海水温上昇等による瀬戸内海の水産生物や養殖への影響調査
対象地域 | 中国・四国地域 |
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調査種別 | 先行調査 |
分野 | 農業・林業・水産業 |
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概要
背景・目的
「日本における気候変動による影響に関する評価報告書」(中央環境審議会地球環境部会)によれば、海水温の上昇によるものと考えられる漁獲量や生産量、生息範囲の変化などが全国各地で報告されている。瀬戸内海西部海域においても平均水温はここ30年で約1℃上昇しており、気候変動による水産資源への影響が懸念されている。
カキは瀬戸内海における最重要の水産物の1つであるが、長期的には減少傾向にある。瀬戸内のその他の特徴的な水産品であるカタクチイワシ等の魚介類やノリ、ワカメ等の海藻類についても、海水温の上昇が不漁の一因として挙げられている。
本調査では、瀬戸内海中西部の将来の水温を予測し、気候変動による海水温の上昇による、カキ、カタクチイワシ、ノリ、ワカメ等に対する影響を評価し、将来海水温が上昇した場合においても、瀬戸内海でこれらの生物の利用を持続的に行うための適応策を検討した。
実施体制
本調査の実施者 | 株式会社地域計画建築研究所、国立大学法人広島大学(環境安全センター、生物圏科学研究科、工学研究科、竹原ステーション)、一般財団法人日本気象協会 |
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アドバイザー | (国研)水産研究・教育機構水産大学校 生物生産学科教授 野田 幹雄 |
実施スケジュール(実績)
3年間の調査スケジュールを図 3.3.2に示す。初年度(平成29年度)は、まず、本検討を進める上でのベースライン情報を整理し、水温と漁獲量等の関係の把握、将来の水温の推定手法についての検討と水温推計の試行、次年度以降に養殖漁業を対象とした飼育実験や野生魚類を対象とした海域調査等を実施するための予備実験・予備調査等を行った。また、瀬戸内海の各県の水産試験場等を対象にしたヒアリングを実施し、海水温の上昇等の気候変動の兆候や養殖業等の水産分野における課題等についての状況を把握した。また、中国四国地域の各県・政令市の水産関係の課と試験研究機関の担当者が集まる意見交換会を開催した。
平成30年度は、29年度に引き続き、水温が調査対象の魚類、海藻類、貝類に与える影響等についての調査や、暖海性魚類を対象とした海洋調査等を行った。その後、海洋調査等で採取した試料を用いて、環境DNA等を用いた分析を行った。その一方、陸域の気候シナリオに基づいて予測した将来の水温を基に、瀬戸内海の主要な養殖等の実施エリアを対象として、海水温上昇等による瀬戸内海の水産生物や養殖への影響調査を試行した。
また、同年度より、瀬戸内海よりも水温がやや高く、瀬戸内海の水温が上がった場合の生物相の変化を先取りしていると考えられる日本海側の調査を追加で実施している。
最終年度となる平成31年度は、用いる気候シナリオを海洋シナリオに変更した上で、影響評価の妥当性の確認及び再評価等を行うとともに、適応策の検討を行った。
気候シナリオ基本情報
影響予測に使用した気候シナリオの基本情報は下表に示すとおりである。
項目 | 瀬戸内海の水産生物や養殖への影響調査 (カキ、ノリ、ワカメ、アイゴ、カタクチイワシ) |
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気候シナリオ名 | 海洋近未来予測力学的ダウンスケーリングデータ(SI-CAT) |
気候モデル | MRI-CGCM3 |
気候パラメータ | 海水温 |
排出シナリオ | RCP2.6(21世紀末のみ) RCP8.5(21世紀中頃と21世紀末) |
予測期間 | 21世紀中頃 / 日別 21世紀末 / 日別 |
バイアス補正の有無 | 有り(地域) |
気候変動影響予測結果の概要
① カキの種苗採苗時期に関する影響予測
文献調査結果:
- マガキの産卵時期は積算水温によって概ね決定され、水温10℃を基準とし積算温度量が600℃に達する頃産卵する(大泉ら、1921)。
ヒアリング調査結果:
- 水温上昇に伴う、産卵および稚貝の採苗時期の早期化や、成貝が好適に成長できる水温が維持される期間や場所の変化に対する影響が懸念されていた。
影響予測結果:
- カキの種苗の採苗時期を決定づけるマガキの成熟日は、現在に比べ将来早期化すると予測される.
- 21世紀末(RCP8.5)ではマガキ成熟日の年変動が有意に大きくなり、年によって26日程度成熟日が前後すると予測される(図 3.3.3)。
- 各10年分の予測値における平均値を示す。
- エラーバーは10年分の予測値の範囲(最小値から最大値)を示す。
② ノリ・ワカメの養殖期間に関する影響予測
文献調査結果:
- ノリの養殖における適水温期間は、20℃以下に低下する時期から16℃以上に達する日までであった(下茂ら、2000)。
- ワカメの養殖における適水温期間は、23℃以下に低下する時期から18℃以上に達する日までであった(下茂ら、2000)。
ヒアリング調査結果:
- 近年、秋の水温低下が遅れるのに伴い、ノリ、ワカメとも養殖開始が遅れ、漁期が短縮している。
- ノリでは高水温耐性がある壇紫菜や、高い付加価値のあるアサクサノリの養殖が導入されている。
影響予測結果:
- ノリ、ワカメともに現在に比べ、将来、養殖開始時期は遅くなり、漁期終了時期が早期化することが予測される。
- ノリ養殖では、21世紀末RCP8.5において、瀬戸内海の主要な養殖域全てで収穫が困難な年が30~100%の確率で発生しうると予測される。
- ワカメ養殖では、徳島県沿岸にあたる東部養殖域において、21世紀末には、RCP2.6、RCP8.5ともに収穫が困難な年が発生しうると予測される。
- ワカメ養殖においては、西部・中部養殖域では、仮に徳島沿岸における養殖と同様に23℃以下に到達する日から養殖を開始できた場合、収穫期間を22日から27日程増やすことが可能であると予測される。
- 各10年分の予測値における平均値と標準偏差を示す。
- ワカメ養殖期間に対する予測結果における赤矢印はワカメ適水温である23℃以下到達日から養殖を開始した場合の収穫開始から収穫終了までの期間と、それにより増加する収穫日数を示す。
③ ワカメの成長率に関する影響予測
文献調査結果:
- ワカメの1日あたりの重量もしくは表面積における増加率(日間相対成長率)は水温と関係し、瀬戸内海および近隣海域のワカメにおける成長の適温は、三重産の天然ワカメでは20℃、徳島産の養殖ワカメでは18℃ということが確認され、適温から外れるほど日間相対成長率が減少する(Morita et al. 2003,馬場 2008,Gao et al. 2013)。
ヒアリング調査結果:
- 高水温による生育不良への対策として、選抜や交雑などにより高水温耐性品種が作出され、実用化あるいは実証規模での試験が行われている。
影響予測結果:
- ワカメの主要な養殖期間である11月から4月の間において、水温が最適温度より高い11月には将来、水温上昇に伴い成長率が低下し、最適温度を下回る12月から4月にかけては水温上昇に伴い成長率が高まると予測される。
- 各10年分の予測値における平均値と標準偏差を示す。
④ アイゴの越冬・周年定住個体による繁殖域の拡大および暖海性食害魚侵入域に関する予測
文献調査結果:
- 藻類食害魚として、イスズミ類、ブダイ類、アイゴ類およびニザダイが主に着目されている。(藤田ら 2006)。
- ノリ養殖に対しては、クロダイ(草加 2007)およびボラ類(伊藤ら 2008)も食害被害をもたらすと懸念されている。
- これまでに豊後水道を含む瀬戸内海西部における出現魚類について、調査対象海域が特定しうる知見として8報の知見が報告されており、1,342種の魚種が確認され、うち37種の藻類養殖への食害が懸念される種が確認されていた。
ヒアリング調査結果:
- 暖海性魚類の侵入および越冬に関し、瀬戸内海沿岸複数県で、アイゴの冬期定住と海藻への食害影響の確認事例が近年増加傾向にあることがわかった。
- アイゴの冬期定住が増加傾向にある地域において、ロウニンアジ、マナガツオのなど暖海性魚類の出現が確認されるなど、海水温上昇に伴う暖海性魚類の分布北上を示唆する事例が増加している。
影響予測結果:
- 現在のアイゴを含めた暖海性食害魚の分布は、瀬戸内海北部はほぼ全域でボラ類、クロダイ、メジナに加えてアイゴが冬期以外に生息する状態で、伊予灘の南側においてアイゴが越冬し繁殖を開始している状況である。
- 21世紀中頃(RCP8.5)および21世紀末(RCP2.6)では、アイゴの越冬・繁殖域が広島湾・安芸灘を中心に山口県東部から燧灘全体にかけて拡大し(図 3.3.6)、広島県や愛媛県北部沿岸においては、アイゴによる周年定住と繁殖の常態化は避けがたく、すぐ間近に迫った問題であると予測される。
- 21世紀末(RCP8.5)では、瀬戸内海ほぼ全域でアイゴが越冬・繁殖可能になるとともに、現在に比べてイスズミ類、ブダイ類、ニザダイなど3~7種程度対策を講じるべき食害魚が増加すると予測される(図 3.3.6)。
- 各10年分の予測値における平均値と標準偏差を示す。
⑤ アイゴによる藻類摂食量に関する影響予測
文献調査結果:
- 1日当たりに摂食する藻類重量(日間摂食量)と水温に関する既存知見を集積し(長谷川ら 2018、 磯野ら 2016、 木村ら 2007、 野田ら 2017、 上田・棚田 2018、山内ら 2006、 山田 2006)、25℃以下の水温帯における水温とアイゴの日間摂食量の回帰モデル(アイゴ日間摂食量(g/日/アイゴ 1kg) = 11.77×日平均水温 - 163.89) が得られた。
- 水温が11.1℃を下回ると低水温での斃死が生じ始める(上田・棚田 2018)。
ヒアリング調査結果:
- 徳島県において、ワカメに対する摂餌方法の調査が行われていることがわかった。
- 近年、アイゴは香川県沿岸どこにでも季節を問わず出没し、香川県では数少ないノリに、食害魚が群がっている実情が分かった。
影響予測結果:
- 現在では毎年、アイゴが低温斃死し始める水温へ到達しているが、将来は低温斃死水温に達しない年が増え、越冬したアイゴによる春期のノリ・ワカメの食害が発生する可能性があると予測される(表 3.3.2)。
- 将来の水温上昇に伴いアイゴの摂食量が増加すると予測される(図 3.3.7)。
- 各10年分の予測値における平均値と標準偏差を示す。
⑥ カタクチイワシにおける高温斃死が生じる危険水温期間に関する影響予測
文献調査結果:
- 成魚の生残率は水温上昇とともに低下することが知られ、24時間における半数致死温度が28.5℃、48時間における半数致死温度が27.3℃であった(小田ら 2018)。
ヒアリング調査結果:
- 広島県沿岸において、産卵まではできていることが確認できているが、その後育っていない現状にあることがわかった。
影響予測結果:
- 広島湾においてカタクチイワシの高温斃死が生じる危険水温が発生する期間は、現在では広島湾内9地点(宇品、峠島、津久根、カクマ、奈佐美、大野、松ヶ鼻、呉湾、白石)全域の、表層から底層の全水深で0日であると予測される(図 3.3.8)。
- 21世紀末RCP8.5では、水深0mで危険水温に到達する日が増加すると予測されるが、呉湾を除き水深5m以深において危険水温に達する日はほぼ0日に維持され、表層に留まらず生息できるカタクチイワシにとって、広島湾では成魚の高温斃死について深刻な影響は出ないものと予測される(図 3.3.8)。
- 縦軸に予測対象水深、横軸に危険水温日数のグラフを示す 。
- 対象予測期間10年毎の平均値をプロットし、エラーバーは10年間の標準偏差を示す。
⑦ 日本海側における暖海性魚類等の生息状況に関する評価
日本海側については、瀬戸内海よりも水温が高いことに注目し、文献調査やヒアリング調査を行い、特に暖海性魚類の生息状況について瀬戸内海と比較検討した。
文献調査結果:
- 日本海側における暖温帯性の魚類の出現数について、中国地方を中心に長崎県から青森県までの各県の状況を整理した結果、平均海面水温が上昇すると、出現(観察)した魚種数が増加していた。
ヒアリング調査結果:
- 中国地方の日本海側にある鳥取県、島根県、山口県の水産関係の試験研究機関にヒアリングを行った。いずれの県においても、アイゴ等やウニ等の食害の影響が挙げられる一方、場所によって、被害状況が異なり、海水温上昇による影響のほか、地形や日射の影響があるのではという声があげられたが、その因果関係については定かでない。
- 一方、高水温の影響が受けにくい岬や水の流れが速いところ、造成がうまくいった場所などでは、藻場が増えている様子が確認できた。また、藻場の消失が心配される一方、ハタ類やクエが増えてきている等の状況も見受けられた。
- 隠岐では、「昔は、子どもやおばあさんが巻き貝を取っていたので、ある程度、間引かれていたが、最近は、ほとんど誰も取りに行かないので、増加する一方であり、このような社会情勢も影響しているのではないか」ということであった。最近は、「海は危ないから遊んではいけない」と大人から注意受けているので、海で遊ぶ子どもは少ない。これら社会の海への関わりへアプローチすることも考えていく必要がある。
将来への影響(瀬戸内海の先行指標としての日本海の評価):
- 気候変動に伴う瀬戸内海での水温上昇により観察される魚種数は、現在の水温が上昇することで増加すると見込まれるが、瀬戸内海での21世紀半ば、或いは末の出現魚種数の変化量を、現在の日本海側で地域を西(水温上昇側)に移動することによる出現魚種数の変化によって評価できると示唆される。
活用上の留意点
① 本調査の将来予測対象とした事項
本調査では、瀬戸内海中四国沿岸域におけるマガキ天然種苗の採苗時期、ノリ・ワカメの養殖期間、ワカメの成長率、アイゴおよびその他の藻類食害魚の分布域拡大、アイゴによる藻類食害量に及ぼす影響および、広島湾におけるカタクチイワシにとって高温斃死が生じる危険水温に達する期間について、気候変動による海水温上昇が及ぼす影響を対象に予測を行った。
日本海側については、暖海性魚類等を対象に情報収集を行い、水温と出現魚種の関係から、瀬戸内海との比較検討を行った。
② 本調査の将来予測の対象外とした事項
カキの採苗時期、アイゴの藻類食害程度の予測に対しては、表層の水温のみを用いて予測しており、春から夏にかけて生じる水温成層の影響は考慮にいれていない。藻類養殖には栄養塩濃度における変化も影響を及ぼすと考えられるが、今回の予測では栄養塩濃度の影響は考慮に入れていない。魚類分布に対しては、水温の他、塩分や藻類、サンゴ分布など生息地環境要因の変化も影響を及ぼすと考えられるが、今回の予測では考慮していない。また、カタクチイワシの高温斃死水温の知見は成魚に関するもので、仔稚魚期における影響は考慮できていない。今回記載する、予測結果、モデル使用においては以上の点に留意する必要がある。
③ その他、成果を活用する上での制限事項
ワカメの成長率の予測値はあくまで水温との関係のみで予測した結果であり、成長率の増加に伴い増えると考えられる栄養塩要求を満たすことができない場合、色落ちや生育不良など質的な商品価値の低下につながりうるため、結果の解釈に留意する必要がある。
アイゴの食害程度に関しては、アイゴ単位重量当たりの摂食量に関する予測値であり、水温上昇に伴うアイゴ個体数の増加およびアイゴ体長の大型化の影響も食害程度に大きくかかわりうるため、単位重量当たりの摂食量における変化以上に大きな食害程度の変化が生じうることに留意が必要である。
カタクチイワシにとって危険水温となる地点・水深の評価は、主に成魚サイズの個体における実験結果に基づき予測しているため、仔稚魚の生残に対する危険性については今後、仔稚魚の斃死水温に関する知見が集積されたうえで再評価されるべきである点に留意が必要である。
適応オプション
適応オプションの概要を表 3.3.3に示す。
対象 | 気候変動影響 | 適応オプション | 想定される実施主体 | 評価結果 | |||||||||
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現状 | 実現可能性 | 効果 | |||||||||||
行政 | 事業者 | 個人 | 普及状況 | 課題 | 人的側面 | 物的側面 | コスト面 | 情報面 | 効果発現までの時間 | 期待される効果の程度 | |||
ノリ養殖 | 養殖開始時期の遅延および終漁時期の早期化 | 有用系統(高水温耐性)の導入 | ● | ● | 普及が進んでいない | 試験研究の段階であり、実用化にむけた研究が必要。 | △ | ○ | N/A | N/A | 長期 | 低 | |
壇紫菜のような高水温海域の養殖種の導入 | ● | ● | 普及が進んでいる | 養殖を行う海域の環境条件に合わせた養殖方法の開発が必要である。また、従来種のスサビノリに比べ、硬い食感でうまみが少なく、スサビノリとは異なる品質をもつため、加工法や用途の開発も合わせて必要。 | △ | ○ | ○ | ◎ | 長期 | 中 | |||
養殖適期の期間減少 | アサクサノリのような高付加価値の種の導入 | ● | ● | 普及が進んでいる | 養殖品種の開発と、養殖を行う海域の環境条件に合わせた養殖方法さらに加工技術の改善が必要。 | △ | ○ | ○ | ◎ | 長期 | 中 | ||
ワカメ養殖 | 養殖開始時期の遅延および終漁時期の早期化 | 有用系統(高水温耐性、広域温度耐性、高成長特性など)の導入 | ● | ● | 普及が進んでいる | 有用系統や各地で収集した野生株との交雑による品種作出・選抜が必要。 | △ | ○ | ○ | ◎ | 短期 | 高 | |
● | ● | 普及が進んでいない | 試験研究の段階であり、実用化にむけた研究が必要。 | △ | ○ | ○ | △ | 長期 | 高 | ||||
同一月で見込まれる潜在的な成長率は増加 | 従来の品種の養殖 | 水温上昇により促進される成長に要求される栄養塩が海域に十分含まれているか検証する必要がある。 | |||||||||||
藻類食害魚 | アイゴを含む植食性魚類の増加懸念(繁殖可能地域の北上拡大) | アイゴ幼魚の漁獲による水産利用(沖縄の伝統食であるスクの生産) | ● | ● | 普及が進んでいない |
|
△ | △ | △ | △ | 長期 | 中 | |
植食性魚類(アイゴ、ニザダイ、ブダイ、イスズミ類)の成熟サイズ個体の積極的漁獲による食用利用 | ● | ● | 普及が進んでいない |
|
△ | ○ | ◎ | △ | 長期 | 中 |
対象 | 気候変動影響 | 適応オプション | 想定される実施主体 | 評価結果 | |||||||||
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現状 | 実現可能性 | 効果 | |||||||||||
行政 | 事業者 | 個人 | 普及状況 | 課題 | 人的側面 | 物的側面 | コスト面 | 情報面 | 効果発現までの時間 | 期待される効果の程度 | |||
藻類食害魚 | アイゴを含む植食性魚類の増加懸念(繁殖可能地域の北上拡大) | 養殖場へのネット等の設置による侵入対策 | ● | ● | ● | 普及が進んでいない |
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△ | △ | △ | △ | 短期 | 高 |
養殖筏等の沖合への設置(岸よりの藻場からの隔離)、養殖筏間に距離をおく(互いに近接させない)、筏におけるシェルター構造の排除および点滅閃光装置の設置 | ● | ● | 普及が進んでいない |
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△ | △ | △ | △ | 短期 | 中 | |||
カキ養殖 | 身入り不良:出荷への影響 | 養殖深度操作による早期低水温刺激の提示 | ● | ● | 普及が進んでいない |
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△ | △ | N/A | ◎ | 短期 | 中 | |
3倍体マガキ(かき小町)の生産増 | ● | ● | ● | 普及が進んでいる |
|
△ | ○ | △ | ◎ | 短期 | 高 | ||
ヒオウギガイやアコヤガイ等より温暖な海域での養殖種の生産導入 | ● | ● | 普及が進んでいない |
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△ | ○ | △ | ◎ | 長期 | 低 | |||
カタクチイワシ | 高温斃死のリスク増大 | 相対的に水温が低い場所での集中漁獲の抑制 | ● | ● | 普及が進んでいない | 特定の水温帯にカタクチイワシが蝟集するという情報がなく、検証が必要。 | △ | ◎ | ◎ | △ | N/A | 低 |
対象 | 気候変動 影響 |
適応オプション | 適応オプションの考え方と出典 |
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ノリ養殖 | 養殖開始時期の遅延および終漁時期の早期化 | 有用系統(高水温耐性)の導入 | 試験研究の段階であり、実用化にむけた研究は今後の課題である(H29年度水産庁委託プロジェクト研究最終年度報告書:温暖化の進行に適応するノリの育種技術の開発)。 |
壇紫菜のような高水温海域の養殖種の導入 | 壇紫菜導入にあたり試験研究がおこなわれている(荒巻 2010. 佐賀水振報告 20: 13-18)。壇紫菜については、国内でも養殖・出荷されているが、従来種のスサビノリの代替種としては、さらに品種改良や加工法の改善などが必要と思われる。 | ||
養殖適期の期間減少 | アサクサノリのような高付加価値の種の導入 | 「三重のアサクサノリ養殖復活に向けた取組」 (津坂:三重県 http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000787819.pdf)によると、自生種からの種苗開発は試験研究機関により行われたが、養殖法や加工法の改善は漁業者の既存の施設の利用で概ね対応可能で、製品の高価格での販売により経営改善効果も見込めるため、大幅な水温上昇がおこならければ、有効な経営安定化の手段の1つになりうる。 | |
ワカメ養殖 | 養殖開始時期の遅延および終漁時期の早期化 | 有用系統(高水温耐性、広域温度耐性、高成長特性など)の導入 | 棚田 (2016 海洋と生物 38:464-471) より、高水温耐性の交雑品種については、継続的に出荷例あり。 |
Niwa & Kobiyama (2019 23rd International Seaweed Symposium Meeting Abstract: 143-144)より、高水温耐性の交雑品種が従来の養殖開始水温 (23℃) より早い時期(24.5℃)からの養殖が可能。 風間ら (2016 作物研究 61: 73-79) より、重イオンビーム照射による変異体作出・選抜が行なわれ、高成長株が作出されている。 |
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同一月で見込まれる潜在的な成長率は増加 | 従来の品種の養殖 | ||
藻類食害 | アイゴを含む植食性魚類の増加懸念(繁殖可能地域の北上拡大) | アイゴ幼魚の漁獲による水産利用(沖縄の伝統食であるスクの生産) | 国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所HPに掲載された記事「水産加工品のいろいろ すくがらす」によると、近年沖縄の伝統食材すくがらす(アイゴ稚魚の塩蔵品)の加工用原料は、その約90%をフィリピン等の海外からの輸入に頼っていることから、原料であるアイゴ稚魚の需要はあるものと思われる。ただし、その経済効果について検討が必要なため効果は中とした。 |
植食性魚類(アイゴ、ニザダイ、ブダイ、イスズミ類)の成熟サイズ個体の積極的漁獲による食用利用 | |||
養殖場へのネット等の設置による侵入対策 | 香川県においてノリ養殖の食害対策にネットの設置を試みている事業者が存在する(2019年度水産分野意見交換会での報告)。 | ||
養殖筏等の沖合への設置(岸よりの藻場からの隔離)、養殖筏間に距離をおく(互いに近接させない)、筏におけるシェルター構造の排除および点滅閃光装置の設置 | 坂井ほか(2013)において、シェルター構造物の乏しい筏へのアイゴの寄り付きが少ないことが報告されている。また、見通しの悪い狭い空間ではアイゴの警戒心が高まり採餌行動が抑えられること、発光装置による点滅閃光を設置することによりアイゴが接近を回避する傾向が報告されており(野田ら2019)、筏における食害対策としての有効性が示唆されている。 | ||
カキ養殖 | 身入り不良:出荷への影響 | 養殖深度操作による早期低水温刺激の提示 | 平田ら(2011)広総研水技セ研報 4:5-11より、養殖深度を操作し、水温の低い低水深に降ろす操作で早期に低水温を経験させ身入りを促進を早期化できる可能性が示されている。ただし、その効果の大きさや費用面での検討および、適応可能水域の検討など、技術の具体化に向け更なる知見集積が必要とされる技術であることから、適応策としての相対的な効果として中とした。 |
3倍体マガキ(かき小町)の生産増 | 赤繁・伏見(1992) 日水誌 56: 1063-1071より、3倍体カキの身入りおよびグリコーゲン蓄積が、天然品種より良いことが示されており、水温上昇による産卵の増加に伴うマガキの疲弊および身入り開始時期の遅延の問題を回避しうることが期待される。現在の栽培品種における高水温耐性の検証など水温上昇への適応策としての更なる効果検証は必要であるものの、3倍体種苗の生産技術は実用化されており、天然品種に比べ高付加価値がついた形で既に流通が成されていることから、実現可能性および経済的な面において他の適応策にくらべ期待される効果は高とした。 | ||
ヒオウギガイやアコヤガイ等より温暖な海域での養殖種の生産導入 | 生産技術は既に他地域で養殖が行われている品種であるため情報面での知見は充実している。また、物的側面において、いずれの品種も沿岸の筏などからの垂下しての養殖であり、既存のマガキ養殖資材の一部は転用可能と考えられる。ただし、品種転換に伴う経済的効果については現在のマガキ養殖の収入を補完しうるか不明であることから、効果は低とした。 | ||
カタクチイワシ関連 | 高温斃死のリスク増大 | 相対的に水温が低い場所での集中漁獲の抑制 | 資源保全の観点では重要である抑制するだけでは適応オプションとしての効果は期待できず、低とした。ただし代替となる魚種が新たに利用できるようになればこの限りではない。 |