インタビュー地域気候変動適応センターVol.19 長崎県

長崎県気候変動適応センター

長崎県の地域特性、センター設置の経緯や組織体制についてお聞かせください。

長崎県は日本列島の西端に位置し、多くの離島及び半島が織りなす複雑な地形は、豊かな自然の恵みと美しい眺望をもたらしています。西洋文化の唯一の窓口であった歴史と「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」「明治日本の産業革命遺産」という2つの世界遺産を抱える観光県であるとともに、漁業生産量全国2位(1位は北海道)、漁獲できる魚種は全国で1位(300種以上)という水産県でもあります。

しかし、近年の地球温暖化において、本県の気温上昇の割合は100年間で1.5℃と全国平均を上回っており、東シナ海における海水温上昇の影響を受け、本県を含む北部九州地方では、毎年のように局地的な豪雨災害が発生する状況となっています。

令和3年3月に策定した第2次長崎県地球温暖化(気候変動)対策実行計画では、目指すべき将来像として「環境にやさしく、気候変動によるこれまでにない災害リスク等に適応した、脱炭素・資源循環型の持続可能な社会が実現した長崎県」を掲げ、本県における気候変動適応策を推進しており、当計画に基づき、令和3年10月1日に、長崎県環境保健研究センター内に「長崎県気候変動適応センター」を設置しました。

気候変動適応センターでは、暑熱や農林水産業分野における本県特有の気候変動影響に関する情報を収集し、県内の気候変動による影響を把握するとともに、得られた情報の分析結果をフィードバックし、県民の気候変動影響への監視と理解を深め、地域の実情に応じた適応策の推進を目的としています。

職員は長崎県環境保健研究センターの職員が兼務し、センター長、副センター長、センター職員(6名)による合計8名の組織体制となっています。

長崎県の地図

地域適応センターの活動内容について、現在取り組まれていることや今後予定されていることなどがあれば教えてください。

今年度は環境省にご協力いただき開催した自治体職員向けの研修、環境イベントへの参加、地元学生を対象とした学習会などの啓発活動を実施しました。来年度は一般の方に向けたセミナーやワークショップ等を企画しています。

研究分野においては、環境保健研究センターでは熱中症に関する研究を令和2年度から実施しています。暑さ指数と熱中症発生状況の関連性について解析を行うため、県内各地(小学校の百葉箱を借用、今年度は60校程度)で観測した気温と湿度のデータから暑さ指数を推計し、熱中症発生状況と照らし合わせ地域毎の違いなどについて分析を行っており、得られた結果は効果的な情報発信や啓発などに繋げたいと考えています。

研究事例を情報収集する中で環境保健研究センターには、ブルーカーボンに関する研究、蚊を媒体とする感染症に関する研究など、適応策という切り口で情報発信できるものが多くあることに気づきました。農林や水産部門などの試験研究機関にも、同様の情報が蓄積していると考えており、当面はそれらの試験研究機関と意見交換しながら、ホームページやTwitterなどのSNSを利用した情報発信を積極的に実施していきたいと考えています。

また、国環研を始めとする他の試験機関との共同研究や、地元の団体(農業・水産業ほか)等の意見を取り入れながら、新たな研究分野の開拓や知見の蓄積ができればと考えています。

庁内関係部局との連携や県、事業者の適応推進において工夫されている点や課題などありましたらお聞かせください。

本県では本庁の担当課である地域環境課と試験研究機関である環境保健研究センター(気候変動適応センター)が協力して気候変動適応施策を進めており、連携についても庁内関係部局は本庁担当課、各部門の試験研究機関等は環境保健研究センターという具合に役割分担をしています。県の各試験研究機関には気候変動適応センターを設置する前から協力を打診しており、今後は連絡会議のような場を設けて定期的に情報交換を実施していきたいと考えています。

また、来年度は気候変動適応に関して、県民の皆様が実際にどのような問題意識やニーズをお持ちなのか調査し、その後の研究等の方針にしたいと考えており、その一環として農協や漁協といった事業者へのヒアリング等を検討しています。

実際にハード面などの大きな適応策を実施するのは、農林や土木関係者であって、私たちが直接関わることが出来ません。関係部局との連携に関わってきますが、当事者(担当部局や事業者)にどれだけ問題意識を浸透させることができるかが課題だと考えています。

現在の業務に携わるやりがい、今後の展望をお聞かせください。

最近、環境保健研究センターで中学生を対象とした学習会を行ったのですが、その際、この仕事のやりがいは?と聞かれ「私たちの社会がこれからも豊か(健康的かつ文化的)であり続けるためには、その土台である自然環境の改善のため、たゆまぬ努力を続ける必要があります。皆さんのような若い人たちに環境問題に関心をもってもらい、次の世代に繋がっていくことを実感できた時が、私たちにとって喜び(やりがい)です。」と答えました。

環境問題は、地道な取り組みを継続しながら、成果が出るのは数年や数十年といった時間を必要とします。気候変動における目標といえば、気温上昇1.5℃以内というパリ協定となるのでしょうが、21世紀の終わりに私たち世代の努力が実を結んでいるか、正直なところ分かりません。しかし、子供たちが環境問題について真剣に取り組んでいる姿は、私たちのやる事が無駄ではないと確信させてくれます。

気候変動適応センターは今年の10月に開設したばかりで、研究テーマなど具体的なものは現在進行形で検討しているところです。国や長崎地方気象台と連携しつつ、県民に適切なフィードバックが出来るよう頑張ってまいりたいと思います。

この記事は2021年12月16日の書面による回答に基づいて書いています。
(2022年4月6日掲載)

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