成果報告 3-2

降雪量と融雪時期の変化が水資源管理及び地下水資源の利用に与える影響調査

対象地域 中部地域
調査種別 先行調査
分野 水環境・水資源
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※調査結果を活用される際には、各調査の「成果活用のチェックリスト」を必ず事前にご確認ください。

概要

「平成31年度地域適応コンソーシアム中部地域事業委託業務成果報告書」より抜粋

背景・目的

近年、気候変動に伴い年平均気温が上昇し、降雪量や降雨量などに大きな影響を与えている。水資源を取り巻く環境の変化は、農林水産業、工業や観光業などの経済活動だけでなく、国民の生活にも大きな影響を及ぼす。特に中部地域では、豊富な水資源を前提とした経済活動基盤が形成されているため、気候変動が同資源に与える影響評価は重要であり、地域レベルでの気候変動による水資源への影響評価は、今後の取組みが必要な課題の一つである。そこで、本調査では、中部地域における降雪量及び融雪時期の変化が水資源に与える影響の評価とその適応策の検討を目的に調査・検討を行った。なお、本調査では水資源として、特に降雪・積雪等の地表面における水収支への影響及び地下水への影響の各過程について、気候変動影響の調査解析を実施した。

実施体制

本調査の実施者 一般財団法人日本気象協会
アドバイザー 富山県立大学 工学部 環境・社会基盤工学科 准教授 手計 太一
実施体制図(調査項目3-2)
図 4-1 実施体制図(調査項目3-2)

実施スケジュール(実績)

本調査では、平成29年度から平成31年度の3年間で、対象地域における気温・降水量の変動が地域内の水資源(降雪・積雪、地下水)に与える影響を調査し、将来の影響評価及び適応策の検討を行った(図 4-2)。

各年の実施項目として、平成29年度は関連データ、関連研究等の知見を整理したほか、調査で使用する水収支モデルの検討を行った。平成30年度は前年度の検討を踏まえて、積雪・融雪量等の水収支における気候変動影響を行った他、黒部川流域を対象とした地下水流動モデルを構築した。平成31年度はモデルの妥当性検証を進め、調査対象地域における複数の河川水系について影響評価を実施した他、適応策に関する検討を行った。

本調査の実施フロー(調査項目3-2)
図 4-2 本調査の実施フロー(調査項目3-2)

気候シナリオ基本情報

本調査項目では表4-1に示す気候シナリオを利用した。

表4-1 気候シナリオ基本情報(調査項目3-2)
項目 降・積雪等への影響 地下水への影響
気候シナリオ名 NIES統計DSデータ
気候モデル MIROC5、MRI-CGCM3
気候パラメータ 平均気温、降水量、全天日射量
排出シナリオ RCP2.6、RCP8.5
予測期間 21世紀中頃、21世紀末
バイアス補正の有無 有り(全国)

気候変動影響予測結果の概要

気候シナリオによる将来予測結果から、対象地域では年間積算した積雪水量が気温上昇に伴って減少する可能性が示された。黒部川及び神通川流域では、RCP8.5シナリオでの21世紀末において顕著な積雪水量の減少及び融雪時期の早期化が見られ、地下浸透量も変化する可能性が示された。

降・積雪等への影響

黒部川及び神通川の流域で平均した積雪水量(積雪を水に換算した量)の将来変化(図 4-3)から、RCP2.6シナリオの21世紀中頃では、現在と比べて積雪水量の変化(流域平均積雪水量の年間最大値、流域全体での融雪時期)にも大きな変化は見られなかった。一方で、RCP8.5シナリオの21世紀末では積雪水量が減少する可能性が示され、気候変動に伴いRCP8.5シナリオでは約20日程度融雪時期が早まる可能性が示された。

積雪水量(mm)の将来変化(流域平均)(MRI-CGCM3)(左:黒部川流域、右:神通川流域)
図 4-3 積雪水量(mm)の将来変化(流域平均)(MRI-CGCM3)
※陰影は±1σの範囲を示す

地下水への影響

地下水資源に影響を与える指標として、流域毎の降雨量(降水量の内、雨として降った量)及び融雪量の和(図 4-4(上))、ならびに地下浸透量の将来変化(図 4-4(下))を調べた。黒部川流域では、降雨量及び融雪量の月別の合計は、融雪時期の変化を反映してRCP8.5シナリオでの21世紀末では11~4月は現在より増加、5~6月は現在より減少する可能性が示された。気温の上昇により、冬季の降水が雪ではなく雨となる頻度が高まること、また融雪の開始が早まることなどによると考えられる。RCP8.5シナリオでの地下浸透量も降雨量及び融雪量と同様の変化傾向を示した。

(上) 降雨量及び融雪量の黒部川流域合計値(106 m3/月) (扇状地上端部上流域の合計値) (MRI-CGCM3)  折線: 融雪量+降雨量、棒グラフ:融雪量、(下)黒部川流域における地下浸透量の将来変化(流域合計値・%)(MRI-CGCM3)
図 4-4 (上) 降雨量及び融雪量の黒部川流域合計値(106 m3/月) (扇状地上端部上流域の合計値) (MRI-CGCM3) 折線: 融雪量+降雨量、棒グラフ:融雪量
(下)黒部川流域における地下浸透量の将来変化(流域合計値・%)(MRI-CGCM3)

活用上の留意点

本調査の将来予測対象とした事項

本調査では、気候変動による降雪・積雪及び地下水資源に及ぼす影響を検討対象とし、特に、地下浸透量、積雪水量、融雪量、降雨量を評価した。

本調査の将来予測の対象外とした事項

地下水の浸透及び降雪の状況は、将来の土地利用の変化が大きな影響を与えると考えられるが、本調査では土地利用は現状と同じものと仮定し、その変化を考慮していないことに留意が必要である。

その他、成果を活用する上での制限事項

本調査で用いた気候シナリオデータは統計的ダウンスケーリング手法で作成されたものであり、豪雪などの極端な降雪は十分表現されていない。そのため本調査での評価結果は平均場に関する内容であることに留意が必要である。

適応オプション

本調査で検討した適応オプションを表4-2に、その根拠を表4-3に示す。

表4-2 適応オプション(調査項目3-2)
適応オプション 想定される実施主体 現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
休耕田を用いた地下水涵養 普及が進んでいない
  • 涵養用水の確保に際し関係者との調整が必要
  • 実施にあたり涵養施設の維持管理が必要
短期
地下水利用の効率化(自噴井戸の節水対策) 普及が進んでいない
  • バルブ設営により一時的に砂が混じる場合がある。
  • 井戸所有者が実施主体のため、施策としての強制力が弱い
短期
雨水浸透施設の整備 普及が進んでいない
  • 導入、維持管理費用が必要となる。
短期
保水機能を持つ森林の保全 普及が進んでいる
  • 手入れ不足による下層植生の劣化
  • 野生動物(シカ等)による食害
長期
表4-3 適応オプションの根拠(調査項目3-2)
適応オプション 適応オプションの考え方と出典
休耕田を用いた地下水涵養 富山県内(魚津市、南砺市、立山町、朝日町)の他、秋田県、熊本県、福井県大野市、神奈川県秦野市等で実施事例あり。
地下水利用の効率化 黒部川扇状地の沿岸部で地下水の揚水量を80%以上、削減することで塩水化の進行が緩和するという研究例がある。
雨水浸透施設の整備 一般的に普及している技術の導入促進が対策となるため、情報面の評価は「◎」とした。
保水機能を持つ森林の保全 保安林制度等に基づく実施事例あり。
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