分野別影響&適応

気候変動適応法第7条に基づき、「気候変動適応計画」が令和3年10月に閣議決定されました。ここでは、「気候変動適応計画」第2章に記載されている分野別の影響と適応策の概要をご紹介します。

農業・林業・水産業

農業への影響

①農業生産総論
農業生産は、一般に気候変動の影響を受けやすく、各品目で生育障害や品質低下など気候変動によると考えられる影響が見られる。
②水稲
高温による品質の低下等の影響が全国で確認されており、一部の地域や極端な高温年には収量の減少も見られている。コメの収量は全国的に 2061~2080 年頃までは増加傾向にあるものの、21 世紀末には減少に転じると予測されている。
③果樹
果樹は気候への適応性が非常に低い作物であり、他の作物に先駆けて、既に温暖化の影響が現れている。一度植栽すると同じ樹で 30~40 年栽培することになることから、1990 年代以降の気温上昇に適応できていない場合が多い。
④麦、大豆等(土地利用型作物)
小麦では、冬季及び春季の気温上昇により、全国的に播種期の遅れと出穂期の前進がみられ、生育期間が短縮する傾向が確認されている。
⑤野菜等
過去の調査で、40以上の都道府県において、既に気候変動の影響が現れている。特にキャベツなどの葉菜類、ダイコンなどの根菜類、スイカなどの果菜類等の露地野菜では、多種の品目でその収穫期が早まる傾向にあるほか、生育障害の発生頻度の増加等もみられる。
⑥畜産、飼料作物
夏季に、乳用牛の乳量・乳成分の低下や肉用牛、豚及び肉用鶏の成育や肉質の低下、採卵鶏の産卵率や卵重の低下等が報告されている。
⑦病害虫・雑草等
西南暖地を中心に発生していたイネなどの害虫であるミナミアオカメムシやスクミリンゴガイが、近年、西日本の広い地域から関東の一部でも発生し、気温上昇の影響が指摘されている。
⑧農業生産基盤
農業生産基盤に影響を及ぼしうる降水の時空間分布の変化について、短期間にまとめて強く降る傾向が増加し、特に、四国や九州南部でその傾向が強くなっている。

農業の適応

①農業生産総論
農業生産全般において、高温等の影響を回避・軽減する適応技術や高温耐性品種等の導入など適応策の生産現場への普及指導や新たな適応技術の導入実証等の取組が行われている。
②水稲
高温対策として、肥培管理、水管理等の基本技術の徹底を図るとともに、高温耐性品種の開発・普及を推進している。病害虫対策として、発生予察情報等を活用した適期防除等の徹底を図っている。
③果樹
果樹は需給バランスの崩れから価格の変動を招きやすいことから、長期的視野に立って対策を講じていくことが不可欠である。産地において、温暖化の影響やその適応策等の情報の共有化や行動計画の検討等が的確に行われるよう、ネットワーク体制の整備を行う。
④麦、大豆等(土地利用型作物)
麦、大豆・小豆、てん菜等については、雨量や気温等の気象条件により収量の変動を受けやすく、気候変動に適応した営農技術の導入や、病害虫に強い品種の育成等により、安定した生産・供給体制を確保する。
⑤野菜等
露地野菜、露地花きでは、高温条件に適応する品種や栽培技術の導入、適切なかん水の実施等の推進等に取り組む。また、施設野菜・施設花きでは、施設の耐候性の向上や非常時の対応能力の向上を図る。
⑥畜産、飼料作物
家畜・家禽の体感温度を低下させるとともに、換気扇等による換気により、畜舎環境を改善する。また、嗜好性や養分含量の高い飼料及び低温で清浄な水を給与するとともに、国内の飼料生産基盤に立脚した足腰の強い生産に転換していく。
⑦病害虫・雑草等
病害虫の発生予察情報に基づく適期防除、侵入病害虫の早期発見・早期防除、植物の移動規制等の対策の強化を推進するとともに、防除技術の高度化等に取り組む。
⑧農業生産基盤
露地野菜、露地花きでは、高温条件に適応する品種や栽培技術の導入、適切なかん水の実施等の推進等に取り組む。また、施設野菜・施設花きでは、施設の耐候性の向上や非常時の対応能力の向上を図る。

森林・林業への影響

①木材生産(人工林等)
気温が現在より3℃上昇すると、年間の蒸散量が増加し、特に年降水量が少ない地域でスギ人工林の脆弱性が増加する可能性を指摘する研究事例がある。
②特用林産物(きのこ類等)
シイタケの原木栽培において、夏場の気温上昇と病害菌の発生あるいはシイタケの子実体の発生量の減少との関係を指摘する報告がある。

森林・林業の適応

①木材生産(人工林等)
森林病害虫のまん延を防止するため防除を継続して行うとともに、造林木における適応性の評価、周辺環境の継続的モニタリング、長伐期リスクの評価などを行う。
②特用林産物(きのこ類等)
温暖化の進行による病原菌等の発生や収穫量等に関するデータの蓄積とともに、温暖化に適応したしいたけの栽培技術や品種等を検討する。

水産業への影響

①回遊性魚介類(海面漁業)
分布回遊範囲及び体のサイズの変化に関する影響予測が数多く報告されており、例えば、さけ・ます類では水温の上昇による分布域の減少や、ブリでは分布域の北方への拡大、越冬域の変化が予測されている。
②増養殖業(海面養殖業)
高水温によるホタテ貝の大量へい死、高水温かつ少雨傾向の年におけるカキのへい死、養殖ノリでは、秋季の高水温により種付け開始時期が遅れ、年間収穫量が各地で減少している。
③増養殖業(内水面漁業・養殖業)
一部の湖沼では暖冬により湖水の循環が弱まり、貧酸素化する傾向が確認されている。21 世紀末頃において、海洋と河川の水温上昇によるアユの遡上時期の早まりや遡上数の減少が予測されている。
④沿岸域・内水面漁場環境等(造成漁場)
各地で南方系魚種数の増加や北方系魚種数の減少などが報告されている。海水温の上昇による藻場を構成する藻類種や現存量の変化によって、アワビなどの磯根資源の漁獲量が減少すると予想されている。

水産業の適応

①回遊性魚介類(海面漁業)
海洋環境調査を活用し、漁場予測や資源評価の高精度化を図る。これらの結果を踏まえ、環境の変化に対応した順応的な漁業生産活動を可能とする施策を推進する。
②増養殖業(海面養殖業)
気候変動に伴う赤潮プランクトン発生の調査研究、高水温耐性を有する養殖品種の開発、水温上昇に伴い日本へ侵入が危惧される魚病対策などを行う。
③増養殖業(内水面漁業・養殖業)
アユについては、適切な放流時期や水温を検討することで、効果的な放流手法の開発を進め、ワカサギについては、給餌放流技術の高度化、餌料プランクトンの効率的生産技術の開発に取り組む。
④沿岸域・内水面漁場環境等(造成漁場)
沿岸域・内水面漁場環境等(造成漁場) 地方公共団体が実施する藻場・干潟の造成等のハード対策と、漁業者・地域住民等が実施する保全活動等のソフト施策を一体とした広域的対策を推進する。

その他の農業・林業・水産業の影響

①野生鳥獣の影響(鳥獣害)
ニホンジカについて、気候変動による積雪量の減少と耕作放棄地の増加により、2103 年における生息適地が、国土の9割以上に増加するとの予測がある。
②食料需給
近年の気候変動に伴う世界の食料供給の混乱事例が報告されている。

その他の農業・林業・水産業の適応策

①野生鳥獣の影響(鳥獣害)
侵入防止、捕獲活動の強化、捕獲の担い手の育成、科学的・計画的な保護・管理を推進する。
②食料需給
不測の事態に備え、平素から気候変動による影響等の分析・評価や、我が国における将来の食料需給に関する調査分析を行い、対応策の検討、見直しを実施することにより、総合的な食料安全保障の確立を図る。

水環境・水資源

水環境・水資源への影響

①水環境
富栄養湖に分類されるダムが 2100 年代で増加し、特に東日本での増加数が多くなる予測例がある。河川では、水温の上昇による DO(溶存酸素量)の低下、DO の消費を伴った微生物による有機物分解反応や硝化反応の促進等も予測されている。
②水資源
降水の時空間分布が変化しており、無降雨・少雨が続くこと等により日本各地で渇水が発生し、給水制限が実施されている。また、気温上昇と水使用量の関係について、東京では、気温上昇等に応じて水使用量が増加する。

水環境・水資源の適応

①水環境
気候変動に伴う水質等の変化が予測されていることを踏まえ、水質のモニタリングや将来予測に関する調査研究を引き続き推進するとともに、水質保全対策を推進する。
②水資源
渇水対策として、リスク評価の推進と4つの対策(比較的発生頻度の高い渇水への対策, 施設の能力を上回る渇水の対策, 農業、森林・林業分野における対策, 調査研究の推進)項目をあげている。

自然生態系

自然生態系への影響

①陸域生態系
気候変動に伴い、高山帯・亜高山帯の植生分布、群落タイプ、種構成の変化が、自然林・二次林の各植生帯の南限・北限付近における樹木の生活型別の現存量の変化が確認されている。また、日本全国でニホンジカやイノシシの分布を経年比較した調査において、分布が拡大していることが確認されている。
②淡水生態系
富栄養化が進行している深い湖沼では、水温の上昇による湖沼の鉛直循環の停止・貧酸素化と、これに伴う貝類等の底生生物への影響、富栄養化の加速が懸念される。また河川では、平均気温が現状より3℃上昇すると、冷水魚であるアメマス及び本州イワナの分布適域が現在の約7割に減少することが予測されている。
③沿岸生態系
4℃上昇を仮定した予測では、熱帯・亜熱帯の造礁サンゴの生育に適する海域が水温上昇と海洋酸性化により日本近海から消滅すると予測されている。また、海水温の上昇に伴い、エゾバフンウニからキタムラサキウニへといったより高温性の種への移行が想定され、それに伴い生態系全体に影響が及ぶ可能性がある。
④海洋生態系
気候変動に伴い、植物プランクトンの現存量に変動が生じる可能性がある。
⑤生物季節、分布・個体群の変動
植物の開花の早まりや動物の初鳴きの早まりなど、動植物の生物季節の変動について多数の報告が確認されている。気候変動により、種の移動・局地的な消滅による種間相互作用の変化や、生育地の分断化による種の絶滅を招く可能性がある。
⑥生態系サービス
全球的には、気候変動による生態系を構成する生物種の種構成や生物季節、種間の相互作用の変化が生態系の構造や機能に影響を与え、結果として既に生態系サービスへの影響が生じているとする報告がある。

自然生態系の適応

①陸域生態系
原生的な天然林、希少な野生生物が生息・生育する森林の保全管理を推進するとともに、気候変動が森林に与える影響についての調査・研究を推進する。気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、国土全体での生態系ネットワークの形成を図る。
②淡水生態系
水域の連続性を確保し、生物が往来できる生態系ネットワークの形成を図るとともに、従来実施されてきた気候変動以外の要因による生物多様性の損失への対策について、気候変動適応の観点を考慮した上で、優先順位を付けて実施する。
③沿岸生態系
干潟・塩性湿地・藻場・アマモ場・サンゴ礁等において、長期にわたるモニタリング等の調査を重点的に実施する。沿岸域は河川等を通じた陸域との関連性が強いことから、流域全体まで視野を広げる。
④海洋生態系
赤潮プランクトン発生と気候変動との関連性に関する調査研究を引き続き行う。重要度の高い海域等において、精度の高い科学的情報の蓄積や継続的なモニタリングの実施を推進する。
⑤生物季節、分布・個体群の変動
植物の開花等の生物季節変化を把握するため研究機関やNPO等と協力した参加型モニタリング調査を継続、強化する。生物が移動・分散する経路を確保する生態系ネットワークの形成を推進し、その際に外来種やニホンジカの分布拡大のおそれとその影響を考慮する。
⑥生態系サービス
生態系サービスがもたらす多様な社会的な便益の変化・社会的な影響等に関する調査・研究を推進し、地域における取組の実装を促進していく。

自然災害・沿岸域

自然災害・沿岸域への影響

①河川
比較的多頻度の大雨事象について、その発生頻度が経年的に増加傾向にあることが示されている。RCP2.6、RCP8.5 シナリオなどの将来予測によれば、洪水を起こしうる大雨事象が日本の代表的な河川流域において今世紀末には現在に比べ有意に増加することが予測されている。
②沿岸(高潮・高波等)
温室効果ガス排出を抑えた場合でも一定の海面上昇は免れない。また、台風の強度や経路の変化等による高波のリスク増大の可能性が予測されている。さらに、気候変動による海面水位の上昇によって、海岸が侵食される可能性が高く、2081~2100 年までに、RCP8.5 シナリオでは日本沿岸で平均 83%(232km2)の砂浜が消失するとの報告例がある。
③山地(土砂災害)
多数の深層崩壊や同時多発型表層崩壊・土石流、土砂・洪水氾濫による特徴的な大規模土砂災害をもたらした特徴のある降雨条件が気候変動によるものであれば、気候変動による土砂災害の形態の変化が既に発生しており、今後より激甚化することが予想される。
④山地(山地災害、治山・林道施設)
気候変動にともなう大雨の頻度増加、局地的な大雨の増加により、崩壊や土石流等の山地災害の頻発が予測されるとともに、これらの機能を大きく上回るような極端な大雨に起因する外力が働いた際には、山腹斜面の同時多発的な崩壊や土石流の増加が予想されている。
⑤強風等
RCP8.5 シナリオを前提とした研究では、21 世紀後半にかけて気候変動に伴って強風や熱帯低気圧全体に占める強い熱帯低気圧の割合の増加等が予測されている。

自然災害・沿岸域の適応

①河川

【気候変動の影響を踏まえた治水計画の見直し】

科学技術の進展や将来降雨の予測データの蓄積を踏まえ、気候変動による降雨量の増加等を反映したものに河川整備基本方針、河川整備計画を順次見直していくとともに、激甚化、頻発化する局地的な大雨等に対応するため、ハード・ソフト両面からの浸水対策計画の策定を推進する。

【災害リスクの評価】

災害の発生頻度、被害の度合い、どのような被害が生じるかをわかりやすく提示する。最悪のケースも想定し避難等の検討ができるように浸水深さ、浸水継続時間を明示する。被害想定には人口、インフラ、病院等の立地、産業、高齢化の状況等地域の実情に応じた検討を行う。

【比較的発生頻度の高い外力に対する防災・減災対策】

これまで進めてきている施設の整備を着実に進めるとともに、適切な維持管理・更新を行うことにより、水害の発生を着実に防止する防災・減災対策を進める。

【現況の施設能力を上回る外力に対する防災・減災対策】

施設の運用、構造、整備手順等の工夫

これまで超過洪水等を考慮して進めてきている対策を着実に進めるとともに、施設の運用、構造、整備手順等の工夫等により防災・減災を図る。

まちづくり・地域づくりとの連携

都市や中山間地において、人口減少等を踏まえたまち・地域の再編が進められていく機会をとらえ、災害リスクを考慮したまちづくり・地域づくりの促進により減災を図る。

流域治水におけるグリーンインフラの活用推進等

自然環境が有する多様な機能を活かしたグリーンインフラの活用を推進し、遊水地等による雨水貯留・浸透機能の確保・向上を図る。

避難、応急活動、事業継続等のための備え

大規模水害時等における孤立者等の被害想定を作成し、国、地方公共団体等が連携した避難、救助・救急、緊急輸送等ができるようタイムラインを策定する。災害時においても一般廃棄物処理事業を継続しつつ災害廃棄物を処理できる計画を策定する。防災関係機関が応急活動、復旧・復興活動を継続できるよう、市役所、消防署、病院等の浸水防止対策の実施やバックアップ機能の確保、事業継続計画の策定を促進する。企業の被害軽減や早期業務再開を図るため、水害を対象としたBCPの作成や浸水防止策の実施を促進する。

【農業分野における対策】

排水機場や排水路等の整備による湛水被害防止推進、湛水に対する脆弱性が高い施設や地域の把握、ハザードマップ作成、業務継続計画策定の推進など、ハード・ソフト対策を組み合わせた農村地域の防災・減災機能の維持・向上を図る。

②沿岸(高潮・高波等)

【港湾】

航路・泊地の埋没の可能性が懸念される場合、防砂提等を設置する。コンテナターミナルにおいて、高潮の侵入に際にコンテナの流出や電気系設備の故障による港湾機能低下を防ぐため、コンテナの固定や電気機器の嵩上げを含む時系列に従った対応計画を策定する

【海岸】

災害に対する適切な防護水準を確保するとともに、海岸環境の整備と保全及び海岸の適正な利用を図るため、施設の整備に加えソフト面の対策を講じ、これらを総合的に推進する。海岸部において、沿岸漂砂による土砂の収支が適切となるよう構造物の工夫等を含む取組を進めるとともに、総合的な土砂管理対策とも連携する

【漁港・漁村】

気候変動の影響による外力の長期変化も考慮した漁港施設の整備を計画的に推進する。海岸保全施設の整備等のハード対策に加え、ハザードマップの作成等のソフト対策を推進する。

【海岸防災林】

海岸防災林等の整備を強化し、津波・風害の災害防止機能の発揮を図る。

【空港】

高潮発生時等の空港施設への影響を検討することにより、台風等に備えた浸水対策等を実施する。空港 BCPには浸水等により空港の各種機能が喪失した場合の対応計画をも併せて策定する。

③山地(土砂災害)
人命を守る効果の高い箇所における施設整備を重点的に推進するとともに、避難場所・経路や社会経済活動を守る施設の整備を実施する。
人工衛星等の活用により国土監視体制を強化し、深層崩壊等の発生や河道閉塞の有無をいち早く把握できる危機管理体制の整備を推進する。
災害リスクが特に高い地域について、土砂災害警戒区域の指定による建築物の構造規制や宅地開発等の抑制、安全な地域への移転を促進する。
④山地(山地災害、治山・林道施設)
森林の有する水源の涵養、災害の防備等の公益的機能を高度に発揮させるため、保安林の配備を計画的に推進する。治山施設の整備や森林の整備等を推進し、山地災害危険地区に係る情報の提供等を通じ、減災に向けた効果的な事業の実施を図る。
⑤強風等
災害に強い低コスト耐候性ハウスの導入等を推進するとともに、竜巻に対しては、竜巻等の激しい突風が起きやすい気象状況であることを知らせる情報の活用や、身の安全を確保する行動を促進する。

健康

健康への影響

①暑熱
死亡リスクについて、日本全国で気温上昇による超過死亡の増加傾向が確認されている。熱中症について、年によってばらつきはあるものの、熱中症による救急搬送人員、医療機関受診者数・熱中症死亡者数の全国的な増加傾向が確認されている。
②感染症
デング熱等の感染症を媒介する蚊(ヒトスジシマカ)の分布可能域について、RCP8.5 シナリオを用いた予測では、21世紀末には気温がヒトスジシマカの生息に必要な条件に達し、北海道の一部にまで分布が広がる可能性が高い。気候変動に伴い、様々な感染症類の季節性の変化や発生リスクの変化が起きる可能性がある。
③冬季の温暖化
国内の冬季の平均気温は、RCP4.5 シナリオの場合、2030 年代に、全国的に 2000年代よりも上昇し、全死亡(非事故)に占める低温関連死亡の割合が減少することが予測されている。
④その他
オキシダント濃度が高くなっている都市部で、大気汚染が続いた場合、温暖化によって更にオキシダント濃度が上昇し、健康被害が増加する可能性がある。

健康分野における適応

①暑熱
救急、教育、医療、労働、農林水産業、スポーツ、観光、日常生活等の各場面において、気象情報の提供や注意喚起、予防・対処法の普及啓発、情報提供の実施。炎天下等の厳しい労働条件下での作業へのロボット技術やICTの導入による軽労化を図る。
②感染症
気温上昇と感染症の発生リスクの変化の関係等についての科学的知見の集積,感染症媒介蚊の発生源の対策、成虫の駆除、注意喚起に努める。
③冬季の温暖化
気候変動による冬季死亡率の低下の顕在化について、既往の知見が確認できていないことから、科学的知見の集積に努める。
④その他
科学的知見の集積を図るとともに、オキシダントや粒子状物質等による大気汚染への対策を引き続き推進する。

産業・経済活動

産業・経済活動への影響

①金融・保険
自然災害の多発・激甚化や自然災害補償の普及・拡大等に伴い、保険金支払額が著しく増加し、恒常的に被害が出る確率が高まっている。保険会社では、今後の気候変動の影響を考慮し、不確実性を織り込んだリスク評価手法を確立することが必要となっている。
②観光業
気温の上昇、降雨量・降雪量や降水の時空間分布の変化、海面水位の上昇は、自然資源を活用したレジャーへ影響を及ぼす可能性がある。観光資源である滝の凍結度や流氷の減少、スキー場における積雪深の減少のほか、厳島神社での台風・高潮被害の増加が報告されている。
③産業・経済活動(金融・保険、観光業以外)
製造業は水害により131億円(2017年)の被害が発生しており、大雨発生回数の増加による水害リスクの増加が指摘されている。企業が気候変動をリスクやビジネス機会として認識していることを示唆する報告がみられる。
④その他(海外影響等)
気温の上昇により、世界全体で見た場合に作物生産量が変動し、価格に影響を及ぼす可能性がある。気温上昇や降水量の変化が、コメ、小麦、トウモロコシの貿易量に変化を及ぼす。輸入国の土地利用や労働者の健康への気候変動の影響は、日本への農畜産物・工業製品の輸入の脆弱性を高める。気候変動によって北極海における海氷面積が減少していることを受け、北極海航路の利活用に対する関心が高まっている。

産業・経済活動の適応

①金融・保険
自然災害リスクについて損害保険各社のリスク管理の高度化、モニタリング手法の高度化に取り組む。
②観光業
観光業については地域特性を踏まえ適応策を実施していくことが重要なため、地域における気候変動の影響に関する科学的知見の集積を図る。災害時にホテル・旅館等宿泊施設を避難受入施設として迅速に提供できるようにするため、宿泊関係団体等と地方公共団体との協定の締結を促す。ウェブサイト等による正確な情報発信を実施する。
③産業・経済活動(金融・保険、観光業以外)
各分野において科学的知見の集積を図ることに加え、環境報告書や事業者からのヒアリングを通じて、事業者における気候変動影響について情報を収集する。これらの情報の提供を通じ、適応への取組や適応技術の開発の促進を行う。
④その他(海外影響等)
気候変動が我が国の安全保障に及ぼす影響等について引き続き調査を実施する。北極海航路について、利用動向等に関する情報収集や産学官による協議会での情報共有を図る等、利活用に向けた環境整備を進める。

国民生活・都市生活

国民生活・都市生活への影響

①インフラ、ライフライン
近年、日本各地で大雨・台風・渇水等による各種インフラ・ライフラインへの影響が確認されている。大雨による交通網の寸断やそれに伴う孤立集落の発生、電気・ガス・水道等のライフラインの寸断が報告されている。
②文化・歴史などを感じる暮らし
サクラ、イチョウ、セミ、野鳥等の動植物の生物季節の変化について報告されている。気温の上昇により開花から満開までに必要な日数が短くなる可能性が高く、花見ができる日数の減少、サクラを観光資源とする地域への影響が予測されている。
③その他(暑熱による生活への影響)
国内大都市のヒートアイランドは、今後は小幅な進行にとどまると考えられるが、既に存在するヒートアイランドに気候変動による気温の上昇が加わり、気温は引き続き上昇を続ける可能性が高い。

国民生活・都市生活の適応

①インフラ、ライフライン
河川の氾濫や津波等の発生により浸水被害が想定される主要な鉄道施設や地下駅の出入口、トンネル等において、止水板や防水扉の整備等を推進する。我が国の海上輸送を維持し続けることができるよう、航路標識の安定運用を図るため、災害等に強い機器を整備する。、道路啓開や応急復旧等により人命救助や緊急物資輸送を支援するとともに、道路システムの DX を通じて ICT 技術を活用した迅速な情報収集・提供を推進する。さらに、グリーンインフラを活用した適応策を講じる。
②文化・歴史などを感じる暮らし
気候変動が伝統行事・地場産業に及ぼす影響については研究事例が少ないため、調査研究を進め科学的知見の集積を図る。
③その他(暑熱による生活への影響)
都市における緑地・水面はヒートアイランド現象の緩和に効果があるため、緑化の推進が重要である。また、都市における農地も同様の効果があるため同様に保全を推進する。住宅・建築物の省エネルギー化の推進、自動車からの排熱減少、公共交通の利用促進。地域的に気温を下げるための「風の道」を活用した都市づくりの推進を図る。

(最終更新日:2022年11月14日)

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