成果報告 0-5

気候変動が果樹生産適地に及ぼす影響に係る影響評価

対象地域 全国
調査種別
分野 農業・林業・水産業
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※調査結果を活用される際には、各調査の「成果活用のチェックリスト」を必ず事前にご確認ください。

概要

「平成31年度地域適応コンソーシアム全国運営・調査事業委託業務報告書」より抜粋

背景・目的

気候変動による果樹の品質や収量への影響は、既に顕在化している。果樹は同じ木で30年以上栽培を継続することから、栽植の際にどの樹種を植えたら良いかを検討する必要があるが、現在では、意思決定に必要な果樹生産適地に関する将来予測情報が不足している。そのため、気候変動がもたらす主要果樹の生産適地に及ぼす将来の影響について、最新の影響評価モデルや気候シナリオを活用して予測を行った。

実施体制

本調査の実施者 農研機構 果樹茶業研究部門

本調査における実施体制を以下に示す。

実施体制
図 5.1-1 実施体制

実施スケジュール(実績)

平成30年度は気候変動影響予測を行うための基礎データを収集し、ウンシュウミカン、タンカン、リンゴについて、現在および将来(21世紀中頃)の栽培適地を気候シナリオごとに評価した。また、その結果を用いて生産が可能な確率についてマップを作成し、影響評価の空間的な精緻化および極温推定の手法の検討を行った。

令和元年度は、最新の気候変動影響予測データを収集するとともに前年度に開発した極温に関するバイアス補正を実施して、ウンシュウミカン、タンカン、リンゴについて、将来(21世紀中頃および21世紀末)の栽培適地を気候シナリオごとに評価した。また、その結果を用いて生産が可能な確率についてマップを作成した。また、長野県については影響評価の空間的な精緻化を行った。

実施スケジュール
図 5.1-2 実施スケジュール

気候シナリオ基本情報

気候モデル(5つ)×RCP(2つ)×予測期間(2つ)の計20パターンの予測および気候モデルを統合した確率予測をリンゴ、ウンシュウミカン、タンカンについて行った。長野県のリンゴについては高解像度での予測を実施した。

表 5.1-1 リンゴの気候シナリオ
項目 リンゴ適地(全国) リンゴ適地(長野県)
気候シナリオ名 農環研データセット by SI-CAT
気候モデル MIROC5、MRI-CGCM3、GFDL-CM3、HadGEM2-ES、CSIRO-Mk3-6-0 MIROC5
気候パラメータ 日平均気温
排出シナリオ RCP2.6、RCP8.5
予測期間 21世紀中頃、21世紀末
解像度 1×1km 250×250m
バイアス補正 あり
表 5.1-2 カンキツの気候シナリオ
項目 ウンシュウミカン適地 タンカン適地
気候シナリオ名 農環研データセット by SI-CAT
気候モデル MIROC5、MRI-CGCM3、GFDL-CM3、HadGEM2-ES、CSIRO-Mk3-6-0
気候パラメータ 日平均気温、日最低気温
排出シナリオ RCP2.6、RCP8.5
予測期間 21世紀中頃、21世紀末
解像度 1×1km
バイアス補正 あり

気候変動影響予測結果の概要

影響予測を行った結果、明らかになった事項の概要を下記に樹種別に示す。

リンゴの適地

リンゴについて現在の栽培面積の分布は、東北地方に74.8%、長野県20.1%、北海道1.5%、群馬県1.1%、北陸地方0.4%、その他2.1%である。現在の気温分布より適地判定すると、東北地方は高地を除くほぼ全域、北海道は南部の平野部、また、北陸の平野部、東日本以西の山間地・中山間地が適地となる。したがって、産地は概ね適地の中に含まれると考えられる。

リンゴの今後の栽培適地について、気候モデルMIROC5を用いて予測すると、温室効果ガス排出シナリオによらず、21世紀中頃では、主産地である東北地方と長野県には大きな変化は見られないが、北海道では適地が広く広がる。21世紀末では、温室効果ガス排出シナリオがRCP2.6の場合、21世紀中頃と同様であるが、RCP8.5では、東北や長野の主産地の平野部でも、適地よりも高温になる可能性が認められる。

気候モデルMRI-CGCM3を用いて予測すると、RCP2.6の場合、21世紀中頃までは現在と大きな差がないが、21世紀末になると北海道北部の沿岸部まで適地が広がる。RCP8.5では、21世紀中頃になると北海道北部の沿岸部まで適地が広がるものの、21世紀末になると東北中部、南部など主産県の一部の平野部が適地よりも高温になる可能性が認められる。

21世紀中頃および21世紀末のリンゴの適地(赤色)。左のパネルはMIROC5、右はMRI-CGCM3。
図 5.1-1 21世紀中頃および21世紀末のリンゴの適地(赤色)。左のパネルはMIROC5、右はMRI-CGCM3。

ウンシュウミカンの適地

ウンシュウミカンについて栽培面積が分布している府県は、西から千葉、神奈川、静岡、愛知、三重、和歌山、大阪、兵庫、広島、山口、四国全4県、九州全7県である。現在の気温分布より適地判定すると、関東以西の太平洋あるいは瀬戸内海の沿岸部が適地となる。したがって、産地は概ね適地と一致すると考えられる。

ウンシュウミカンの今後の栽培適地について、気候モデルMIROC5を用いて予測すると、温室効果ガス排出シナリオによらず、21世紀中頃では、山陰から北陸までの日本海側にも適地が広がる。また、太平洋側ではより内陸部まで適地が拡大する。21世紀末では、RCP2.6の場合、21世紀中頃と同様であるが、RCP8.5では、東北中部の太平洋および日本海沿岸まで適地が広がる一方で、関東以西の太平洋側は、適地が沿岸部から内陸部へ移動する可能性が認められる。

気候モデルMRI-CGCM3を用いて予測すると、温室効果ガス排出シナリオによらず、21世紀中頃では、日本海側は山陰まで適地が広がる。RCP2.6の場合、21世紀中頃までは現在と大きな差がない。RCP8.5では、21世紀末になると、東北中部の太平洋および日本海沿岸まで適地が広がる一方で、関東以西の太平洋側は、適地が沿岸部から内陸部へ移動する可能性が一部で認められる。

21世紀中頃および21世紀末のウンシュウミカンの適地(赤色)。左のパネルはMIROC5、右はMRI-CGCM3。
図 5.1-2 21世紀中頃および21世紀末のウンシュウミカンの適地(赤色)。左のパネルはMIROC5、右はMRI-CGCM3。

タンカン

タンカンについて現在の収穫量(農林水産省統計、2016年度)は、鹿児島県が81.4%、沖縄県18.1%、その他0.5%である。現在の気温分布より適地判定すると鹿児島県の南部以南が適地となり、現在の適地が分布する県と一致する。

タンカンの今後の栽培適地について、気候モデルMIROC5を用いて予測すると、温室効果ガス排出シナリオによらず、21世紀中頃では、適地が関東以西の太平洋あるいは瀬戸内海の沿岸部に大きく広がり、現在のウンシュウミカンの適地分布に近づく。21世紀末では、RCP2.6の場合、21世紀中頃と同様であるが、RCP8.5では、現在のウンシュウミカンの適地のほとんどをカバーする。

気候モデルMRI-CGCM3を用いて予測すると、温室効果ガス排出シナリオによらず、21世紀中頃では、適地が紀伊半島、四国、九州の南端部に広がる。21世紀末では、RCP2.6の場合、21世紀中頃と同様であるが、RCP8.5では、現在のウンシュウミカンの適地の多くをカバーする。

21世紀中頃および21世紀末のタンカンの適地(赤色)。左のパネルはMIROC5、右はMRI-CGCM3。
図 5.1-3 21世紀中頃および21世紀末のタンカンの適地(赤色)。左のパネルはMIROC5、右はMRI-CGCM3。

活用上の留意点

本調査の将来予測対象とした事項

本調査では、気候変動による気温上昇がリンゴ、ウンシュウミカン、タンカンの栽培適地に与える影響を対象とした。リンゴとウンシュウミカンについては北限と南限を設定したものの、タンカンについては北限のみ設定した。

気象要素としては、気候変動により気温が変化することを想定している。気温は果樹の適地を決める最も重要な気象要素である。

リンゴ、ウンシュウミカン、タンカンとも、品種により適地の多少の相違はあるが、現行の主力品種が想定されている。栽培についても各地の慣行の方法を想定している。

本調査の将来予測の対象外とした事項

タンカンについて南限は設定していないので、21世紀末の予測についてはこの点に留意すべきである。

気温以外の気象要素である、降水量、日射量、風速の影響は想定していない。二酸化炭素の濃度は今後上昇することが想定されているが、果樹に与える影響が明確でないため、適地判定には使用しなかった。この点には留意が必要である。

栽培適地を南に大きく拡大するような温暖化適応品種の利用は想定していない。土壌条件も適地を決める要素であるが、考慮していないので、土壌条件によっては土壌改良や排水施設の設置、潅水施設の設置が必要となることに留意すべきである。

その他、成果を活用する上での制限事項

現状、適地とされ、実際に主力産地となっている地域でも、気温の年々変動があり、年によって高温の被害や低温の被害を受ける。すなわち適地とは気象災害が発生しない地域ではなく、その頻度が比較的小さい地域である。本研究は適地を20年間の気温で判断しているが、20年の間には適地であってもこのような災害発生が想定される。農業である以上、気象災害対策は常に怠ってはならない。

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