酪農の可能性をアップデート─ナカシマファームが描く「ニュー(乳)カルチャー」

取材日2026/2/19、20
対象ナカシマファーム 代表 中島大貴

酪農を基点に、六次化やカフェ運営へと展開

ナカシマファームの事業概要について教えてください。

祖父の代から酪農を営んでおり、私で3代目になります。現在は、農業生産、乳製品の加工・製造、カフェ運営の大きく3つの事業を展開しています。

酪農では、約110頭の牛を飼養しています。また、水田16ヘクタールを活用し、牛の飼料となるお米(飼料用稲)を中心に生産しています。加えて、畑ではデントコーン(飼料用とうもろこし)や大麦も栽培しており、これらは収穫後にロール状に成型・ラッピングし、乳酸発酵させたWCS(ホールクロップサイレージ)として活用しています。

さらに、牧場の近くにはチーズ工房を構え、搾りたての生乳を用いた乳製品の製造・販売を行っています。あわせて、『MILKBREW COFFEE』というカフェを嬉野市内で2店舗運営し、酪農の魅力を幅広く発信しています。

微生物が生きる堆肥を牛の寝床に活用。快適性と臭気低減を両立

牧場についてお伺いします。乾いた草の匂いは感じるものの、牛舎特有の臭いがかなり少ないように感じましたが、その理由は何でしょうか。

ポイントは、牛の寝床に敷いている堆肥にあります。ナカシマファームでは、微生物が豊富に生きている状態の堆肥をつくり、「バイオベッド」として牛の寝床に活用しています。

堆肥の中に多様な微生物が存在することで、悪臭の原因となる菌が過剰に増えるのを抑えることができます。その結果、牛舎特有の強い臭いが発生しにくくなっています。特定の菌で消臭するのではなく、さまざまな菌がバランスよく共存している状態をつくることが重要です。
これは人の腸内環境と同じで、善玉菌と悪玉菌が共存し、そのバランスによって健康が保たれているのと似た仕組みといえます。

牛舎内は、乾いた草の匂いのほか、漬物屋や酒屋のような発酵臭がすると言う人も。

そうした環境づくりには、意識的に取り組まれたのでしょうか。

そうですね。もともとは木くずを敷き、汚れたら交換するという方法をとっていました。ただ、木くずがきれいであればあるほど、糞尿が落ちた際に臭いの発生を抑える存在がいない、という課題がありました。
牧場で菌の状態をコントロールする方法は、大きく分けて「徹底的にきれいにする」か、「多様な菌を共存させる」かのふたつしかありません。ナカシマファームでは後者を選び、微生物が働く環境を整えています。

その結果、夏場でも牛舎内にハエがほとんど発生しません。ハエは本来、糞尿を分解する役割を持っていますが、この牛舎では微生物がその役割を担っているため、ハエが増えにくい環境になっているのです。

乳酸発酵させた栄養豊富な飼料を食べる牛たち。

気候変動という観点から、牛舎の暑熱対策としてどのようなことをしていますか。

堆肥を活用したバイオベッドが、暑熱対策に大きな役割を果たしています。この堆肥ベッドは、年間を通しておよそ20度前後で温度が安定しているのが特徴です。20度という温度は、冬場は保温効果があり、夏場は外気よりも低く保たれるため、牛にとって快適な環境になります。そのため、季節を問わず牛が落ち着いて休むことができています。

ふかふかのバイオベッドの上で快適に過ごしています。

暑熱対策にもなり、臭気の軽減にもつながっているのですね。堆肥はどの程度で入れ替えているのでしょうか。

牛が日々糞尿を排出するため、堆肥は随時入れ替えています。使用した堆肥は牛舎と隣接する堆肥舎に運び、撹拌して発酵を促したうえで、再び牛舎に戻して活用します。

また、この堆肥は田畑にも施用しています。そこで生産された飼料を牛が食べ、再び堆肥として還元されるというように、牛舎と農地のあいだで資源が循環する仕組みになっています。

牛舎内にある堆肥舎。微生物が発酵することで自然と温度が上がるため、機械で掘り起こすと湯気が見られます。

まさにサスティナブルな取り組みですね。ほかに行っている暑熱対策はありますか。

大型ファンの設置に加え、地下水を利用したミスト噴霧を行っています。スイッチを入れると、汲み上げた地下水がミスト状に散布され、牛の体温上昇を抑える仕組みです。

また、牛の体内環境に着目した飼養管理も重要な暑熱対策の一つです。牛には4つの胃があり、その中で最も大きい第一胃は「ルーメン」と呼ばれています。ルーメンには多くの微生物が存在し、草を分解してタンパク質やアミノ酸を生成する、いわば発酵器官です。このため、体内で熱が生じやすく、牛は暑さの影響を受けやすい特徴があります。

そこで、十分な飼料摂取を促し、反芻をしっかり行わせることが重要です。反芻によって分泌される唾液は、ルーメン内の過度な酸性化を防ぎ、微生物のバランスを保つ役割を果たします。
こうした管理により、年間を通してルーメン内の環境を安定させることで、夏場でも体調を崩しにくい牛の育成につなげています。

牛舎の屋根にはいくつもファンが取り付けられています(左)。夏バテが軽減することで、乳量もキープできます(右)。

飼料生産の面で、暑さによる影響はありますか。

現時点では大きな影響はありません。長年にわたり堆肥を施用し、土づくりを続けてきたことで、気象条件などの外的要因に左右されにくい圃場環境が整っていると考えています。夏場のいわゆる「夏枯れ」も見られません。

堆肥を継続的に投入することで、土壌の保水力が高まります。畑は一見乾いているようにみえても、掘ると内部にはしっかりと水分が保たれています。実際に、2週間ほど雨が降らない状況でも、作物の生育に大きな影響は出ていません。

では、六次化やカフェ運営において、夏場の暑さは影響していますか。

暑さは、経済活動にも大きく影響します。特に夏場はホットドリンクの需要が落ち込み、カフェ部門では売上の減少が顕著にみられます。
一方で、カフェの主力商品であるミルクブリューは、暑い時期に需要が高まります。酪農は暑さの影響を受けやすい反面で、カフェ部門では新たな需要が生まれる側面もあります。

このように複数のメニューを展開することで、一部の売上が落ち込んだ場合でも他の商品で補うことができる体制を整えています。気候条件の変化に対して、商品構成の面からリスクを分散する考え方です。

MILKBREW COFFEE 塩田津本店。歴史的建造物が建ち並ぶエリアで、築100年以上の蔵をリノベーションして生まれました(左)。嬉野産のお茶を使ったミルクブリューティーとブラウンチーズを使ったケーキ(右)。

誰もやっていないことに取り組み、世の中を変えるきっかけに

中島さんは適応だけでなく、緩和にも目を向けられています。カフェで使われているカップやストローについて教えてください。

カフェでは、生分解性プラスチックを使用したカップやストローを採用しています。植物性由来の素材を用いたもので、焼却時の環境負荷が低く、さらに牛舎の堆肥に投入することで微生物によって分解されます。

カフェを運営している理由のひとつに、「酪農の拡張」という考え方があります。例えば、生ごみは多くの水分を含むため、焼却には大きなエネルギーを要します。しかし、地域内に牧場があれば、それらを資源として分解・循環させることが可能になります。仮に半径10キロ圏内に牧場があり、それが地域の資源循環の拠点として機能すれば、生ごみは牧場で処理できる可能性があります。

実現には多くの課題がありますが、まずは牧場と地域の接点をつくることが重要だと考えています。その接点を魅力あるかたちで展開していくための取り組みの一つが、堆肥で分解可能な資材の導入です。

分解されるためには、40〜50度の温度と、たくさんの微生物が必須。

独自の視点による環境配慮に加え、臭気の少ない牛舎づくりや、牛の快適性を高める工夫、さらには六次化やカフェ運営など、新たな取り組みを進める意義についてどのようにお考えですか。

例えば、私自身も過去に放牧に取り組みたいと考えたことはありました。しかし、すでに多くの実践事例がある中で、同じことを行うだけでは、自分が取り組む意義は小さいのではないかと感じました。

ナカシマファームでは、「ニュー(乳)カルチャー」という理念を掲げ、酪農から新しい文化を生み出すことを目指しています。誰かが新たな取り組みを始めることで選択肢が広がり、後に続く人が生まれる。その積み重ねが、社会の変化につながっていくと考えています。

MILKBREW COFFEE 嬉野温泉駅前店

自分が取り組む意義を見いだしたものについては、他の人も実践できる「フォーマット」として展開することを意識しています。ミルクブリューも商標登録はしていますが、誰もが活用できる形にしています。こうした取り組みは牛乳の消費拡大にもつながると考えており、その効果については常に意識しています。

こうした一つひとつの取り組みがきっかけとなり、社会が変わっていく可能性があります。私たちが、その変化の起点となる存在になれたらと考えています。

この記事は2026年2月19日、20日の取材に基づいています。
(2026年5月28日掲載)

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