「高速育種技術」が切り拓く気候変動に強い次世代品種の開発
株式会社CULTA
業種:農業、林業 / 学術研究、専門・技術サービス業
| 掲載日 | 2025年11月5日 |
|---|---|
| 適応分野 | 農業・林業・水産業 |
会社概要

株式会社CULTAは、東京大学大学院・農学生命科学研究科のメンバーが中心となり、2017年11月に創業された農業領域の「ディープテックスタートアップ」企業である。
気候変動による影響
加速する気候変動の影響により、あらゆる農作物において、収量低下・品質低下など「例年通りの生産ができない」という課題が年々深刻化している。
適応に関する取り組み
当社は、ゲノム編集や遺伝子組換えに頼ることなく、交配育種をベースとした「高速育種技術」により、短期間での新品種開発を可能にしている。これは、長い年月を要する品種開発期間を大幅に短縮するもので、約5倍のスピードで進めることに成功している。
高速育種は、以下の3つのコア技術により実現されている。
- 人工環境での育種(図1): 温度、光、湿度などを高度に制御した室内環境を活用することで、季節に左右されずに作物の生育サイクルを1年に複数回繰り返すことが可能となり、育種の効率を飛躍的に向上させる。
- フェノタイピング(注1): 従来の人の目や手作業による評価にかかる時間と労力を克服するため、画像解析技術を駆使して、果実形状や色味、収量など様々な形質を正確かつ客観的に自動測定・精緻化する。これにより、効率的に得られたビッグデータはAI解析の基盤として活用される。
- ゲノム情報解析AI: 植物のDNA情報(ゲノム)とフェノタイピングで得られた表現型情報(注2)を統合的に解析し、生育途中の植物体が将来どのような特性を示すか、また交配によって生まれる次世代個体の特性まで予測可能なAIモデルを構築する。これにより、選抜の精度とスピードが大幅に向上する。
本技術により、通常10年を要するイチゴの新品種開発をわずか2年で成功させている。開発した品種は「SAKURA DROPS」としてブランド化し、シンガポール・マレーシアにて2025年冬春シーズンより販売を開始している。
さらに、イチゴ新品種の「CULTA-T3L」は、2025年に品種登録出願が公表されている。「CULTA-T3L」の特性として、主に以下の3つが挙げられる。
- 高温環境下でも安定した収量・品質を実現できる。
- 完熟で収穫した品質が、海外輸出など長時間の輸送後も維持できる。
- 平均糖度は、13度前後である。(日本で流通する一般的なイチゴ全国平均 糖度10度前後の約1.3倍※当社調べ)
今後は気候変動の影響が大きく、一般的な品種開発の期間が長い果樹領域のブドウ・リンゴ・みかんなどのフルーツ類から着手し、次世代品種の開発を予定している。
さらに当社は、生産者が力強く農業を続けていくための重要な支援として「垂直統合型のビジネスモデル」を採用している(図2)。ニュージーランド発のキウイフルーツ共同組合「Zespri」を模範として、提携する世界各地の生産者に自社品種の生産を委託し、そこで生産された農作物を原則として全量買い取り、さらに買い取った農作物のマーケティング・ブランド構築・販売までを当社で一貫して担うものである。
効果/期待される効果等
「高速育種技術」によって、耐暑性・耐乾燥性など、気候変動に強い特性を備えた「気候変動に打ち勝つ『次世代品種』」を開発し、これを核とした事業を展開することにより、「気候変動に負けない農業」の実現を目指すとともに、グローバルな農業分野における「気候変動適応」への貢献が期待される。


脚注
(注1)フェノタイピングとは、果実形状・色味等を画像情報から網羅的に測定する技術。「人の目で見る」のではなく、センサーやカメラが客観的に捉えた数値や画像を通じて特徴を抽出し、品種候補の栽培特性に関するビッグデータ収集を効率化することができる。
(注2)選抜作業の目的は、交配によって生まれた子孫の中から、望ましい形質を持つ個体を選ぶことにある。従来の交配育種では、品種候補を栽培してできた農作物を実際にみたり、測ったりすることで、形質が良い個体(例:糖度、草丈、病害抵抗など)を評価・選抜する。これを「表現型(フェノタイプ)情報による選抜」と呼ぶ。
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