| 掲載日 | 2026年9月8日 |
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| 分野 | 健康 / 国民生活・都市生活 |
| 地域名 | 全国/近畿(和歌山県) |
気候変動による影響
地球温暖化やヒートアイランド現象の進行に伴い、夏季における猛暑の深刻化・長期化が顕著となっています。これに伴い熱中症による救急搬送者数や死者数が増加しており、国民の健康や都市生活における安全確保が重要な課題となっています。 従来の熱中症対策は、水分や塩分の補給といった対症療法が主流でした。しかし、深刻な酷暑環境下では水分補給を行っていても発生する熱中症が存在し、細胞や身体機能を内側から補強して熱耐性を高める根本的な予防・適応策が求められていました。
取り組み
東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科の加藤和則教授らは、ハッサク等の果皮に含まれる「オーラプテン」(図1)が熱中症対策に有効であることを見出しました。そして、ハッサクの主要産地である和歌山県紀の川市を中心とした産官学金連携組織である「ハッサクプロジェクト」を立ち上げ、社会実装に向けた取り組みを開始しました。
①科学的知見の発見
加藤教授を中心とする研究グループは、暑熱ストレスによる血管内皮細胞のダメージが体液調整機能低下を引き起こすメカニズムに着目しました。研究の結果、ハッサクなどの柑橘類果皮に含まれるオーラプテンが、暑熱下での血管内皮細胞の死滅を抑制し、耐熱性分子Hsp70(注)の発現や脂肪酸代謝を促して暑熱耐性血管内皮細胞を誘導することにより血管が補強されることを発見しました(図2)。そして、「熱中症の予防、軽減及び/又は治療のための組成物」として特許を取得しました(特許第6557893号)。
②産官学連携の体制構築
この科学的知見を基盤として、2021年に東洋大学、和歌山県(工業技術センター)、紀の川市、民間企業(TOPPAN)、地域金融機関(紀陽銀行)、および東洋大学発ベンチャー(株式会社和環)が連携し、地域創生産官学連携事業として「ハッサクプロジェクト」を発足しました。行政や地元の農産加工場と連携した原料供給体制および研究開発プラットフォーム(農林水産省「知の集積と活用の場」等)を構築して活動を推進しています。
③社会還元と商品開発
プロジェクトでは、十分に活用されず廃棄されていたハッサク果皮から効率的にオーラプテンを抽出する技術を開発しました。それをもとに、熱や油に強く食品加工しやすい特性を活かし、「塩はっさく飴」や「はっさく羊羹」、ドリンク、ゼリー飲料、サプリメントなどを共同開発し、屋内外作業者やアスリート、高齢者等が日常的に摂取しやすい商品として全国へ展開しています(図3)。
効果/期待される効果等
本取り組みは、気候変動に対する健康リスクの低減と地域創生を同時に実現する、農商工・学官連携による持続可能な適応策のモデルとして期待されています。
①新たな熱中症予防対策の提案
蒸し暑い環境下での運動臨床試験(ランダム化二重盲検比較試験)を通じて、オーラプテンの事前摂取により運動後の脱水症状の改善(血清浸透圧と血漿変化率で評価)を確認しました。あわせて、暑熱環境下における主観的な「暑さ感」や「口渇感」の軽減効果も示されています(図4)。
これにより、「水分・塩分を補う」従来の対策に「血管を内側から保護し体液保持能力を高める」アプローチを掛け合わせた、新たな熱中症適応策として広く展開が期待されます。
②地方のハッサク農家の支援と産業の活性化
主要産地である和歌山県では、ハッサクの消費量低迷や農家の高齢化・後継者不足が進んでいます。また、未利用の農産資源を活用した地域持続可能性の向上も同時に求められていました。 このような課題に対して、未利用資源であったハッサク果皮を高付加価値な機能性原料としてアップサイクルすることにより、柑橘農家の所得向上や地域産業の活性化に貢献して行きます。

(出典:ハッサクシンポジウム(2026年3月9日)でのプレゼン資料(東洋大学 加藤教授))

(出典:オリンピック・パラリンピック特別研究助成制度成果報告会(東洋大学)「アスリートを対象とした暑熱ストレス応答の可視化とストレス・コーピング方法の開発」最終報告会資料(2021年12月1日) )

(出典:食品開発展(2025年10月17日~19日、東京ビッグサイト)東洋大学 撮影)

(出典:実験結果をもとに東洋大学にて作成 )
脚注
(注)Hsp70:熱ショックタンパク質のひとつ。熱刺激や運動、酸化ストレスなどで構造が崩れたタンパク質を正しく修復する働きがあります。細胞がストレスを感知した際に自律的に生み出され、熱に対する耐性や生存率を高める重要な役割を担っています。