「令和6年度 気候変動適応に係る国民の理解度」調査結果紹介

国立環境研究所気候変動適応センターは気候変動影響・適応に関する情報の収集・整理・分析や研究を推進し、その成果を広く提供することで、政府、地方公共団体による気候変動適応に関する計画の策定や適応策の実施をはじめ、事業者や個人を含む各主体による気候変動適応に関する取り組みを推進しています。
その一環として、「令和6年度 気候変動適応に係る国民の理解度」に関する調査を実施しました(2025年1月28日~2025年2月4日に実施、以下、「今回調査」という)。ここでは、アンケート結果の概要をご紹介します。

【調査結果のポイント】

  • 全体の傾向として、気候変動の影響についての認知度・関心度は、令和5年度調査(以下、「前回調査」という)と比べ低下したものの、適応策についての関心は高まっています。中でも特に、夏の暑さや気象災害(防災対策)、食生活への影響などへの関心が高まっており、この背景には「2024年の記録的高温」と「能登半島豪雨(9月)」の影響もあると考えられます。
  • 一方で、年齢別にみると、前回調査と同様に、若年層と高齢者層の間で認知度・関心度に差が見られます(年齢層が上がるほど関心度等も高まる傾向)。
  • また、気候変動適応の認知経路については、前回調査と同様に、若年層はSNSや学校教育、高齢者層はテレビや新聞等が多い傾向であり、年代により情報源が異なることが読み取れます。気候変動適応で知りたい情報としては、居住地の気候変動の影響、将来予測、気候変動によるリスクの軽減、回避策が昨年より高まっています。
  • 実践している気候変動適応の取り組み、今後実践したい取り組みについては、各種の災害対策に関連する項目が上位となり、特に熱中症警戒アラートの利用が、前回調査と比較して増加していました。

【回答者の属性】

集計方法について

本アンケート結果は、集計の目的に応じて以下の方法で処理しています。

  • 全体集計(経年比較):性別・年代・地域などの構成比を実態に合わせるため、回答者の偏りを補正する「ウェイトバック(WB)あり」で集計しています。
  • 地域別集計:実際の回答傾向を反映するため、「ウェイトバックなし(WBなし)」で集計しています。
    ※ウェイトバックとは、回答者構成を母集団に合わせて調整する手法です。
回答者の属性
図1 回答者の属性

【気候変動影響の認知状況と情報提供について】

気候変動の影響について「知っていた」とする回答は、今回調査では全体結果で66.6%(前回調査76.8%)となりました。回答傾向を統計的に確認したところ「内容をよく知っていた」「聞いたことがなかった」といった回答傾向には統計的に有意な差が見られました(p<0.05)。特に前回調査では「よく知っていた」との回答が多く、今回調査には逆に「聞いたことがなかった」との回答が顕著に増加しており、情報認知度において年度ごとに変化があることが示唆されます。全体としても有意差が認められました。

また、年代で比較をすると、「知っていた」とする回答率は60歳以上が最も高く、50歳代がこれに次いで高くなりました。こうした年代別分布の全体傾向は前回調査と同様です。地域で比較をすると、「知っていた」とする回答率に大きな地域差は見られず、この傾向は前回調査と同じでした。

図2 気象変動の影響の認知

【気候変動影響の情報提供の充足度】

「十分提供されている」3.8%、「ある程度提供されている」44.9%の計48.7%、すなわち約半数の方が気候変動影響の情報提供に充足していると回答しましたが、前回調査より6.7ポイント減少する結果となりました。回答傾向を統計的に確認したところ、全体として有意な差が見られました(有意水準5%で有意差あり)。年代で比較をすると、全体としてU字型(中間の年齢層が低く、若年層と高齢層が高くなる)の傾向は前回調査とおおむね同じでしたが、「60歳以上」で「提供されている」が54.9%と高い結果となっています。また地域で比較をすると、大きな地域差は見られず、やや「近畿」が低い傾向となっています。

図3 気候変動影響の情報提供の充足度

【気候変動影響への関心】

気候変動影響への関心については、72.9%(「とても関心がある」と「ある程度関心がある」の計)が気候変動の影響に関心があると回答しており、前回調査より5.5ポイント減少する結果となりました。回答傾向を統計的に確認したところ、全体として有意な差が認められました(有意水準5%で有意差あり)。特に「とても関心がある」と「全く関心がない」では年ごとに顕著な差がみられ、今回調査は「関心がある」とする回答が前回調査を下回る一方、「全く関心がない」が前回調査を大きく上回りました。関心の二極化傾向がうかがえます。
また、年代では、60歳以上で「関心がある(計)」が83.1%と最も高くなり、前回調査と同様にして、年齢層が高くなるほど関心度が高くなる全体傾向が見られました。

図4 気候変動影響への関心

【日常生活の中で気候変動影響を感じる現象】

日常生活の中で気候変動の影響を感じる現象については、「夏の暑さ」の81.2%が前回調査と同様最も多い結果となりました。次いで、「台風や洪水、土砂災害などの増加」(67.6%)、「雨の降り方の激しさ」(60.7%)、と続きます。「夏の暑さ」「食生活への影響」「商品・サービスへの影響」が全体的に前回調査よりも高い傾向にありました。地域別では、「夏の熱さ」が「近畿」「九州・沖縄」で前回調査より高くなっていました。(前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図5 日常生活の中で気候変動影響を感じる現象

【気候変動の影響で特に問題だと思う影響や現象】

気候変動の影響の中で問題と思うものについての回答は、「農水産物等の品質・収穫量低下」(66.6%) 「気象災害の増加」(65.6%)や「インフラ・ライフラインの被害」(59.6%)に対する回答が上位となりました。一方、前回調査と比較し「特に問題はない」が大きく増加する結果となっています。地域別では、中部地域で「産業・経済活動に影響が生ずること」が前回調査より高くなっていますが、その他は大きな地域差は見られませんでした。(前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図6 気候変動の影響で特に問題だと思う影響や現象

【気候変動適応の認知状況と知りたい情報】

気候変動適応の認知状況は「言葉も取り組みも知っていた」7.0%、「言葉は知らなかったが、取り組みは知っていた」24.1%、「言葉は知っていたが、取り組みは知らなかった」24.9%となり、認知計で56.0%となり、「言葉は知らなかったが、取り組みは知っていた」「言葉は知っていたが、取り組みは知らなかった」が前回調査から増加しました。回答傾向を統計的に確認したところ、有意な差が確認されました(有意水準5%で有意差あり)。特に「言葉も取り組みも知らなかった」の回答が2022年・2023年の調査より大きく上回り、「言葉は知っていたが取り組みは知らなかった」は今回調査にて上昇しました。

図7 気候変動適応の認知状況

【気候変動適応の認知経路】

「テレビ/ラジオ」が最も多く60.1%、次いで「インターネット」が42.5%、「新聞・雑誌・本」が27.6%、と続きます。特に50代で「インターネット」が前回調査より大幅に増加し、前回調査と比べ増加幅が最も大きかった「SNS」は、低い年齢層だけでなく、高い年齢層でも回答割合が増えていました。(前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図8 気候変動適応の認知経路

【気候変動の影響や適応について知りたい情報】

「日本の気候変動の影響」が53.1%、「お住まいの地域の気候変動の影響」が39.3%、「気候変動の将来予測」が38.7%、が上位となりました。(前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図9 気候変動の影響や適応について知りたい情報

【実践している気候変動適応への取り組みと今後実践したい取り組み】

実践している気候変動適応への取り組みとしては、「様々な熱中症対策」が46.1%、「ハザードマップの利用など」が34.7%、「自然災害時の備蓄強化」が32.8%が上位になりました。また「熱中症警戒アラートの利用」は全国的に前回調査から大きく増加する結果となっています。(前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図10 実践している気候変動適応への取り組みと今後実践したい取り組み

【現在は取り組んでいないことで、今後、実践してみたい気候変動適応への取り組み】

「自然災害時の水・食料の備蓄の強化」が22.1%で第1位となり、災害に対する備えの意識が各地域で高いことが読み取れます。次いで「気候変動影響や気候変動適応についての情報の入手」が21.7%、 「身近な自然や緑の保全・再生・維持管理、緑陰などによる暑さの回避など」が19.5% と続きます。地域別では「中国・四国」「九州・沖縄」で昨年より2ポイント以上増加した項目が複数ありました。 (前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図11 今後実践したい気候変動適応への取り組み

【気候変動適応の実践への課題】

気候変動適応を実践する上での課題について最も高いのは、「経済的なコスト」が43.5%、次いで「情報不足」が37.8%、「どれだけ効果があるのかわからない」が36.3%と上位となり、上位3項目は前回調査と同じ順位になりました。一方で「特にない」は前回と比較をすると2ポイント以上増加しています。 (前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図12 気候変動適応の実践への課題

【気候変動適応に関して政府に期待する取り組み】

気候変動適応に関して期待する政府の取り組みについて「洪水、高潮・高波などへの防災対策」が50.1%、次いで「農作物の品質や収穫量、漁獲量への対策」が48.2%、「渇水対策や水資源の保全対策」が39.7%、と上位になりました。防災と食料・飲料の保全に関わる回答が高い結果となっています。
また、「特にない」は前回調査よりも全体的に2ポイント以上増加しました。 (前回調査と今回調査の全体傾向で有意差あり)

図13 気候変動適応に関して政府に期待する取り組み

本アンケート結果を参考に、弊所気候変動適応センターでは引き続き気候変動適応の推進に向けた取り組みを進めて参ります。アンケートにご協力いただきました皆様に改めて感謝申し上げます。
なお、調査は地域均等割付(各地域800人)で実施されており、各年代・地域の実態をそのまま把握する目的で、属性別集計には補正を行っていません。

<調査の概要>

1.調査目的

  • 国立環境研究所気候変動適応センターをはじめとする適応の推進母体が、各種事業を検討・実施する上での参考とするため。

2.調査対象者

  • 居住地:全国7地域(北海道地域、東北地域、関東地域、中部地域、近畿地域、中国・四国地域、九州・沖縄地域)
  • 年代:18歳~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60歳以上
  • 性別:男性、女性
  • 割付:各地域×年代×性別

3.調査手法

  • インターネット調査
    ※なお、本調査は民間のネット調査を活用したものであるため、年により対象となる母集団に差がある可能性がございます。

4.調査時期

  • 2025年1月28日~2025年2月4日

5.調査結果の見方

  • nは回答者数を表している。
  • 回答率(%)は小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位までを表示している。このため、合計数値は必ずしも 100%とはならない場合がある。
  • 設問の回答には、単一回答と複数回答がある。複数回答の設問は、回答率(%)の合計が 100%を超える場合がある。
  • nが30未満の数値は参考値とする。

6.調査項目一覧

  • SA(シングルアンサー):単一回答
  • MA(マルチアンサー):複数回答 ※MT:マトリクス
出典・関連情報
(2025年10月7日掲載)