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インタビュー適応策Vol.29 長崎県

藻場造成の最前線、長崎県・壱岐栽培センター

取材日 2021/7/5
対象 長崎県水産部漁港漁場課漁場・環境計画班 係長 山道敦
壱岐栽培センター 所長 山仲洋紀

ホンダワラ類の新たな種苗生産技術の開発

長崎県の藻場における磯焼けの現状について教えてください。

山道さん:長崎県ではこれまで、効率的に漁獲するために魚を集める「魚礁」と、水産資源を増やすための「増殖場」の2種類の漁場整備を行ってきました。いっぽうで長崎県近海では藻場が衰退する「磯焼け」が進み、深刻な問題となってきました。そこで、平成の初期ごろ、まだ磯焼けが進んでいない藻場の海藻を移設するための“海藻バンク”という施設を設置し、藻場を回復させるための取り組みを始めました。藻場に設置し、藻場から供給される胞子から自然に着生した海藻を取り外し、磯焼けが進む海域に移設することで藻場の減少を食い止める目的で整備した施設ですが、海水温上昇や魚やウニによる食害の影響で、海藻バンク自体に海藻が付きにくくなってきました。
そこで平成24年度から、藻場機能を付加した増殖場の整備を始めました。魚に食べられないよう防護網で保護したうえで、海藻の種付きの部材を取り付け、海藻が生えやすい構造としたものです。この種苗にはアラメ、カジメ、クロメなど、アワビやサザエが餌として好む海藻を使用してきましたが、魚やウニなどの食害を受け、網の外まで藻場が広がりにくいという問題がありました。そこで昨年度、ホンダワラ類の種苗生産技術の開発に着手し、その業務を藻場の生産実績がある壱岐栽培センターにお願いした、という経緯があります。
アラメやカジメは糸に種苗を付けた「種糸」を作ることができるので、いろいろな部材に巻き付けられるというメリットがありました。しかしホンダワラ類は種が大きく、種糸という形の種苗を作ることが困難です。そのため、コンクリートの部材に直接種付けをしていくという、新しい方式の種苗生産方法をとることになりました。

山仲さん:壱岐近海では、はじめに四季藻場構成種であるアラメ・カジメ類が減少しました。我々もこれまでアラメ、カジメ、ワカメ類の種苗生産の経験しかなく、ホンダワラの種苗生産は昨年が初めての試みとなりました。種付けだけでなく、成長させるための光や栄養、照度や流量などで成長が異なりますので、技術開発までには大変な苦労がありましたが、この1年でなんとか形になり、ホンダワラ類の種苗生産の新たな可能性を感じています。

山道さん:磯焼けが発生する原因として、海水温上昇によりアラメやカジメが生育しにくくなったことに加えて、食害生物が活動できる時期が長くなったこともあげられます。平成元年の調査では長崎県内全体で約1万3000ヘクタールの藻場がありましたが、平成25~26年は8200ヘクタールで、およそ4割も減少していることが分かりました。平成元年ごろは一年中海藻がある「四季藻場」が多く分布していましたが、平成25~26年の調査ではそのほとんどが姿を消していて、代わりにホンダワラ類を主体とする「春藻場」の割合が増えている状況です。
ホンダワラは春から初夏にかけて短い期間で一気に伸びていく海藻なので、短期間で藻場を形成することができるということと、比較的食害に遭いにくく高水温にも強いため、海水温が上昇している現在の環境でも藻場が作りやすいという性質を持っています。

また、藻場機能を付加した増殖場を整備した後、海藻が食害に遭わないように食害生物の駆除を並行して行ってきました。アイゴ、ブダイ、イスズミという魚類や、ガンガゼ、ウニ、小型の巻貝などを駆除しています。現在は、駆除を実施した多くの海域で春藻場の復活が確認されています。

近年の漁獲量はどのような状況ですか。

山仲さん:壱岐栽培センターでは、アワビ、アカウニ、カサゴなどの種苗稚魚を作って放流しているのですが、漁業者からは「放流しても、餌がないと育たないだろう」という声を寄せられています。近年、この辺りでのアワビの水揚げ量は減少傾向にあります。アワビは11月ごろに産卵期を迎えるため、そのときに海藻がなければ十分な栄養を取れず、四季藻場でなければ増殖することが出来ません。長年、私はここで仕事をしていますが、藻場の状態は年々変化しています。平成30年ごろまではアラメやカジメがかろうじて生き延びている所もありましたが、それ以降は全く姿を消してしまいました。

一方で、サザエはどうにか獲れています。サザエは春に産卵するので、アワビほど磯焼けの影響を受けにくいです。小型の海藻があれば生き延びることができますし、春先にちょっとした春藻場があれば産卵もできます。そこでどうにかサザエのほうで生計を立てている、というのが現状です。まったく新しい漁法に取り組むことは、設備を整える初期投資が必要ですし、それをやれる漁業者は限られます。経営が厳しく、新しい漁法に取り組めない漁業者のほうが圧倒的に多いことも課題だと思います。

山道さん:漁獲量は年変動が比較的激しいので、水温との因果関係はわかりませんが、長崎県では近年ブリが増加しています。これは壱岐に限らず、県全域でいえることです。

山仲さん:壱岐に限っていえば、ほとんどの魚種は減少傾向にありますが、クエやハタ類は増加傾向にあります。特にここ5〜6年で、クエの漁獲量は3倍近くになっています。今までは5K以上ある大型のクエの割合が高かったのですが、漁獲量が増加した分については5k未満の小型のクエになり、小型のクエが増えていますね。これまで南の方で成長した大型のクエが揚がることはありましたが、クエの資源分布が若干北上している印象はあります。

春藻場を拡大し、県の漁獲量を増やすために

今後懸念される将来の気候変動による影響について、長崎県ではどのような対策を検討されていますか。

山道さん:海水温上昇により、アラメやカジメといった四季藻場から南方系のホンダワラ類に変わり、最終的には南の海のような珊瑚礁に変わっていくことも想定されます。アワビやサザエを獲る人たちのためにも、長崎県では今後も藻場の整備は進めていく必要があります。具体的には暖流が直接あたる沿岸で磯焼けが進んでいるという見解もありますので、今後はより藻が生えやすいところで藻場の造成を行うために、海域の見極めが非常に重要になると思います。また、今後生息に適する海藻種が変わっていくと考えられますので、藻場造成の対象種を変えていくことも対策のひとつと考えています。
今回壱岐で開発していただいた技術を今年度から県内5地区の栽培センターに伝えて、県内全域で藻場の種苗生産体制を整えていく対策を取っています。各センターによって施設の構造や規模などが違うため、まったく同じようにはいきませんが、壱岐栽培センターにお力添えをいただいています。種苗生産マニュアルの作成まで引き受けていただきました。

山仲さん:県全体で、年々海藻が減少していることは大きな問題になっています。これは今後、徐々に日本列島を北上していくのではないでしょうか。ホンダワラについても南方系の種類が見られるようになりましたので、南方系種も可能な限り増やしていくという方向がいいのではないかと考えます。また、現場としては、いま取り組んでいるホンダワラを徐々に展開して、まずは壱岐の海で春藻場を作り上げていきたいですね。

最後に、本業務を担当されるやりがい、今後の展望をお聞かせください。

山道さん:漁場造成で増殖場を作っていますが、藻場機能が付加されることで稚魚を守る力が強まります。増殖場が核となり、その周辺に種が飛んで藻場が広がっていく。そうすれば、増殖場以外のところでも海藻が稚魚を守ってくれるなどの効果が広がります。うまくいけば春藻場を拡大し、ひいては長崎の漁獲量が増えていく。そんな好循環になればと思っています。いまの取り組みが将来の漁師さんの漁獲に繋がることが何よりもやりがいです。

山仲さん:私は漁業者と近い位置にいて、彼らの生活が目に見えてわかります。特にいま、アワビやサザエを漁獲して生計を立てている漁業者さんは厳しい状況です。海藻を増やすことで資源が増加し、それによって漁業者の生活が安定してくれたら。それを生きがいに頑張っています。また、壱岐栽培センターでは水産教室を開催していて、小学生がよく見学に来てくれるんです。その機会に磯焼けの状況などを伝えて、現状を理解してもらうとともに、「帰ってお父さんやお母さんに伝えてね」と話しています。子どもたちが大人になっても、海の環境問題に関心を持ってくれたらいいなと思います。

この記事は2021年7月5日の取材に基づいています。
(2021年9月15日掲載)

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