インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

森林生態系

自然生態系分野|陸域生態系|⾃然林・⼆次林
協力:国立研究開発法人 森林研究・整備機構

影響の要因

気温上昇により、生物の分布域が高緯度や高標高へ変化する。また極端気象によるかく乱は、森林生態系の種構成や回復に影響を及ぼす。

現在の状況と将来予測

現在、各植生帯の南限・北限付近における樹木の生活型別の現存量変化が報告されている(Suzuki et al., 2015)。

将来、冷温帯林や暖温帯林の構成種の多くは、潜在生育域*がより高緯度・高標高域に移動することが予測されている。

中尾ほか(2015)は、冷温帯に広く分布するブナについて、現在と将来の気候条件における潜在生育域の変化を推定し、自然保護区との位置関係を解析した。その結果、将来も潜在生育域となる安定した地域は保護区を指定して保全を進め、潜在生育域が消失する可能性の高い地域では植栽などの積極的な管理の必要性が示された。

現在および将来のブナの潜在生育域と自然保護区の比較
現在および将来のブナの潜在生育域と自然保護区の比較
中尾ほか(2015)

適応策

温暖化に脆弱な生態系を影響予測で評価し、モニタリングすることが適応策のスタートと考えられ、その上で必要に応じて生物の分布移動を助ける生態的回廊の整備、保護区の配置見直し、生育域外保全、遺伝子資源保全などの段階的な適応策を検討する (松井 2015) 。加えて極端気象によるかく乱などの外力に対し、適応力の高い健全な森林生態系を維持することが重要となる。

マツ材線虫病 ニホンジカ ダニ媒介感染症 高山帯 人工林の風倒被害 ニホンジカの食害

*潜在生育域:ある種の分布について、環境条件から予測するモデルの結果により生育可能と予測された地域(田中ほか2009)。

スケール
流域
林分
遺伝子
分類
生物の分布移動の補助
順応性の高い森林生態系の維持・保全
遺伝的多様性の保全

[ 順応的管理 ] 既存の森林域で行われているモニタリング(森林生態系多様性基礎調査、保護林モニタリング等)を活用し、種組成や生育・生息地、成長量など生態系に生じている気候変動影響を把握する。並行してモデル等を活用した広域的な影響予測等も行い、気候変動による中長期的な影響を踏まえた計画の策定や、それらに基づいた段階的な適応策を実施する事が考えられる。

方法

必要に応じて保護区の配置見直し、生物の分布移動を助ける生態的回廊の整備等を検討する。

[ 保護区の配置見直し ]

国有林の保護林制度において、森林生態系や希少な野生生物の保護・管理が進められており、これらの制度を活用することが考えられる。例えば、将来にわたってブナが成育しうる地域での保護区の見直しや積極的管理等が提案されている(Nakao, K.et al. 2013)。

[ 生息地の連結(緑の回廊)]

上記の保護林を繋ぐ緑の回廊の設定要領(林野庁 2021)において、留意事項の例として、地球温暖化からの移動経路(避難経路を含む)となる自然環境の連続性を維持するために必要な回廊の幅を確実に確保することが挙げられている。

[ かく乱からの森林回復 ]

自然撹乱の頻度や強度が増大すると、生態系がこれまでにない規模で破壊され、その生態系の回復軌道が、気温上昇や降水量増大により変化する(森本 2023)。自然撹乱のタイプや強度に応じて、周囲からの種子供給や埋土種子、残存木本類、倒木等を活かして森林回復を図ることが考えられる。

[ 生物多様性の高い生態系の保全 ]

生物多様性の高い生態系は、自然の回復力が高いことが知られている(森林研究・整備機構森林総合研究所2020)。気候変動の影響(気温上昇、かく乱の頻度や強度の増大等)に対して、順応性を高める点からも生物多様性を保全することは重要である。具体的には、①様々な樹種、構造、林齢の森林をモザイク状に配置する、②大型・中型動物の行動圏も踏まえた広域的な視点による林分配置等を行う(森林研究・整備機構森林総合研究所 2020)。

[ 遺伝資源の保全 ]

今後の地球規模の気候変動により絶滅リスクの高い樹種及び集団をリストアップし、生育情報の収集や効果的な保存を行うことが必要である。中長期的には、温暖化適応策として移住させる必要が生じる遺伝資源の中で、遺伝的かく乱の恐れがあるために生息域外保存ができない絶滅リスクの高い樹種や集団については、施設内での保存が可能な栄養体等での長期保存技術等の開発を行うことが必要である。(以上森林総合研究所林木育種センター2014より引用)

[ 進化的応答への配慮 ]

近年、生物に迅速な進化の普遍性が認められ、進化が集団サイズの変化と同じ時間スケールで生じていることが明らかになっている。進化を考慮した保全管理において、絶滅リスクの原因に応じた遺伝的救助や進化的救助のアプローチが海外で行われている。(門脇ほか 2020)

社会的視点

森林は、二酸化炭素吸収・固定など地球温暖化の緩和機能や、生物の生育・生息地等多くの機能を有している。森林の生態系を保全することは、生物多様性保全に寄与するのみならず、送粉者の生息場所提供を通じた食糧生産への貢献(森林総合研究所2016)、水源涵養機能や土砂流出防止機能等による減災機能等、他分野とも深くかかわり、人間生活にも重要となる。また、人口減少、インフラの老朽化による奥山へのアクセシビリティの低下など国土をどのようにデザインしていくかとも密接に関連しており、分野横断的な議論が必要不可欠である(中尾2025)。

適応策の
進め方

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】 森林資源の利用や生態系サービスを活用するには時間を要するという特徴がある。更に適応策の実施においては、森林経営計画の見直し、気候変動に適応した新たな品種の開発、住民との合意形成等準備に一定の時間を要する。このため、順応的管理を基本としながらも、中長期的な計画を事前準備し、適応策を実施するための十分な準備期間を設ける工夫が必要である。(中尾2025)

2026年 1月改訂