地下水位低下の危機を乗り越えた大野市の水循環の取組

掲載日2026年6月19日
分野水環境・水資源 / 自然生態系 /農業・林業・水産業
地域名中部(福井県)

気候変動による影響

福井県大野市では、1977年から2024年までの観測により、平均気温・最高気温・最低気温はいずれも上昇傾向にあり、地下水温の上昇や蒸発散量の増加が生じ、降水パターンの変化や雪解け時期の早期化による涵養量の変動が想定されています。また、湧水環境に依存するイトヨなどの生態系への影響も懸念されており、水資源と地域の自然環境の両面でリスクが高まっています。

取り組み

大野市の水循環保全の取組は、1970年代に地下水の汲み上げ増加によって約1,000件の井戸枯れが発生し(注)、市民の地下水保全意識が高まったことを背景に始まりました。その後、取組には市民・行政・企業・団体など多様な主体が関わりながら、地下水の観測、涵養対策、危機時の対応体制の整備などが段階的に進められてきました。

①住民による地下水保全に関する活動

住民は、市内各所で観測井の地下水位を定期的に測定する「手計り」の取組を長年継続してきました。その水位を示す看板がまちなかに設置されている光景は、同市ならではの特徴です(図1)。近年は担い手の高齢化が進むことから観測の一部では、デジタル計測機器の導入が進められています。
また、市が2000年に企業の寄付金を基に創設した「大野市地下水保全基金」は、地下水の保全に関する啓発活動及び調査研究事業、合理的利用のための施設整備支援事業、地下水涵養対策事業に活用されています。
さらに、イトヨの保全活動は、冷たく清らかな湧水を必要とするイトヨの生息状況が地下水環境の健全性を示すことから、地下水保全を象徴する取組となっています。「本願清水イトヨの里」では中学生による保全活動が2023年に発足するなど、次世代への継承も進められています。

②科学的検証を踏まえた地下水涵養の取組

市は「大野市水循環基本計画」に基づき、地下水位の維持・回復を目的とした実効性のある施策を進めてきました。その中核となるのが、地下水涵養域での非作付け期の水田に水を張る冬期水田湛水です。
農家に対しては、水田湛水が地力を損なわず、収量の維持・向上にもつながることを科学的エビデンスに基づいて示し、取組への協力を得ています。
また、市では、過去の井戸枯れの経験を踏まえ、地下水保全条例を制定し、市街地での冬期における融雪のための地下水利用を禁止しており、重要な取組となっています。

③地下水位低下に備えた危機対応計画の整備

2021年、少雨の影響により地下水位が低下し、市内で48件の井戸枯れが発生しました。市では、これを将来起こり得る同様の事態に備える契機と捉え、春日公園観測井の地下水位を基準に、過去最低水位を記録するまでの経過や当時の対応を整理し、2022年に「地下水位低下対応計画」を策定・公表しています(図2)。
この計画では、2021年の極端な少雨(10月1日から12月15日まで)をモデルケース(想定期間)とし、地下水位の状況を平常時・低下時・異常低下時の3段階に区分して対応を整理しています。例えば、低下時には地下水注意報・警報の発令や庁舎等での節水強化、修景施設等の揚水停止措置を実施します。さらに異常低下時には、井戸枯れ対策連絡室の設置や広報車による節水呼びかけ、臨時給水所や給水車での給水の実施を行うこととしています。
本計画は、あらかじめ各機関が取り得る行動を明示したものであり、実際の対応は状況に応じて協議・決定される仕組みとなっています。

効果/期待される効果等

湧水池の地下水位観測の一部では、デジタル計測機器の導入を進めることにより、地下水位を常時監視することが可能となり、取得した詳細データを調査研究の推進に活用することが期待されます。 冬期水田湛水の取組は、1978年に約5haの面積から開始され、2009年に約30ha、2021年には約40haまで広がっており、地下水位低下の抑制に寄与しています。

「手計り」による地下水位掲示板の掲示の更新
図1 「手計り」による地下水位掲示板の掲示の更新
(出典:大野市ウェブサイト「地下水位」
地下水位低下対応計画のシナリオ
図2 地下水位低下対応計画のシナリオ
(出典:大野市 環境・水循環課「大野市地下水位低下対応計画(令和4年11月)」 )

脚注
(注)市では1971~1984年にかけて、降雪時の融雪のために地下水が一斉に揚水されたことにより、地下水位が短時間で急激に低下し、市街地南部を中心に大規模な井戸枯れが発生した。特に地下水位が低下する冬期に利用が集中したことで、井戸の深さや揚水能力を下回る水位まで低下したことが主な要因とされる。

出典・関連情報

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