成果報告 1-1

気温上昇や気象災害によるリンゴへの影響調査

対象地域 北海道・東北地域
調査種別 先行調査
分野 農業・林業・水産業
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※調査結果を活用される際には、各調査の「成果活用のチェックリスト」を必ず事前にご確認ください。

概要

「平成31年度地域適応コンソーシアム北海道・東北地域事業委託業務報告書」より抜粋

気候変動によるリンゴ栽培への影響として懸念されている気象災害は、日焼け、凍霜害、着色不良、ひょう害などが挙げられる。本調査では、北海道・東北地域を対象に、リンゴ栽培における日焼け及び凍霜害についての将来予測を行った。その結果、日焼けについては北海道・東北全域で日焼けリスク発生日数が増加する傾向があり、21世紀末の気候シナリオ(RCP8.5)では、日焼けリスク発生日数が最大で10日以上となる地点があることが分かった。凍霜害の影響予測結果は北海道・東北全域で増減傾向は一様ではなく、増加する地域がある一方、減少する地域があることが示唆された。これらの影響に対する適応策を検討し、日焼けに対しては被覆資材や細霧冷房装置の使用、凍霜害に対しては防霜ファンの使用や燃焼法などが有効であることを確認した。

背景・目的

気候変動による気温上昇等により、北海道・東北地域においてリンゴ果実の日焼け、凍霜害、着色不良、ひょう害など、気象災害の増加傾向がみられる。今後さらに気温上昇が進むことにより、気象災害の被害が増加し、リンゴの品質・収穫量に大きな影響を及ぼす可能性がある。

本調査は、将来の気候変動によるリンゴ栽培への影響が懸念される日焼け及び凍霜害の将来予測を行うとともに、日焼けの軽減を目的とした果実表面温度上昇の抑制技術を実証試験し、地方公共団体によるリンゴの気象災害に対する適応策の検討に活用することを目的として調査を実施した。

実施体制

本調査の実施者 日本エヌ・ユー・エス株式会社
アドバイザー 農業・食品産業技術総合研究機構リンゴ栽培生理ユニット長 岩波 宏
実施体制
図 1-1 実施体制図

実施スケジュール(実績)

3ヶ年の実施スケジュールを図 1-2に示す。調査実施項目は、気候変動によるリンゴへの影響評価、リンゴの適応技術に関する実証試験調査、リンゴWGの実施、適応策の検討の4項目である。気候変動によるリンゴへの影響評価では、1年目に既存の気候データを活用して気温上昇予測を行い、2年目に日焼け及び凍霜害の影響評価を行った上で、3年目に収集した地点別の気候データを活用して評価の妥当性を確認した。実証試験調査では、1年目に実証試験の計画を作成し、2年目に実証試験を実施した。リンゴWGは各年度1~2回、自治体の研究機関の研究者と検討項目の方向性の確認や評価結果についての意見交換を行った。適応策の検討は、影響評価結果を踏まえて3年目に実施した。

実施スケジュール
図 1-2 調査実施スケジュール

気候シナリオ基本情報

本調査で使用した気候シナリオの基本情報は、表 1-1のとおりである。

表 1-1 使用する気候パラメータ
項目 日焼け 凍霜害
気候シナリオ名 NIES統計DSデータセット
気候モデル MRI-CGCM3、MIROC5
気候パラメータ 日最高気温 日最低気温
排出シナリオ RCP2.6、RCP8.5
予測期間 21世紀中頃
21世紀末
バイアス補正の有無 有り(全国)

気候変動影響予測結果の概要

文献調査での結果、以下のことが分かった。

  • 夏季の高温・少雨や強い日射が日焼け果の原因になる。
  • 暖冬の程度が強いほど耐凍性が低下し、凍害発生の危険生が増大する。
  • 近年の気温上昇によりほとんどの産地で発芽期・開花期が早まり、日焼けや凍霜害などのリンゴへの障害は、ほとんどの樹種、ほとんどの地域に及んでいる。

ヒアリングの結果、以下のことが分かった。

  • リンゴ果実の表面温度上昇が日焼け発生の要因である。主な対策としては、被覆資材やミストなどを使用することにより果面温度の上昇を抑制することである。
  • 近年、発芽期の前進傾向が見られるとともに、凍霜害の被害が増えてきている。気温差の大きな東北地方においては、将来凍霜害のリスクが高まる可能性がある。対策としては、防霜ファン、スプリンクラー、燃焼材の使用などが挙げられる。

影響予測を行った結果、以下のことが分かった。

  • 日焼けについては、東北全域でリスクが増加する傾向があることが分かった。
  • 凍霜害については、リスクが増加する地域と減少する地域があることが分かった。

日焼け

日焼けの影響予測結果を図 1-3及び図 1-4に示す。日焼けの影響評価は、日最高気温が33℃以上となる日を日焼けリスク発生日と定義し、その該当日数の増減によって評価した。現在では、日焼けリスク発生日数は東北北部内陸で年間数日程度、東北南部内陸で年間十数日程度であり、7月・8月に集中して見られるのに対し、21世紀末のRCP8.5では日数が極端に増加しており、8月は東北の日本海側を中心に、連日のように日焼けリスクが発生する日となる。気候モデル・将来気候シナリオの違いによらず、いずれの解析事例にも共通して日焼けリスクの増加を示していることから、将来の日焼けリスク増加は、確実性が高いものと推察される。

日焼けリスク評価結果(MRI-CGCM3)
図 1-3 日焼けリスク評価結果(MRI-CGCM3)
日焼けリスク評価結果(MIROC5)
図 1-4 日焼けリスク評価結果(MIROC5)

凍霜害

凍霜害のリスクは、「危険度0.5」及び「安全限界温度+2℃」の2つの指標を用いて評価している。凍霜害リスクの評価手法を図 1-5に示す。いずれの指標についても、まずリンゴの生育モデルを活用して生育ステージを将来予測したのち、各生育ステージでの日最低気温が基準温度以下となったときに凍霜害リスクがあると判定した。2つの指標のうち、危険度0.5指標は、栽培現場で実際に凍霜害の被害が生じる可能性があるリスクを評価したものであるのに対し、安全限界温度+2℃指標は、栽培者が防霜対策の検討が必要となるリスクを評価したものである。

凍霜害リスクの評価手法
図 1-5 凍霜害リスクの評価手法

図 1-6及び図 1-7は、栽培現場で実際に凍霜害の被害が生じる可能性があるリスクを評価した危険度0.5指標である。危険度0.5指標の結果としては、現在では大部分の地域で1年当たり1日未満である。MRI-CGCM3では、全体的に微減を示す地域が卓越している。MIROC5では、微増する地域、微減する地域がみられた。

図 1-8から図 1-11は、栽培者が防霜対策の検討が必要となるリスクを評価した安全限界温度+2℃指標である。安全限界温度+2℃指標では、21世紀末/RCP8.5のような最も温暖化が進行した事例で凍霜害リスクが減るものの、その中間のレベルの温暖化では、凍霜害リスクが増加する傾向がある。

危険度0.5指標による凍霜害評価結果(MRI-CGCM3)
図 1-6 危険度0.5指標による凍霜害評価結果(MRI-CGCM3)1)
危険度0.5指標による凍霜害評価結果(MIROC5)
図 1-7 危険度0.5指標による凍霜害評価結果(MIROC5)
1) RCP2.6no21世紀中頃と21世紀末の評価の逆転について:MRI-CGCM3のRCP2.6のシナリオでは、北海道地方において21世紀中頃より21世紀末が、危険度0.5指標による凍霜害リスクが高くなることが予測されている。この原因は、凍霜害の判定に使用した最低気温が21世紀中頃よりも21世紀末においてデータのばらつきが大きくなり、極端に寒い日が予測されていることによるものである。
安全限界温度+2℃指標による凍霜害評価結果(MRI-CGCM3)
図 1-8 安全限界温度+2℃指標による凍霜害評価結果(MRI-CGCM3)
安全限界温度+2℃指標による凍霜害リスク発生日数。現在と将来予測の差(MRI-CGCM3)
図 1-9 安全限界温度+2℃指標による凍霜害リスク発生日数
現在と将来予測の差(MRI-CGCM3)
安全限界温度+2℃指標による凍霜害評価結果(MIROC5)
図 1-10 安全限界温度+2℃指標による凍霜害評価結果(MIROC5)
安全限界温度+2℃指標による凍霜害リスク発生日数。現在と将来予測の差(MIROC5)
図 1-11 安全限界温度+2℃指標による凍霜害リスク発生日数
現在と将来予測の差(MIROC5)

活用上の留意点

本調査の将来予測対象とした事項

本調査では、気候変動による気温上昇がリンゴの日焼け及び凍霜害のリスク発生日数を対象とした影響予測を実施した。

本調査の将来予測の対象外とした事項

本調査における日焼け及び凍霜害の評価では、リスクのある日の発生頻度についての評価であり、被害の程度については評価対象外である。

その他、成果を活用する上での制限事項

凍霜害は、地形や地物等の状況で局所性を有する気象災害という一面も有しており、本結果が北海道・東北地域全体として、将来の凍霜害対策が不要となることを意味するわけではないことに留意する必要がある。

適応オプション

調査において検討した適応オプション及びその考え方を表 1-2~表 1-3に示す。

表 1-2 適応オプション
適応オプション 想定される実施主体 評価結果
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
被覆資材(寒冷紗・果実袋等)の使用 普及が進んでいる 個別に作業をする必要があり、労力を要する。 短期
細霧冷房装置の使用 普及が進んでいない 水源が確保されていることが前提となり、導入可能な場所は限られる。 短期
かん水の実施 確実に効果を得るための技術検証が必要。 短期
防霜ファンの使用 普及が進んでいる 設備投資額が大きく、自己資金のみでの導入を前提とした場合、普及は限定される。 短期
散水氷結法 水源が確保されていることが前提となり、導入可能な場所は限られる。 短期
燃焼法 普及が進んでいる 燃焼資材の管理に手間と労力がかかる。 短期
品種更新 普及が進んでいる 品種が多く、品種の選択を慎重に行う必要がある。 長期
樹種転換 ブランディングに時間がかかる。 長期
表 1-3 適応オプションの考え方
適応オプション 適応オプションの考え方と出典
【日焼け】被覆資材(寒冷紗・果実袋等)の使用 日焼けが発生しそうな箇所に対して選択的に使用可能で、高額な費用がかからない点で有効な適応オプションであり、普及状況は「普及が進んでいる」とした。
【日焼け】細霧冷房装置の使用 文献により特定したが、東北地方では福島県で試験を行っている状況であったため、普及状況は「普及が進んでいない」とした。
(出典:富山県農林水産総合技術センター)
【日焼け】かん水の実施 中部地方で実績があるが、本コンソーシアム事業で行った実証試験では十分な効果を確認出来ず、効果を得るための技術検証が必要であると判断し、期待される効果の程度を「低」とした。
(出典:長野県農業技術課)
【凍霜害】防霜ファンの使用 リンゴWG及び自治体へのヒアリングにより普及状況について「普及が進んでいる」ことを確認した。
【凍霜害】散水氷結法 導入には水源の確保などの制約があるため、普及状況は「―」とした。
(出典:岩手県農作物気象災害対策本部)
【凍霜害】燃焼法 リンゴWGにおいて最も一般的な凍霜害対策であるとの意見であったため、普及状況について「普及が進んでいる」とした。
【着色不良】品種更新 リンゴWGにおいて着色不良に対する最も有効な適応オプションとして品種更新が挙げられ、導入が進んでいることを確認したため、普及状況について「普及が進んでいる」とした。
【全般】樹種転換 農業事業者の判断で樹種転換が実施可能なため、人的側面は「◎」とした。
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