国立環境研究所 市民調査員と連携した生物季節モニタリング

お知らせ

生物季節とは

植物も動物も、ほとんどの生物は季節性を持っており、それぞれの生物が気温や日照時間などの気象条件の季節的な変化を感知することで生じています。この生物の季節的な応答のことを生物季節といい、英語ではPhenology(フェノロジー)といいます。

生物季節に関する情報の蓄積は、IPCC第4次評価報告書で、気候変動が環境に与える影響を評価する上で非常に有効であると評価されて以降、世界中で注目を集めている分野です。気候変動に直面している現代において、長期的な生物季節記録の蓄積や観測に基づく将来予測モデルの構築は、気候変動がその生き物や、周辺の環境(関係性を持つ様々な生き物)に与える影響を評価する上で非常に強力なツールになります。

市民調査員と連携した生物季節モニタリング

本調査は2021年度に国立環境研究所(NIES)が気象庁・環境省との連携・協力のもと開始した調査で、植物の開花や鳥の初鳴きなどの生物の季節的な反応(生物季節現象)を全国の市民調査員と連携して長期的に観測するプログラムです。(そのための調査員を現在募集しています。下記5参照)
日本では、1953年から2020年まで気象庁によって全国59の気象台・測候所で65種目もの生物(観測開始時は102地点・105種目)の季節現象の記録が行われてきました。しかし2021年からは、これらのうち6種目9現象以外の項目については継続されないことになりました。これを受け、2021年度に開始した調査がNIES生物季節モニタリングです。このモニタリングでは、気象庁の観測で使用してきたマニュアルを活用して、生物季節現象の進み具合の基準を統一することで、気象庁による過去約70年もの観測記録と比較可能な観測記録を取得することを目的としています。

これまで気象庁が取り組んできた生物季節観測は、毎年全国の気象台で一貫した基準で観測を行うという非常に緻密な記録でした。これを継続する新たな観測体制の構築には、市民の皆様と連携する以外に方法はありません。事実、アメリカやヨーロッパで行われている生物季節に関する長期観測体制は、年間何千人ものボランティア市民調査員と連携して観測を行っています。それを日本でも実現させることが本プログラムの目標です。

日本の豊かな自然環境を正確に把握し、気候変動がどのように影響するのかを予測する上でこの記録は非常に貴重なものです。また、市民の方々に参画いただくことで、季節の移ろいを感じながら身近な自然環境に関心を持っていただく機会となることも期待しています。

2021年に開始したNIES生物季節モニタリングでは、3-5年の間に観測項目や調査方法を調整し、気象庁の過去の記録と比較可能な観測体制の構築を目指しています。この試行期間の間に調査員の皆様や関係機関と協議を行い、約70年の記録を生かしつつ、将来的に長く広く続けられる観測ネットワークを構築します。試行期間終了後は、そのまま観測を継続しつつさらにネットワークの拡充を目指していきます。そのため、試行期間中・試行期間終了後問わず常に調査員を募集しております。ご参加いただく調査員の方々はぜひ、長期的にご参加いただける方にお願いしたいと願っております。

生物季節モニタリングの歴史

生物季節現象が科学的に体系づけられはじめたのは18世紀中ごろ、Linne(1751)の花暦がその代表です。日本における生物季節の観測は、スミソニアン協会が1872年に刊行した“Smithsonian Miscellaneous Collections”の“Directions for Meteorological Observations, and the Registry of Periodical Phenomena”を翻訳したものを基盤とした1880年の“気象観測法”から始まります。1887年にはその気象観測法が正式に規定され、現在の生物季節観測法の基準となりました。

気象庁が1953年から行ってきた生物季節観測では、日本全国で一律に観測する「規定種目(23種目)」と、地域特性などから各地の気象台が独自に選んだ「選択種目(82種目)」とを定義して観測を続けてきました。しかし、1996年や2003年、2011年に調査地点や調査種目の見直しがあり、2020年時点の観測地点・観測種目は59か所・57種目となっていました。さらに、2021年の観測からは植物種6種目9現象を残し他の種目は廃止することになりました。その背景には、観測所となる気象台が市街地に位置することが多く、都市化や気候変動の影響によって、観測対象が見つからないことや、標本木の確保が難しくなってきたことが挙げられています。
しかし、日本生態学会をはじめとする日本の学会や自然保護団体、気象予報士等多くの団体・個人から縮小の反対や見直しの要望書や意見が気象庁に寄せられました。約70年もの蓄積のある観測を中止することは学術的にも社会的にも損失となることが危惧されるからでした。それを受けて、気象庁・環境省・国立環境研究所は、過去の生物季節観測を生かす形で、現代的に発展させる試行調査に着手しました。本プログラムもその一環に位置付けられます。

生物季節モニタリングの意義

植物の開花や紅葉、昆虫や鳥の初鳴きなど、生物の季節ごとの反応は、それぞれの生き物が気温や日照などの季節的な変化を感知して生じています。このような生物の活動のタイミングは自然生態系や農業、観光業や文化的サービスなど様々な側面と関わっています。同時に、これら生物活動のタイミングは、気候変動などの影響により変化する可能性があります。実際、春の開花時期の早期化や、秋の紅葉の遅れなど、様々な現象が確認され始めています。生物季節を理解することは、気候変動が、生き物や生態系、ひいては人の生活や経済にもたらす影響を理解する上で重要です。

生物季節モニタリングの調査員の募集

市民調査員の募集 ─ 1人からできる、生物季節モニタリング ─

当センターでは、生物季節をいっしょに調査していただける方を募集しています。1人でも、ご家族でも、グループや学校・企業等での参加もできます。

サークルで、学校で、職場でモニタリングをしよう!

生物季節モニタリングに「グループ」での参加を募集しています。複数の人で協力して、同じ調査場所でモニタリングをします。

どのような参加形態でも、調査方法は変わりません。お気軽にご相談ください。

参加から観測、報告までのフローチャート

STEP.01

調査員・調査グループの参加登録

  • 調査方法利用規約を読んで、内容を確認します。
  • 国立環境研究所気候変動適応センター気候変動影響観測研究室 (担当)松島・西廣宛に(ccca_phenology@nies.go.jp)メールでご連絡ください。登録フォーム及び資料をお送りします。
  • 調査員登録フォームにご登録いただいた後、調査用の腕章や調査依頼状を郵送いたします。なお、ご登録いただきましたご住所に関しては、登録書類の送付以外には一切使用いたしません。
  • 調査員のみなさまには、メーリングリストで生物季節モニタリングからお知らせがきます(不定期)。他にも、ニュースレター(いきものこよみ)の案内があります。
STEP.02

調査地点・調査種目の決定

  • よく行ける場所を調査場所に選びます。調査種目は自分でわかるものだけでOKです。
STEP.03

調査の開始

  • 調査時期になったら、観測を始めます。
STEP.04

報告

  • 生物季節現象を観測できたら、調査用紙に記入してメール、または、ウェブサイトから報告します。

調査風景写真

生物季節モニタリングの調査方法

基本的な調査方法

調査場所に行く → 対象種を観測 → 開花や初鳴きをメールやネットで事務局に報告

調査場所の選び方

  • 調査地は週に3-4回訪れることができて、長期間調査ができる場所を選びましょう。毎日観測に行くことができる場所が理想ですが、最低でも週に1回は訪れることができる場所を選びましょう。通学・通勤路、散歩コースにあるものや、職場や学校の敷地、ご近所の公園、ご自宅の庭などもおすすめです。

調査する種目の決め方

生物季節モニタリングでは、気象庁がこれまで観測を行ってきた植物32種目、動物34種目を観測対象としています。

  • 調査地にいないものや見分け方がわからないものは観測しなくて大丈夫です。お気に入り1種のみの観測でも良いです。
  • 気象庁のこれまでの観測記録が長期的かつ広域的に蓄積されている種目を重要種目とし、優先して観測したい種として提案しています。

観測対象

生物種目 優先度
アンズの開花日
アンズの満開日
カキの開花日
カラマツの発芽日
キキョウの開花日
クリの開花日
クワの発芽日
クワの落葉日
サザンカの開花日
サルスベリの開花日
シダレヤナギの発芽日
シバの発芽日
シロツメクサの開花日
スイセンの開花日
スミレの開花日
タンポポの開花日
ツバキの開花日
デイゴの開花日
テッポウユリの開花日
ナシの開花日
ナノハナの開花日
ノアザミの開花日
ノダフジの開花日
ヒガンザクラの開花日
ヒガンザクラの満開日
ヒガンバナの開花日
ヤマツツジの開花日
ヤマハギの開花日
ヤマブキの開花日
ヤマユリの開花日
ライラックの開花日
リンゴの開花日
ウグイスの初鳴日
生物種目 優先度
カッコウの初鳴日
サシバの南下の初見日
ツバメの初見日
ヒバリの初鳴日
マガンの初見日
モズの初鳴日
アオダイショウの初見日
カナヘビの初見日
シマヘビの初見日
トカゲの初見日
コウモリの初見日
アキアカネの初見日
アブラゼミの初鳴日
エンマコオロギの初鳴日
カの初見日
キアゲハの初見日
キリギリスの初鳴日
クサゼミの初鳴日
クマゼミの初鳴日
クマバチの初見日
シオカラトンボの初見日
セグロアシナガバチの初見日
ツクツクホウシの初鳴日
ニイニイゼミの初鳴日
ハルゼミの初鳴日
ヒグラシの初鳴日
ホタルの初見日
ミンミンゼミの初鳴日
モンキチョウの初見日
モンシロチョウの初見日
トノサマガエルの初見日
ニホンアマガエルの初見日
ニホンアマガエルの初鳴日

調査の方法

  • 調査時期になったら、観測を始めます。調査地点に通い、対象種の開花や初鳴きなどが観測できるまで続けます。
  • 調査は、これまで知られた対象種の開花や初鳴きの観測日の約1ヶ月前から始めます。開花や初鳴きを観測できたら、対象種の調査は終了です。
  • 種目によって、開花や初鳴きなどの判定基準が異なります。各種目ごとの調査方法についてはマニュアルをご確認ください。マニュアルはWebサイトからダウンロードできます。

観測の報告

  • 開花や初鳴きを観測できたら、調査用紙に必要事項を記入して、モニタリング担当にメールで送ったり、または、観測報告用ウェブサイトに直接記入したりして、報告します。
  • 調査用紙またはウェブサイトには、調査した「種目」、観測した「年月日」と「調査頻度」、観測を行った場所の「位置情報(緯度経度)」、その他気がついたこと(「備考」)を記入します。
調査マニュアル・利用規約

登録規約・利用規約・プライバシーポリシー

生物季節観測指針

気象庁が行っていた調査方法です。基本的にはこれに則って行います。対象の花の開花数など、季節の進み具合の基準を過去の観測と統一することや、生物種目の誤同定を避ける事が、過去の記録との整合性を評価する上で特に重要です。
気象庁:生物季節観測指針

生物季節モニタリング 調査マニュアル

NIES生物季節モニタリング用に、株式会社建設環境研究所や調査員の皆様のご協力のもと調査マニュアルを作成しました。調査を検討・実施する際にご活用ください。

  • ✓ 観測項目別に類似種との見分け方を解説しています!
  • ✓ 地域ごとの観測時期の目安がわかります!

■本マニュアルに掲載されている写真の使用について:
本マニュアルについては原則、サイトポリシー | 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)に従ってご活用いただけますが、本マニュアルに掲載されている写真については「私的使用を除き無断掲載禁止」となります。
転載等されたい場合には、ccca_phenology@nies.go.jpまでご相談ください。

その他関連資料

調査方法 よくある質問

  • 調査頻度とは何ですか?

    観測した日から1週間を振り返って、そのうち何日間観測を行ったか、を示すものです。1から7の日数として記録します。鳴き声を聞いた回数や、花を見た回数ではありません。

    調査頻度 7日
    →過去1週間のうち7日間観測 調査頻度7(毎日)
    調査頻度 3日
    →過去1週間のうち3日間観測 調査頻度

  • いつ頃観測すればいいのですか?

    観測シーズンの表を参考に、これまで知られた時期の約1ヶ月くらい前から始めると良いでしょう。

  • 観測対象の種がわかりません

    調査マニュアルに対象種の見分け方が説明してあります。また、図鑑やインターネットなどを参考に、見分け方や聴き分け方を調べましょう。ご自身でわかる種目だけをご報告していただくので大丈夫です。

  • 旅行先で見つけたので観測報告していいですか?

    開花や初鳴きなどは頻繁に調査地を訪れることで初めてわかるものです。初めて訪れた場所ではいつから開花や初鳴きが起こったのか分かりません。ご自身で設定した調査地で観測を行いましょう。

  • 観測していた木が刈られてしまった!/調査地がなくなってしまった!

    残念ながら、そういうことは時々おこってしまいます。公園などの植物は時折剪定されることもあります。観測モニタリングの原則からいえば、標本木や調査地を変えてはいけないのですが、できるだけ近隣で調査地を探したり、同じ種を探して新しく観測用の標本木にしたりしましょう。

データ公開・成果報告

観測データの公開と利用

報告いただいたデータは、学術研究や教育などに利用していただくために、公開する予定です。

  • 報告いただいたデータは、個人情報や個人を特定できるような情報等を削除し、適切な形に加工した上で、公開します。
  • 報告いただいた位置情報は、「約1km以内のどこかにある地点」といったものに加工されて、詳細な位置を特定できないようにします。気象庁の気象官署付近や公共施設(博物館や公園など)で行われた観測については、その施設名をつけて公開される場合があります。
  • 詳しくは「生物季節モニタリング」市民調査員登録規約」第8条、第9条をお読みください。

生物季節モニタリングの観測データの使用を希望する方は、メールにて(ccca_phenology@nies.go.jp)までお問い合わせください。使用に関しては、「国立環境研究所生物季節モニタリングデータの公開及び利用に関する規約」をお読みください。

調査状況の報告

調査員の皆様への速報として、生物季節モニタリングニュースレター(いきものこよみ)を不定期にお送りしております。調査の状況やデータの集まり具合、そこからわかる傾向、生物季節研究に関する雑学などを記載しております。

研究成果

「市民参加型調査の結果を活用し「セミの初鳴き日」に影響する要因に迫る」

ニュースレター「いきものこよみ」

不定期にニュースレターを発行しています。

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調査員分布状況

2024年1月時点で、47の都道府県から計504名の調査員の方にご参加いただいております。観測ネットワークの拡充に向けて引き続き調査員を募集しています。

調査員分布図の画像

調査員分布図

観測記録の蓄積情報

2025年8月現在、66種目8000件を超える報告をお寄せいただいています。
(赤字の項目は重要種目、*は気象庁が継続して観測している項目です)

2025年8月の報告件数

報告件数 2025年8月

気象庁の観測記録との比較

気象庁の記録と比較して、2021年の我々の観測記録がどのような“ずれ方”をしているのか比較してみました。すると、ほとんどずれていない種目や早まる種目、遅れる種目がそれぞれ混在していることから、市民参加型調査による観測は常に早く(あるいは遅く)観測してしまうといった一定の偏りはなさそうです。今後地点数を増やし、気象データも考慮する必要があるでしょう。

気象庁との比較ヒストグラム1

気象庁との比較ヒストグラム2

国内における取組事例

関連情報

関連動画

募集特定寄附金「全国の調査員を募集して行う生物季節モニタリング」

生物季節に関するエトセトラ

ここでは、生物季節に係るあれこれを紹介していきます(随時更新)。

European phenology network とは?

ヨーロッパでの取り組みをご紹介します。このネットワークは、フェノロジーモニタリングの観測記録や研究の成果を、気候変動の影響評価や適応策の立案など、実践的な利用として促進させるために設立されました。このネットワークでは、①既存の長期観測データの統合・連結・拡張、②データベースの構築と公開、③研究機関や教育機関・行政など様々な組織が参加する会議の開催、④ワークショップの開催など、フェノロジーデータを利用する研究やその成果の活用を推進しています。たとえば、教育の分野では、連携する教育プログラム(GLOBE)があります。これは生徒や教師が観測した記録を研究者が研究利用し、その結果を教育の場に還元するような取り組みです。『THE GLOBEPROGRAM』のウェブページはこちら

USA National Phenology Network (USA-NPN)とは?

USA-NPN は、2007 年に設立された、フェノロジーデータを収集、蓄積、共有するネットワークです。このネットワークは、フェノロジーデータを取得する個人や団体からなるコンソーシアムです。事務局はアリゾナ大学にあります。観測プログラムである Nature’s Note にはこれまで 1 万人以上の参加者が 2500 万件以上のフェノロジーデータを提供しています。観測対象の生物は 2007 年からどんどん増加し、現在(2021 年)では 1429 種類の生物を対象としています。アメリカのフェノロジー観測の始まりは1956 年にモンタナ州立大学の Caprio 氏が 2500 人以上のボランティア観測者のネットワークを構築し、ライラックのフェノロジー研究を始めたことでした。しかし、このネットワークは Caprio 氏が 1993 年に退職したことで終了してしまいました。その後紆余曲折あり(詳しくは USA-NPN のウェブページやその総説を参照)、現代の巨大なネットワークの構築に至っています。
★「国立環境研究所 市民調査員と連携した生物季節モニタリング」も世界のフェノロジーネットワークとして掲載されました。

お問い合わせ

国立環境研究所 気候変動適応センター 気候変動影響観測研究室

担当:松島野枝・西廣淳
E-mail:ccca_phenology@nies.go.jp

(最終更新日:2025年11月13日)