暑さに負けない水稲栽培技術の普及
| 掲載日 | 2026年5月18日 |
|---|---|
| 分野 | 農業・林業・水産業 |
| 地域名 | 関東(茨城県) |
気候変動による影響
近年、夏の暑さが米の品質に影響を与えています。
茨城県における令和7年産水稲の作況単収指数(注)は98(北部・鹿行97、南部・西部99)でした。一方で、水稲の中でも主食用となるうるち米の1等米比率を見ると54.9%にとどまりました。その内訳として、「コシヒカリ」の1等米比率は46.1%となり、令和5年、令和6年に続き、夏期の高温多照により白未熟粒が多発した平成22年産(コシヒカリの1等米比率80.9%)よりも玄米品質が低下する結果となっています。
また、白未熟粒だけでなく、斑点米カメムシ類の発生(7月上旬)が過去11年間で2番目の多い状況で、防除の不備等で、被害が集中する事例や、水分ストレスが発生を助長するくさび米(黒点米)、刈り遅れで発生が増えるヤケ米などにより、着色粒の被害も多くなりました。
水稲の定点観測圃場(県内33地点)の調査結果から見た「コシヒカリ」の令和7年産の作柄は、①草丈は生育中盤から平年(過去10年平均値)より1割程度高く、茎数は初期分げつが緩慢で最高分げつ期は平年より1割程度少なく推移したものの、穂数は概ね平年並、②収量は県平均で平年比99という結果となりました。
取り組み
茨城県では、水稲の高温対策技術の普及を目的に、令和7年度「暑さに負けない米づくり」チラシを作成し、以下の詳細な解説とあわせてウェブページで公開しています(図1)。
1. 高温対策の基本技術
- 品種の組み合わせによる高温リスクの回避
(課題)
熟期が同じ品種の作付けが多いと、同時期に出穂するため、高温の年では全体の品質が低下してしまうリスクがあります。
(対策)
熟期の異なる早生や晩生品種を組み合わせたり、早生や晩生に飼料用米や米粉用米などの新規需要米を組み合わせることでリスク分散とともに需要に応じた生産も可能です。
- 早めの中干しで茎数を抑える
(課題)
白未熟粒の中には、高温によるものと、籾数過剰や日照不足といった養分競合によるものが存在します。
(対策)
適切な時期の中干しによる茎数制御により、籾数を適度に制限することが重要です。中干しは、目標とする穂数の8割が確保できた時点で行います。「コシヒカリ」の高品質生産の目標穂数が400本/㎡ですので、1株当たり18本程度が確保できた時点で開始しましょう。中干しの程度は、田面に軽くヒビが入る程度とし、土ぼこりが舞うほどの中干しは控えましょう。
- 出穂後は間断かんがいで乳白粒の発生軽減
(課題)
出穂後の水稲は、根が生理的に弱く、適切な管理が必要です。
(対策)
間断かんがいなどの積極的な水管理で酸素を送り込み、根の活力を維持する必要があります。間断かんがいは、概ね2日間湛水状態を維持し、1日間落水状態を保つ水管理方法ですが、圃場によって条件が異なることから、自然落水後は、田面が乾く前に入水(指で触ると湿り気を感じる程度)という目安で行うようにしましょう。
- 適期収穫で胴割抑制。籾の色で判断!
(課題)
近年は、収穫期の刈遅れや乾燥時の高温により、胴割米の発生が懸念されています。
(対策)
「コシヒカリ」の収穫開始の目安は帯緑籾率(緑色の籾の割合)が10%程度ですので、籾の状態を確認して適期に行うようにしましょう。また、収穫する品種の後半の作業が刈遅れにならないよう、全体の刈取りを3日程度早めに開始することも効果的です。
また、急激な高温乾燥は、玄米の外側と内側の水分差が大きくなり、亀裂の原因になるため、二段乾燥法も有効です。二段乾燥法が難しい場合は、乾減率0.8%以下、穀温40℃以下を目安に乾燥を行いましょう。
- 足元から改善!堆肥の施用と耕深の確保
(課題)
根に対しては、活力維持や適切な養分供給が必要です。
(対策)
養分補給等には、堆肥の活用や深耕が有効です。堆肥の中でも、牛ふん堆肥は土壌改良効果が高いことから、乾田では1t/10a、湿田では0.5t/10aを目安に積極的に施用しましょう。また、作土が浅くなると根の張れる範囲が狭くなり、それだけ栄養分の吸収も限られます。意識的に15cm以上の深耕を行い、根の健全化を図ることが、白未熟粒の低減につながります。
2. 高温対策としての実肥
出穂期ごろの葉色が淡くなりすぎると、白未熟粒の発生を助長します。 低タンパクを目指した良食味栽培や登熟期の一発肥料の肥効切れが、高温による品質の低下を助長している可能性がありますので、出穂頃の葉色が淡いと予想される場合は窒素1kg/10a程度の実肥を行いましょう。
3. 高温耐性品種の導入
茨城県では、高温耐性を有する奨励品種として、「ふくまるSL」および「にじのきらめき」、認定品種として「一番星」を指定しています。いずれの品種も県西地域などで問題となっている「イネ縞葉枯病」抵抗性も有しており、病害と高温の複合的なリスクに対応可能です。
これらの高温耐性品種は、昨年の高温下においても「コシヒカリ」よりも品質の低下が抑えられていました(図2)。具体的には、令和7年産の「コシヒカリ」の1等米比率が46.1%であった一方で、「一番星」で76.4%、「ふくまるSL」で80.1%、「にじのきらめき」で62.7%という結果でした(農林水産省公表「米穀の農産物検査結果」より令和8年3月31日現在のデータを引用)。
4. 病害虫の防除
近年は、暖冬による越冬成虫の増加や夏季の高温・多湿条件によって病害虫被害の増加が懸念されています。水稲では、斑点米カメムシ類や紋枯病等の被害が県内で増加傾向にあります。中でも近年増加している「イネカメムシ」は、畦畔を経由せず直接水田に飛来する特徴があるため、従来の草刈りだけでなく、水田内の発生状況を確認した適切な本田防除(薬剤散布)が重要となります。また、適切な薬剤散布のためには、病害虫の発生状況を確認し、適切な時期、適切な薬剤の選択が重要です。茨城県では、農業総合センター病害虫防除所より病害虫発生予察情報を公表しており、病害虫の発生状況や防除方法についてホームページから確認することができます。
効果/期待される効果等
高温耐性品種の導入等の対策は、すでに顕著な効果を上げています。 記録的な猛暑となった令和7年産においても、従来の「コシヒカリ」の1等米比率が半数を割る中、高温耐性品種(「ふくまるSL」等)はいずれも高い1等米比率を維持しました。これらの品種への転換と、基本技術(適期の中干しや水管理等)の徹底を組み合わせることで、気候変動下でも安定して高品質な米生産が可能になることが実証されています。
また茨城県や関連組織のウェブサイトでは、水稲の高温障害対策について詳しく紹介しています。

(出典:茨城県、JAグループ茨城「暑さに負けない米づくり対策」(令和8年2月版))

(出典:茨城県ウェブページ「水稲の高温対策技術」(令和8年5月8日))
脚注
(注)作況単収指数は、収穫量全体の多少ではなく、10a当たり収量の前年産までの5か年中3年平均(最高、最低除く)に対する10a当たり収量の比率である。平成27年産から令和元年産までの作況単収指数は1.70mmのふるい目幅で選別された玄米を基に算出し、令和2年産以降の作況単収指数は、農家の実感を踏まえ、都道府県ごとに、最も多くの生産者が使用しているふるい目幅で選別された玄米を基に算出した数値である。
出典・関連情報
- 茨城県ウェブページ「水稲の高温対策技術」(令和8年5月8日)
- (公社)茨城県農林振興公社ウェブページ「機関誌「穀物改良」第299号(2026.4月号)」記事「令和7年産水稲の作柄と8年産に向けた対策」(2026年4月1日)
- 茨城県ウェブページ「水稲高温障害対策としての水田の土壌管理」(2024年10月1日)
- 茨城県農業総合センター生物工学研究所「イネ縞葉枯病抵抗性品種「ふくまるSL」の育成」
- 農林水産省ウェブサイト「作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」
- 農林水産省「令和7年産米の農産物検査結果(速報値)(令和8年3月31日現在) 」(令和8年4月30日)
- 農林水産省「水稲収穫量調査の新たな調査手法の導入等に係る検討会 第1回(令和8年4月24日)配布資料【資料4】作況単収指数について」