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インタビュー適応策Vol.25 滋賀県

内水氾濫の浸水リスクも見える化した、滋賀県独自の「地先の安全度マップ」

取材日 2020/10/26
対象 滋賀県 土木交通部 流域政策局 流域治水政策室流域治水第二係
主幹兼係長 山田 千尋
副主幹 金子 智彦
主任技師 鍛冶 塩太
東近江市きぬがさ町 きぬがさ城東自治会 防災部長 尾田憲章

滋賀県が取り組まれてきた、流域治水の概要についてお聞かせください。

山田さん:かつて滋賀県で河川整備が進んでいなかった頃は頻繁に小さな浸水が起こっており、住民もそれなりに水害がある地域という認識で生活していました。その後河川整備が進み、水害の回数が減ったことはよいことなのですが、同時に住民の危機感が薄れてしまうという問題が生まれることになります。
そして他県では、河川やダムの整備をしっかりしていても想定外の大雨が降り洪水が起こったり、命を守るための避難が事故につながったりした例もあります。
これらのことを踏まえて、行政としていままで行ってきた川の中の対策だけでは県民の命が守りきれない。川の外の対策も含めて治水を行うべきだという結論に至ったことから、平成18年9月に流域治水政策室を設置しました。
最初に庁内組織や市町と行う行政部会や住民会議、学識者部会などを立ち上げ、どのような取り組みが必要か検討したうえで、平成24年3月に滋賀県流域治水基本方針を策定しました。基本方針を実効性のあるものにするため、平成26年3月に滋賀県流域治水の推進に関する条例を県議会で議決し、公布に至っています。いまは条例に基づいて水害から命を守るためのさまざまな取り組みを進めているところです。

「地先の安全度マップ」公表までの経緯、特徴を教えてください。

山田さん:浸水には二段階あります。まちなかの水路や中小河川が氾濫する内水氾濫と、さらに雨が続いて大河川が氾濫する外水氾濫です。滋賀県では、もうひとつの氾濫として、雨のピークの約1日後に起こる琵琶湖水位の上昇も挙げられます。
大河川などの氾濫については、水防法に基づき、洪水浸水想定区域図が各県で作られています。これは川の水があふれたときの浸水範囲と深さを図面にしたもので、滋賀県でも琵琶湖と、15河川で洪水浸水想定区域図を作成しています。
これで大きな川の近くで洪水リスクがわかりますが、中小河川や水路のはん濫リスクも見える化しなければ、避難の必要性や避難の場所やタイミングを検討することができず、多くの県民が命を守ることができません。そこで作ったのが、「地先の安全度マップ」です。これは全国初の試みで、平成24年の9月に公表をはじめ、令和2年の3月に更新しています。

特に工夫されてきた点、苦労されてきた点を教えてください。

山田さん:「地先の安全度マップ」はさまざまな川、道路の盛土、土地の高さなどをすべてモデル化し、そこに一様に雨を降らせたときの水の流れをシミュレーションしたものです。川の上流で水があふれると、下流に流れる水量が変わるといった現象等も考慮して作成しており、より実現象に近い結果が出るようにしています。
また10年に1回の確率、100年に1回の確率、200年に1回の確率で起こる大雨の浸水リスクがそれぞれわかるようになっています。国の技術的助言では、時間雨量50mm程度で床上浸水するところを市街化区域に編入するのは望ましくないと言われていますが、どのエリアがそれにあたるのか通常はわかりにくいのです。しかし、本県では10年確率のマップは時間最大雨量50mmで計算しているため、床上浸水するエリアも一目でわかります。そういったエリアは市街化区域に含めない、と条例で定めるなどして、まちづくりに役立てることができるようになりました。

一方、200年確率は時間最大雨量131mmと相当激しい降雨を想定しており、こちらは命を守るほうに使っていただくという目的があります。3m以上の浸水リスクがあるエリアは、地域の方と避難計画の作成や安全な住まい方を検討したのち、条例で規定している浸水警戒区域に指定し、浸水ラインより上に避難空間を作るよう建て替えのときなどにお願いしています。どちらも条例を策定することで、確実に運用できるようになった内容です。

今後、気候変動がより進んでいくと想定される中で、滋賀県ではどのような対策を検討されていますか。

山田さん:気候変動がどこまで影響しているかは不明ですが、統計的に見ても時間雨量50mm以上の雨が全国で増加しており、1980年と2010年を比べても相当増えていることがわかります。
このような状況のもと、滋賀の流域治水では、河川の改修工事や適正な維持管理で洪水を安全に「ながす」対策、図上訓練や避難計画の作成、防災訓練などを地域住民と一緒に水害に「そなえる」対策、グラウンドや森林、農地などで雨水を貯留したり浸透させたりする「ためる」対策、宅地のかさ上げや土地利用誘導で被害を最小限に「とどめる」の4つの対策を総合的に進めています。
10年、100年、200年に一度の雨を想定した「地先の安全度マップ」を基礎情報にして、このような対策に取り組むことは、気候変動への大きな備えになっています。

滋賀県の取り組みを参考にしたいと言う他の自治体へ、アドバイスできることはありますか。

金子さん:先ほど4つの対策の話がありましたが、特に大事なのはそなえる対策、住民の皆さんの理解です。お住まいになられているエリアの浸水リスク、避難場所、万が一のときの逃げるタイミングなど、行政だけが知っていてもどうにもならないことはたくさんあります。また、お一人お一人が命を守る行動や安全な住まい方をしていただくことが非常に大事です。
しかし「これまでそんなリスクがあるとは聞いたことがない」といった反応をされるケースもあり、難しさを感じることもあります。みなさんと一緒に考え、理解していただけるような取り組み方が必要だと考えています。

山田さん:滋賀県では平成26年以降、大きな水害が少ないこともあり、200年確率降雨のマップを見せても「そんなことが本当に起こり得るのか」と思われるのも当然です。しかし、全国で毎年のようにどこかで今まで経験したことのないような大雨が降り、たくさんの方が亡くなっています。
水害・土砂災害で命を失わない社会の実現は、一朝一夕では実現しませんし、また防災の取組に終わりはないと思っています。多様な取組を組み合わせ、できることから確実に実施していくことが、一人でも多くの命を守る最善の道と考えています。

県の重点地区である東近江市きぬがさ町の、県と連携した災害への取り組みについて教えてください。

尾田さん:この地区に人が住んでから今年で75年目にあたります。戦後に米の増産を目的としてこの地区の田が無償で提供され、全国から人が集まってきました。その後、元々琵琶湖であった場所が干拓地として整備され、田園地帯が広がりました。手作りで家を建て、野菜や米を作って生活してきました。昭和34年伊勢湾台風、昭和36年第二室戸台風において、住居として使われていたバラック小屋が倒れた印象が強く残っています。

平成23年に東日本大震災があり、地震が起きた時にどこにどのように避難するのか個人的に関心が高まりました。私が平成26年にこの町で自治会長になったとき、水害を含めた災害対策について自分になにができるかと考えて、防災部会を立ち上げました。最初は何をしたらいいかわからなかったのですが、みなさんと議論をしていたところ、3月に「滋賀県流域治水の推進に関する条例」ができました。県が進めようとしている「水害・土砂災害に強い地域づくり計画」の取組フローも、地域の防災活動に役立てられるのではないかと思いました。そこで流域治水政策室の協力を得て、図上訓練や現地確認を行ったり、避難経路の確認をしたりと、段階的に取り組みを実施しています。

参加者のみなさんに意見や感想を出していただくなかで、地域の危険箇所を改めて確認するなどして、有意義な時間が過ごせています。図上訓練を通して地域独自の防災マップも作成できましたし、これらの活動を通じて災害に対するみなさんの認知度が少しでも高まればと思い、地道に続けて6年になりました。
山田さん:尾田さんの自治会は図上訓練の出席率も高いですし、みなさんが普段から顔の見えるお付き合いをされているので、団結力も高かったです。流域治水条例への理解もあり、条例ができて早い段階で連携して取組を進めさせていただき、令和2年には浸水警戒区域の指定もしています。

現在の業務に携わるやりがい、今後の展望について、皆様からひと言ずつ頂けますと幸いです。

山田さん:条例の目的は、とにかく人の命を守りたい、ということ。もうひとつは床上浸水などの、生活再建が難しくなるような財産被害を避けることです。そのような明確な目的に向かって行動していけるこの仕事に、やりがいを感じます。小学校や各地域で出前授業に呼んでいただくなど、地域の人の命を守るお手伝いができるのは本当に喜ばしいです。
ただ、「地先の安全度マップ」を公表し水害リスクを伝えるだけでは、どのような避難行動をとったらよいのかわからなかったり、家の建て替えなどの際にはぜひ「地先の安全度マップ」の情報を活用していただきたいのですが、水害に備えるための具体的なアドバイスがなければ活用が難しい場合もあります。
このような水害に備える活動をこれからも支援できるよう、地域の方々や市町と連携しながら、住民の皆様に安心して滋賀に住んでいただけるような働きかけをしていきたいと思っています。

金子さん:このような地域の避難行動の取組などは、市町が主で行うことが多いのですが、県と市町と住民の方と一緒になって実施していることにやりがいを感じています。

鍛冶さん:昨年度「地先の安全度マップ」の更新を担当しました。大きな河川の外水氾濫と小さな水路などの内水氾濫を両方含めた想定浸水深を「地先の安全度マップ」で確認できます。水害リスクを県民の皆様へお伝えするのに、有効なツールにかかわれていると実感しています。

尾田さん:1年1年続けることで、防災に対するみなさんの意識が上がってきている、という実感も重ねていけるのがやりがいのひとつです。あとは図上訓練やまちあるきをしながら防災マップを形にするなど、少しずつステップアップできたからこそ続けてこられたのかなと思います。
気がかりなのは、地域の高齢化ですね。大災害が起こったとき、いかに彼らの命を守るかということを考えると、まだ完全な方法がありません。要支援者の居場所と、何かあったときに助けに行く人の役割分担を記したお助けマップは作成したのですが、いつ、どんな形の災害が起こるかわかりません。要支援者に避難訓練を強いるのも難しいですし、これは今後の課題です。

山田さん:地域によって事情が違うので、それぞれに合ったやり方を見つけていけるといいと思っています。防災と福祉との連携は全国的にも大きな課題となっており、当県でも県庁内の組織が横断的に連携し、検討や取組を始めています。

この記事は2020年10月26日の取材に基づいています。
(2020年2月1日掲載)

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