西条市の「うちぬき」を守るための地下水管理
| 掲載日 | 2026年6月10日 |
|---|---|
| 分野 | 水環境・水資源 / 農業、森林・林業、水産業 / 産業・経済活動 |
| 地域名 | 中国四国(愛媛県) |
気候変動による影響
愛媛県西条市の西条平野部に広がる豊かな地下水は、加茂川からの浸透(伏没(注1)) が重要な涵養源となっています。しかし、近年の気候変動による降雨パターンの変化により、少雨時には河川水が途切れる「瀬切れ」が発生しています。特に、農業用水の利用が増えるかんがい期に少雨が重なると、加茂川の流量低下に伴い地下水への涵養量が減少するおそれがあります。地下水位が急激に低下すると、地下水が海水を押し返す力が弱まり、内陸部への海水侵入を招く可能性があります。一度塩水化した地下水の水質を回復させることは極めて困難であり、生活や産業を支える基盤に深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。
また、地下水位の低下により、地域の暮らしや文化を支えてきた「うちぬき(注2)」の自噴(図1)が一部で停止する事態も確認されています。
取り組み
西条市は、西条平野部の地下水の水位維持と塩水化防止のため、かんがい期に長瀬地点(注3)で毎秒5.0㎥以上の流量が必要であるという調査結果を踏まえ(図2)、2017年に地下水を市民共有の財産として「地域公水」と位置付けた「西条市地下水保全管理計画」を策定しました。さらに、市は2018年に市民・事業者・行政が連携する「西条市地下水保全協議会(注4)」を設立しました(図3)。
市は、地下水の過剰利用や汚染を防ぐため、2023年に従来の条例を全面改正し、許可制の導入や「育水」の考え方(注5)を取り入れた新たな地下水保全条例を施行しました。これにより、規制対象を従来の一部地域から合併後の市域全体へと拡大するとともに一定規模以上の地下水採取に加え、地下水の水質や水量に影響を及ぼすおそれのある対象事業の実施についても許可制としました。また、有害物質を取り扱う事業場の設置や、地下5mを超える地下工事について、届出や事前協議、必要に応じた周辺住民への事前説明、影響調査を求めるなど、地下水の保全に向けた手続きを強化しています。
普及啓発の面では、市は「育水」の考え方も踏まえ、市のバーチャルミュージアム「水の歴史館」内に地下水位をリアルタイムに確認できるサイトを整備しました(図4)。さらに、2023年度に全4回の市民参加型のワークショップを開催し、参加者が地下水について学びながら自分たちにもできるSNS等を通じた「育水」の情報発信の方法を議論しました。参加者が執筆した記事は市のホームページに掲載されており、情報の受け手である市民が発信者となる新たな普及啓発の取り組みとなっています。 さらに、市は地下水の状況を継続的に把握するためのモニタリングを実施しています。市内23カ所の観測地点で地下水位を24時間体制で観測するとともに、市内約70地点で定期的に水質調査を行っています。これらの結果は「地下水年報」として公表されており、地下水の状況を市民や関係者と共有しながら、長期的な保全施策の検討や改善に活用されています(図5)。
効果/期待される効果等
「西条市地下水保全管理計画」により、市民・事業者・行政が一体となって地下水を守る合意形成の枠組みが整備され、「うちぬき」を通じて育まれてきた水との関わりや暮らしのあり方、いわゆる「うちぬき文化」を継承するための基盤が構築されています。
また、協議会活動を通じて、市民への地下水に関する情報提供や普及啓発が進展しており、例えば、「水の歴史館」での地下水位のリアルタイム表示や普及啓発パンフレットの作成など、地下水の状況を身近に把握できる環境整備が進む中で、参画する多様な主体の当事者意識が醸成されています。
降水量の少ない時期に一部地域で「うちぬき」の自噴が止まる場合はあるものの、深刻な渇水には至っていません。水質は、2024年度時点で塩化物イオン濃度が高い沿岸地域の1地点を除き、すべての地点で飲用基準を満たしています。
こうした科学的な状況把握と条例・協議会による適正利用の取り組みは、気候変動による降水変動や渇水リスクを見据え、地域の水利用を将来にわたって維持していくための重要な基盤となっています。

(出典:国立環境研究所(2025年度委託業務、2026年2月9日撮影))

(出典:西条市, 西条市地下水保全管理計画(2017年8月))

(出典:西条市, 西条市地下水保全管理計画(2017年8月))

(出典:西条市, 神拝小学校の地下水位確認サイト)

図5 長瀬流量と長瀬流量と地下水位(神拝小学校観測井)との関係(2023年)
(出典:西条市、環境政策課, 2024年版 地下水年報)
脚注
(注1)水がしみ込みやすい土地を川が流れると、水が地中にもぐりこんで流れること。玉石の多い扇状地のように水を通しやすい土地を流れると、その区間だけ川の水が減ったり、水が無くなったりすることがある。
(注2)鋼管を15mから30mほど打ち込むだけで湧き出る自噴水のこと。
(注3)長瀬地点は、西条工水取水堰と神戸橘土地改良区取水堰の間にあり、その流量は、西条平野の地下水収支を推し測る重要な流量とされ、長年観測されてきた。
(注4)本協議会は、地下水保全に関係する多様な主体が参画し、地下水の現状や課題を共有しながら対策を検討する場として位置付けられている。これまでに14回開催され、地下水の塩水化状況の報告や市民ワークショップの成果の共有など、実効性のある議論が重ねられてきた。構成員は市民を中心に、自治会や婦人会、地元高校生など幅広い世代が参加しているほか、JA、漁業協同組合、土地改良区、商工会議所、企業なども参画し、外部専門家が学術的助言を行っている。
(注5)うちぬき文化を継承し、健全な水循環の理念の下に地下水を量及び質の 両面で育てながら使う持続可能な地下水利用の考え方。
出典・関連情報