成果報告 5-1

暖冬によるナシ栽培への影響調査

対象地域 中国・四国地域
調査種別 先行調査
分野 農業・林業・水産業
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※調査結果を活用される際には、各調査の「成果活用のチェックリスト」を必ず事前にご確認ください。

概要

「平成31年度 地域適応コンソーシアム中国四国地域事業委託業務成果報告書」より抜粋

背景・目的

気候変動がもたらす暖冬による低温時間の減少は、ナシの開花不良を通してその生産に影響を及ぼすことが懸念されており、温暖な地域ではすでに被害が生じ始めている。本調査では、ナシの自発休眠打破1) に必要な低温積算量2)を指標として、気候変動にともなう主要ナシ品種の栽培適地の変化を予測し、影響評価と適応策の検討を行うことを目的とした。

1) 自発休眠打破:十分な低温時間を経験し、展葉・開花が可能となる状態をいう。
2) 低温積算量:低温に曝される時間の積算量。自発休眠打破に必要な量(低温要求量)は品種により異なる。

実施体制

本調査の実施者 株式会社地域計画建築研究所(アルパック)、国立大学法人鳥取大学
アドバイザー 国立大学法人鳥取大学 農学部 教授 田村文男
国立大学法人鳥取大学 農学部 講師 竹村圭弘

また、本調査の実施にあたっては、各県及び各県の研究機関並びに専門家から情報提供及びアドバイスなどのご協力をいただいた。

実施体制
図 3.1.1 実施体制

実施スケジュール

1年目から2年目の冬季に栽培個体及び栽培地における気象の観測を実施し、得られたデータを用いて既存の栽培適地予測モデルの検証及び改良を実施した。2年目には暫定のモデルと気候シナリオを用いて影響予測の試行を行い、3年目に最終版のモデル及び気候シナリオによる影響予測と適応策の検討を実施した。

実施スケジュール
図 3.1.2 実施スケジュール

気候シナリオ基本情報

影響予測に使用した気候シナリオの基本情報は下表に示すとおりである。

表 3.1.1 気候シナリオの基本情報
項目 ニホンナシ主要品種の自発休眠打破
気候シナリオ名 NIES統計的DSデータ
気候モデル MIROC5、MRI-CGCM3
気候パラメータ 平均気温(日別値)
排出シナリオ RCP2.6、RCP8.5
予測期間 21世紀中頃、21世紀末
バイアス補正の有無 あり(全国)

気候変動影響予測結果の概要

低温要求量がCU.1400である'二十世紀'及び'新高'については、21世紀中頃には四国地域の太平洋沿岸域で影響が生じる可能性があり、21世紀末には沿岸域を中心とした中国四国地域の広域において栽培が困難となる地域が広がると予測された。

低温要求量がCU.1000程度と少ない'あきづき'や'豊水'などについても、RCP8.5シナリオでは21世紀末に沿岸域で自発休眠打破に至らない年が出現するが、低温要求量1,400程度の品種と比べると栽培適地は広く残ると予測された。

上:温要求量CU.1400の品種('二十世紀'、'新高')、下:低温要求量CU.1000の品種('あきづき'、'豊水'、'新甘泉' )
図 3.1.3(1) 将来の栽培適地の予測結果(MRI-CGCM3)
上:低温要求量CU.1400の品種('二十世紀'、'新高')、下:低温要求量CU.1000の品種('あきづき'、'豊水'、'新甘泉' )
図 3.1.3(2) 将来の栽培適地の予測結果(MIROC5)

活用上の留意点

① 本調査の将来予測対象とした事項

本調査では、暖冬にともなう低温積算量の減少による影響に着目し、3月31日時点における低温積算量が各ナシ品種の低温要求量に達しているかどうかを自発休眠打破の判断材料として、栽培の適性を予測評価した。

② 本調査の将来予測の対象外とした事項

本調査では、低温積算量による自発休眠打破の有無で評価を実施したが、芽の凍害や晩霜害など、発芽不良をもたらす他の要因については検討対象としていない。また、気候変動による影響としては、夏季の高温による日焼け、台風による果実の落下なども考えられるが、これらの影響については考慮していない。

③ その他、成果を活用する上での制限事項

上述のとおり、本調査では自発休眠打破以外の要因については考慮していないため、栽培適地として予測されている地域の中には、他の要因により栽培不適となる地域が生じる可能性がある。

また、予測モデルについては、低温積算量の積算開始・終了時期の設定や、沿岸地域と内陸地域による日較差(冷え込み)の違いの反映など、改善の余地が残されている。予測結果は不確実性をともなっていることに留意が必要である。

適応オプション

適応オプションの概要を下表に示す。

表 3.1.2 適応オプションの概要
適応オプション 想定される実施主体 評価結果
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
薬剤による処理 10%
  • 適期の判断(低温積算量のモニタリング)
  • 早期の自発休眠打破による凍霜害の発生
短期
栽培品種の選択 20%
  • 気候条件に適した品種の見極め
  • 植え替えから収穫までのタイムラグ
○※ 長期
低温要求性の小さい品種の開発 10%
  • 品質の劣らない品種の開発
  • 専門的知見と開発コスト
長期
栽培地選択 0%
  • 将来の栽培適地はアクセスが困難な山地域となる
  • 造成などによる新たな農地の確保が必要
○※ 長期
【 実現可能性の評価基準 】
(人的側面)◎:自団体・一個人のみで実施が可能、△:他団体・他個人との協同が必要
(物的側面)◎:物資設備は不要、○:既存の技術に基づく物資設備で対応可能、△:新たな技術の開発が必要
(コスト面)◎:追加費用は不要、△;追加費用が必要、N/A:追加費用は不明
【 効果の評価基準 】
(効果発現までの時間)短期:対策実施の直後に効果を発現する、長期:長期的な対策であり、対策実施から効果の発現までに時間を要する、N/A:評価が困難である
(期待される効果の程度)高:他の適応オプションに比較し、期待される効果が高い、中:他の適応オプションに比較し、期待される効果が中程度である、低:他の適応オプションに比較し、期待される効果が低い
表 3.1.3 適応オプションの考え方と出典
適応オプション 適応オプションの考え方と出典
薬剤による処理
  • 中国四国地域の9県中1県で取り組まれていることを踏まえ、普及率は10%とした(本事業での自治体アンケートに基づく)。
  • シアナミド処理は、低温積算量CU.200~400程度を補う効果があるが、低温積算量がそれ以上に不足する場合には効果がない(黒木ほか、2013)こと、早期の自発休眠打破による晩霜害を誘発するおそれがあることから、期待される効果の程度は「中」とした。
栽培品種の選択
  • 中国四国地域の9県中2県で取り組まれていることを踏まえ、普及率は20%とした(本事業での自治体アンケートに基づく)。2県では、「あきづき」、「凜夏」の導入が試行されている。
  • 事業者(農家)が品種を選択するためには、まとまった苗木の確保が必要であり、苗木生産者等の他者の取り組みも関係するため、物的側面及び人的側面は「△」と評価した。
低温要求性の小さい品種の開発
  • 中国四国地域の9県中1県で取り組まれていることを踏まえ、普及率は10%とした(本事業での自治体アンケートに基づく)。
  • 品種開発のための研究には研究費用が必要となるため、コスト面は「△」とした。
  • 一方で、鳥取大学や高知県の試験研究機関には果樹の研究施設があり、研究者も配置されているため、それらの維持と広域的な連携を前提として、人的側面及び物的側面は「○」と評価した。
栽培地選択
  • 中国四国地域では取り組んでいる県がないため、普及率は0%とした(本事業での自治体アンケートに基づく)。
  • 土地の確保、農地の造成、果樹育成等に多大な労力やコストを要するため、人的側面、物的側面、コスト面については「△」と評価した。
  • 地域によっては21世紀末でも多くの品種が栽培可能となるため、期待される効果の程度は「高」と評価した。
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