
| 取材日 | 2026/5/12 |
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| 対象 | 東京都水道局 水源管理事務所 千葉徹也 |
荒廃した水源地に、木を植えるところから始まった
東京都水道局による水道水源林の管理は、どのような背景から始まったのでしょうか。
東京の水源である多摩川の源流は山梨県にあります。ここに降った雨や雪解け水が、100キロ以上の距離を流れ、都民の暮らしを支えています。
しかし明治時代の後期には、雨が降らないと川の水量が減ったり、大雨が降るとたびたび濁り水が発生したりと、水道水にも影響が出ていました。調査したところ、上流域は荒廃し、ほとんど木が生えていない裸山のような状態だったそうです。洪水も多く、雨が降れば土砂が川へ流れ込み、山肌が少しずつ削られて、各所に山崩れも起きていました。
そこで当時の東京府は「このままではいけない」と森林の管理に乗り出し、1901年から水道水源林の管理を始めました。現在は、森林が持つさまざまな機能を生かしながら、都民の水道水の水源となる多摩川の安定した流量の確保と、上流にある小河内ダムの保全を目的に管理を続けています。今年で126年目です。

どのように管理を始めたのでしょうか。
最初は裸山になっていた場所に木を植えることから始めました。苗木を一本一本、人の手で山へ運び、植えていく。その繰り返しです。植栽を始めて30年ほど経った写真を見ると、当時植えた木々がしっかり育ち、誰が見ても森だと思えるような状態になっています。

現在、東京都水道局が管理している水道水源林は、どのくらいの規模なのでしょうか。
多摩川上流域の森林は約4万5000ヘクタールあり、そのうちおよそ半分の約2万6000ヘクタールを東京都水道局が管理しています。水道水源林の約4割は東京都、約6割は山梨県にあり、奥多摩町、丹波山村、小菅村、甲州市に分布しています。
管理は当初、奥多摩町の一部と小菅村及び丹波山村から始まり、その後徐々に範囲を広げ、1950年頃までに現在の管理区域に近い形となりました。現在も管理が難しくなった民有林を取得し、水源林として管理しています。

100年かけて受け継がれてきた森づくりの知恵
水道水源林は、どのように管理されているのでしょうか。
森林の種類に応じて、管理方法を分けています。現在、水道水源林のおよそ7割が天然林、3割が人工林です。
天然林は原則として自然の推移に委ねます。その土地に最も適した森林へと移り変わっていくよう見守ることが基本で、シカによる食害や大規模な崩壊地がないかなどを定期的に確認し、必要に応じて対策を講じています。木々を育てるために積極的に人の手を加えることはありません。
一方、人工林は「複層林更新型」と「天然林誘導型」の2つに分けて管理しています。

複層林更新型では、上層木と下層木等からなる複層構造の森林を育てます。一定の木を残して伐採することで、裸山にすることなく世代交代を進める方法です。木の生育が良く、木材を搬出しやすい場所で行われ、伐採後には苗木を植えて森を更新します。木材生産を目的としているわけではないため、自然に生えてきた広葉樹も残しながら管理しています。
もうひとつの天然林誘導型は、植えた木を間伐しながら、周囲から自然に広葉樹が入り込むのを待ち、多様な樹種・樹齢で構成される天然林に近い森林へと育てていく方法です。人工林の約9割をこの手法で管理しています。

複層林では、どのような木を育てているのでしょうか。
1901年に水源林の管理が始まって以来、どこに、いつ、なんの木を植えたのかということを記録しています。この場所では、1914年にカラマツ、5年後の1919年にヒノキが植えられました。その後、間伐や枝打ちを繰り返しながら育て、1999年には一部を伐採。2001年には空いた場所へ新たな苗木を植え、世代交代を進めています。
あの背の高い木がカラマツです。樹皮がゴツゴツしているのが特徴で、1914年に植えられた木が今も残っています。

100年以上前に植えられた木が、今も残っているのですね。
この辺りは冬の寒さが非常に厳しく、気温はマイナス10度まで下がることもあります。平均気温は札幌とほぼ同じです。
実は当初、この地域にはヒノキを一斉に植えたのですが、多くが枯れてしまいました。ヒノキは比較的寒さには強いものの、この地域の厳しい寒さや強い風には耐えられなかったようです。そこで先人たちが考えたのが、より寒さに強いカラマツを先に植える方法でした。北海道や長野などに多く生育するカラマツを植え、5年ほどかけて風当たりを和らげた後、その環境にヒノキを植えたところ、無事に育ったのです。まさに、先人の知恵ですね。
その後も間伐を繰り返しながら第一世代のカラマツとヒノキを育て、収穫後には次の世代の苗木を植えてきました。よく見ると、上の木と下の木が二層になっている様子がわかります。

水を育み、未来へつなぐ水源林づくり
水道水源林には、どのような役割があるのでしょうか。
森林の大きな役割のひとつが、水源涵養です。健康な森では、落ち葉などを分解する微生物の働きなどによって、小さな隙間の多い保水力の高い土壌がつくられます。森に降った雨は、この土壌を通って地中に浸透・貯留され、雨が降らない時期でも少しずつ川へ流れ出します。この働きから、森林は「緑のダム」とも呼ばれています。
もうひとつの役割が、土砂流出の防止です。枝葉や草、落ち葉がクッションとなって雨が直接地面を打ちつけるのを防ぎ、さらに土壌が雨水を素早く浸透させることで土砂の流出を抑えます。樹木の根が地面を支えることも、土砂災害の防止につながっています。
さらに、雨水が土壌を通る過程で不純物がろ過され、水質が浄化されます。森づくりは水を育むだけでなく、地球温暖化の緩和や生物多様性の保全にも貢献しているのです。水道水源林の一部は「水源地ふれあいのみち」として整備され、登山や散策を楽しめる場所としても親しまれています。

なかでも「水干ゾーン」は、往復4〜5時間をかけてじっくりと多摩川の源流を探訪できるコース。

ここから約138kmもの長い旅を経て、東京湾に流れ込みます。

右:東京都心で見る多摩川の風景。
近年、気候変動による影響を感じることはありますか。
直接的な影響かどうかは断定できませんが、近年はナラ枯れが発生しています。キクイムシが媒介する病気で、もともとは九州地方を中心に見られたものですが、発生域が全国へ広がっています。害虫を捕食する野鳥を増やすため巣箱を設置するなどの対策を行っていますが、抜本的な防御は難しいのが現状です。また、病気で倒木の恐れがある木は、登山者の安全のため速やかに撤去しています。
一方で、シカの増加も課題です。食害によって若い木が育たなくなるため、防護ネットや柵の設置、市町村と連携した捕獲などの対策を進めています。
それと、私自身も山に入る機会が多いので実感としてですが、近年は雨の降り方が極端になってきたと感じます。それでも、大きな土砂災害が発生していないのは、長年にわたり森を手入れしてきた成果のひとつだと思います。

右:木に直接巻きつける防護ネット。
今後、どのような森づくりを目指していきますか。
今後はICTを積極的に活用し、管理を進めていきたいと考えています。例えば、立ち入りが難しい場所はドローンで調査したり、リモートセンシング技術を活用して森林資源を把握したりするなど、新しい技術を取り入れています。
また、今年度から「第12次水道水源林管理計画」がスタートしました。これまでの取り組みを踏まえながら、次の100年を見据えた水源林づくりを進めていきます。
さらに、「みんなでつくる水源の森プロジェクト」にも取り組んでいます。都民や企業の皆さんと連携しながら森づくりを進め、水源林の大切さをより多くの方に知っていただければと思っています。

この記事は2026年5月12日の取材に基づいています。
(2026年8月3日掲載)