Adaptation Futures 2025 ニュージーランドで開催 —世界が共有する「適応の未来」へ向けて—

開催日 2025年10月13日~10月16日
開催地 ニュージーランド / クライストチャーチ
参加登録者 90か国以上、1,200人程度
Adaptation Futures 2025 公式サイトのトップページ

Adaptation Futuresとは

Adaptation Futuresは、気候変動適応に関する世界最大規模の国際会議で、2~3年ごとに開催されています。研究者、行政、企業、実務者、メディアなど多様な分野の専門家が参加し、科学的知見や政策、地域での実践を共有し、持続可能な未来を共創する国際的な場です。

2025年会合の概要

第8回となるAdaptation Futures 2025は、ニュージーランド・クライストチャーチで開催されました(2025年10月13日~16日)。「Resilience in Action: Co-Creating Adaptation for People and Nature(行動するレジリエンス ― 人と自然の共創による適応)」をテーマに、200を超えるセッションが行われ、世界中から研究者や行政担当者らが集結しました。健康、都市、ガバナンス、教育、地域社会、デジタル基盤など、幅広いテーマで議論が行われ、参加セッションはいずれも盛況。気候変動への「適応」が国際的にも重要な実践課題であることが改めて示されました。

国立環境研究所(NIES)からの発表・参加レポート

大山 剛弘 (10月14日)

分類Health, Wellbeing, and Future Generations
発表タイトルA Targeted Approach for Heat Illness Prevention: Mapping High-Risk Population at 1 km Grid Resolution and Policy Implications for Adaptation in Japan
概要将来の暑さと人口予測を1kmメッシュ単位で統合して、熱中症リスクの高い地域を特定し、エアコンを用いた対策の費用対効果を分析した研究成果を発表。3千万人のリスク人口を守るために、どこにどれだけリスクが集中しているのかを踏まえて、ターゲットを絞って熱中症対策を講じていく必要性を強調しました。また、温室効果ガスを排出しない持続可能な対策の重要性、クーリングシェルターの活用について議論が交わされました。
関連資料

真砂 佳史 (10月14日)

分類The Arts of Adaptation, Communication and Education
発表タイトルFrom Data to Decision, Defining Adaptation Urgency in Japan’s Climate Strategies
概要日本の気候政策における「適応の優先度」を定義する枠組みを提示。科学データと社会的意思決定をつなぐコミュニケーションのあり方を提起し、「データを人の行動に変える」ためのアプローチが紹介されました。

肱岡 靖明 (10月15日)

分類Cities, Settlements and Infrastructure
セッション名Advancing (Enhancing) Climate Adaptation Action in The Asia-Pacific Region Through Web-Based Platforms
登壇者
  • Yasuaki Hijioka(国立環境研究所, 日本)
  • Roger Street(Environmental Change Institute at the University of Oxford, イギリス)
  • Kim van Nieuwaal(Climate Adaptation Services, オランダ)
  • Ofa Kaisamy(Pacific Climate Change Centre, SPREP, サモア)
  • Hsin-chi Li(National Science and Technology Center for Disaster Reduction, 台湾)
  • Young-Il Song(Honorary Research Fellow, 韓国)
概要 本セッションでは、アジア太平洋地域における気候変動適応行動の推進に向けたWebベースのプラットフォームの活用をテーマに、各国の取組や連携事例が紹介されました。
肱岡センター長からは、日本の国立環境研究所が運営する気候変動適応プラットフォーム(以下、A-PLAT)を中心に、科学的知見を政策・地域実践へつなぐ仕組みや、自治体・市民・企業など幅広い主体との情報共有の仕組みについて説明がありました。
また、英国・台湾・太平洋諸島・韓国の研究者らとのディスカッションを通じて、各国が抱える課題(データの相互運用性、人材育成、政策への反映など)や、地域間連携による知識共創の可能性について意見交換が行われました。特に、「誰もがアクセスできる適応情報基盤」の構築が、アジア太平洋地域全体のレジリエンス強化につながるとの認識が共有されました。
関連資料
発表の様子

根本 緑 (10月15日)

分類Beyond Adaptation
セッション名Enhancing Climate Change Adaptation Practice: What we Know, What we Need, and How to Act
発表タイトルAdvancing Adaptation Actions for Citizens and Enhancing Science Communication
登壇者
  • Hyun-gyu Kim(Korea Environment Institute, 韓国)
  • Jiyoung Shin(Korea Environment Institute, 韓国)
  • Jinhan Park(Korea Environment Institute, 韓国)
  • Malou ten Have(Climate Adaptation Services, オランダ)
  • Midori Nemoto(国立環境研究所, 日本)
  • Chia-Wei (Joyce) Chang(National Science and Technology Center for Disaster Reduction, 台湾)
概要 本セッションでは、アジアおよび欧州の研究機関・行政・実務者が集まり、「適応の実践をいかに高めていくか」をテーマに、科学的知見を社会実装へとつなげる方策について議論が行われました。
根本専門員からは、気候変動適応に関するコミュニケーション戦略の取組を紹介しました。具体的には、A-PLATの主要コンテンツや、本年度新たに展開している「#適応しよう」キャンペーンなどを通じた、市民参加型の適応行動推進の意義について共有しました。また、これらの取組を通じて、科学的知見をわかりやすく社会へ伝える「科学と社会をつなぐコミュニケーション」の重要性を強調しました。
パネルディスカッションでは、参加機関が共通して抱える課題として「適応行動の効果測定」や「地域間の情報格差」などが挙げられ、教育・広報・政策の連携を通じた実践強化の必要性が確認されました。
関連資料
メディア掲載
A-PLAT「適応策インタビュー」や「#適応しよう」に関する発表の様子

阿部 博哉・関 玲子 (10月16日)

分類Indigenous Innovation and Leadership
セッション名Addressing the Gap: Prioritizing Needs of Pacific Island Countries and Territories
登壇者
  • Hiroya Abe, Reiko Seki(AP-PLAT, 国立環境研究所, 日本)
  • Manabu Watanabe (blue and tech, 日本)
  • Leanne Webb (CSIRO, オーストラリア)
  • Yvette Kerslake (PCCC/SPREP, サモア)
概要 AP-PLAT、blue and tech、 Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation(CSIRO)、The Pacific Climate Change Centre(PCCC)は共同で「ナレッジカフェ」を開催しました。
このセッションでは、アジア太平洋地域の島嶼において、既存の気候および影響予測ツール(ClimoCast、Climate Impact Viewer)を利用する際の課題や、利用者が求める機能・改善点について幅広く意見やアイデアを収集しました。
阿部研究員からは 、既存ツールの概要と特徴および問題点の説明、今後のツール開発への要望について、参加者へ問題提起しました。
本セッションを通じて、各国の科学者や政策担当者だけでなく、一般の人々にも使いやすい、地域特性に即した将来のツール開発に向けて、一歩前進することができました。
AP-PLAT 活動報告ページ(英語)
発表やワークショップの様子

会議の意義と今後の展望

本会合では、「科学的知見を社会の実装につなぐ」ことの重要性が各セッションで繰り返し強調されました。NIESの発表でも、科学、行政、地域、市民が協働して進める「実践的な適応」の方向性が示されました。次回のAdaptation Futuresは2027年にメキシコ・カンクーンで開催予定であり、アジア太平洋地域からの発信と国際連携の強化が期待されます。

韓国、台湾、日本のチームメンバーと会場前で
関連リンク
(2025年11月18日掲載)