リジェネラティブ・オーガニック農業から、パタゴニアが思い描く地球の再生

取材日 2025/12/15
対象 パタゴニア日本支社
リジェネラティブ・オーガニック リサーチ担当 木村純平

既存の有機認証を基盤に、広い視点からアプローチ

リジェネラティブ・オーガニック(以下、RO)農業とは、なんですか?

木村さん:既存の有機農業をさらに進化させた、環境再生型の農業システムのことで、1980年代にアメリカで提唱され、2017年に認証制度として誕生したものです。土壌の健康、動物福祉、社会的公平性という3つの大きな柱で構成されています。

これまでの日本の有機JAS、アメリカのUSDAオーガニック、さらにフェアトレードといった農業のあり方や農地の管理に加えて、サプライチェーンや労働者の生活賃金、職場の労働環境などを、広く組み込む形でつくられています。グローバル企業であるパタゴニアは、本国アメリカで始まったこのRO農業という取り組みを、各国で推進してきました。

そしてリジェネラティブ・オーガニック認証(以下、RO認証)という第三者認証制度の設立の際には、ドクターブロナー、ロデール研究所とパタゴニアの3社が協働し、認証を管理監督する組織であるROアライアンスを立ち上げました。現在、グローバルでは約800万ヘクタール、約6万人のファーマーが認証を受けています。

日本でも2020年からROを日本国内で推進し、パタゴニア日本支社も実例をつくっていく目的で進めてきました。

リジェネラティブ・オーガニック リサーチ担当の木村さん。ROの専門家として、社内外で普及・啓発活動を続けています。

どのようなプロセスを経て、認証に至るのでしょうか?

木村さん:まず前提として、有機JASやUSDAオーガニックといった有機認証を取得しておくことが必須です。その後、生産者本人がアライアンスへ申請をします。審査を通過し、申請受理の通知が届いたら、生産者はアライアンス公認の第三者認証機関を指定して現地監査の打診をし、日程や費用の調整をおこないます。

現地監査をするのは、公認された認証機関の監査人です。農場を訪れて、チェックポイントに沿って進めます。それで即合否が決定づけられるのではなく、不備があれば90日以内に改善を求められたり、証明できる情報の追加提出をお願いされたりして、最終的に認証機関からアライアンスへ認証結果の報告をおこなうという流れです。

この認証機関へのアクセスは容易なのでしょうか?たとえば日本にも、有資格者はたくさんいらっしゃいますか?

木村さん:ROを推進し始めた2020年ごろから5年間、RO認証の監査ができる人は日本にいませんでした。これは当初からわかっていたことです。そこで私たちは、認証制度として必要な社会的整備を並行して進めてきました。

日本で認証監査ができる人を生み出すためには、RO認証取得を目指す生産者たちが現れ「私たちはRO認証の取得を目指します」と公言することが必要でした。認証を取得したい人が増えていくと、社会上需要があるという理由が後押しとなり、国内でも監査ができるように、熱意を持った認証機関がそれに応えてくれると考えたからです。パタゴニアは自社の情報発信やカンファレンスなどを通じて、RO農業やその認証の社会的な意義などを伝え、国内で監査サービスが誕生するよう支援してきました。そして2025年に、国際認証機関の日本支社であるエコサート・ジャパンが、認証監査サービスをスタートしてくれたのです。

そのきっかけのひとつになったのが、国内で初めてRO認証を取得した、300年以上の歴史を持つ酒蔵・仁井田本家が製造したパタゴニア プロビジョンズ(食品事業)の日本酒『やまもり2025』です。

麹米、掛け米ともに自社田で栽培した有機認証・RO認証米『雄町』を100%使用。
『やまもり 2025』は、他のパタゴニア プロビジョンズの製品と同じように店頭で気軽に購入できます(写真は京橋店)

2025年、日本初・RO認証を取得した日本酒が誕生

パタゴニアと仁井田本家は、どのような関係だったのですか?

木村さん:もともとパタゴニアのユニフォームプログラムを利用していただいており、弊社のミッションやバリューを理解してくださっていました。それで、認証までの前例のない長い道のりを、思いをともにして進んでいける熱意を共有していると感じていたのです。

その前から当時福島大学の金子信博先生が、米づくりからおこなっている仁井田本家のフィールド調査を実施していました。私は金子先生が福島大学にいたころに一緒に働いており、仁井田本家にたびたび同行して伺っていたので、その里山環境の素晴らしさも感じていました。

そのような背景も重なり、パタゴニアとして2020年にRO認証取得に向けた協同を進める際に、仁井田本家にお声がけをしたという経緯です。体制化も早く、共同研究として金子先生らに調査もおこなっていただきました。

仁井田本家周辺を視察する木村さん(中央)。
再生湿地や遊水池における生物多様性を専門とする、国立環境研究所の田和康太さんとともに(右)。
右:生物の調査を行う田和さん。
左:自然酒用の酒米の水田は、一般的な水田と比べて稲の密度が低く、余裕があります。

日本で初めての認証取得を目指したということですが、大変だったことはありますか?

木村さん:認証プロセスの経験としては初めてで、しかもグローバル認証ですから、仁井田本家が取得している有機JASの書類をどの程度英訳したらいいか考えたり、当時はまだ日本で認証監査できる人がいなかったため、カンボジアから監査人を日本に招聘していただく必要があったりと、いろいろなことがありました。理解すべき資料も当然すべて英語です。しかし私の感覚ではありますが、社会的に意義の大きなことをなしていることに比べれば、準備や認証取得までスムーズに進んだように思います。

仁井田本家の事例を経験した今後の課題でいうと、生活賃金などの社会的公平性については、これまで日本の農業界でそこまで議論になってきていない分野だということです。意見箱を設置する企業もありますが、それも規模の大きな企業が大半で、10人以下で運営している農業法人は、そこにどれだけリソースを割くのか、という話が先に交わされやすいと思います。

さらにもうひとつ、RO認証制度が打ち上げられたことにより「認証を取らなければいけないのか」という議論があると思います。パタゴニアはROを指針として、農業そのものやフードシステムの変革を推進していますが、認証については事業上必要のない人たちや組織も大勢います。たとえば顔の見える関係性のなかで取引が成立するような、有機的なネットワークが生まれている生産者であれば、わざわざ認証制度というものを活用しなくても実現できることは非常に多くあります。

右:仁井田本家の事務所兼直売店舗。
左:仁井田本家で10年以上続く自主イベント『田んぼのがっこう&にいだの日』でお話をする、
仁井田本家18代目蔵元兼杜氏である仁井田穏彦さん。
この日の『田んぼのがっこう&にいだの日』は、除草イベント。無肥料・農薬不使用です。水田には雑草がたくさん生えます。
仁井田本家は、多くの人が田んぼに集まって関わることのできる機会を定期的に催しています。

ROを指針として推進することと、認証取得を推進することは、また別文脈なのですね。

木村さん:はい。仁井田本家の場合は米づくりだけでなく加工品づくりもおこなっていますし、パタゴニア プロビジョンズの製品のなかで「RO認証米を原料としたRO認証日本酒」として取り扱うことを決めていましたので、ブランド主導型、かつサプライチェーン全体で取り組んでいくという意義があります。しかしお米をつくってそのまま直接消費者に対して販売している生産者、特に小規模事業者などの場合、第三者認証の取得・継続費用を経営的な判断としてどのように捉えていくか、という現実的に複雑な話になります。

そのような観点から、RO認証の取得に関心を持ってくださる方々には、事業経営的に利用するか、しなくてもよいか、そのグラデーションや出口戦略を見定めていただけるといいと思います。

ビジネスを営む者の強みを活かして故郷である地球を救うことを目指す

そして、これまでは畑地をメインに定められていたRO認証制度に、2025年7月、水田稲作ガイドラインが策定されました。これには、木村さんたちのご尽力もあったそうですね。

木村さん:私たちは長らく、水田稲作ガイドラインが必要だということを訴え続けていました。新たに策定されたガイドラインはグローバルで適用されているもので、陸稲以外の水田での稲作をすべて賄います。日本でメジャーな灌漑水田だけでなく、雨水や雪解け水を利用する天水田、浮稲なども網羅したものです。

今後、日本では農業人口が減っていくといわれるなかで耕作放棄地も増える傾向にありますが、二次的自然として放棄されていく農地ほど生物多様性が高いんです。そういう場所こそ水田のまま、有機農法かそうでないか以前の議論として、管理し、保全していくことが重要という局面がすでに発生しています。

水田は畑地と異なり、多面的機能が多くあるので、水田を水田のまま維持し続けることに価値があるんです。これは私の考えですが、生産者が水田を維持することが時代に合わせて適切に評価されて、何らかの報酬がともなうような仕組みをつくることが、ひとつの目指せる方向だと思います。

多くの人は、農業が地球や社会や人を救う可能性のある大きな解決策であることや、それを実現するためにパタゴニアがROのような取り組みをしていることはご存知ないので、誰でも参加できるカンファレンスを1年に1度は開いたり、製品にストーリーを載せて認知してもらえるよう努力したりしています。

仁井田本家の自社田には、野鳥やカエル、ドジョウのほかたくさんの昆虫が生息しており、まさに生きものの宝庫

ROについて、本国アメリカでは認証後の効果測定のようなシステムはできあがっていますか?

木村さん:できあがっていません。というより、それはアライアンスの機能ではない、という言い方になります。

畑地でROの取り組みをおこなえば、その農地に炭素が貯留されますので、カーボンクレジットなどの価値として、アメリカ社会全体ではすでに見出されています。そういったことから、アライアンスではない他の大勢のプレイヤーが、そのような社会エコシステムを構築していると見ています。

今後は日本でもそのような動きになっていくのでしょうか。

木村さん:はい。たとえば仁井田本家がどの程度ネイチャーポジティブに貢献しているのか、測定はアライアンスの管轄ではありませんが、パタゴニアはプロダクトを持って販売をしているので、それらを調査して評価の手法をつくるということは、役割として可能だと思います。

むしろ認証制度の社会的な意義からすると、今後はそれらを開拓していくことが極めて重要だと思っているんです。リジェネラティブという言葉には「環境再生型」という言葉が充てられることが多いですが、仮に日本酒やお米を購入すると植物や昆虫、野鳥を何匹保全できる、サプライチェーン全体で評価したときに何トン程度のCO2が吸収できる、あるいはできない、といったように、どの点で環境再生しているのか、しうるのかという実績を検証しなくてはならない性質があります。そのあたりは可視化していく流れになると思います。

RO認証自体は実践の管理方法に基づいていますので、理想とするような結果がついてきてもこなくても、管理をしたことに対して認証されるんです。つまり行為ベースの評価なのですが、それに取り組んだ結果、社会にとっての公益性や、生物多様性の回復といった非営利の付加価値を生み出しているか、ということを、なんとか生態学的に評価して社会経済的な評価をつけたいというのが、これから日本で起こそうとしているROをツールとしたアクションです。

環境を再生する農業が営まれていれば、生態学的・経済的な評価に基づいて社会がそれらの取り組みを公正に支え、合理的にその動きが押し進められる流れをつくれるのが理想で、そのような状況では当然RO認証を取得している生産者たちはきちんとフォローされるはずです。まだそのようなビジョンは実現できていませんが、パタゴニアもその機運を高めることに貢献できるかなと思います。

左:木村純平さん 
右:やまもりというネーミングには「山を守り水を守る」「自然酒ならではの芳醇な味わいや楽しみ方も多様で山盛り」とのメッセージが込められています。

RO認証制度を踏まえて、パタゴニアがこれから目指す理想的な未来というのは、どのようなものですか?

木村さん:繰り返しになりますが、国内すべての水田管理や畑地管理にROを採用できたら、どれだけ気候変動の緩和や生物多様性に貢献できるのか。そして、それが私たちの暮らしや日本社会にどのような豊かな将来ビジョンを描くか。その、未来へのワクワクを示すことが重要だと思っています。

いま、国内でもリジェネラティブという言葉が盛んに使われていますが、農業の特定の管理方法などに特化して話すと、社会全体としていいビジョンを描くまでの道のりが果てしないのです。たとえば剪定枝や未利用材を燃やして炭にして、土壌に還元すると炭素貯留できるため、緩和に貢献できます。しかし、日本の生産者は100万人ほどしかいないこともあり、農業分野の外にいる大勢の国民が農業現場でのその詳細や意義を理解し支えることは、簡単なことではありません。

パタゴニアの強みは、ビジネスを営む企業であるからこそ、RO農業のような取り組みを提示しながら、多くの消費者や企業に広くアプローチできる点にあります。たとえば酒蔵や、陳列棚を持つショップなど、さまざまなパートナーに対して、次のステップへと進むための豊かな未来のビジョンを提案するだけでなく、それを具体的な形として示すことができる。その点こそが、今後ますます重要になっていくと考えています。

パタゴニアは長年にわたり、自分たちの製品をよりよいものへと進化させながら、その時代における最善を目指して歩みを進めてきました。食品においても、ビジネスとして製品化するだけでなく、認証制度を指針のひとつとしながら環境や社会に向き合うアクティビズムを実践しています。こうした姿勢は、企業としてのパタゴニアのユニークさだと私たちは考えています。

パタゴニアはアクティビズムカンパニーであり、ミッションステートメントに『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む』と掲げています。資本主義のもと、ビジネスが大きな課題や問題を生み出してきた現代だからこそ、私たちはビジネス界に身を置き続け、その内側から責任ある次のステップを探りながら、歩みを進めていきたいと思っています。


この記事は2025年12月15日の取材に基づいています。
(2026年3月16日掲載)

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