産官学民で取組む谷津再生・活用の現場を視察しました(千葉県印旛沼流域)~気候変動適応の研究会 NbS と気候変動適応分科会~

2025年6月12日、気候変動適応の研究会 NbS(Nature-based Solutions)分科会では、西廣副センター長の調査研究フィールドである千葉県印旛沼流域の谷津*の現場を視察しました。この谷津群は、科学的な谷津の機能評価がおこなわれるとともに、産官学民の連携・共創により湿地性の動植物が再生され、谷津の新たな活用にもつながっている場所です。自然を慈しむ想いから、活動への協力者が増え発展していった過程も感じることができた、とても貴重な視察となりました。
*谷津:長い時間をかけ台地が削られて(浸食されて)できた谷状の地形のこと。台地にしみ込んだ地下水が出てくる場所でもあり、湧水が豊富です。昔は水田として利用されていましたが、今はその多くが放棄されています。しかし放棄されていてもその谷津地形が雨水等の流下を緩やかにし(水害リスク軽減機能)、谷津を残すことに意味があります。また再び人の手を入れることで湿地性の動植物が再生することが確認されています。
谷田・武西の谷津(白井市谷田・印西市武西)
谷津の全景
湿地の生き物観察(マドジョウなど)
谷田・武西の谷津は、以前は湧水を活かした稲作が行われていましたが、その後耕作が行われない状況になっていました。市有地となった後、企業(MS&AD インシュアランス グループ)の職員の方々や市民団体(NPO法人谷田武西の原っぱと森の会、里山グリーンインフラネットワークなど)、印西市、白井市、国立環境研究所などにより、谷津の湿地環境の再生・保全が行われており、その現場を視察しました。また台地上の草原整備、伐採した竹のバイオ炭づくり等の活動もおこなわれています。MS&ADインシュアランス グループ職員の方々の活動の様子は、以下インスタグラムからも発信されています。
竹中工務店技術研究所「調の森 SHI-RA-BE」(印西市)
竹中工務店技術研究所の敷地内に、研究開発フィールドとして 2019年に作られた「調の森(しらべのも り)」を視察させていただきました。1ha もの面積があり、台地と谷津の景観や植生を再現しながら、グリーンインフラ・生物多様性分野の研究開発が進められています。希少な水草の生息域外保全技術や、環境DNA分析による生き物のモニタリング技術の研究サイトとして活用されている等ご説明いただきました。また、有機菜園もあり、職員の方々の憩いの場になっているそうです。米国の SITES Gold 認証、環境省自然共生サイト、国土交通省 TSUNAG の認証を取得されています。
西印旛沼全景(徳性院(印西市)から佐倉市方面を望む)

印西市側から佐倉市側を望める高台に上がり、西印旛沼を一望しました。印旛沼周辺の低地(田畑)とその周辺に広がる台地の地形が確認できました。また雨水を溜める台地と、そこから水が流れ込む印旛沼、その下流の市街地という流域としての営みを学ぶことができました。
八ツ堀のしみず谷津(富里市)



2020年11月から清水建設、富里市、NPO(富里のホタル、アースウオッチ・ジャパン)、市民団体(おしどりの里を育む会)、研究機関(国立環境研究所など)などの連携により、再生が行われている「八ツ堀のしみず谷津」も視察しました。「リビングラボ」のアプローチを採用しており、地域内外の方々が参加できる自然体験の場の提供(田植え、秘密基地づくり等)など、多様な主体と様々な取組みを進めています。また伐採した竹をバイオ炭にし、土壌改良剤として農地に漉き込むこと で、脱炭素と地域内の資源循環にも活用されています。またその農地で作られた野菜(クルベジ)を使ったお弁当も販売されています(右写真)。これらの取組みは、第4回グリーンインフラ大賞(グリーンインフラ官民連携プラットフォーム主催)において国土交通大臣賞を受賞しました。
大谷津・おしどりの里(富里市)
再生された谷津
研究成果の展示
おしどりの里(大谷津)は、地権者の方々が自ら谷津の再生に取り組まれた場所です。地域の方々にも開放されており、交流の場にもなっているそうです。谷津の奥ではホタルが観察でき、子供たちを対象とした自然体験教室の開催や、各種イベント(鯉のぼりを谷津に飾る鯉のぼりフェスタなど)を開催されているそうです。周囲の山林・竹林も整備され、カタクリをはじめとした植物や、サワガニなどの動物を観察することもできます。
さいごに
今回の視察は、地域の自然を読み解き、そこから苦労して生み出された科学的知見を専門家以外にも分かる形で伝え、活用できる形で提供している実装の現場を学ぶことができました。またこれらが、立場の異なる関係者との共創に発展し、新たな価値を生み出していると感じました。視察先でご説明、ご協力くださった皆様、本当にありがとうございました。
集合写真:鹿島川を背景に
出典・関連情報
- 【公式】印旛沼流域〈MS&AD グリーンアースプロジェクト〉
- 調の森 SHI-RA-BE
- 谷津の機能等について、より詳しく知りたい方は以下をご覧ください。
西廣淳「気候変動適応に役立つ生態系管理—印旛沼流域での試み—(2022年11月14日 第6回 S-18セミナー資料)」