AI技術を活用した気候変動シナリオ分析の高度化

三井住友フィナンシャルグループ

金融業、保険業
掲載日 2021年12月14日
適応分野 自然災害・沿岸域 / 産業・経済活動

会社概要

三井住友フィナンシャルグループのロゴ
三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は、銀行、リース、証券、クレジットカード、コンシューマーファイナンス等、幅広い事業を展開する「複合金融グループ」である。持株会社である三井住友フィナンシャルグループの下、顧客のセグメントごとにグループ横断的な事業戦略を立案・実行する4つの事業部門を設置するとともに、本社部門ではCxO制により、グループ全体の企画・管理関連の統括者を明確化し、経営資源の共有化・全体最適な資源投入を実現している。

気候変動による影響

2020年10月の日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言以降、2021年4月に2030年における温室効果ガスの46%削減目標が設定されるなど、脱炭素社会への移行をはじめとするサステナビリティへの取組みが加速している。今後、脱炭素を始めとするサステナビリティに関する顧客のニーズが多様化、高度化すると見込まれている。また、気候変動に伴う異常気象の増加により、当社グループの顧客のビジネスに影響がおよぶリスクが想定されている。

気候変動リスクに関する取組

SMBCグループは、気候変動に関する情報開示の枠組みである「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言への対応の一環として、AI技術を用いた物理的リスクに関する気候変動シナリオ分析の高度化を行った。これは気候変動シナリオ分析において課題となっていた科学的なデータの不足や対象地域の網羅性の欠如といった課題を解決する試みで、AIによる機械学習を行いながら、様々な気候関連データや地形などの衛星画像データを分析することで、水災発生時のリスクを定量的に把握するものである。

具体的な分析は、以下の3つのステップで行う(図1)。

ステップ1:水災の業績への波及について、三井住友銀行の事業法人における担保価値の毀損、財務状況の悪化に伴う債務者区分の劣化という2つの経路から発生が見込まれる与信関係費用を試算。国内においては、国土交通省が開示しているハザードマップ(注1)を用い、当該マップ上に所在する担保、事業法人ごとの想定浸水深を把握。海外においては、Jupiter Intelligence社(注2)のAI分析により事業法人ごとの想定浸水深を算出。それらの浸水深に基づき、担保毀損影響、財務悪化影響を分析(図2)。

ステップ2:気候変動による洪水リスクの評価プロジェクト(注3)の提供データを活用し、IPCC(注4)が研究の基盤としている2℃シナリオ、4℃シナリオそれぞれにおいて2050年までの洪水発生確率を設定。

ステップ3:ステップ1で試算された与信関係費用に、ステップ2で設定した気候変動シナリオ毎の洪水発生確率を勘案し、想定される与信関係費用を算出。

本分析の結果、想定される与信関係費用は、2050年までに累計550~650億円(国内300~400億円)程度となった。これは単年度平均値でみると20億円程度の追加的な与信関係費用の発生となることから、気候変動に起因する水災が現在の三井住友銀行の単年度財務に与える影響は限定的であると考えられる。

効果/期待される効果等

AI技術を活用することで、水災(洪水)発生時に想定される浸水の深さを、全世界を対象に予測することが可能となった。この結果、公的機関が公表するハザードマップのない地域においても水災発生時のリスクを定量的に把握することが可能となり、新たに海外の事業法人を分析対象に追加することができた。

図1 物理的リスクの分析プロセス
図2 Jupiter Intelligence 社・衛星分析画像

脚注
(注1)国土交通省が開示しているハザードマップ:想定最大規模降雨による洪水想定区域図
(注2)Jupiter Intelligence社:通信衛星データを含む多様なデータを収集し、AI分析により自然災害発生を予測できる気候変動リスク分析の米国ベンチャー企業
(注3)気候変動による洪水リスクの評価プロジェクト:MS&ADインターリスク総研が東京大学、芝浦工業大学と協働で実施(Hirabayashi Y, Mahendran R, Koirala S, Konoshima L, Yamazaki D, Watanabe S, Kim H and Kanae S (2013) Global flood risk under climate change. Nat Clim Chang., 3(9), 816-821. doi:10.1038/nclimate1911.)
(注4)IPCC:気候変動に関する政府間パネル

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