2023年の桜の開花は早かったのか?(速報版)
2023年の春は全国的に暖かい空気に覆われ、アイスクリームなどのコールド商品の需要が早くから高まるといった予想がされていました。このような気温の高さは生物の季節性にも影響を与えることが分かってきています。国立環境研究所で行っている生物季節モニタリングに参加してくださっている市民調査員の方々からも「今年は温かくて春が早い」というコメントが多く寄せられています。そこで、日本の春の生物季節の代表の一つ「サクラの開花」について、気象庁によって蓄積されてきた長期観測を使用して「本当に今年は開花が早かったのか」について検証してみました。
次の図は、気象庁が1953年から2023年までの71年の間に全国の地方気象台や測候所で観測したサクラの開花日の記録を使用して作成したものです。観測所ごとに71年間で最も早い開花日が記録された年を求め、年ごとの観測所数を集計しています。つまり、このグラフの値が高いということは、「その年が観測期間中で最も早く咲いた年であった場所」が多かったことを表しています。今回はソメイヨシノを対象に、2023年まで観測を継続している場所(東北~九州、計45地点)について集計しました (沖縄、北海道は含まれません)。また、最も早い開花日が複数の年で観測された(タイ記録があった)場合には、それぞれに1件ずつとして重複計上しています。
この図から、2002年、2021年、2023年が、開花が特に早い年であったことがわかります。なかでも2023年は、最も多くの地点で最も早い開花が記録された年でした。「2023年が観測史上最も早く咲いた年」となる地点は、全体の48.9%に相当します。このことから、今年の春が早かったという感覚は正しかったと言えるでしょう。
生物の季節性は気候変動の影響を強く反映しており、サクラの開花が経年的に早くなっていることは統計的に確認されています(Kai et al. 1993, Ibáñez et al. 2010, Nagai et al. 2019)。気候変動が生物の季節性を介して生態系や我々の暮らしに与える影響を評価することはとても重要なことです。この生物季節を観測する長期観測市民科学プログラム『生物季節モニタリング』にご興味のある方は、下記URLをご参照ください。
https://adaptation-platform.nies.go.jp/ccca/monitoring/phenology/index.html
引用文献
- Kai, K., Kainuma, M., Murakoshi, N., & Omasa, K. (1993). Potential effects on the phenological observation of plants by global warming in Japan. Journal of Agricultural Meteorology, 48(5), 771-774.
- Ibáñez, I., Primack, R. B., Miller-Rushing, A. J., Ellwood, E., Higuchi, H., Lee, S. D., ... & Silander, J. A. (2010). Forecasting phenology under global warming. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 365(1555), 3247-3260.
- Nagai, S., Saitoh, T. M., & Yoshitake, S. (2019). Cultural ecosystem services provided by flowering of cherry trees under climate change: a case study of the relationship between the periods of flowering and festivals. International journal of biometeorology, 63, 1051-1058.
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お問い合わせ
国立環境研究所 気候変動適応センター 気候変動影響観測研究室
担当:辻本翔平・西廣淳
E-mail:ccca_phenology@nies.go.jp
(最終更新日:2023年4月19日)