サンゴを守るための研究最前線
日本には、琉球列島を中心にサンゴ礁生態系が形成されています。サンゴ礁生態系は、その美しさはもとより、生き物に生息場や餌資源を提供し多様な生物を育む場としても重要です。また、サンゴ礁は漁場や天然の防波堤としての役割も持ち、私たちの生活にも多くの恩恵をもたらしています。
一方で、日本でもサンゴの減少が懸念されています。理由としては、大きく3つ考えられています
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地球温暖化による海洋熱波の発生が盛んになり、サンゴの生育に適した水温(25~28℃)を大きく超えた年にサンゴが白化する現象が起きている。
白化:高水温などのストレスがかかるとサンゴ体内に共生する藻類が減り、サンゴの白い骨の色が透けて見える現象。白化した状態が長期間続くとサンゴは栄養を得られずに死亡してしまう。
- 降雨時に陸から海に赤土(あかつち)が流れ込み、サンゴに土砂が積もって窒息したり死んでしまう。
- 陸域から過剰な窒素やリンなどが流れ込むと植物プランクトンが増え、それを餌とするオニヒトデの幼生が育ちやすくなり、大量発生してサンゴを食べてしまう(オニヒトデはサンゴの天敵)。
国立環境研究所では、これらサンゴ減少のメカニズムの解明や保全対策の提案、更に気候変動が進んだ場合のサンゴの分布予測など、サンゴを守るための様々な研究や取組みを行っています。
ここでは研究内容や実際の現場を分かりやすくお伝えすることを目的として、8月下旬に沖縄県恩納村で行った調査と、関連する研究成果をお伝えします。
サンゴ白化の現状と対策
2024年夏の記録的な高水温により、恩納村を含め世界的にサンゴが大規模に白化しました。サンゴは白化してもすぐに死んでしまうわけではなく、短時間のうちに水温が低下すれば秋から冬には健全な状態に戻りますが、夏の高水温が長時間続くと耐えきれずに死んでしまいます。2025年夏の琉球列島の海水温は平年並みでしたが、依然サンゴの回復が難しい状況が続いています。
(2024年8月、沖縄県本部町にて熊谷直喜による撮影)
サンゴを回復させるために、恩納村では人工的にサンゴを養殖・移植する取組みが進められており、対策の先進地となっています。
サンゴのひび建て式養殖:
海底に打ち込んだ鉄筋や棚の上でサンゴを育成する、とても大変な作業。海底から離すことで、赤土やオニヒトデの影響をうけにくくしている。
(2022年10月20日撮影)
(2025年8月26日撮影)
(2025年8月26日撮影)
養殖サンゴの撮影:阿部博哉
国立環境研究所では、この養殖・移植を含む、サンゴの生育状況や物理環境・水質・底質について、モニタリング等の調査を行っています。このような継続的なデータの蓄積および解析が、サンゴ減少のメカニズムの解明等に非常に重要です。またこの地道な努力が、保全対策の提案にも繋がります。
撮影:浅野絵美
赤土・オニヒトデ対策
陸から過剰な赤土が海に流入するのを防ぐために、沖縄県では工事での配慮、農地での対策(グリーンベルトや緑肥等)などが進められています。国立環境研究所では、恩納村や恩納村漁業協同組合など関係者のニーズを把握し、科学的知見をベースに協力を進めようとしています。また、沖縄県衛生環境研究所と共同研究等を実施し、赤土流出状況の把握等を行っています。
また、沖縄県が実施しているオニヒトデ対策事業においても、オニヒトデ集団が大発生するパターンの統計学的推定など科学的知見の面から支援1)を行っています。
サンゴ礁の保全・分布予測
これらの他にも、サンゴの保全優先度が高い場所の提案(慶良間諸島や奄美群島2)、久米島3)など)や、気候変動を踏まえた潜在的なサンゴ分布可能域の予測、更に高温適応も考慮した新たなサンゴ将来予測など多面的な研究を行っています。またこれらの研究成果について、学術領域のみならず、国や地方公共団体等の検討会や講演会等で幅広く伝える活動も行っています。
終わりに
これからも地域の方々や関係者と協力しながら研究を進め、平行してその成果の社会への還元も行っていきたいと考えています。
動画撮影:熊谷直喜
関連論文
- 1)岡地賢・小笠原敬・山川英治・北村誠・熊谷直喜・中富伸幸・山本修一・中嶋亮太・金城孝一・中村雅子・安田仁奈(2019).「沖縄県の複合的なオニヒトデ対策」『日本サンゴ礁学会誌』21,91-110.
- 2)阿部博哉・熊谷直喜・山野博哉(2023).「国立公園における沿岸生態系の気候変動影響と適応策」『地球環境』28(1), 95–102
- 3)Abe, H., Hayashi, S., Sakuma, A., & Yamano, H.(2024). Priority sites for coral aquaculture in Kume Island based on numerical simulation. Estuarine, Coastal and Shelf Science, 303,1-14
参考サイト