EDO-EPS(発泡スチロール)工法を用いた港湾施設における浸水リスクの低減

発泡スチロール土木工法開発機構

業種:学術研究、専門・技術サービス業 / 製造業

掲載日 2025年9月19日
適応分野 自然災害・沿岸域 / 国民生活・都市生活 / 産業・経済活動

会社概要

発泡スチロール土木工法開発機構は、北欧から導入したEPS(発泡スチロール)ブロックを主材料とする軽量盛土工法について、我が国の土木工法としての技術を確立し、材料と工法の発展と普及を図るために1986年から活動している。本機構は、EPSメーカーをはじめとする計40社で構成される。

気候変動による影響

気候変動により海面水位上昇や台風強度の増大が見込まれている。そのため、港湾施設では水深および波高の増大に伴い、重大な浸水被害のリスクが高まっている。

適応に関する取り組み

当機構は、地盤沈下や海面上昇が懸念される沿岸域において、港湾施設のかさ上げや護岸補強、浸水対策などの目的で使用するEDO-EPS工法を研究開発している。本工法は、EDO-EPSの大型ブロックを盛土材料として積み重ねて一体化していくもので、超軽量性、耐圧縮性、耐水性及び積み重ねた場合の自立性等の特長を有効に利用する新しい工法である。

本工法に用いるEDO-EPSブロックの主な特長は以下の通りである。

特長 説明
軽量性 密度は、土砂の1/100であり他の軽量材と比較しても約1/10から1/50程度の超軽量材料である。
圧縮性 耐圧縮性(圧縮特性)をもち、せん断破壊(注1)が発生しない。
自立性 構造物背面に設置して土圧を大幅に低減する。
施工性 人力での設置や運搬が可能で、大型建設機械が進入できない場所や急傾斜地、軟弱地盤などでの施工が容易である。また、現地の条件にあわせた加工切断も容易である。
経済性 周辺環境対策や、大幅な工期の短縮、維持管理業務の簡易化など設計計算だけでは計上できない多くの経済効果がある。

本ブロックは軽量であることから、かさ上げによる施設基礎の地盤沈下量ひいては”相対的海面上昇”(注2)の影響の軽減にもつながる。
実際にEPS工法を活用した港湾施設のかさ上げ事例について、以下に紹介する。

■図1および図2…港湾護岸の土留め鋼矢板への作用土圧を軽減するためにEPSでかさ上げした事例(1989年)では、結果として海面上昇への適応事例となっている。
■図3および図4…平成23年東北地方太平洋沖地震により沈降した漁港岸壁をEPSでかさ上げした事例(2013年)では、沈降した分をEPSでかさ上げし、沈降前の機能を確保していることにより、相対的海面上昇への適応事例となっている。

効果/期待される効果等

本工法の活用により、高潮・津波等による浸水リスクの軽減が期待される。また、令和7年6月に国土交通省港湾局から公表された「協働防護計画作成ガイドライン(注3)」においても、港湾施設のかさ上げが、防護機能の強化ならびに浸水被害の軽減を目的とした有効な手法として例示されている。

さらに、気候変動の影響による海面上昇に加え、地盤沈下の影響を合わせた”相対的海面上昇”が懸念される沿岸域においては、EDO-EPS工法の適用技術が有効な適応策であることが実証されており、今後も適応事例の増加が期待される。

EPSによる港湾護岸のかさ上げ
図1 EPSによる港湾護岸のかさ上げ(注4)
EPSによる港湾護岸のかさ上げ
図2 EPSによる港湾護岸のかさ上げ (注5)
EPSによる漁港岸壁のかさ上げ
図3 EPSによる漁港岸壁のかさ上げ (注6)
左:施工前(地震発生直後) 右:施工中(地震から約2年後)
EPSによる漁港岸壁のかさ上げ
図 4 EPSによる漁港岸壁のかさ上げ

脚注
(注1) せん断破壊とは、物体をはさみで挟み切るように、物体内部のある面に沿って互いに反対方向の力が作用し、その面がずれるように破壊することをいう。
(注2) 相対的海面上昇とは、地盤沈下地域において沈下量分だけ相対的に海面が上昇することをいう。
出典:安原一哉:第5章 気候変動と洪水,湿地環境と作物,養賢堂,pp.173-186,2010.
(注3) 国土交通省「協働防護計画作成ガイドライン及び港湾立地企業における気候変動リスク評価手法ガイドライン
(注4) 出典:日経コンストラクション 2-9,pp.58-59,1990.
(注5) 出典:発泡スチロール土木工法開発機構編 『EPS工法 発泡スチロール(EPS)を用いた超軽量盛土工法』 理工図書,p.235,1993.
(注6) 出典:岩手県沿岸広域振興局水産部ホームページ(現在は写真が掲載されておらず閲覧不可)

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