気候シナリオを用いた将来気候の予測方法

気候シナリオとは

将来の気温や雨の降り方が将来どのように変化するのかを予測することは簡単ではありません。なぜなら、将来、私たちがどのような社会を作っていくかの選択肢はさまざまで、それにより温室効果ガスの排出量も変化し、そのことが将来の気温や雨の降り方にも影響するからです。
そうしたさまざまな可能性のある将来の気候を予測するために、温室効果ガス排出量やどういった社会(化石燃料に依存する社会や持続可能な社会)を目指すのかを踏まえた、いくつかの将来あり得るパターンを示した温室効果ガスの排出シナリオや社会経済シナリオが構築されています。これらの組み合わせを基に、複数パターンの将来の気候を予測した「気候シナリオ」が構築されています(気候モデルの詳細については、「1.4.GCM/RCP/SSP」の項目をご覧ください)。この気候シナリオと現在の気候とを比較することで、将来、気温が何度上昇するのか、降水量はどうなるのかといった予測が行われています。

気候シナリオを用いた将来気候の予測結果

日本の予測

日本の将来気候の予測は、文部科学省と気象庁によって「日本の気候変動2020」として取りまとめられています。「日本の気候変動2020」では、RCP2.6シナリオ(産業革命以前に比べて21世紀末(2076~2095年平均)の世界の気温が約2℃上昇)と、RCP8.5シナリオ(同約4℃上昇)の2パターンで日本の気候変化を予測しています(RCP(放射強制力)については「1.4.GCM/RCP/SSP」をご覧ください。)。以下、各項目についてこの2パターンの予測を紹介します。

気温の上昇

気温の上昇幅は、全国で一様ではなく、北海道など緯度が高いほど上昇幅が大きくなります。

21世紀末(2076~2095年平均)における日本の平均気温の変化の分布(℃)

図.21世紀末(2076~2095年平均)における日本の平均気温の変化の分布(℃)
左がRCP8.5シナリオ(4℃上昇)、右がRCP2.6シナリオ(2℃上昇)での予測。いずれも20世紀末(1980~1999年平均)との差。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

降水量などの変化

21世紀末(2075~2095年平均)の年間の降水量については、有意な変化傾向は予測されていません。一方で、日降水量100mm以上、同200mm以上の大雨の頻度を地域別に見ると、増加幅に地域差はあるものの、どの地域でも増加すると予測されています。

全国及び地域別の1地点当たりの日降水量100mm以上(左)及び200mm以上(右)の発生回数(日/年)
図.全国及び地域別の1地点当たりの日降水量100mm以上(左)及び200mm以上(右)の発生回数(日/年)
棒グラフはそれぞれの大雨の発生回数、細い縦棒は年々変動の幅。棒グラフの色は灰色が20世紀末(1980~1999年平均)、赤がRCP8.5シナリオ(4℃上昇)、青がRCP2.6シナリオ(2℃上昇)の21世紀末(2075~2095年平均)に対応する。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

降雪量についても、減少幅に地域差はありますが、全国的に減少すると予測されています。特に、RCP8.5シナリオでは、西日本では年間を通じてほとんど雪が見られなくなる予測となっています。

全国及び地域別の年降雪量の将来変化(%)
図.全国及び地域別の年降雪量の将来変化(%)
図の見方は降水量の図と同。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

海面水温の上昇

海面水温については、特にRCP8.5シナリオで、北日本沿岸部の水温の上昇幅が大きくなっています。

21世紀末における日本近海の平均海面水温の20世紀末からの上昇幅(℃)
図.21世紀末における日本近海の平均海面水温の20世紀末からの上昇幅(℃) 左がRCP2.6シナリオ(2℃上昇)、右がRCP8.5シナリオ(4℃上昇)による見積り。図中の無印の値は信頼水準99%以上で統計的に有意な値を、「∗」を付加した値は95%以上で有意な値を示している。上昇率が#とあるものは、統計的に有意な長期変化傾向が見出せないことを示している。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

ここでは、気温や降水量などの基本的な将来予測情報のみを紹介しましたが、その他の気象要素の将来予測やここで紹介した内容のさらに詳しい情報については、「日本の気候変動2020」をご覧ください。

世界の予測

世界の将来気候の予測は、IPCCが定期的に公表する評価報告書に掲載されています(IPCCの詳細については「5.3.IPCC」の項目をご覧ください)。
ここでは、IPCC第6次評価報告書に掲載された将来予測について紹介します。この報告書では、将来の社会経済の想定と温室効果ガス排出状況の組み合わせから5パターンに分けて将来気候の予測を行っています。
例えば、化石燃料に依存し温室効果ガス排出削減対策を行わないシナリオであるSSP5-8.5では、2100年に、産業革命以前に比べて世界の年平均気温は4.4℃程度上昇し、持続可能な発展の下で2050年頃にCO2排出量実質ゼロを達成するシナリオであるSSP1-1.9では、気温上昇は1.5℃未満と予測されています。
(SSPシナリオの詳細については「1.4.GCM/RCP/SSP」をご覧ください)

1850~1900年を基準とした世界平均気温の将来予測
図.1850~1900年を基準とした世界平均気温の将来予測
出典:IPCC第6次評価報告書 WG1 図 SPM.8(a))

気温の上昇

温室効果ガスの排出を続けることで、世界の平均気温は、1850~1900年の平均に比べて最大で約4.4℃上昇することは初級者編でも紹介しましたが、気温の上昇幅は、世界全体で同じではなく、地域によって差が生じます。
まず世界全体で見ると、低緯度地域に比べて、高緯度地域、特に北アメリカ大陸の北部やユーラシア大陸の北部など、北極に近い地域で気温上昇の速度が速く、図においても、変化量の大きい濃い色がついています。その気温上昇速度は、世界全体の約2倍以上と予測されています。
日本でも、「日本の予測」でも紹介したように、低緯度地域より高緯度地域の方が、気温上昇幅が大きく、特に、より緯度の高い北海道沿岸地域で気温が大きく上昇する予測となっています。
また、海面と陸面を比べると、陸面の方が気温が上昇しやすく、その差は1.4~1.7倍になると予測されています。

1850~1900年を基準とする年平均気温の変化
図.1850~1900年を基準とする年平均気温の変化
(出典:IPCC第6次評価報告書 WG1 図 SPM.5(b))

降水量などの変化

年間の最大日降水量(1日に降る雨の最大量)は、北極や南極近辺、赤道付近の太平洋や中東・インド近辺などで増加する一方、中南米や南アフリカなどでは減少すると予測されています。
ただし、図で示されているのは増減割合であり、例えば、アフリカ北部のサハラ砂漠近辺などのような元々降水量の少ない地域の場合、少しの降水量の増減で、その増減割合は大きく出てしまうことには注意が必要です。

1850~1900年を基準とする年平均降水量の変化(%)
図.1850~1900年を基準とする年平均降水量の変化(%)
(出典:IPCC第6次評価報告書 WG1 図 SPM.5(c))
出典・関連情報