医療機器の技術を活用した冷水循環服による身体冷却

日本シグマックス株式会社

業種：卸売業、小売業 ／ 製造業

会社概要

日本シグマックス株式会社は「身体活動支援」を事業ドメインとし、整形外科向け医療機器などを中心とした医療事業をはじめ、スポーツ向け、日常生活向け、労働現場向けなど様々な分野で人の身体をサポートする製品を企画開発、販売を行っている。

気候変動による影響

近年、気候変動の影響による気温の上昇が顕著となっており 、熱中症での救急搬送者数が増加している。特に職場における熱中症の発生状況は、2024年には休業４日以上の死傷者数が1,257人（うち死亡者数31人）と、2005年の統計開始以降で最多となった。厚生労働省は、各事業場で熱中症予防について対策を講じるよう発信しており、2025年6月1日からは職場における熱中症対策を労働安全衛生規則改正により罰則付きで義務付けた。

適応に関する取り組み

当社は、1997年からペルチェ素子を使用した医療機器（冷却療法用器具及び装置）を開発・供給している。これらは主に整形外科において、創傷部位の冷却などに用いられ、これまでに４度の製品リニューアルを重ねてきた。

そこで培った身体冷却に関する技術（具体的には温度のコントロール、長時間冷却、身体へのフィット性など）のノウハウを活用し、社会的課題である労働現場での熱中症対策として、タンクレスのペルチェ式冷水循環服である「メディエイド アイシングギア　ベスト」を2023年に開発した。そして2025年に、大幅に改良した「メディエイド アイシングギア　ベスト２」の販売を開始した。本製品は、当社独自の技術「４C-Peltier System(4Cペルチェシステム)」を搭載しており、酷暑環境でもしっかりと冷感を得られるように、以下のような基本設計と特長を備えている。

基本設計：ペルチェ（冷却半導体）により冷却された水が、ベストに内蔵されたパッド内を循環し、人体を快適な温度に保つ。圧力を加えながら冷却水を注入することによりパッドが面チューブとなり（図１）、タンクレスでの効果的な水冷循環服を実現している（特許技術（注２））。ペルチェによって発せられた熱は放熱フィンを通して効果的に排出されることにより、冷却性能を長時間維持する。

◾️特長１　少量の水で体を広範囲かつ効果的に冷やす冷却パッド
同じ温度でも局所的より広範囲を冷却したほうが冷たく感じられるため、パッドの面積を広く設計し背中からわきの下までをカバー。さらに少量の水でも効果的に冷却できるよう、流路をレイアウトしている。また、ペルチェからの放熱フィンにヒートパイプを採用し、排熱効率を向上させている。

◾️特長２　健康と快適性に配慮した温度のコントロール
ただ身体を強く冷却するだけでなく、適切な温度管理により冷やしすぎや「慣れ」を防ぎ、人が心地よく感じる状態を維持するので、快適な冷感を安定的に提供できる。暑熱環境下での効果検証では、平均心拍数の低下や深部体温の上昇抑制に効果を発揮している（図２）。

◾️特長３　軽くて動きやすいタンクレス＆セパレート構造
タンクレスにすることにより、少量の水で済むため軽量化を実現（モバイルバッテリーを含む1.8Kgの重量）。加えてフィット性の高いベスト形状のため動作を妨げず、ユニットの配置の工夫により重さを感じにくくしたため、作業性が向上した。インナーの冷却パッドと冷却ユニットを分離したことにより、様々な現場のユニフォームに対応が可能である（図３）。

また、冷却ユニットの省エネ化により、付属のモバイルバッテリーで最大5時間の冷却持続を実現し、半日の連続作業でもバッテリー交換が不要である（注３）。

効果／期待される効果等

熱中症の発生を防ぐには気温を下げることが有効だが、屋外作業や高温な機械付近での作業、物流倉庫のような広い建屋では空調設備による温度管理が難しい。

「メディエイド　アイシングギア　ベスト２」は、ファン付ウェアなどが効果を発揮しない酷暑環境下でも、人の身体を十分に冷却しつつ、作業の妨げにならない（十分な持続時間、作業者の可動域の制限が少ない、設置場所を取らないなど）という特長を実現している。

気温の上昇に加えて労働者の不足・高齢化も社会問題にもなる中、暑熱による身体への負担を軽減することで、従業員の健康を守り、企業における労働力の確保にも貢献する。