成果報告 2-3

気候変動による印旛沼とその流域への影響と流域管理方法の検討

対象地域 関東地域
調査種別 先行調査
分野 水環境・水資源
自然災害・沿岸域
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※調査結果を活用される際には、各調査の「成果活用のチェックリスト」を必ず事前にご確認ください。

概要

「平成31年度地域適応コンソーシアム関東地域事業委託業務業務報告書」より抜粋

背景・目的

印旛沼は、人口増加や都市化に加え、気候変動の影響による気温の上昇、短時間強雨や大雨の発生頻度の増加等によって、水質悪化や洪水のリスクが高まっている。特に水質は、上水・農業用水・工業用水としても利用されており、改善が期待されているものの、気候変動が水質に与える影響の詳細は明らかにされていない。

本調査では、気候変動が印旛沼の水質に与える影響とその関連性を明らかにし、その適応策として、河川・農林・環境分野が連携した流域管理方法を検討した。

印旛沼
印旛沼

実施体制

本調査の実施者 パシフィックコンサルタンツ株式会社、東邦大学(H29~H30)
アドバイザー 国立環境研究所 気候変動適応センター 主任研究員 西廣 淳
実施体制
図3-1 実施体制

検討にあたり、気候変動による印旛沼への影響評価・適応策検討に係る事項についての技術的助言を得るため、学識者・行政関係者からなる「印旛沼流域適応策検討推進協議会」を設置し、年2回開催した。(詳細は、後述3.3.3参照)

また、適応策の具体的な検討や社会実装について、検討・議論するため、平成30年度より勉強会(学識者、行政関係者、地元関係者、民間企業等の有志が参加)を月1回程度開催し、適応策に関する話題を中心に情報共有・交換や議論を行い、検討結果に反映した。

実施スケジュール(実績)

平成29年度は、資料収集整理や検討推進体制の構築等(協議会の立ち上げ)気候変動影響予測や適応策の検討を行うにあたっての基礎的検討や準備を行った。

平成30年度から平成31年度にかけては、協議会での助言も踏まえつつ、気候変動影響予測および適応策の検討を行った。

スケジュール
図3-2 スケジュール

気候シナリオ基本情報

表3-1 気候シナリオ基本情報
項目 水質 洪水
気候シナリオ名 気象研究所2km力学的DSデータ by 創生プログラム
気候モデル MRI-NHRCM02
気候パラメータ 気温、降水量、風速、湿度、日射量
※いずれも時別値
降水量
排出シナリオ RCP8.5
予測期間 21世紀末
バイアス補正の有無 有り(全国)

気候変動影響予測結果の概要

収集した既往研究より、印旛沼における水質(COD)と、降水量、日照時間の関係について解析した結果、日照時間が長い年、降水量が少ない年にCODが高い関係にあるとの知見が得られた。

気象・水文・水質等のデータを収集し、それに基づいて検討を行った結果、気温が高い・日照時間が多いほど水質(COD、Chl.a)が高い傾向、降水量が多いほど水質が低い傾向となっていることが分かった。また、流域の市街化が降雨時流出負荷の増加に影響している可能性があることを示唆する結果が得られた。さらに、近年、沼内の植物プランクトン構成種に変化が生じていることが水質に影響している可能性、風が強い場合に底泥の巻き上げにより水質が悪化している傾向があることなどが分かった。以上のように、将来の気候変動によって、水質悪化が生じる可能性があることを示唆する結果となった。

気候シナリオデータを用いた影響予測を行った結果、以下のことが分かった。

  • 印旛沼に流入する河川の年平均流量は、将来(21世紀末,RCP8.5)、現在と比べ減少傾向になると予測された。
  • 一方、強い雨が発生する頻度が、現在から21世紀末にかけて増加すると考えられ、印旛沼流域全体での流域平均雨量が、現在では発生しない50mm/hrを上回る降雨が、21世紀末では10年に1回程度発生する可能性があると予測された。
  • 沼内では、水温の上昇に伴い、アオコ発生の原因となる藍藻類の優占する期間が、現在から21世紀末にかけて、約2ヶ月長くなる可能性があり、アオコが問題となる期間が長期化する可能性があることが示唆された。

影響予測(水質)

(1)流域からの流入量

印旛沼に流入する河川の年平均流量は、将来(21世紀末,RCP8.5)、現在と比べ約4%の減少傾向になると予測された。

一方、日流量で見ると、最大値は将来の方が大きな値が発生すると予測された。これは、強雨の発生頻度の傾向と対応している。

左:年平均流量、右:年最大日流量
図3-3 流量(印旛沼流入河川)
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02
(2)流域からの流入負荷量

印旛沼に流入する河川からの年平均流入COD負荷量は、将来(21世紀末,RCP8.5)、現在と比べ約7%の増加傾向になると予測された。

印旛沼に流入する河川からの年平均流入T-N負荷量は、将来、現在と比べ約19%の増加傾向になると予測された。

印旛沼に流入する河川からの年平均流入T-P負荷量は、将来、現在と比べ約38%の増加傾向になると予測された。

それぞれ、年平均流量が減少しているにもかかわらず負荷量が増加傾向となっている要因としては、河川からの流入水質は流量が大きくなるほど高くなる傾向にあり、流量が大きくなると、水質増と流量増が相まって、負荷量が指数関数的に多くなることによる。本検討で使用している予測モデルは、このような現象を再現できるモデル※となっており、大流量時の負荷量増が、負荷量の総量増につながっている状況と考えられる。

左:COD、中:T-N、右:T-P
※既往実測データを用いた検証を行ったモデルを用いており、流量が大きくなると水質濃度が高くなり、それに伴い負荷量が指数関数的に増加する。ただし、気候シナリオの将来(21世紀末)で生じている大きな流量は検証範囲の外挿となっており、予測結果の負荷量増には不確実性が含まれることに留意が必要である。
図3-4 年平均負荷量(印旛沼流入河川)
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02
(3)沼内の水質
1)水温

印旛沼の年平均水温は、将来(21世紀末,RCP8.5)、現在と比べ約4.5℃上昇すると予測された。季別には、年間を通じて、平均的に水温は上昇するとの予測結果となっている。

年平均水温(印旛沼)
図3-5 年平均水温(印旛沼)
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02
年平均水温(印旛沼)
※計算対象期間の各年の日平均水温の計算結果を同一月日別に集計し、平均値、最大値、最小値を算出し、図化している。
図3-6 水温の年間変化(計算対象期間の平均的変化※)の比較
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02
2)水質(COD,T-N,T-P)

印旛沼の年平均CODは、将来(21世紀末,RCP8.5)、現在と比べ約1.0mg/L増加すると予測された。現在は冬季に濃度が低下するが、将来は年間通じて高い濃度を維持する傾向となっている。

年平均T-Nは、将来、現在と比べ約0.14mg/L増加すると予測された。将来は秋季にやや濃度が高くなる傾向(出水に伴う負荷流入の影響が考えられる)となっている。

年平均T-Pは、将来、現在と比べ約0.04mg/L増加すると予測された。将来は秋季に濃度が高くなる傾向(出水に伴う負荷流入の影響が考えられる)となっている。

左:COD、中:T-N、右:T-P
※既往実測データを用いた検証を行ったモデルを用いており、流量が大きくなると水質濃度が高くなり、それに伴い負荷量が指数関数的に増加する。ただし、気候シナリオの将来(21世紀末)で生じている大きな流量は検証範囲の外挿となっており、予測結果の負荷量増には不確実性が含まれることに留意が必要である。
図3-7 年平均水質(印旛沼)
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02
上:COD、中:T-N、下:T-P
※計算対象期間の各年の日平均水温の計算結果を同一月日別に集計し、平均値、最大値、最小値を算出し、図化している。
図3-8 沼内水質の年間変化(計算対象期間の平均的変化※)の比較
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02
3)水質(Chl.a)

印旛沼の年平均Chl.aは、将来(21世紀末,RCP8.5)、現在と比べ約10μg/L増加すると予測された。

印旛沼の水質で問題となっている事象の一つに、夏場のアオコの発生が挙げられるが、水温の上昇に伴い、アオコの原因となる藍藻類の優占期間が将来、現在と比べ約2ヶ月長期化する結果となっており、アオコ発生期間が長期化するリスクがある。

左:年平均Chl.a濃度、右:藍藻が優占(藍藻>珪藻)する年平均日数
図3-9 年平均Chl.a(印旛沼)
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02
年平均水温(印旛沼)
※予測計算対象期間の平均的年間変化
図3-10 Chl.aの年間変化(プランクトン優占種別)
RCP8.5/21世紀末/MRI-NHRCM02

雨量

気候シナリオを用いて流域内の雨量の変化について影響予測を行った。

降雨強度の強い雨が発生する頻度が将来(21世紀末,RCP8.5)は増加すると予測されており、印旛沼流域で流域平均雨量が50mm/hrを上回る降雨は、現在は発生しない状況(0回/年)であるが、将来は0.1回/年(10年に1回程度)に増加する予測結果となっている。

印旛沼流域における降雨の発生頻度
図3-11 印旛沼流域における降雨の発生頻度
RCP8.5/21世紀末/ MRI-NHRCM02

印旛沼流域において、近年では、平成25年、令和元年に大きな洪水が発生しており、いずれの洪水においても、流域で浸水被害が発生している。

それぞれの洪水における降雨の状況は表3-2に示すとおりであり、既往洪水実績から見て、流域平均雨量が50mm/hrを上回る降雨というのは、印旛沼流域において被害が発生するリスクが高い雨量規模といえる。

表3-2 印旛沼流域での近年の洪水時の降雨状況(流域平均雨量:mm)
印旛沼流域での近年の洪水時の降雨状況(流域平均雨量:mm)
※千葉県提供雨量データに基づいて算定

活用上の留意点

本調査の将来予測対象とした事項

本調査では、気候変動による気象変化が印旛沼の水質に与える影響および洪水に与える影響を対象とした。

本調査の将来予測の対象外とした事項

将来予測に影響すると考えられる下記要素の影響については、本調査において考慮していないことに留意が必要である。

  • 流域の土地利用の変化による影響
  • 流域人口の変化による影響
  • 流域の産業活動の変化による影響
  • 流域や沼内における今後の水質保全対策による影響

その他、成果を活用する上での制限事項

水質に関して、既往の現象・実測データ並びに現在の水運用に基づく予測結果であり、未解明の水環境等に関するメカニズム等の知見は考慮していない。また、大きな水運用変化(水位管理の変更等)は想定していない。

適応オプション

本調査で検討した適応オプションは、表3-3~表3-8に示すとおりである。

印旛沼流域では、既往計画の下で種々の対策が進められている。ここでは、後述する本調査で着目した適応オプションに加え、既往計画等に基づいて進められている施策のうち、適応オプションとしても位置付けられるものも含めて整理を行った。

また、本調査で着目した適応オプションも含め、現段階では、効果の定量化や施策の実現性における検討が充分でない等、課題がある適応オプションも含めて整理していることから、本成果の活用にあたっては、留意が必要である。

表3-3(1) 適応オプションのまとめ①(分類:流域における対策,目的:雨水貯留浸透機能の保全・再生)
適応オプション

★:本事業の検討において着目した適応オプション
想定される実施主体 評価結果
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
住宅への雨水貯留・浸透施設の設置 雨水浸透マスの設置基数:133,213基(2017年度末)
※1
  • 貯留・浸透施設の設置を流域に展開するため、平成24年に「印旛沼流域における貯留・浸透施設及び雨水貯留施設の設置を推進するためのルール(通称:印旛沼ルール)」を作成したが、印旛沼ルールでは強制力がなく、波及効果が小さい。住宅の新築・改築時には必ず設置されるようなしくみ(条例化等)の導入が必要
  • 流域市町では独自の取組(補助、普及啓発等)により設置普及を進めており、まだ実施していない市町への展開が必要
  • 設置する効果が見えにくく、設置者に設置効果を分かりやすく説明する資料の作成や、住民の方に対策を身近に感じていただく取組(講演・出前講座など)の実施が必要
短期
住宅等の開発地区(新規住宅地開発等)への貯留・浸透施設の設置 普及が進んでいる。
※計画(1.,2)上は、開発指導要綱等に基づく指導
  • 一定以上の開発には開発許可手続きに基づく設置がなされるが、浸透型の調整池とするよう指導している市町とそうでない市町がある。雨水浸透を積極的に導入する等の指導を進めることが必要
  • 要件以下の開発には印旛沼ルールでの対応となるが、上記同様に強制力がなく、波及効果が小さい。
  • 設置効果が見えにくく、設置者に設置効果を分かりやすく説明する資料の作成や個別の協議等、地域貢献として民間事業者が取組むきっかけづくりが必要
短期
公共施設等への貯留・浸透施設の設置 貯留・浸透施設の整備箇所数:1,042箇所(2017年度末)
※1
  • 設置・維持管理にかかる予算の獲得状況が整備量に直結
  • 整備効果の定量化が必要
短期
雨水調整池の改良による汚濁負荷の低減 調整池改良の実施箇所数:5箇所(2017年度末)
※1
  • 面源負荷(市街地ファーストフラッシュ)の低減効果を高める既存調整池の改良手法について、平成25年に「調整池改良の手引」をまとめているが、改良やその後の維持管理に係る費用等は管理者・設置者の新たな負担となるため、補助等の制度等、予算面の支援が必要
  • 設置者が直接メリットを感じられるよう、調整池の改良効果について、理解を深めることが必要
短期
透水性舗装の整備 透水性舗装の整備面積:525,085m2(2017年度末)
※1
  • 設置する効果が見えにくく、設置者に設置効果を分かりやすく説明する資料の作成が必要
  • 整備後数年で目詰まりして浸透能力が低下するため、定期的なメンテナンスが必要
短期
緑地の保全・緑化の推進 普及が進んでいる。
  • 緑地保全・緑化が適応策としてどのような効果が期待できるか、定量化が不充分であることから、施策推進の動機につながるような科学的知見の取得や説明資料の作成が必要
長期
谷津貯留・浸透 ★ 普及が進んでいない。
※谷津の保全活動等の取組はいくつかの谷津で既に実施されているが、グリーンインフラ的視点からの取り組みはこれから
  • 「谷津及び里山の保全・活用」は、既存計画である「印旛沼流域水循環健全化計画」に位置付けられているが、主として生物多様性保全やエコロジカルネットワークの視点であり、治水、水質改善等の面からは位置づけられてこなかった。
  • そのため、これらの面(治水、水質改善)からの対策効果を定量化し、施策推進の明確な根拠付けとなるような資料整理が必要
  • その上で、行政計画等への位置付けや、本施策を実現していくための仕組みづくりを進めていく必要がある。
  • 多くの場合、対象地は私有地となっており、施策推進には地権者の協力が不可欠である。また、良好な谷津環境を維持していくためには、維持活動の担い手の存在が重要となる。上記のような、行政施策への位置付け、それに基づく支援策の整備等、社会実装に向けての対応が必要である。
長期
表3-3(2) 適応オプションのまとめ①(分類:流域における対策,目的:雨水貯留浸透機能の保全・再生)
適応オプション

★:本事業の検討において着目した適応オプション
想定される実施主体 評価結果
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
水田の遊水機能活用 ★ 普及が進んでいない。
  • 水田の遊水機能活用としては、"田んぼダム"としての活用等が考えられ、多面的機能支払交付金を活用した実施事例もあることから、同制度を当地域への導入することも含めた検討を行う必要がある。
N/A 注①
注①:他地域において田んぼダム等としての活用実績はあり、定量的な効果も確認されているが、印旛沼流域において期待される効果の程度については、今後の調査・研究により定量的な評価が必要である。
■普及状況の記載
  • 1 出典:印旛沼流域水循環健全化会議 第27回委員会資料-3:計画の進捗状況,H31.3 , 下水道等の「汚水処理人口普及率」以外は、「印旛沼流域水循環健全化計画,2010策定」に基づく進捗管理で把握している数値
表3-4 適応オプションのまとめ②(分類:流域における対策,目的:流域からの負荷の削減)
適応オプション

★:本事業の検討において着目した適応オプション
想定される実施主体 評価結果
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
下水道等の整備 汚水処理人口普及率:93.6%(2017年度末)※1
  • インフラとしての下水道等汚水処理施設の整備は進めているが、下水道の未接続等の面で課題がある。
短期
高度処理型合併浄化槽の設置促進 高度処理型合併浄化槽利用人数の割合:13%(2015年度末)
※2
  • 通常型の浄化槽に比べて高額であるため、設置の義務化(条例化等)や補助制度とセットでの取組が不可欠である。
  • 補助制度は徐々に整備されており、それに応じた一定の設置は進んでいるが、強制力がないため、条例化等の制度の検討が必要
  • 現在補助制度の対象となっている浄化槽は窒素除去型であるため、より高性能なリン除去型の浄化槽を導入する仕組み(補助制度等)の充実が必要
短期
浄化槽の排水処理機能の維持 普及が進んでいる。
  • 浄化槽からの放流水質が適正に維持されているか、法的に検査の受検が義務づけられている。法定検査の受検率の向上を図るため、住民への維持管理の重要性を周知するとともに、指導等を行う必要がある。
短期
家庭における負荷削減 普及が進んでいる。
  • 窒素やリンの削減が重要であることの分かりやすい発信が必要
短期
農業系の負荷削減 ちばエコ農業の取組耕作面積:644.5ha(2015年度末)
※2
エコファーマーの認定件数:403件(2015年度末)
※2
  • 農地からの負荷が、印旛沼の水質悪化に影響していることを知っている人が少なく、環境にやさしい農業が、印旛沼の水質改善につながることを分かりやすく周知することが必要
  • 環境にやさしい農業を実施することでの営農者のインセンティブがないため、それをどのように与えるかを検討する必要がある。
短期
循環かんがい ★
(印旛二期事業)
普及が進んでいる。(事業工期は令和4年度であるが、一部施設が供用開始している) ※3
  • 循環かんがいの実施により、水・物質循環が変化する。印旛沼への排水量が減少することで滞留時間は長くなるが、流入負荷量は減少する。それらによって沼の水質がどのように変化するのか、モデル解析等による水質変化の定量化が必要である。
N/A 注②
畜産系の負荷削減 普及が進んでいる。
  • 排水規制の遵守徹底、改善・適正管理等の指導が必要
  • 家畜排せつ物の適正管理・処理、たい肥等の有効活用による環境負荷の軽減が必要
短期
事業所系の負荷削減 普及が進んでいる。
  • 排水基準が遵守されているか、規制の対象となる事業所等への指導、取締りの強化、立ち入り検査等による遵守徹底が必要
  • 規制対象外の小規模な事業所等へは未対応であり、問題が無いか現状把握が必要
短期
注②:循環かんがいによって、印旛沼への排水量、負荷量がそれぞれ減少することは、既往検討によって確認されているが、それが、印旛沼の沼内水質にどのような変化をもたらすかについては、今後の調査・研究により定量的な評価が必要である。
■普及状況の記載
  • 2 出典:印旛沼流域水循環健全化会議 2016年度 年次報告書
  • 3 印旛沼二期農業水利事業 1.事業の概要 http://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kokuei/inba/gaiyo/01.html
表3-5 適応オプションのまとめ③(分類:河川・沼内における対策,目的:河川や沼の水環境改善)
適応オプション

★:本事業の検討において着目した適応オプション
想定される実施主体 評価結果
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
多自然川づくり 普及が進んでいる。
  • 河川や水路の整備・改修を行うに際し、環境等に配慮した整備を行う必要
長期
水辺エコトーンの保全・再生 植生帯整備延長:2km(2017年度末)
※4
  • ⽔草の育環境の保全・再生が必要
  • 将来に向けて再生した沈水植物等の系統維持を行っていく必要
  • 印旛沼の水質形成機構の解明や、より効果の高い水質改善手法の研究・開発が必要
長期
水生植物の適正管理・利活用 普及が進んでいる。
  • 印旛沼の水環境改善の視点からの適正な水生植物の管理手法を検討する必要がある。
  • 保全・整備を行った水辺エコトーン(植生帯)の適正な管理、利活用を図ることにより、印旛沼開発によって失われた自然的、人工的な攪乱を人為的に回復するような取り組みが必要
長期
排水機場を活用した沼内循環 ★ 普及が進んでいない。
  • 農業目的のために整備する施設を水環境改善に用いることとなるため、関係機関・関係者との協議・調整が不可欠である。
  • 施策実施にあたっては、維持管理にかかる費用等、コスト面が課題であり、費用負担や運用主体等で解決すべき課題がある。
  • 上記検討や協議・調整の前提として、各種の実施に向けた課題を乗り越えるモチベーションとなり得る大きな施策効果が見込めることが前提となることから、モデルや実証等による施策効果の定量化が必要である。
N/A 注③
多自然川づくり 普及が進んでいる。
  • 河川や水路の整備・改修を行うに際し、環境等に配慮した整備を行う必要
長期
注③:現段階では対策効果、実現性について未検討な事項も多く、今後の調査・研究により定量的な対策効果の評価が必要である。大きな対策効果が期待されることが明らかとなった場合には、
さらに施策実施の実現性に関する関係機関・関係者との協議・調整が必要である。
■普及状況の記載
  • 4 出典:千葉県県土整備公共事業評価審議会(平成29年度) 事業再評価資料 社会資本整備総合交付金事業 一級河川 利根川水系 印旛沼
表3-6 適応オプションのまとめ③(分類:河川・沼内における対策,目的:沼の水管理)
適応オプション

★:本事業の検討において着目した適応オプション
想定される実施主体 評価結果
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
沼の水位管理 ★ 普及が進んでいない。
  • 治水目的(治水容量の増加)、水質改善目的(滞留時間の短縮等)のために水位管理のルールを変更し、水位を下げることを許容しようとする施策であり、検討すべき事項が多く存在する。実施可能性の検討に向けて、以下のような検討が必要である。
    ⇒(利水)上・工水や農水利用のために必要な貯水量の確保状況(水利権の範囲内での利根川からの取水を含む)
    (利水)管理水位変化による取水施設への影響
    ⇒(治水、水質)水位管理の変更による効果の定量化
    ⇒対策に要する費用
N/A 注④
注④:これまでに、関係機関によって、治水目的の予備排水の試行、水質改善目的の水位低下実験が実施されているが、それらが、印旛沼の治水や水質改善にもたらす効果の定量評価、あるいは、対策を実施することによる影響、対策費用等について、今後の調査・研究が必要である。
表3-7 適応オプションの考え方と出典①
適応オプション 適応オプションの考え方と出典
★:本事業の検討において着目した適応オプション
住宅への雨水貯留・浸透施設の設置 治水(雨水浸透・貯留)、利水(水利用、地下水涵養)、水質保全(面減負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている
住宅等の開発地区(新規住宅地開発等)への貯留・浸透施設の設置 同上
公共施設等への貯留・浸透施設の設置 同上
雨水調整池の改良による汚濁負荷の低減 水質保全(面減負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
透水性舗装の整備 治水(雨水浸透)、利水(地下水涵養)、水質保全(面減負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
緑地の保全・緑化の推進 同上
谷津貯留・浸透 ★ 治水(雨水浸透・流出遅延)、利水(地下水涵養)、水質保全(脱窒)、生態系保全(生物多様性確保)等、多面的な効果が期待される施策
本事業で新たに検討した適応策であり、現地での実測により、施策効果を確認した。
水田の遊水機能活用 ★ 治水(雨水貯留)に対する効果が期待される施策
3,4の資料に事例が紹介されている。
下水道等の整備 水質保全(点源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
高度処理型合併浄化槽の設置促進 水質保全(点源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
浄化槽の排水処理機能の維持 水質保全(点源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
家庭における負荷削減 水質保全(点源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
農業系の負荷削減 水質保全(面源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
循環かんがい ★
(印旛二期事業)
水質保全(農地からの面源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
水質保全効果については、5等に記載がある。
■参考資料一覧
  1. 印旛沼流域水循環健全化計画,2010.1/印旛沼流域水循環健全化計画 第2期行動計画(2016~2020年度),2017.3
  2. 印旛沼に係る湖沼水質保全計画(第7期),2017.3
  3. 多面的機能支払交付金 活動による効果に関する事例調査結果(案),H28.3,農林水産省
  4. 西播磨地域田んぼダムの取り組み -田んぼダム効果検証-,兵庫県西播磨県民局光都土地改良センター
  5. 印旛沼二期農業水利事業 1.環境への取組 http://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kokuei/inba/kankyo/01.html
表3-8 適応オプションの考え方と出典②
適応オプション 適応オプションの考え方と出典
★:本事業の検討において着目した適応オプション
畜産系の負荷削減 水質保全(面源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
事業所系の負荷削減 水質保全(面源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
多自然川づくり 水質保全(面源負荷削減)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられており、治水のための河川整備手法として付随的な対応と捉えられる。
水辺エコトーンの保全・再生 水質保全(植生帯の水質改善効果、底泥からの負荷抑制)、生態系保全(エコトーンの再生)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
水生植物の適正管理・利活用 水質保全(栄養塩の持ち出し)、生態系保全(かく乱による水生植物の維持)に対する効果が期待される施策
1、2の計画において位置付けられている。
排水機場を活用した沼内循環 ★ 水質保全(流動によるアオコの抑制)に対する効果が期待される施策
本事業や1の計画に関連する会議において、中長期的な施策として検討
沼の水位管理 ★ 治水(治水容量の増加)、水質保全(滞留時間の短縮、底泥の掃流等)に対する効果が期待される施策
本事業で新たな適応オプションとして抽出
1の計画に関連して、関連する取組(治水目的の予備排水の試行、水質改善目的の水位低下実験)が実施されている。
■参考資料一覧
  1. 印旛沼流域水循環健全化計画,2010.1/印旛沼流域水循環健全化計画 第2期行動計画(2016~2020年度),2017.3
  2. 印旛沼に係る湖沼水質保全計画(第7期),2017.3
  3. 多面的機能支払交付金 活動による効果に関する事例調査結果(案),H28.3,農林水産省
  4. 西播磨地域田んぼダムの取り組み -田んぼダム効果検証-,兵庫県西播磨県民局光都土地改良センター
  5. 印旛沼二期農業水利事業 1.環境への取組 http://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kokuei/inba/kankyo/01.html
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