2025年夏は、記録的な猛暑となりました。5月から9月までの全国における熱中症による救急搬送人員の累計は 100,510人となり、健康被害が深刻となっています。体が暑さに慣れていない時期の急激な気温上昇は、熱中症リスクを大きく高める要因の一つとされています。
同じような暑い環境下にいたとしても、熱中症のなりやすさは個人ごとで違いますが、熱中症のなりやすさに関連するものとして「体が暑さに慣れている」ことの重要性が近年、指摘されています。この体を暑さに慣らすということを、「暑熱順化」と言います。
暑熱順化をすると、暑熱環境での体温上昇や心拍数増加などの生理的ストレスを軽減できます。また循環血液量が増加し、汗のかき始めも早くなります。そのため同一体温に対する汗の量も増え、より効果的な体温調節ができるようになり、熱中症の危険性も少なくなります。
ここで注意してほしいのが、暑熱順化は一度獲得したらずっと続くものではないということです。暑熱順化を身につけ、維持していくためには、普段の生活の中で少しずつ暑さに慣れることが大切とされています。
以下は、そのために取り入れられている方法の一部です。
日常生活で実践したい暑熱順化のポイントの例
運動で汗をかくなど:「やや暑い環境」において、「ややきつい」と感じる強度で毎日30分程度の運動(ウォーキング等)を継続することなどで獲得できます。実験的には暑熱順化は運動開始数日後から起こり、2週間程度で完成するといわれています。
また、入浴など日常生活で無理のない範囲で汗をかくようにすることも重要です。
さまざまな場面での暑熱順化のポイントの例
スポーツ活動: 急に暑くなった時は運動を軽くして、徐々に慣らしていきます。
災害時のボランティア等:現地の暑さや復旧活動の作業強度に身体が慣れていない場合は、より多くの休憩時間の確保が必要です。
暑熱環境における職場で実践したい暑熱順化のポイントの例
特に気をつけるべき時期と人の例:梅雨から夏季になる時期において、気温等が急に上昇した高温多湿作業場所で作業を行う場合、新規入職者などが新たに当該作業を行う場合、又は長期間当該作業場所での作業から離れていた場合等においては、通常、当該作業従事者は暑熱順化していないことに留意が必要です。
また、夏季休暇等のため熱へのばく露が中断すると、4日後には暑熱順化の顕著な喪失が始まり、3~4週間後には完全に失われることに留意が必要です。そのため、しばらく何もしなければ元に戻ってしまうことを理解し、連休後には必要に応じ、追加の暑熱順化を行うことなども検討します。
徐々に慣らす(7日以上など):暑熱順化の具体的な方法の例として、暑さが本格化する前に作業時間を徐々に伸ばすなど調整し、発汗しやすい服装等で作業負荷をかけ、個人の健康状態を確認しながら7日以上かけて実施することが考えられます。
WBGT基準値に基づく休憩の確保など:暑熱順化していない作業者は、順化している作業者に比べて低いWBGT値でも熱中症リスクが高まるため、WBGT値に応じた作業の中断や休憩時間を長めに設定するなどの対策が求められます。
WBGT(暑さ指数)は、人体と外気との熱のやり取り(熱収支)に着目し、気温、湿度、日射・輻射(ふくしゃ)、風の要素を基に算出する指標です。熱中症の発生と気象条件(温度のほか、湿度、風、日射・輻射など)の間には密接な関係があるため、WBGT値に応じて適切な行動をとることが、熱中症予防において重要です。
暑さへの“なれ”を考慮した新しい研究
国立環境研究所の研究チームは、「経験相対気温」と呼ばれる気候指標を用いて、暑さへの「なれ(馴化)」を考慮することにより、熱中症リスクの予測精度が向上することを明らかにしました。「経験相対気温」は、日平均気温から容易に算出できる気候指標であり、地域における熱中症リスク評価での活用が期待されます。
各自治体における普及啓発の取り組み
暑さの状況は地域によって異なります。このため、住民に身近な地方公共団体が、それぞれの地域の暑さの特性を踏まえた熱中症予防の呼びかけや暑さ対策を行うことが有効であると考えられます。
こうした背景から、猛暑への備えとして地方公共団体においても暑熱順化の普及に取り組んでいます。以下に、その取り組みの一部をご紹介します。
- 山形県大蔵村健康だより:早めに始めよう「暑熱順化」
- 千葉県千葉市:暑熱順化推進!~暑さに強い身体を作ろう!~
- 東京都:暑熱順化等講習会(暑熱順化スタート講座)
- 東京都江戸川区:今から始めて夏を迎えよう!熱中症予防には暑熱順化(しょねつじゅんか)
- 兵庫県芦屋市:「暑熱順化」で暑い夏を乗り切ろう!!
引用および参考文献一覧
- 気候変動に関する研究者インタビュー2025 -熱中症対策- (A-PLAT)
- 熱中症環境保健マニュアル 2022(環境省)
- 熱中症環境保健マニュアル ~総論~ 2025年7月版(環境省)
- 職場における熱中症予防基本対策要綱(厚生労働省)
- 熱中症予防情報サイト お問い合わせでよくある質問(環境省)
- 暑さへの「なれ」を考慮することにより熱中症リスクの予測精度が向上する(国立環境研究所 / Oka et al., Environmental Research, 2024)
- 令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況(消防庁)