成果報告 4-2

海水温の上昇等によるイカナゴの資源量への影響調査

対象地域 近畿地域
調査種別 先行調査
分野 農業・林業・水産業
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※調査結果を活用される際には、各調査の「成果活用のチェックリスト」を必ず事前にご確認ください。

概要

「平成31年度地域適応コンソーシアム近畿地域事業委託業務成果報告書」より抜粋

背景・目的

イカナゴは瀬戸内海東部海域における水産上の最重要魚種の一つであり、兵庫県のイカナゴ漁獲量は全国第1位(平成27年度)である。しかし、瀬戸内海海域におけるイカナゴ資源量は減少傾向にあり、特に近年は極端な不漁のため、漁業者やイカナゴを消費する地域住民にも影響を与えている。

これまで、イカナゴ資源量減少の要因として、海域の栄養塩濃度の低下、気候変動による海水温の上昇、イカナゴを餌とする魚食性魚(ハモ、サバ類、ブリ類、タチウオ等)の増加等が考えられてきた。本調査ではこれらの要因のうち、主として気候変動による海水温の上昇に着目し、海水温の上昇がイカナゴ資源量に与える影響の評価、ならびに適応策の検討を目的とした調査を実施した。

実施体制

本調査の実施者 一般財団法人日本気象協会、広島大学
アドバイザー 国立研究開発法人水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所
小畑 泰弘(2017/07/26~2018/09/30)
元広島大学大学院教授
橋本 博明(2018/10/01~2020/03/31)
実施体制図(調査項目4-2)
図 4.1-1 実施体制図(調査項目4-2)

実施スケジュール(実績)

本調査では、平成29から31年度の3年間で、播磨灘鹿ノ瀬におけるイカナゴへの影響、及び適応策の検討を行った(図4.1-2)。

本調査の実施フロー(調査項目4-2)
図 4.1-2 本調査の実施フロー(調査項目4-2)

気候シナリオ基本情報

本調査で利用した気候シナリオの基本情報を表4.1-1に示す。

表4.1-1 気候シナリオ基本情報(調査項目4-2)
項目 イカナゴの産卵・初期成長・夏眠期間・生残率への影響
気候シナリオ名 海洋近未来予測力学的ダウンスケーリングデータ by SI-CAT
気候パラメータ 海水温
気候モデル MRI-CGCM3
排出シナリオ RCP2.6(21世紀末のみ)、RCP8.5(21世紀中頃と21世紀末)
予測期間 21世紀中頃/日別
21世紀末/日別
バイアス補正の有無 あり(地域)

気候変動影響予測結果の概要

文献調査

文献調査により、イカナゴの水温応答に関する知見が整理された。特に夏眠については、水温20℃以上で開始、13℃以下で終了(反田, 1998)、水温が26℃を超えるとイカナゴの斃死リスクが高まることが既往文献に記載されており(赤井・内海, 2012)、これらの値を夏眠時の影響評価の閾値として利用した。

海水温データの作成

海洋シナリオにおける水温を兵庫県浅海定線調査で観測された水温を用いて補正し、現在、21世紀中頃(RCP8.5)、21世紀末(RCP2.6、RCP8.5)における海水温データを得た。

飼育実験

水温が高いほど、また、肥満度が低いほど夏眠中の斃死率は高いことが示された。さらに、水温上昇により、遊泳活動時に要する酸素消費量は砂中安静時に比べて急増することが確認された。

現地調査

現地調査から、夏眠中に必要な溶存酸素が間隙水中にほぼない状態を確認し、水を取り込みやすい透水性の高い砂底が重要である結果を得た。

影響評価

①イカナゴの産卵・初期成長・夏眠期間への影響

将来は現在に比べ、産卵開始・孵化日の遅延、成長期間の短縮、漁期の短縮、夏眠の長期化、危険水温期間の長期化が予測された(図4.1-3、図4.1-4)。

鹿ノ瀬におけるイカナゴ夏眠期間ならびに水温26℃以上の現在と将来の比較(MRI-CGCM3)
図 4.1-3 鹿ノ瀬におけるイカナゴ夏眠期間ならびに水温26℃以上の現在と将来の比較
(MRI-CGCM3)
鹿ノ瀬における産卵・初期成長・夏眠期間への影響のまとめ(MRI-CGCM3)
図 4.1-4 鹿ノ瀬における産卵・初期成長・夏眠期間への影響のまとめ
(MRI-CGCM3)
②イカナゴの生残率への影響

生残率は、海水温が上昇するほど生残率が低下する傾向であったが、夏眠前の肥満度が高いほど生残率が改善する傾向もみられた(図4.1-5)。

鹿ノ瀬におけるイカナゴ夏眠前肥満度と生残率の関係(MRI-CGCM3)
図 4.1-5 鹿ノ瀬におけるイカナゴ夏眠前肥満度と生残率の関係
(MRI-CGCM3)

活用上の留意点

本調査の将来予測対象とした事項

本調査は主として海水温の変化がイカナゴに与える影響を評価した。

本調査の将来予測の対象外とした事項

栄養塩等、海水温以外の要因による将来の影響予測は困難であることから、本調査の対象外とした。

その他、成果を活用する上での制限事項

イカナゴの資源量減少は、海水温上昇のみならず海域の栄養塩や餌環境等、他の要因も影響すると考えられている。成果の利用においては、水温上昇以外の要因にも留意が必要である。

適応オプション

本調査で検討した適応オプションを表4.1-2及び表4.1-3に整理する。

表 4.1-2 適応オプション(調査項目4-2)
適応オプション 想定される実施主体 現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
①夏眠前肥満度を高く維持できる成育環境の整備 一部
普及が進んでいる
重要な餌となるカイアシ類量を効果的に増加させる施策について知見の蓄積が必要である。 長期
②夏眠期の夏眠場砂底域の
保全:
夏眠イカナゴ撹乱に伴う負荷増加の抑制
普及が進んでいない 播磨灘鹿ノ瀬は良好な漁場であるため、水産業と鹿ノ瀬底層の撹乱緩和の妥協点の模索が必要である。 N/A 短期
③漁期の適切な設定 実施中 漁期の短縮は漁業者に与える影響が大きく、漁業者との調整が必須である。 短期
表 4.1-3 適応オプションの根拠(調査項目4-2)
適応オプション 適応オプションの考え方と出典
①夏眠前肥満度を高く維持できる成育環境の整備 兵庫県では条例(環境の保全と創造に関する条例)を制定し、海域における生物生産環境の改善の取り組みが始められている
②夏眠期の夏眠場砂底域の保全:
夏眠イカナゴ撹乱に伴う負荷増加の抑制
本調査では夏眠中に海底が撹乱されイカナゴが砂中から飛び出すと、大きな負荷を被ることを示唆する結果が得られたことから、夏眠場所の撹乱を減らすことが親魚量の維持に効果があると期待される。ただし、播磨灘鹿ノ瀬は良好な漁場であるため、保全策の検討にあたっては操業規制等の施策が漁業者に及ぼす影響についても考慮する必要がある。
③漁期の適切な設定 既に播磨灘・大阪湾では解禁日・終漁日を定めて漁を実施している。
(参考:https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk16/ikanago.html)
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