水資源:豪雨が増えているのに水が足りない?国立環境研究所・花崎 直太室長に聞く、2025年の気候と水資源のこれから
岡 和孝室長
記録的な猛暑となった2025年夏。
東京都の調査によると、東京では都民のうち7割近く、男性でも4割以上が日傘を利用するなど、暑さは私たちの暮らし方を否応なく変化させています。
気温の上昇に伴い、これから環境や私たちの暮らしは、どのように変化していくのでしょうか。今回は、私たちの生活にとってますます身近なリスクとなっている「熱中症」をテーマに、気候変動による影響(暑熱・健康、エネルギー)を専門とする国立環境研究所の岡 和孝室長にお話を伺いました。
2025年の気候の特徴から将来のリスク、そして私たちが明日からできるアクションまで。
岡室長が教えてくれたのは、単なる「猛暑」という言葉では捉えきれない、暑さの質そのものが変わりつつある現実でした。
目次
高齢者から若者まで広がる熱中症、猛暑が「あたり前」になる時代の備え
2025年夏(6〜8月)は、北日本・東日本・西日本で統計開始以来(1946年以降)最も高くなるなど、各地で記録的な猛暑となりました。
みなさんも日々の暮らしの中で「暑さ」を強く意識する場面が、これまで以上に増えたのではないでしょうか。実際に、2025年は熱中症による救急搬送者数が初めて10万人を超え過去最多となっています。
出典:
気象庁 「2025年の梅雨入り・明け及び夏(6~8月)の記録的高温について」
総務省 令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況
2025年の暑さは、始まりの早さにも特徴がありました。
気象庁の速報では、2025年6月の日本の月平均気温は平年差+2.34℃。これは1898年の統計開始以来、最も高い値です。
出典:気象庁 「6月の記録的な高温と今後の見通しについて」
岡室長は次のように解説します。
「6月はまだ夏本番ではなく、多くの人が暑さに慣れていない時期です。そのため、暑さに慣れていない5〜6月に気温が急に上がると、同じ気温でも7〜8月に比べて熱中症になるリスクが高くなる傾向があります。実際に、昨年の熱中症による搬送数は過去最多の数字となりました。過去の推移を踏まえると、気温上昇に伴って搬送人員が増える傾向は今後も続く可能性があります。
消防庁によると、2025年5〜9月の熱中症による救急搬送人員は100,510人で、調査を開始した2008年以降、最も多い搬送人員となりました。中でも6月は過去最多、9月は過去2番目の搬送人員を記録しています。年齢区分別では高齢者が最も多く、全体の約57%を占めています。
熱中症による救急搬送人員において、次に多いのが小学生・中学生・高校生といった若年層です。この背景には、部活動やクラブ活動など、運動に伴う熱中症が多いことがあると考えられます」
異常な暑さが「あたり前」になりつつある今、熱中症対策を「もしもの対策」から「日常の対策」へと変えていく必要があります。
暑さは同じでも、リスクは同じじゃないー地域差から考える熱中症対策
記録的な猛暑が続く中で、私たちの暮らしはどのように変化していくのでしょうか。今後の変化を考える上でかかせない視点が、地域や年齢など前提の違いを考慮した対策だと岡室長は指摘します。
「北海道や東北など、これまで比較的涼しく、エアコンがなくても過ごせていた地域でも、ここ数年は非常に暑くなってきています。そのため、これまで以上にエアコンの重要性が高まっていますが、実際には夏期に需要が一気に集中し、購入しても設置までに時間がかかったり、売り切れてしまったりするケースも少なくありません。
また、同じ30度という気温でも、暑さに慣れている地域と慣れていない地域では、人口当たりの熱中症搬送者数に差が出ることが分かっています。一般に、暑さに慣れていない地域ほど、同じ気温でもリスクが高くなる傾向があります。
こうした状況を踏まえると、今後、気候変動によって気温がさらに上昇する中で、北海道や東北を含め、これまで比較的暑さが深刻ではなかった地域においても、熱中症対策をさらに進めていくことが、より重要になってくると考えられます」
現在、熱中症警戒アラートでは、暑さ指数が33℃以上になった場合に一律発表されます。
しかし岡室長の研究では、65才以上や、5-6月、暑さに慣れていない地域では基準を低めに設定するなど、年齢や季節、地域ごとに発表基準を細かく設定し、それに応じた対策を講じることで、熱中症による死亡者数を半減、100%削減できる可能性も示されています。
図:回避可能熱中症死亡数50%削減のための都道府県・性別・年齢別の熱中症警戒アラートの発表基準となるWBGT値
国立環境研究所と筑波大学の分析では、2060〜2080年代には、熱中症リスクが高い暑熱環境下にいる高齢人口が、全国で3,000万人以上(国内総人口の約3割)になると予測されています。
出典:国立環境研究所 「将来の日本では熱中症リスクの高い高齢人口が 3千万人に —全国の暑熱環境の高解像度予測に基づく分析—」
熱中症リスクの高い人が増え続ける時代においては、「誰が、いつ、どこで危険にさらされやすいのか」に気づける仕組みを社会全体で整えていくことが、結果として多くの命を守ることにつながっていきます。
命を守るのは、暑さを避け、水分をとり、気にかけること
そんな中、私たちにできることは何なのでしょうか。
岡室長は、気温の上昇に伴って熱中症による救急搬送者数がどのように増えていくのかを、データや数値計算をもとに分析し、そのリスクをどう減らせるかという「適応策」の研究を行っています。研究を通じて見えてきたのは、特別な対策よりも、日常の基本的な行動をどれだけ確実に積み重ねられるかが、命を守るうえで重要だということです。
「熱中症対策としては、基本的に『暑い環境を避けること』と『適切な水分や塩分をとること』の二つに集約されます。この基本を社会全体で繰り返し伝え、実行していくことが大切だと考えています。
加えて、家族や近所、コミュニティでの声かけも重要です。特に高齢者は暑さを感じにくい場合がありますし、電気代が不安でエアコンの使用を控えてしまうこともあります。そうした“事情”に鑑みると、個人の努力だけでは限界が出てきます。だからこそ、『大丈夫?』の一言や定期的なコミュニケーションが、実際に命を守る行動につながることがあります」
変わっていく世界を快適に生きぬく選択「適応アクション」
岡室長のお話にもあったように、暑さが当たり前となる中で、気候変動による影響や熱中症リスクは、日常のあらゆる場所に潜んでいます。そうした中で私たちが選べるのが、気候変動の影響に備え、快適に暮らしていくための「適応」という選択肢です。
日本や世界で起きている暑さの変化に対し、「熱中症警戒アラートを確認する」「暑さ指数を見て行動時間を調整する」「水分・塩分をこまめに補給する」といった自分を守る行動に加え、「家族や身近な人に声をかける」といった周囲を守る行動も、大切な適応アクションです。
「#適応しよう」ページでは、こうした「様々な適応」を含め、これからの時代を快適に暮らすための「15の適応アクション」を紹介しています。
未来を快適に暮らすために必要なのは、特別な誰かの大きな決断だけではありません。
あなたが今日選ぶ、ほんの小さな「適応」の積み重ねが大切です。
まずは今日の暑さ対策から、自分らしいアクションを選んでみませんか?