した研修、困りごとへの個別相談への対応などを行なっています。
具体的には大きく2つの業務軸があり、ひとつは気候変動適応策の大きなテーマのひとつである熱中症対策支援、もうひとつは特定地域の自治体支援となります。
熱中症対策支援では、近年益々厳しさを増す夏の暑さによって熱中症にかかってしまわれる方が多いなか適切な予防行動をとることが大変重要となっていますが、そのための情報の啓発活動や知識の普及に取り組んでいます。
また特定地域としては近畿・中四国を中心に、都道府県の本庁や地域センター、さらにはその地域の市町村とも密にやりとりしています。信頼関係の構築を大切にしていて、丁寧なコミュニケーションを重ねながら、継続的な連携を築くことを意識しています。
そうした関係性づくりでは、前職で培った経験が今に生きていると実感しています。事前に地域の情報を調べたうえで連絡をとったり、直接お電話でお話ししたりと、こちらから積極的にアプローチすることを大切にしています。また、私自身の努力だけでなく、これまで適応センターが築いてきた積み重ねがあるからこそ、関係構築がスムーズに進むことも多いと感じています。そうした関係性があることで、困ったときに気軽にご相談いただけるようになりますし、そのやりとりを通じて新たな課題が見えてくることもあります。
A-PLATで公開されている様々なコンテンツへの関わりについて教えてください。
近年制作に関わったものとして、「地方創生×気候変動適応_実践事例集」や『「市区町村を対象とした地域気候変動適応計画策定研修」の実施手引書』などがあります。前者は日本の各地で実施されている地方創生を目指した多くの取り組みのうち、気候変動適応の観点から再評価した事例を集めたものです。地方創生は国の重要な施策のひとつですが、持続可能な地域・社会の発展には、増大する気候変動の影響に備え、ピンチをチャンスに変えるような適応の視点も欠かせません。そうした考えから、各方面の皆さまにご参照いただけるよう、各事例を端的にまとめています。後者は自治体の努力義務となっている地域気候変動適応計画策定のための手引書です。加えて、実際に都道府県の担当者が手引書を使用して実施する研修を企画段階から研修当日の運営まで支援もしています。今後は現場で得られた課題や声をもとに手引書や研修の内容に反映しブラッシュアップしながら、実務に即した支援の質を高めていきたいと考えています。
仕事のやりがいを感じるのはどんな時ですか?
「適応」というテーマが幅広い分野に関わっていること自体が、大きなやりがいにつながっています。農林水産から始まり、災害、都市生活、自然環境……人間の暮らしのほとんどすべてに関わるといってもいいくらいです。
また、そうした切り口から考える上で私たちのカウンターパートとなる方々がお持ちの関心や解決すべき課題にも目を向けることが大切で、そうなると考慮すべきことは限りなく拡がっていきます。地方創生も含めた地域づくりのための大きな課題である自治体人口減少や若年層流出の改善、雇用創出などが挙げられます。企業の方々でいえば適応することがいかにビジネス機会に繋がるか、といった視点も大切です。
そうした分野横断的な視点が求められる時代において、適応というフィルターを通して見えてくる課題や可能性には、まだまだ多くの発見があると手応えを感じています。国立環境研究所には環境分野における幅広い一線級の専門研究者が揃っていますので、そういった最先端の科学的知見を現場の皆さまにお伝えして一緒に課題解決に取り組み、そこで生じた研究のタネを研究所に持ち帰る、実践的でもあり、学問的にも発展が期待できる領域のお仕事に携われていることは、とても魅力的ですね。
今後の目標を教えてください。
適応という分野は、現時点ではまだ一般的な認知度が高いとは言えません。そのため、繰り返し、広く分かりやすく伝えていく必要があると感じています。その際に意識したいのは、すでに起きてしまっているマイナスの影響をゼロに戻すというイメージではなく、「気候変動にうまく適応することで、より良い社会や豊かな地域づくりへとつなげていくこともできる」という前向きな視点で適応策を捉えてもらうことです。
また、情報を伝えるだけでなく、それが実際に個人や社会の行動変容につながっていくことがとても重要だと考えています。研究所としては、行政・企業・地域が抱える課題やニーズを丁寧に汲み取りつつ、研究所が有する科学的知見を、皆さまに分かりやすい形で示していくことが求められます。そうしたフィードバックを繰り返すなかで各主体の行動変容を促し、気候変動に適応した地域づくりや社会のあり方の創出に結びつけていくことが、私たちの目指すところです。AIにお仕事をとられないようにがんばらないとですね!

小学生の頃から続けているサッカーに今も打ち込んでいるという川畑さん。国環研のサッカーチームに所属し、国環研で練習のない日は隣にある気象研究所の練習に加わって、平日のお昼休みは毎日サッカーしているそうです。DIYもお好きで、お子さんとの工作も楽しまれているとか。川畑さん、ありがとうございました!