インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

蚊媒介感染症

健康分野|感染症|節足動物媒介感染症
協力:国立健康危機管理研究機構(JIHS)

影響の要因

気候変動による気温の上昇や降水の時空間分布の変化は、感染症を媒介する節足動物 (蚊等)の分布可能域や個体群密度、活動を変化させる。

現在の状況と将来予測

現在、蚊媒介感染症*であるデング熱、チクングニア熱、ジカ熱は、海外での断続的な大流行が続いている。また、これらの輸入感染症例**が毎年報告されている(JIHS***2025年11月28日)。その媒介生物であるヒトスジシマカの生息域が拡大し(青森県以西で定着)、活動可能期間が長くなっていることが確認されている(JIHS 参照2025年12月9日)。

*主な蚊媒介感染症には、ウイルス疾患であるデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎、ウエストナイル熱、黄熱、原虫疾患であるマラリア等がある。これらは主に熱帯、亜熱帯地域で流行している。(出典:厚生労働省「蚊媒介感染症」)

**輸入感染症:海外で感染し、日本へ入国もしくは帰国後に発症した感染症

***国立健康危機管理研究機構(JIHS:Japan Institute for Health Security)

将来、デング熱が国外から輸入されたときの各地の実効再生産数****と終息確率の計算を行った研究では、RCP8.5の場合、流行リスクが北方や内陸部に広がる予測が示されている(Hayashi et al., 2022)。

また、デング熱やジカ熱を媒介するネッタイシマカの分布が世界的に拡大しており、日本でも継続的な監視等が重要である(駒形2025)。

****実効再生産数:一人の感染者が何人に感染を広げるかを表す数

東北地方におけるヒトスジシマカ の北限の推移(2018年)
デング熱が国外から輸入された際の終息確率
出典:Hayashi et al.(2022)

適応策

日本脳炎以外の蚊媒介感染症については大部分が海外からの輸入感染症であるが、その感染者から国内感染を起こさないようにする事が重要である。行政は平時から発生源の対策による生活環境の改善に努め、また非常時(国内感染発生時)における成虫駆除実施の備えを行う。個人はできることとして、関連する知識を取得し、生活の中に対策を組み込む。

分類
行政
蚊対策
感染症対策
個人
平常時の対策
  • 検疫所での侵入・定着防止対策
    蚊を発生させない環境づくり
    リスク地点の選定・管理

    蚊を発生させない環境づくり

    蚊を発生させない環境づくり
    防除体制の構築
    蚊を発生させない環境づくり
  • 感染症に関する普及啓発
  • ワクチン、治療法等の普及・開発
    例)幼虫対策
  • 蚊を呼び寄せない環境づくり
  • 渡航時の注意点の徹底

    トラベラーズワクチンの接種等

    トラベラーズワクチンの接種等/虫除け剤の使用/肌の露出を減らす
発生時の対応
  • 推定感染地での駆除等

    感染者を吸血した可能性がある成虫の駆除が最優先

  • 感染症サーベイランス

    出典:JIHS(2018)を一部改変

  • まん延防止の為の協力
分類
行政(国、地方公共団体)
蚊対策
感染症対策
個人
平常時の対策
[ 検疫所での侵入・定着防止対策 ]

検疫所(港や飛行場)では、検疫感染症等を媒介する蚊の生息調査・侵入監視・病原体検査等の実施、並びにその結果に基づく侵入・定着防止対策が実施され、毎年ベクターサーベイランスデータ報告書が出されている(厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 企画・検疫課2025)。

[ リスク地点の選定・管理 ]

蚊の発生が多く、かつ人口密度が高く人の利用が多い所(公園、住宅街等)をリスク地点として選定し、対策等を行う。その際、土木関連部局(公園管理者等)や保健関連部局(感染症対応)等が連携し、横断的な情報収集(蚊に関する住民からの相談等)が出来ると発生時の初動も早くなり好ましい。

例1)発生源対策
水中に生息する幼虫の退治が最も有効。幼虫対策として、物理的駆除(水がたまる古タイヤやビニールシート等不要物の片付け)を行う。また適宜成虫対策として下草刈りや木々の剪定により風通しをよくし、日光が当たるようにする。

例2)幼虫調査
成虫が羽化する5月中旬から成虫の活動性がなくなる10月下旬まで、調査(雨水マス調査で確認された場合水を抜く等)を実施する。

[ 防除体制の構築 ]

地方公共団体は、平時から殺虫剤の備蓄や散布機の整備について考慮(厚生労働省2021)し、国内感染発生に備える。

[ 感染症に関する普及啓発 ]

個人及び地域で実施可能な予防方法として、媒介蚊の発生源の対策、肌をできるだけ露出しない服装や忌避剤の使用等による防蚊対策(厚生労働省2021)、ワクチンがある蚊媒介感染症(日本脳炎)については予防接種等の関連情報の普及を行う。

[ ワクチン、治療法等の普及・開発 ]

現在、デング熱ワクチンの開発が進んでいるが(JIHS 2024年8月29日)、日本において承認されているワクチンは無い。今後、有効性および安全性が保証されたワクチンが開発・承認されることが望まれる。

[ 蚊を呼び寄せない環境づくり ]

①幼虫対策:蚊の幼虫発生防止のために週に1回程度家の周囲のたまり水(古タイヤや植木鉢の受け皿、ビニールシート等)を無くすようにする。

②成虫対策:蚊に刺されない為の対策(肌の露出を控える等)と共に、家の周囲のやぶ、草むらを無くす等も有効。

[ 渡航時の注意点の徹底 ]
  • 蚊媒介感染症に限らず、流行地への旅行の際には必要な予防接種(トラベラーズワクチン)を受ける。
  • 流行地に出かけた場合の蚊に刺されないような工夫(長袖・長ズボンの着用、虫除け薬や蚊取り線香の使用)を行う。帰国後の体調不良時は、早めに医療機関を受診する。また、帰国日から4週間以内の献血自粛の遵守を行う。
発生時の対応
[ 推定感染地での駆除等 ]
  • 国内感染発生(疑い時含む)時、調査において成虫の密度が高いと判断された場合については、管理者、市町村、都道府県等とで相談の上、また事前に周辺住民へ周知した上で(国立感染症研究所 2015)、必要に応じて成虫対策(薬剤駆除等)を優先的に行う。
  • 発生時の緊急対策の後、推定感染地周辺では、必要に応じて成虫対策を行った後、新たな成虫の発生防止のための幼虫対策(物理的駆除等)を状況に応じて行う。
[ 感染症サーベイランス ]

感染症サーベイランス(発生動向調査)とは、法律に基づき、感染症の発生情報の正確な把握と分析、その結果の国民や医療関係者への迅速な提供・公開(JIHS 2018)を行うもので、適切な感染症対策を立案する為に行われている。デング熱やジカウィルス感染症等は全数報告で直ちに届出を行うものとして定められている。

[ まん延防止ための協力 ]
  • 蚊媒介感染症と診断された場合には、行政機関が実施する積極的疫学調査に協力する(推定感染地の絞り込み、感染拡大の可能性等について確認する為に行われる)。蚊に刺されないように注意すると共に、献血を行わない。
  • 公表された推定感染地が自宅周辺の場合、幼虫対策(たまり水の除去)等に協力する。
コスト
中〜高
普及啓発:低、ワクチン、
治療法等の開発:高
社会的視点

日本におけるデング熱発生リスクを調査した研究(Wang&Nishiura2021)では、気温の上昇だけでなく旅行者数がデング熱発生リスクに寄与することが示唆されている。今後もわが国は観光立国化が進められ、デング熱をはじめとする蚊媒介感染症の国内発生のリスクが上昇していくと予想されることから、関係機関が連携した定期的な媒介蚊の駆除訓練等を行うことが重要であると考えられる(JIHS 2020)。

適応策の
進め方

【現時点の考え方】 デング熱やチクングニア熱、ジカウィルス感染症については、仮に流行地でウイルスに感染した発症期の人(日本人帰国者ないしは外国人旅行者)が国内で蚊にさされ、その蚊がたまたま他者を吸血した場合に、感染する可能性は低いながらもあり得る。その蚊は冬を越えて生息できず、また野外では卵を介してウイルスが次世代の蚊に伝わることも報告されたことがないため、限定された場所での一過性の感染と考えられる(厚生労働省 参照2025年12月8日)が、今後の気候変動の進行に伴う感染リスク拡大が想定されうる。現在、蚊媒介感染症の対応・対策に関する手引き等が整備されると共に、個人への周知が行われている。

【気候変動を考慮した考え方】 蚊媒介感染症の発生の予防とまん延の防止のために「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」に基づき、都道府県等において、感染症の媒介蚊が発生する地域における継続的な定点観測、幼虫の発生源の対策及び成虫の駆除、防蚊対策に関する注意喚起等の対策に努めるとともに、感染症の発生動向の把握に努める(閣議決定 2023年一部変更)。

2026年1月改訂