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- イラストで分かりやすい適応策
地下水
環境・社会基盤工学科
影響の要因
日降水量や降水の時間推移の変化による地下水位の変動、無降雨日数の増加等に伴う渇水の頻発による過剰な地下水採取の結果としての地盤沈下の進行、海面水位の上昇による地下水の塩水化などの可能性がある。
現在の状況と将来予測
現在、地下水の過剰な採取による地盤沈下は近年沈静化の方向であるが、渇水時の過剰な地下水採取により地盤沈下が進行している地域もある。
将来、降水条件等の変化に伴う地下水位の変化について予測した研究事例が複数みられるが、予測結果は地域の状況により異なっている。世界的にも気候変動が地下水システムに直接与える影響の予測は不確実が高く、地域により地下水涵養量の増減が異なっていることが示されている(Taylor et al. 2012)。小規模な島の淡水レンズ*は、海面水位の上昇や高潮氾濫、渇水の頻発化・長期化により縮小する可能性が指摘されている。
*淡水レンズ:帯水層中で淡水の地下水が海水(塩水)の上にレンズ状の形で浮いている状態のこと。
適応策
地下水に係る現象は一般的に地域性が高いことから、既に各地域で地下水保全と適正利用のために行われている取組みを継続しながら、気候変動による影響(地下水位の変化、塩水化等)も監視を続け、影響が顕在化した時のために備えることが重要である。
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■地下水マネジメントの取組み
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■地下水位の実態把握
出典:都城市「観測井水位データ」
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■管理目標
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■自然涵養
森林などの既存の涵養域を保全(水源涵養保安林等)
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■人工涵養
水田潅水等
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■規制の実施
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■地盤沈下の監視・測定、情報公開
令和元年度の全国の地盤沈下の状況
出典:環境省 水・大気環境局(2021)を一部改変
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■観測井における水位・水質監視
水位等モニタリングを継続し、塩水化を防ぐ為に地下水位を下げないように対策を行うことが重要
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■塩水化進行防止例:河川流量管理
出典:西条市(2017)
**主な地下水障害として、「井戸枯れ」「地盤沈下」「塩水化」「地下水汚染」「湧水消失・湧出量減少」などが挙げられ(内閣官房水循環政策本部事務局 2019)、そのうち全国的に影響が大きい地盤沈下と塩水化を取り上げている。
地域社会における地下水の持続的な利用や地下水挙動の実態把握とその分析・可視化、保全(質・量)、涵養、採取等に関する地域における合意形成やその内容を実施する(内閣官房水循環政策本部事務局 2019)地下水マネジメントの取組みが進められている。
引き続き観測井で地下水位や水圧の経時変化、季節変動、地下水の状態を観測する。また地下水の存在する地下構造は、極めて地域性が高く多様性に富んでいることから、地下水の賦存状況、収支や挙動、地表水と地下水の関係等、未解明な部分の研究を推進するとともに、気候変動による地下水への影響について調査・研究を進める(閣議決定 2018)ことが考えられる。
地下水の適正利用の為に、基準井戸を設定して過去の湧水枯渇時などの最低水位を基準水位とし、これを下回らないように監視する(環境省 2021)ことが行われている。また、適正揚水量*を設定している自治体(富山県等)もある。
*塩水化の進行や大幅な地下水位の低下等の地下水障害を生じさせない揚水量で、かつ、地域の特性や住民の意向などの社会的条件を考慮した量(富山県2018)。
涵養手法には、自然涵養と人工涵養があり、人工涵養はさらに、浸透法と注入法に大別される(環境省 2021)。
上流域の森林を保全して降雨時の流出を抑制し、水田や池、河川からの涵養機能を保全して流域の健全な水循環を確保する(環境省 2021)。
浸透法は涵養量の減少を補う地下貯留の目的で実施され、水田法や浸透池法が実施されている。水田法は、非かんがい期の水田において、水利権の許可を受けた農業用水を使用して地下水涵養を図るもので、冬水田んぼ(冬期湛水)、転作田などの例がある(環境省 2021)。注入法は目詰まりの技術的問題の解決が難しく一部地域のみ導入されている。
地盤沈下は不可逆な現象で一旦生じると回復が困難であり、多くの地方公共団体で地下水関係条例に地盤沈下の防止を含めている(条例数491、国土交通省2021)。無降雨日数の増加等による渇水時に、過剰な地下水採取による地盤沈下が進行する恐れもあることから、今後も引き続き条例の遵守や規制等を実施していくことが重要となる。
地盤沈下や地下水の状況を把握するため、地盤の水準測量や観測井による地下水位及び地盤収縮の監視・測定(環境省2020)を引き続き行う。また、「全国の地盤沈下地域の概況(環境省)」として引き続き全国的な傾向を把握していくことも重要となる。
地下水の塩水化などの地下水障害は、回復に極めて長期間を要することから、平時からの計測や塩水化の防止、初期段階での対策実施等が重要となる。
地下水の塩化物イオン濃度の観測を継続的に実施する。塩水化のおそれが高い地域・井戸では、水質の変動を感知できるように必要に応じて頻度を上げて観測を行うことが望ましい(環境省 2021)。
かんがい期に地下水の涵養量より利用量が多くなることにより地下水位が低下して塩水化が懸念される場合に、ダムから放流を行って河川の流量を維持して涵養量(地下への浸透量)を確保すると共に、地下水利用量を抑制し、塩水化の防止が可能になると考えられる(西条市)。
中(観測井戸の新規設置)
高(塩水化抑制技術の開発)
長期(観測・取組の継続が必要)
長期(観測の継続が必要)
長期(塩水化抑制技術の開発)
適応策の進め方
【現時点の考え方】
地盤沈下、塩水化、地下水汚染などの地下水障害の防止や生態系の保全等を確保しつつ、地域の地下水を守り、水資源等として利用する「持続可能な地下水の保全と利用」を推進する(閣議決定 2020より引用) 。
【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
地方公共団体等の地域の関係者が主体となり、地域の実情に応じた持続可能な地下水の保全や利用のためのルールの検討など、地下水マネジメントに取り組むべきである。また、地下水の各種データは、地表水と比較し十分整備されておらず、地方公共団体等が個別に調査、観測しているのが現状であるため、国はデータを相互に活用するための共通ルールの作成等の環境整備を行うべきである。さらに、これらのデータを活用し、地下水収支や地下水挙動、地下水採取量と地盤沈下や塩水化等の関係の把握に努めるべきである。(以上社会資本整備審議会 2015より引用)